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続Aからのメール(1/2)

2019.12.07.Sat.
<前話「Aからのメール」>

※一瞬獣/姦描写あり


『奴隷のくせにご主人様の言うことがきけないのか? 残念だ。画像をみんなに見てもらうことにしよう』

 読み終わるのと同時にパソコンの画面にメール受信の通知がきた。俺だけじゃなく隣にも、そのまた隣のパソコンにも同じ通知がきているようだった。

 俺は震える手でマウスをクリックした。

「なにこれ?!」

 女性の悲鳴があがった。それを皮切りにあちこちで悲鳴と驚きの声があがる。みんなパソコン画面を見ていた。

 金髪女性が馬のペニスを頬張っている動画。悪趣味この上ない。

「誰の仕業だ!!」

 部長の怒鳴り声が響いた。思わず体がすくむ。手だけじゃなく、震えは体中に広がった。吐き気がする。眩暈がする。

 一時騒然となったが、悪質な悪戯として処理された。フリーメールから送られたもので犯人捜しに時間を割いている暇もない。全員の動画を削除したら、外部からのハッキングの可能性もあるので社内SEへの報告で終わった。

 その後は仕事どころじゃなかった。Aと大家を間違えたことでAの機嫌を損ね、今回の騒ぎに繋がった。あれはタイミング的にも内容的にもAの仕業とみて間違いないだろう。Aがその気になれば、俺がいままでAに送った画像や動画を全世界へ発信できるのだ。

 恐ろしい。ただの趣味でしていたことが原因で俺は破滅するかもしれない。見ず知らずのAに猥褻画像を送りつけた自身の浅はかさを死ぬほど後悔した。

 携帯が振動する。新着メールが一件。恐る恐る開く。

『顔が青いぞ』

 ばっと顔をあげてあたりを見渡した。誰も彼もが俺には気にも留めないで自分の仕事をしている。みんな怪しくも無関係にも見える。

 またメール。

『俺を怒らせるとどうなるかわかっただろう? わかったなら頷け』

 完全に見張られている。コクコクと何度も頷いた。

『だったら、いますぐ、オナニーしろ』

 文面を見て泣きそうになった。確かに俺はM男だが、破滅を望んでいるわけじゃない。日常のなかにささやかなスリルを紛れ込ませてそれを楽しみたいだけだったのに。

 目許に力を込めた。泣いても解決しない。机にぴったりくっついて座った。あたりを見渡し、右手を股間へ。幸い隣の席の奴はいない。パソコン画面を睨みながら机の下で右手を動かす。

 恐怖心と裏腹に俺のちんぽはすぐ勃起した。バレたときのことを考えたら怖くて仕方ないのに扱く手は止まらなかった。

 乱れる呼吸を必死に飲みこむ。平静を装う。大きく手を動かせない。手首から下だけを小刻みに動かすしかない。時間がかかりそうだ。

 まわりを警戒しながらオナニーを続ける。デスクに向かう大家が目に入る。大家がAだったらよかったのに。今からでも本当は自分だとネタばらししてくれないだろうか。

 願うように見ていたら大家と目があった。さっきトイレでしたフェラの味が口のなかに蘇る。手の中でちんぽがビクビク震えた。

 席を立った大家が俺のところへやってきた。顔を寄せてくる。

「何してるんですか」
「……ッ……」
「ここがどこだか、わかってるんですか?」
「ふ……っ……ん、はあ……ッ」

 前かがみになり、ちんぽを握りしめる。俺がなにをしているか大家にバレている。ブルブル体が震える。耳にかかる息遣いと、鼓膜を震わせる大家の声。根本をきつく握っていないと射精してしまいそうだった。

「ド変態じゃないですか。さすがに引きますよ」
「はあっ……ぁ……っ!!」

 我慢のしすぎで痛くなってきた。視界が滲む。イキたい。辛い。苦しい。助けを求めるように大家を見上げる。大家はからかいと軽蔑が半々の薄笑いで俺を見下ろしていた。

「───ァ……グ──ッ」

 ちんぽを握りしめる手に強い脈動。ドロリと生温かいものが指の隙間から垂れるのを感じた。

「イキ顔、やばいですよ」

 苦笑交じりに言うと大家は自分のデスクヘ戻った。胸を圧し潰されそうな疲労感のなか、ティッシュに手を伸ばし汚れをふき取った。このままゴミ箱に入れたら臭いでバレてしまう。引きだしをあさり、社用封筒に丸めたティッシュを突っ込んで折りたたみ、また引き出しに戻した。

 直後Aから『よくやった』とメールがきた。

 ※ ※ ※

 今日はいつもより一日が長く、精神的疲労がすごかった。すぐ家に帰って布団に潜り込みたい。急いで帰り支度をしていたら「市井さん」と大家に声をかけられた。大家はまだワイシャツ姿だ。

「市井さん、飯行きませんか」

 現金にも喜んでしまう自分がいる。でもすぐAを思い出して気持ちが萎れた。

「いや、あの、今日はちょっと……」

 またAを怒らせてしまったら大変だ。

「聞きたいことがあるんですけど、これ見てもらっていいですか」

 手招きされて大家の隣に立つ。大家が指さすパソコン画面に、大股を開いた俺のオナニー動画。ヒュッと喉がなった。

「これ、俺の机ですよね」

 音は消されているが、画面のなかの俺はハアハアしこってフィニッシュを迎えた。大家の机に吐きだされた精液を映して動画が終了する。昨夜Aに送った動画。なぜ大家がこれを? やはり大家がA?

「いきなり仕事中にこんなもの送りつけてこないでくださいよ。悪趣味にもほどがあるでしょ」
「えっ……?」

 驚いて顔を窺う。大家は俺の様子を見て片眉を持ち上げた。

「もしかして、市井さんが送ったんじゃないんですか?」
「ち、ちが……俺じゃない……。大家がAじゃないのか……?」
「は?」

 とぼけているようには見えなかった。本当に大家がAじゃないとすると、この動画を大家に送りつけた本物のAがいるということだ。

「Aってどういう意味ですか」

 素早くフロアを見渡す。もう半分が帰宅している。この中にきっとAがいる。俺と大家の姿をいまもどこかから見ている。

「ここでは言えない。外で……どこか、2人きりになれる場所じゃないと」

 どこで聞かれているかわからない。極力声を潜めた。聞きとるために大家が顔を近づける。こんな状況なのに胸が高鳴った。

「なんかよくわかんないけど、わかりました。じゃあ一時間後にT駅に待ち合わせってことでいいですか」

 俺と同じように小さな声で、大家は会社の最寄り駅から3つ離れた駅を指定してきた。頷いてから自分の机へ戻り、鞄を持った。大家は仕事が残っているらしく椅子に座ってキーボードを叩く。昨日俺が座ってオナニーした椅子で。

 動悸がする。大家からそっと目を逸らし、先に会社を出た。

 時間を潰してから待ち合わせのT駅へ向かった。タクシーで近くまで行き、尾行がないか確認しながらT駅まで歩いた。大家は先に来ていて、俺を見つけると例の気の抜けた笑みを浮かべた。

「先に何か食べるか?」
「あとでいいですよ」

 大家がスタスタ歩き出す。俺には馴染みのない路地を迷いのない足取りで進んでいく。そして一軒のホテルの前で立ち止まった。

「ここでいいですか?」
「えっ? えっ?」

 ホテルと大家を何度も交互に見る。

「えって、こういうことでしょ。2人きりになれる場所」

 大家は躊躇なくホテルの敷居を跨いだ。パネルを一瞥しさっさと部屋を決めると横のフロントで鍵を受け取った。一連の動作が慣れ過ぎている。ここへ来るのは何度目だ。

「大家、悪いんだけど、俺そんなつもりじゃなくて」
「話は部屋で聞きますよ」

 あ、もしかして2人きりで話ができる場所ってことでラブホだったのか? 俺はどこか静かな店でと考えていたのだが。確かにここなら完全に二人きり。誰かに盗み見られることも盗み聞きされることもない。

 早合点を恥じていたが、大家は部屋に入るなり「軽くシャワー浴びてきます」と風呂場へ行ってしまった。話をするだけなら風呂に入る必要なくないか?

 と思いつつ、念のため尻を解して大家を待った。出てきた大家に勧められ俺もシャワーを浴びる。これもう完全にヤル流れだよな。

 部屋に戻ったら、大家はベッドに寝転がってテレビを見ていた。気だるげに俺へ視線を移して「話、します?」と聞いてくる。俺は腰に巻いていたタオルを外し、首を横に振った。

 据え膳食わぬは男の恥。ベッドに乗って「いいのか?」と最終確認。

「そのつもりで俺を誘ったんでしょ」

 2人きりになれる場所を指定したのはAの目から逃れるためで、本当に最初はこんなつもりじゃなかった。でも大家は最初からそんなつもりで俺と問答し、ここへやってきてシャワーを浴びたのだ。聞くだけ野暮な話だった。

 大家にのしかかり、胸にキスした。シャワーあがりのさらりとしたちんぽを優しく触っているとすぐ固くなってきた。

「市井さんて男が好きなんですか」
「うん」
「俺がタイプ?」
「わりとど真ん中」
「はは、気持ち悪い」

 と言いながら大家のちんぽは萎えるどころかバッキバキに勃起した。

「またしゃぶってくれます?」

 最初からそのつもりだ。場所を下がり、大家のちんぽを咥えた。唾液を全体へ馴染ませ、粘膜全部を使ってちんぽを扱く。大家の精子が飲みたい。のどを広げ、さらに奥へ亀頭を咥えこんだ。

「やば。気持ちいい」

 のどをオナホに見立て、大家のちんぽを絞る。無意識にか大家の腰が揺れている。

「市井さん、トイレでもしてくれたでしょ。だから今度は俺が気持ち良くしてあげますよ。ケツにちんぽ突っ込まれたいですか?」

 いいのか? という思いが大家を見上げる目にモロに出ていたと思う。大家は俺と目が合うと軽く笑った。

「もう口はなしていいですよ。さすがに一日に何発も出すのは俺もキツいですから」

 大家の精子は会社のトイレで飲ませてもらった。今度は尻に中出ししてほしい。

 しかしそれを言い出す前に、大家は備え付けのコンドームをちんぽに装着してしまった。さすがにいきなり生中出しをねだるのは調子に乗りすぎか、と自分を納得させる。それに真っ黒いコンドームは見た目がとてもエロかった。



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苦い珈琲(2/2)

2019.12.02.Mon.
<前話はこちら>

 水沢に手を引かれ、引きずられるように店を出た。離れる店の窓から、中で茫然としている前島が見えた。

「待て、水沢、おまえなんでここに? いつから?」

今日はせっちんたちと遊んでるはずだろう?

「先生のあとつけた」

 あっけらかんと水沢が言う。

「ど、どうして」
「昨日、俺が帰るとき先生の電話鳴ってたじゃん。部屋でてからなんか気になって、実は盗み聞きしてたんだよね。虫の知らせってやつかな。そしたらなんか訳ありっぽい感じだし。待ち合わせしてるし。これもう尾行しなきゃダメでしょ」
「友達と遊ぶ約束してたじゃないか」
「恋人の一大事に、友達と遊ぶわけないじゃん」

 俺を優先してくれた。不謹慎にも嬉しくなってしまう。

「さっきの、先生の前の彼氏?」
「え、ああ」
「俺と正反対のタイプ。先生ってほんとはああいうのが好きなの?」
「そういうわけじゃない。あの頃は俺もまだ若かったから年上の男に惹かれただけで、あいつがタイプとかいうわけじゃ」
「そ。良かった。先生はいま俺にぞっこんだもんね? 後ろの席で全部聞かせてもらったよ。なんで俺じゃなくあいつに言うのか意味わかんないけど。なんでも俺にしてあげたくなるんだよね? じゃあしてもらおうかな」

 細い道を何度か曲がって、水沢はホテルの前で立ち止まった。

「言っとくけど、黙って元彼に会いに行ったこと、俺めちゃくちゃ怒ってるから」

 店のなかで見せたようににこりと笑う。嫌な予感に冷や汗が止まらない。

 ~ ~ ~

 部屋に入るなり、水沢は俺に「フェラして」と言い放った。言われた通り跪いてフェラをする。

「飲んでね」

 俺の頭を押さえこみ、喉の奥で射精した。噎せる俺をひっぱり立たせ、ベッドに突き飛ばす。うつ伏せの俺に、水沢が跨る。

「水沢、俺が悪かった。謝るからっ」
「なにが悪いかわかってんの?」
「わかってる、お前に黙って行くべきじゃなかった」
「わかってないよ、先生」

 下着ごとズボンを脱がされた。腰を持ち上げられ、尻たぶを左右に割られた。その奥へ水沢は舌を這わせた。

「水沢!」

 羞恥と驚きから大きな声が出る。水沢は構わず舐め続ける。指で触られることはあっても、舐められたことは人生初で、恥ずかしさと申し訳なさで精神的死亡を体験する。

「水沢っ、いやだ、やめろ!」

 ずぞ、と中に舌が入ってきた。ゾゾゾ、と体に震えが走る。嫌悪ではない。真逆のものだ。指のように固くなく、ペニスのように太くもない。軟体の温かいものが形をかえてこじ開けてくる。柔らかな舌先がなかの壁をなぞっている。周辺に水沢の熱い息遣い。

 これ以上ない、罰だ。

「俺が悪かった! だから、頼む、やめ……ッ……あっ、いやだ、水沢……!」

 俺の頼みを無視して水沢は続ける。さらに前を手で弄られて、勝手に涙が溢れてきた。

「いやだ、ああ、水沢、頼む、俺が悪かったからっ、もう止めてくれ」
「あいつは先生のここ、舐めたことあんの?」
「あるわけない! あいつはそんなこと俺にしたことない!」
「満足したことないんだっけ? 俺とのセックスはどう? 満足できてる?」
「見ればわかるだろ……!」

 首をひねって水沢を睨む。俺の泣き顔を見て水沢は笑顔になった。

「俺まだ怒ってんだよ。先生が男と付き合ってたなんて知らなかったし、俺とぜんぜんタイプ違うし、俺に黙って会いにいくし。なに口説かれてんの? 襲われたらどうすんだよ。もっと危機感持ちなよ。先生って俺の彼氏じゃないの?」

 ローションで濡らし、指を出し入れしながら水沢がもっともな不満を言う。

「ごめん、俺が悪かった! あいつのことは言うタイミングがなかっただけで、隠してたわけじゃないんだ」
「ふーん、でも俺に黙って会いに行くんだ?」

 ぐりぐりと中で指が回転する。

「じゃないと、うちに来るっていうから仕方なく……っ」
「強引にされてたら今頃あいつとホテル行ってたんじゃない? 先生押しに弱いから」
「そんなことあるわけないだろっ」
「どうだか」

 と言いながら俺の前立腺をこりこりと刺激する。腰が勝手に跳ねあがる。

「お、おまえだって悪いんだぞ!」
「俺が? 逆切れですかー? 責任転嫁やめてくださーい」
「昨日もバイトが入ったからって帰るし、今日も友達と遊ぶって言うし、俺のことほったらかしにしてただろ!」
「ほったらかしにしてたわけじゃないよ。俺がなんのためにバイト頑張ってたと思ってんのさ」
「友達と遊ぶためだろ!」

 やけっぱちに喚いたら「こら」と尻を叩かれた。痛い。

「それ本気で言ってんの? だとしたらまじで怒るよ」

 体をひっくり返された。真剣な眼差しの水沢が俺の顔を覗きこむ。

「もう怒ってんじゃねえか」
「今までのは怒ってるフリだし。プレイだよ、プレイ」

 どういうプレイだ。

 優しい苦笑を浮かべながら、水沢は俺の涙を拭った。

「高校卒業したら一緒に暮らそうって俺言ったよね? 先生のワンルームじゃ狭いから、もっと広いとこ探そうと思って、その資金貯めるためにバイト頑張ってたんだよ。そりゃたまに友達と遊ぶこともあるけどさ、俺が誰より優先してんのは先生のつもりだよ」
「一緒に暮らす話、覚えてたのか」
「言い出したの俺だし忘れるわけないじゃん。先生こそ、忘れてただろ」
「ずっと覚えてたし、ずっと待ってた。金なら俺が出すのに」
「だろー。そう言われると思ったから黙って金貯めてたの!」

 水沢は俺の足を割り開き、その中心へ亀頭を押し当てた。

「最近先生のこと構ってあげらんなかったことは俺も自覚あるから謝るよ。大学生って意外と忙しくて時間なくてさ。バイトは目標金額貯まったから回数減らすつもり。今まで我慢してたぶん取り返すからそのつもりで覚悟してよ、先生」

 ずぶ、と固くて太いものが中に入ってくる。俺を死ぬほど満足させるものだ。その予感と期待に体中に甘い痺れが走る。

「は──ァ……ああ──ッ!!」
「え、うそ、もうイキそう?」
「い、あ──ッ、まだ、動くな……!!」

 白い閃光が見えた。体が硬直する。

「きっつ……! 先生、もうイッたの? 早くない?」

 すさまじい快感に脳みそがショートしたようだ。水沢の問いに答えられない。快感が波紋上に体の隅々へ広がって行く。それをやり過ごすことで精一杯だった。

「先生、大丈夫? すっごい締め付けてくんだけど」

 水沢と目が合った瞬間、また強烈な快感がぶり返して体に力が入る。制御できない。

「先生、きついって。もしかしてまたイッてる? ドライ? 止めらんないの?」

 声にならない。何度も頷いた。イキ続ける感覚が続く。それが怖くてまた涙腺が緩んだ。

「───ハアァッ……! みず、さわ……ぁ……ああ……!!」
「大丈夫、動かないから、安心していいよ」

 優しい手が俺の頭を撫でる。年下の元教え子にあやされている。なのにこの上なく安心する。

 何度も大きく息を吐いた。体から無駄な力が抜けていく。そして自覚する。自分でどうしようもないほど俺は水沢のことが好きだ。

「水沢、好きだ、すきっ……!!」

 しがみついて繰り返し言う。

「わかってる、俺も好きだよ、先生」

 この声も温もりも、手放すことなんてできないだろう。想像しただけで恐ろしい。
 
「もう、動いていいぞ」
「いいの? もう少し待った方がいいんじゃない?」
「一緒にイキたい。俺のなかに欲しい」
「先生、どんどんやらしくなるね」
「誰のせいだ」
「俺のせい?」
「他に誰がいる」

 キスをする。水沢の舌が熱い。お互いの口腔内をまさぐり合い絡め合う。ゆっくり水沢は腰を動かした。さっきみたいな正気を失うほどの快感はこない。じっくり体を熱くするような気持ちよさが広がって行く。

「先生、気持ちいい?」
「いいっ、気持ちいいっ」

 確かめられて素直に頷く。気持ちいいと、言葉にする。心身ともに満たされる。こんなに幸せでいいのかと思う。

「んっ、ああっ、もう、出るっ……水沢も、一緒に……きてっ」
「うん、一緒にいこう、先生」

 激しめに揺さぶられた。強い摩擦。昇り詰める感覚。奥に熱い迸りを感じながら、俺も水沢の名を呼んで果てた。

 ~ ~ ~

「明日、一緒に不動産屋行こうよ。部屋探しに」

 ホテルを出て、俺の家へ2人で向かう。その道中、水沢が言った。迷いは一瞬で消えた。俺はもう水沢がいないと駄目だ。だから水沢の将来だとか考えるのはやめて、自分勝手になることにした。

「本当にいいのか? あとで後悔しても遅いぞ」
「同棲嫌だって言っても、むりやりするけどね俺は」
「一緒に暮らしたら今以上に束縛して鬱陶しくなるぞ」
「先生こそ、俺に隠れて誰かに会えるなんて二度と思わないでね」

 上等だ。一生水沢を離す気なんかないし、離れてやる気もない。

「ついでにお墓も探す?」

 水沢の言葉に吹きだした。笑いが収まらない。やっぱり水沢はエスパーだ。俺が望む以上の言葉をくれる。水沢に気付かれないよう、目尻の涙をそっと拭った。




苦い珈琲(1/2)

2019.12.01.Sun.
<宙ぶらりん愛で殴る面倒臭い二人>

 俺が夕飯の支度をしている間、水沢は大学の課題をしていた。今年の春から大学生になった水沢は前よりさらに大人っぽくなってかっこいい。机に向かう横顔も、考えこんで伏せる目許も、シャーペンをくるくる回す長い指も、全部に見とれてしまう。

 ピロン、と水沢のスマホが鳴った。勉強を中断し、水沢はスマホを見た。最近よくスマホが鳴る。高校時代の友達に加え、大学で新しくできた友達からも、頻繁に連絡がきている。

 あくびをしながら水沢は返事を打つ。大学と、バイトと、友達からの誘いと、俺の相手で疲れている。

 無理しないで自宅に帰れと言ってやらなきゃいけないんだろうが、一日会わないだけで俺がもう寂しい。昨日も一昨日も会えなかったから、今日は泊まっていってほしいのが本音。

 高校生の頃、水沢は卒業したら一緒に暮らそうと言ってくれた。水沢はもう忘れているのかもしれない。それとも勢いで言っただけで、本気じゃなかったのかもしれない。あれを蒸し返すのは重荷になるような気がして、俺からは言い出せない。

「うわー、まじかよー」

 顔をしかめて水沢は体をのけぞらせた。

「どうした?」
「バイト、いまから来てくれって。なんか体調不良の奴が出て人が足んないんだって」
「急だな」
「あー面倒臭え」

 と言いつつ、水沢は机の上を片付け帰り支度を始めた。いま俺が作ってるお前の晩飯は?

「先生ごめん、今日は帰る。また夜に電話すんね」

 俺の肩を掴み、お詫びのキスをして水沢は玄関へ向かった。

「明日は?」
「明日はせっちんたちと約束してるから、時間あったらこっち寄る」

 せっちんは水沢の高校のときの友達だ。俺も顔を知っている。あいつらは本当にただの友達だから浮気の心配はない。

 明日は泊まれるのかと確認しようとしたら、俺のスマホの着信音が聞こえてきた。そっちに気を取られている間に、「じゃまたね」と水沢は部屋を出て行ってしまった。

 学業とバイトの両立で忙しいのはわかる。それに友達を大事にしていることも理解しているつもりだが、最近すれ違いが多い気がする。

 俺は水沢がいなくなった学校で教師を続け、卒業した水沢は大学生になり新たな交友関係を築いてる。水沢はどんどん先のステージへ進んでいるのに俺だけずっと同じ場所にいる。置き去りにされたような寂しさは拭えない。

 部屋に戻り、鳴り続けるスマホを手に取る。登録外の番号。間違い電話かもしれないが、仕事関係の可能性もあるので電話に出た。

「はい」
『洋平か?』

 突き放すような冷たさを感じる低音の声。すぐに誰かわかってしまった。

「前島、さん?」
『久しぶりだな。元気にしていたか?』

 少し笑いを含んだ声。ちょっと人を見下したような顔まで想像できる。

「何の用だよ」
『結婚したこと、まだ怒っているのか?』

 呆れて絶句した。こいつは俺がまだ前島を引きずっていると思っている。何年経ったと思ってるんだ。

「自分勝手なあんたのことなんか、もうとっくに忘れてたよ」

 電話の向こうで前島は笑った。

『悪かったよ。だからもう拗ねるのはよせ、親の気を引きたい駄々っ子みたいだぞ』

 強がりの発言だと思っているらしい。俺を子供扱いして優位に立とうとするやり方。なにも変わってない。

「勝手にそう思ってればいいよ。もう切るから」
『会って話せないか?』
「冗談。いまさら何の話をするって言うんだよ」
『電話で話す内容じゃない。都合のいい日を教えてくれ。俺が君の家へ行ってもいい』

 人の話を聞いちゃいない。自分の要求が通って当然という態度もかわらない。

「来るな、顔も見たくない」
『まだ引っ越してないんだな?』

 含みのある言い方。俺がここでずっと前島を待ち続けていたと思っているんだ。前はこの自信過剰なところが魅力に思えていたが、いまはただひたすら鬱陶しくて面倒だった。

「本当に迷惑だ。もう新しい恋人もいる。邪魔しないでくれ」
『新しい恋人? 俺より良い男なのか?』

 赤の他人になったいま、前島のこの発言は噴飯ものだった。

『会わせてくれ。洋平にふさわしいかこの目で見てみたい。明日そっちへ行っていいか?』

 来るなと言っても来るだろう。こんなことなら引っ越しておけばよかった。

「うちは駄目だ。前によく行った喫茶店、覚えてる? そこで13時。なんの話か知らないけど、用件終わったら俺はすぐ帰るから」
『わかった。洋平に会えるのを楽しみにしてるよ』
「楽しみにするな、気持ち悪い」
『そう怒るな。ほったらかしにして悪かったよ』

 ぞわっと鳥肌が立った。

「じゃあ切るから」

 前島の返事を聞かずに通話を切り、スマホをテーブルに戻した。明日水沢はいない。うちに寄ると言っていたがどうせ夜の話だろう。2、3時間くらい家をあけてもどうってことはない。

 しかし一体、今頃俺に何の用だ。嫌な予感しかしない。

 ~ ~ ~

 午前中に掃除やら洗濯を済ませてから待ち合わせの喫茶店へ向かった。本格珈琲を出す店で、前島はここの常連だった。いつも店の奥の席に座り、珈琲を飲みながら小一時間小説を読んで過ごす。そのあいだ俺はほとんど無言で待たされた。

 前島は今日も常連気取りで、いつもの場所でいつものように小説を読んでいた。マスターに会釈し、前島の向かいに腰を下ろした。

 俺が来たのに前島は小説を読み続ける。秋深くなってきた外と比べて温かい店内。漂う珈琲の匂い。口に蘇る当時の苦い味。俺の存在を無視して読書する前島。タイムスリップしたかのようだ。

「話す気がないなら帰るぞ」

 以前の俺なら前島が口を開くまで待ち続けたが、いまは違う。俺の粗相に、前島は軽く眉を寄せた。ため息をつきながら栞を挟むと本をテーブルの隅に置いた。

「なにか注文したらどうだ」
「あんたの用件次第」
「あいかわらずだな」

 前島は苦笑しつつ珈琲カップに口を付けた。なにが「あいかわらず」なのか問い詰めたいところだ。おまえに俺のなにがわかる。なにを知っている。知ったかぶりができるほど俺に興味なんかなかったくせに。

「あと十秒待つ」

 袖をまくり腕時計を見た。秒針が進む。

「離婚した」

 思わず前島の顔を見た。そして笑ってしまった。

「おめでとう」
「皮肉はよせ」
「原因は?」
「向こうの浮気。きっちり報復してから別れてやったがね」

 奥さんが浮気した理由が俺にはよくわかる。自分勝手で、他人を愛することができない不感症。セックスも自己中で、こいつと付き合っているあいだ満ち足りたことなんか一度もない。

「あんたはその性格直さない限り、誰とも一緒になったら駄目だと思うぜ」
「ああ、その通りだ。俺を理解できる人間しか、俺とは付き合えない。物は試しと結婚してみてそれがよくわかった」

 自分の非を認められない前島らしい言い方だ。

「待たせたな、洋平」

 いきなり手を掴まれた。柔らかく温かい感触が気持ち悪くて咄嗟に手を引こうとしたが強い力で引き戻された。

「放せよ、誰もあんたのことなんか待ってねえよ」
「もう意地を張るな。本当に新しい男はいるのか?」

 その存在すら、こいつは俺の嘘だと思っているらしい。

「いるよ、だから放せ」
「どうせ俺への当てつけなんだろう。君は昔から俺の気を引こうと、子供じみた悪戯をすることが好きだったものな。あの頃は相手にしれやれなかったが、これからは洋平のことをちゃんと構ってやるから、もうそろそろ機嫌を直せ」

 親指で俺の手の甲を撫でる。好きでもない男から言い寄られることがこんなに気持ち悪いことだったとは。

「冗談じゃねえ、放せ」

 力任せに振り払った。前島は一瞬ムッと顔を歪めたが、すぐ笑みの混じった困り顔になった。

「そんなに寂しい思いをさせていたんだな。これからはそんな思いはさせない。だからもう素直になれ。いつまでも意地を張っていたって仕方ないだろう」

 言葉が通じない。意思疎通ができない。昔からその傾向はあったけど、こんなに酷かったか? 唖然とした。もう何を言っても無駄だと悟った。その瞬間、俺のなかで何かが切れた。

「もう二度と連絡してこないでくれ。俺はいま新しい恋人ができて幸せなんだ。それを壊そうとするなら徹底的に戦う」
「まだそんなことを言うのか」
「そいつはあんたとぜんぜん違うタイプだ。何度も俺のことを好きだと言ってくれるし、無理してまで会いに来てくれる。セックスも愛情がこもっててあんたと大違いだ。今だから言うけど、あんたとやって満足したことなんか一度もない。独りよがりなセックスでさっさと終わって、俺が不満に思ってることすら気付いてなかっただろう。あんたは他人に興味がもてないんだ。自分しか愛せないかわいそうな奴だ。それにすら気付いてない。同情はするけど俺を巻きこむな。俺はもうあんたが好きじゃない。今は他に好きな奴がいる。そいつは俺の望むことをなんでも叶えてくれる。だから俺もなんでもしてやりたいと思える。あんたには思えない。もし俺たちの邪魔をするなら、あんたの実家にも職場にも、洗いざらいぶちまけてやる」

 淀みなく言葉が出てきた。吐き出しながら冷静でいられる自分に驚いた。以前の俺ならきっと泣きわめいていただろう。そして前島に言葉巧みに言いくるめられ、俺の謝罪で終わる。それがパターンだった。

 前島は思わぬ反撃に顔をひきつらせた。怒りで顔を赤くしたり、青くなったり、また赤くなったり。平静を装いながら珈琲を飲むが、カップを持つ手がわなわな震えていた。セックスの拙さを指摘されるのは男として最大の屈辱だろう。俺だって言いたかなかったが、今の前島に聞く耳を持たせるのはこれしか思いつかなかった。

「本気で言っているのか?」
「ずっと本気で言ってるよ」
「それでいいんだな。後悔しないな?」

 いつまでも自分の優位を保っていたい前島の精一杯の虚勢。哀れだ。

「あとで泣きついても遅いぞ。これが最後のチャンスだ。いま謝るなら許してやる」
「あんた、ほんとどうしようもないな」

 席を立った。前島が俺を見上げる。その時ほんの一瞬だけ、気弱な表情を見せた。こんなうだつのあがらない中年男のどこに惚れたんだろう。いまになって不思議で仕方がない。

「もう二度と連絡してくんな」

 くるりと身をひるがえし出口へ向かう。前に立ちふさがる人物を見て腰を抜かしそうになった。

「み、みずさわ?! なんで、ここにっ」

 水沢がにこりと笑う。

「お金、ここに置いておきます」

 とマスターへ声をかけ、水沢は俺の手を掴んだ。



呪術廻戦 1

アニメ化あああぁぁ!!(歓喜)

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うすらひ(18/18)

2019.11.05.Tue.
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「ちょっとトイレ」

 2回戦までまだ時間がある。席を立って店の奥まったところにあるトイレに行こうとしたら「俺も行きます」と若宮が追いかけてきた。

「久松さんは飯のあとどうするんですか?」
「どうって、帰るけど」
「なんか、残ってボーリングするグループと、他のところに遊びに行くグループに分かれてるみたいなんですけど」
「へえ、みんな元気だな。俺は帰るけど」
「せっかくだし、どっか遊びに行きましょうよ。疲れるのが嫌なら、買い物行きません? 俺新しいスーツ欲しいんですよね。久松さんセンスいいし、アドバイスしてくださいよ。んで、そのあと晩飯ってどうですか?」

 若宮に肘を掴まれた。強い力じゃない。ただ添えた程度のものだ。だが俺みたいな人種はそれに意味があるんじゃないかと深読みしてしまう。

 若宮に思わせぶりな態度を取ったことはない。若宮がこうなのは誰に対しても同じだ。そこに特別な感情はないはずだ。でももし、思い過ごしじゃないとしたら?

 困る。

 それが真っ先に浮かんだ正直な感想だった。

「いや、俺は帰るって。洗濯物干したまんまだし」
「俺なんか乾燥機入れっぱなしで、そこがタンス代わりですよ」

 声をあげて若宮が笑う。
 まだ手を放さない。まさかこいつ、本当に俺のことを──?

「若宮!」

 大きな声がして二人とも振り返った。ツカツカと大きな歩幅で近づいてくるのは周防だ。背が高いから迫ってくる姿は迫力があった。

「古田さんが呼んでる。早く行ったほうがいいよ」
「えっ、古田さんが? まじすか。じゃ俺ちょっと行ってみます! 周防さん、ありがとうございます!」

 俺の手をはなすと若宮は小走りでいなくなった。無意識にほっと息を吐き出した。次の瞬間、周防に腕を引っ張られ抱きしめられた。

「な、ちょ、おい、なにしてるんだよ、こんなところで!」

 胸を押し返すがビクともしない。逆に強く抱きよせられて布越しでも周防の体の感触が伝わってくる。俺より一回り大きな体。懐かしい感触。脳が揺さぶられたような感覚のあと、不覚にも泣きそうになった。

「周防……! 誰かに見られたらどうするんだ、このばか!」

 周防は無言で俺を抱いたまま移動した。引きずられるように、通路の奥のトイレへ連れこまれる。

「なに考えてるんだ、おい、いい加減離せよ!」
「いやだ!」

 耳元で弾けた大きな声に驚いて抵抗をやめた。窮屈な腕のなかでなんとか周防を見上げる。苦しそうに歪んだ顔。それを見られまいと、周防は俺の肩に顔を埋めた。

「……僕のまえで、他の誰かと仲良くしないでください」

 絞りだされたような声はか弱く震え、俺の耳に届くのがやっとだった。俺にしがみつく体も小さく震えている。

「なんで……そんなことおまえが言うんだよ」
「若宮と付き合ってるんですか?」
「伊吹と?! そんなわけないだろ!」
「伊吹……」

 悲観的な自虐を含んだ声だった。

「あいつが呼べって言うから。俺だけじゃないだろ、ほかの奴も──」
「他の人の話はしてません」

 ぴしゃりと遮られる。

「別に……俺が誰とどうしようが……おまえに関係ないだろ」

 声が不安に揺れた。どうして周防は怒っているんだ? どうして俺を抱きしめる? 嫉妬? もう勘違いはしたくない。

「関係あります。僕が嫌なんです。今日だけじゃなく、歓迎会のときもそれ以外でも、若宮はなんていうか久松さんに対して……すごく、馴れ馴れしい」
「ああいう性格だろ、俺に限った話じゃない」
「若宮だけじゃないです。久松さんのまわりにはいつも誰かがいて、それがすごく嫌だった。俺以外の誰かと仲良くしているのを見ると、すごく気分が悪くなって腹が立った」

 やっと普通にしゃべれるようになってきたのに、こんな風に抱きしめられながらこんなことを言われたらまた元に戻ってしまう。もう俺をグラグラ揺さぶらないで欲しい。

「なんでそんなこと言うんだよ、おまえはもう俺が好きじゃないんだろ?」

 言いながら目の表面が熱くなり、鼻の奥がツーンと痛くなった。こんなところで泣きたくない。

「好きですよ、ずっと」

 熱のこもった声があっさり否定する。

「好きじゃないって言わなきゃ、久松さんが納得してくれないと思ったから言ったんです。僕は久松さんの結婚生活を壊す気なんかなかった。あなたには幸せになって欲しいと思ったから嘘をついたんです。でも離婚したって聞いて気持ちが揺れました。僕が誰かの身代わりだったって言われても嫌いになれなかった。辛くても苦しくても、どうしても久松さんが好きなんです。諦めるなんてできません。他の誰にも取られたくない」

 子供が所有権を主張するように、周防は俺を掻き抱いた。加減を知らない、息苦しさを感じるほどの強い力だった。いっそ壊れるほど抱きしめて欲しいなんて思う。

「嘘だ、だっておまえ、俺にいっぱい冷たい態度取ったくせに」
「恋人だと思ってた人に奥さんがいたんですよ。嫌いになろう、久松さんから離れようって、それしか頭にありませんでした。結局、そんなことできませんでしたけど」
「俺は辛かった。冷たくされても、周防が好きだったから、すごく辛かった」
「すみません。僕も久松さんに冷たくするのは辛かったんです。好きだって言われたら嬉しかったし、やり直したいって言われた時は夜になっても眠れませんでした。一度僕のものになったのにどうして手放さないといけないのかって考えだしたら、何が正しいのかわからなくなって苦しかった。僕以外の誰かに取られるんじゃないかって気が気じゃなくて、毎日不安でした」

 大きな手が俺の後頭部を包むように支える。

「今日も久松さんが心配だったから参加したんです。若宮にしつこく誘われているのを見ていたから。ただの監視です。男の嫉妬って本当に醜いですよね。若宮にも村野さんにもずっと嫉妬して、ぜんぜん楽しくなかった」
「おまえ、本当につまんなそうだった」

 周防のかすかに笑った吐息が耳元にかかった。温かい風。それは不思議と、密着している体より生身の周防の体温を俺に感じさせた。

「また僕と付き合ってくれますか? 僕のそばにいてくれますか?」
「ほんとに、俺なんかでいいのか? 嘘つきの最低男だぞ」
「だったら僕も最低です。久松さんが離婚したってきいて、正直少しほっとしました。とんでもないことをしてしまったって思う反面、これでもう久松さんは僕の知らない女の人と一緒に暮らさないんだって思ったら、安心した。僕って最低ですよね。久松さんのこと言えないです。それに久松さんが結婚してると知っていても、きっと好きになってた。諦められずに告白してた。僕も同罪です」

 一緒に罪を背負ってくれるという優しい周防の言葉に我慢も限界だった。それを認めた途端、視界がじわりとぼやけた。

「離婚したときに、なんでそれを言ってくれなかったんだよ」
「一度は久松さんを思って身をひたんですよ。僕なんかでいいのかって葛藤があったんです。それに身代わりだったって言われたら、なにも言えないじゃないですか」
「身代わりじゃない」

 涙で濁った声で言いながら、おずおずと周防の背中に手をまわす。熱い背中を抱きしめて、清潔な匂いがする首筋に鼻先を擦りつけた。

「周防が好きだ。諦めるなんてできなかった。俺だって南や立花にずっと嫉妬してた。おまえのことしか考えられない。他に何もいらない。周防がいれば、それだけでいい」

 頬に流れた水の粒が周防の首筋に伝い落ちる。周防はやっと体を離した。俺の顔を覗きこみ、泣いていることがわかると困り顔になった。不器用な手つきで目尻の涙を拭う。

「僕はずっと久松さんのそばにいます。もう二度と離れません」
「絶対に? 約束できる?」
「誓います」

 大きな手が俺の頬を挟む。軽く顎を持ち上げられると、唇にキスされた。ギリギリ保っていた最後のなにかが壊れそうな気配があった。いま声をあげたら号泣してしまう。

「このあと、若宮とどこにも行かないでください」
「行かない」
「僕と一緒に帰ってくれますか?」

 コクコクと頷く。

 遠くから「久松さーん」と若宮の声が近づいてくるのが聞こえた。周防も気付いたようで俺を抱きしめたまま一番奥の個室に入ると鍵をかけた。

 直後、若宮がトイレにやってきた。

「あれっ、いない」

 と呟き、トイレを出て行く。遠ざかる足音に安心して、周防の胸にもたれかかった。

「戻らなきゃいけませんね」

 扉のほうへ顔を向けている周防の首に腕をかけ、踵をあげた。周防の手が俺の腰を抱きよせる。角度を変え、深さを変えながら、俺たちは長いあいだキスをしていた。




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うすらひ(17/18)

2019.11.04.Mon.
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 カーテンをあけたら笑ってしまうほどの快晴だった。朝食をとり、そのあと洗濯機を回し、部屋に掃除機をかけても集合時間にはまだ余裕があった。

 結局俺は若宮に誘われてボーリングに行くことになった。前日になって、参加予定だった1人が都合で行けなくなり、すでにボーリング場には参加人数を伝えて予約をしてあるから久松さん行きませんか、と喫煙ルームまで追いかけてきた若宮に再度誘われた。

 一度は断ったが、なんだかんだ話しているうちに気が変わった。

 若宮は人の心を動かす話術を心得ている。部長の言う通り、仕入れ担当か販売が若宮の天職かもしれない。

 のんびり準備をして、少し早めの時間に家を出た。

 休みの日はいつも掃除と洗濯をしたあと、たいてい仕事をしているか本を読んで終わる。ひとりきりで家にいると気が滅入る。夕方になる頃には虚しさに襲われる。かと言って友達を誘って出かける気力もない。

 体力を使うようなことはしていないのに、なぜか休日はいつも疲れる。

 どうせ疲れるなら、外出して体を動かした方が建設的だ。

 時間より少し早めに集合場所についた。すでに何人か集まっている。若宮が俺を見つけて駆け寄ってきた。

「おはようございます!」
「休みなのに元気だな」
「今日めちゃ楽しみにしてたんすよ! 久松さんも来てくれたし」

 若宮をよく知らない奴が聞いたら勘違いされそうな台詞だ。慣れないうちは戸惑うし、もしかして好意を寄せられているのかもと警戒するが、誰にでも言っているからこれが素なんだろう。しんどい、疲れた等々ネガティブな言葉も口にするが、若宮は圧倒的にポジティブな言葉のほうが多い。暑苦しさがないから自然と心に入り込んでくる。

 少し待っていると他の連中も集まってきた。驚いたことにそのなかに周防もいた。咄嗟に南の姿を探したが見当たらなくてほっとした。

 全員が揃って店へ移動した。あちこちで声をかけられて若宮は忙しそうだ。俺は村野といつも通りダラダラと世間話をしながら歩いた。

 気になって後方の周防をさりげなく窺う。立花も名取もいないから、周防は1人でトボトボ歩いていた。構いたくなる寂しげな姿。

 若宮のことで嫌味を言われてから、周防とまともな会話はしていない。業務連絡をするときだって顔を見ず手短に済ませていた。謝罪のメールに返信しなかったから、周防は俺がまだ怒っていると思っているのだろう。向こうから声をかけてくることはない。

 いつの間にか若宮が俺たちの前を歩いていた。

「根明の若宮が来てからウェイ系の名取が霞むようになったな」

 村野の声に若宮が振り返る。

「この前名取さんにクラブ連れてってもらったんすよ。びびりますよ、一晩で知り合い12人増えましたもん」
「かわいい子いた?」
「やばいすね、モデルの子とかいましたよ。名取さんってめちゃ顔広いんすよ」
「それはやばいな。今度俺も誘え」
「久松さんも行きますよね?」
「俺はいいよ」

 苦笑しつつ断ると「枯れるにゃ早いぞ」と村野が意味深に笑う。

「当分いいよ、そういう気分じゃない」
「せっかくフリーなのに勿体ない」
「そのうちな」

 後ろの周防に聞かれたくなくて早々にこの話題を打ち切った。くだらない話をしていたらボーリング場に到着した。古田さんの仕切りで各レーンへのメンバー割が発表された。俺は村野と若宮と、よりによって周防と同じグループだった。

 周防を見ると、周防も気まずそうに俺を見ていた。先日の仲直りのいい機会だ。そう思わなければ今日一日乗りきれない。

「周防はボーリング得意?」

 俺から話しかけると周防は「あまり」とぎこちなく笑った。

「あの、久松さん、この前はほんとに──」
「その話はもういいって。気にしてないし、周防の言うことももっともだよ」
「そんなことは……っ、完全に僕が悪かったです、言い過ぎました」
「もう終わり、ほら靴履き替えようぜ」

 周防の背中を叩いた。俺のあとをついてくる気配がする。錯覚かもしれないが、後ろから周防にじっと見られているような気がして、歩くのが下手になった。

 靴を履き替えボールを選んで座席につく。村野と若宮はすでに待機中だ。プロを目指そうと思ったこともあるという村野は、重いという理由でマイボールは持ってこなかったがグローブは持参していた。グローブをする利点を若宮に説いている。

 古田さんがレーンに立ち、大会の挨拶と説明を行った。勝ちあがり方式で3回戦、最終的に点数の良かった1人が優勝。優勝者は打ち上げの食事代の負担無しと今日は不参加の部長からもらった御志が贈られるのだそうだ。

 思い付きで急遽開催されたボーリング大会にしてはまずまずな賞品。開始の号令のあとゲームが始まり、あちこちからボールがピンに当たって倒れる音が聞こえてきた。

「今日、他のおまえの同期たちは?」

 若宮が投げている間、村野が周防に話しかけた。

「なんか全員用があるらしくて」
「南ちゃんも?」
「はい、そうみたいです」
「おまえら付き合ってんじゃないの?」

 意外そうに村野が言えば、周防のほうは驚いた顔で首と手を横に振った。

「付き合ってないです!」
「まじ? あんなにイチャイチャしてたのに?」
「イチャイチャなんてしてませんよ」

 赤くなった顔で否定しながら、周防はちらりと俺を見た。なんで俺を見るんだ。もう俺に気を遣ってくれなくていいのに。

 次に周防が投げた。その次は俺、最後に村野。村野はさすがでストライクを取った。若宮は二回目を投げたあと、ちょっと写真撮ってきます、と隣のグループへ移った。

 周防、俺が投げ、村野は連続ストライク。ハイタッチをする俺たちの写真も若宮に撮られた。

「これあとでアルバムにあげときますね」

 SNSを自在に使いこなす姿を見るとやはり年の差を感じる。俺はツイッターもインスタもやっていないが、村野はインスタをやっている。たいてい外食した時の写真とか、家族で出かけた時に見た風景の写真をあげていた。

「久松さん、一緒にいいすか」

 村野が投げている間に若宮が隣に座り、スマホをかざした。無難な笑顔とピースサインで撮影に応じる。

「俺のフェイスブックにあげてもいいですか?」
「フェイスブックもやってんの?」
「大学の時のツレとか、いろいろ繋がってんすよ。志望してた会社の憧れの先輩とってみんなに自慢したいんですけど駄目ですか?」
「いいけど別に。悪口書くなよ」
「書きませんよ! 彼女募集中って書いときます?」
「いらない、余計なこと書くなよ。個人情報とかもっての外だからな」
「わかってますって、俺そこまで馬鹿じゃないですよ」

 あはは、と笑って若宮は俺の腕を触った。俺は馬鹿だから、そんなことに何か意味があるのかと勘ぐってしまうのだ。それも、周防の見ている前で。

 村野が戻って来て若宮は席をかわった。ボールを投げ終わるとまた写真撮影のために他のグループのところへ行く。忙しい奴だ。

 第五フレームまでゲームが進み、当然の結果ながら村野がトップ。次に若宮、俺、最下位は周防だった。

「なんだおまえ、バレーは得意でもボーリングは苦手か?」

 ふんぞり返って村野が言う。村野は時々悪気なく相手を見下したような言い方をしてしまう。

「実はボーリングをやるのは初めてなんです」
「よく今日来たな」
「楽しそうだし、一度やってみようと思って」

 足元を見ながら周防はぼんやり笑った。楽しそうとはまったく思えない顔だ。さっきから元気がない。まあこのメンバーじゃ、楽しめないのも無理はないかもしれない。

「フォームがなってないんだよ」

 周防の番が来ると村野は隣に並んで投げ方を教えてやった。それが功を奏したのか、周防が初めてのスペアを取った。村野とハイタッチする。俺も右手をあげた。はにかんだ周防が俺の手を叩いた。

 しかしながら巻き返しは敵わず、周防は最下位のままゲームは終了。他のグループも半数は終わっていて、接戦グループの応援にまわっている人もいた。