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堕在(2/2)

2020.07.04.Sat.
<前話>

 竹田は服を脱いで全裸になった。細くて白い体。俺を見下ろして薄く笑う。ゾクリと全身総毛だった。

 竹田が上に跨ってきた。服をたくしあげて胸や腹を舐められる。乳首を吸われ、歯を立てられた。

「勝手なことを言うが、許してほしい」

 竹田の頭がだんだん下へさがっていく。陰毛に息を吹きかけられた。

「頼む、竹田」
「だから、許すとか許さないとかじゃないんだ」

 性器が熱い口腔に包まれた。

 ※ ※ ※

 最近寒くなってきたからマフラーをプレゼントしたいと竹田が言い出した。特に断る理由もないので、仕事終わりに落ち合い、二人で出かけた。

 値札も見ずに自分の気に入ったものを竹田に渡し、竹田はそれを持ってレジへ向かった。

 店を出たあと竹田の奢りで食事をし、飲みたくなった俺がバーに誘った。酒に弱い竹田はすぐ顔が赤くなった。きっと白い体も赤く染まっているに違いない。情欲が突き上げてきた。

 竹田がトイレに立った。そのあとを追いかけ、驚いている竹田を個室に押し込んだ。

「フェラして」
「えっ、ここで?」
「俺をその気にさせたお前が悪い」

 困っている竹田の肩を押して跪かせた。ベルトを外し、ファスナーを下して性器を取り出す。それを口元へ持っていくと、観念したのか竹田は口を開けた。

 場所のせいだったのか、酔っていたせいだったのか。俺は竹田の口へ放/尿していた。驚いた竹田がむせる。当然飲み込めない小便を口からこぼす。竹田のワイシャツが俺の尿で濡れて汚れた。

「ひどいじゃないか」

 トイレットペーパーで顔とシャツを拭きながら、さすがに怒って竹田は俺を睨んだ。

 尿意は収まっても俺の劣情は収まらない。性器が硬さと角度を持ちはじめる。

「フェラしろよ」
「何を言ってるんだ」

 竹田の顔が怪訝そうに歪む。

「頼むから」

 竹田の首にしがみついて俺は懇願した。俺の態度に戸惑っているのか、竹田はしばらく無言だったが「わかったよ」とため息とともに言った。

 いまや痛いほど勃起しているものを、竹田は優しく咥えてくれた。まだ尿道に残っているものも吸いだし、舌の先で綺麗にしてくれた。

 頭を押さえて腰を振った。苦悶の表情を浮かべる竹田を見下ろしながら俺は、さっきのマフラーで縛り付あげられる竹田の姿を想像していた。

 ※ ※ ※

 そういえばあの時のマフラーはどうしただろう。捨てた覚えはないから、クローゼットのどこかにあるはずだ。

 舌なめずりをしながら竹田が顔をあげた。

「前の時も思ったけど、咽喉が焼けそうな感じは強い酒に似てる」

 竹田も同じ日のことを思い出していたようだ。

「あの日は……酔っていた」
「今日は酔ってないだろ」
「それはお前が」
「怖いから?」
「ああ」
「なんでも俺のせいだ」
「そういうわけじゃない」
「俺のせいにしろよ、前みたいに」

 細くて長い指が俺の性器をゆるゆると扱く。頑なに反応を示さない。こんな状況では仕方がない。

「この3年、あんたのことは考えないようにしてきた。必死に忘れようとした。あんたと会わなくてすむように会社まで辞めたのに、世間って狭いよな、あんたの結婚の噂が俺のところまでまわってきた。一度は納得しようとしたけど無理だったよ。俺はもう戻れない。もともとまともな人間じゃなかったんだ。人並みの人間になりたいって思ってる時点で、自分が欠陥人間だと認めてたんだ」

 竹田の指が肛門のあたりに触れ、俺はびくりと跳ねた。

「あんたも同じだろ? いや、あんたは俺以上に欠陥人間のはずだ。あんたと付き合ってるあいだ俺は怖くて仕方なかった。あんたと一緒にいたらどこまでも堕とされそうで。それを受け入れてもいいと思ってる自分が本当に怖かった。あんたの酷い仕打ちを嫌がっているのか喜んでいるのか、その区別すらつかなくなってた。あんたが俺をこうした。ここまでの人間に堕とした。なのにあんただけ結婚するなんておかしいだろう。なにまともぶってるんだよ。それとも相手の女にも俺と同じことしてやってんのかよ」

 グリッと指がねじ込まれた。なにかを探すように中で動く。触れられた瞬間、これかと体が強張った。

「なぁ、どうなんだよ」

 指の腹で執拗に前立腺を刺激してくる。俺の意思とは関係なく性器が立ち上がる。

「するわけないだろう。ほかの誰にもしたことはない」
「じゃあどうして俺にだけあんなに酷いことができたんだよ!」

 口調こそ荒かったが、竹田が怒っていないことが俺にはわかった。許すも許さないもない。竹田は俺を恨んでいない。その言葉の通りなのだ。

「わかった、教えてやる」

 頭を起こし、竹田の目をしっかり見据えた。

「お前をいたぶるのが楽しくてたまらなかったからだ。勘違いするなよ、お前に愛情はない。ただ、虐めて辱めることで自分の欲望を満足させたかっただけだ」
「やっぱりあんたのせいだ」
「お前も俺と同じ。もともとの素質だよ」
「違う」
「違わない。証明してやるからロープを解け」
「嫌だ」

 怯えたような顔で竹田は首を振った。

「解け」
「外したらあんたは怒り狂うだろ」
「俺と心中するつもりで来たんじゃないのか」

 く、と竹田は口元を引き締めた。

 竹田にロープを外されて立ち上がった。

 ベッドの上に座り込む竹田が呆然と俺を見上げている。

 解いたロープを拾い上げ、竹田の背後にまわって無言で両手を縛った。竹田も抵抗せずおとなしくしている。

「俺がお前を引き込んだと言ったら安心するか?」

 竹田の髪を掴んで後ろへ引っ張った。

「とことん俺と堕ちてみるか?」

 唇を噛みしめる竹田の目尻から涙が零れおちた。

 ※ ※ ※

 育ててみると子供も案外かわいいものだった。まだあまり見えていないと嫁は言うが、赤ん坊は俺の顔をじっと見つめ、あやすと笑った。

 風呂にも入れるし、おむつも取り替えてやっている。夜泣きもミルク作りも苦痛じゃない。一日会わないと、あの小さな体と乳臭い匂いが懐かしくなる。

 会社で俺はイクメンで通っているらしい。

 マナーモードにしていた携帯電話がガラステーブルの上で音を立てて震えた。子供と一緒に実家にいる嫁からだ。

「どうした?」
『一人で寂しいんじゃないかと思ってさ』
「俺のことは気にせずゆっくりしなよ。久し振りの実家だろ」
『いま家? なにしてたの?』
「それ聞く?」
『浮気チェックも妻の仕事です』
「エッチなDVD見てた。オナッてる最中だったよ」
『やだっ、最低! ばっかじゃないの!』
「だってお前がいないんだぜ。どうしろっていうの」

 リモコンを手に取り、メモリを強に切り替えた。それに合わせて竹田の奥に突っ込んだバイブの振動が強くなったのを、亀頭の先で感じとった。

「んんんっ!」

 ソファに頭をのせていた竹田は背をしならせた。ビクビクと体が痙攣している。

 後ろ手に、マフラーで両手と左足首を拘束された体はバランスが取りにくいらしく、俺が少し強めに腰を動かすとすぐソファからずり落ちた。

「んんっ、んはぁあっ、あっ、あっ……」

 首を捻って俺を見上げる。目からは涙が、口からは涎が垂れて見るからに汚いツラだ。だが物欲しそうなその顔は俺に強い性衝動を感じる。

『ねえ、なんだか変な声が聞こえたんだけど?』
「DVDの音だろ。もっと聞く?」
『パパ最低!』
「ははっ、俺がイクとこまで付き合えよ」
『悪趣味!』

 通話は切られてしまった。どうせなら竹田がイクときの声を聞かせてやりたかったが。

 携帯をテーブルに戻し、俺は両手で竹田の腰を掴んだ。音が立つほど抜き差しする。射精感が加速する。

 竹田が包丁を持って現れたあの夜から、俺たちの付き合いは再開した。俺は竹田を欲望のまま扱い、竹田もそれを悦んで受け入れた。

「もぉ……だ、めっ……イク、イカせて」

 限界なのだろう。竹田の声は震えていた。

「このマフラーをもらった時から、ずっとこれでお前を縛ってやりたいと思ってた」

 くいとマフラーを引っ張った。

「うぅっ……俺も……同じことを」
「さすが変態だな。最初からそのつもりで俺にプレゼントしたのか」
「あの夜のこと、忘れない……」

 記憶が脳裏をかすめた瞬間、俺は射精していた。引き攣った竹田の声を聞きながらすべてを出し切り、性器を抜いた。

 竹田の脇に手を入れて引っ張り起こし、ソファに座らせた。期待に濡れた目が俺を見つめている。

 ペニスを差し出すと竹田は体を倒してそれを咥えこんだ。愛しむようにうっとりと目をとじ、舌全体を使って汚れを綺麗に舐めあげる。

 俺が髪の毛を掴むと竹田は目をあけた。

「どうして欲しい?」
「君の望みが俺の望みだ」

 俺は遠慮なく竹田の口へ尿を放った。咽喉を鳴らしてそれを飲みながら、竹田は白濁をまき散らした

 俺と竹田の欲望はとどまるところがない。二人でどこまでも堕ちてゆけばいいのだ。

(2013年初出)

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堕在(1/2)

2020.07.03.Fri.
※微ス/カトロ、ぜんぜん甘くない、過去と現在いったりきたり

 俺はベッドに縛り付けられていた。その周りを竹田が落ち着きなくウロウロ歩き回っている。

 体中が強張っていた。俺の目は、竹田が持っている包丁に釘付けだった。

「トイレ、行かせてもらえないかな」

 恐る恐る声をかけた。

「ああ?」

 血走った目が俺を睨み付ける。余計なことを言うんじゃなかった。

「漏らせよ。そこでやれ」

 と手のかわりに包丁で指さす。

「見ててやる。ほら、出せよ」

 しゃがんで俺の股間を凝視する。もともと大きな目が興奮でさらに大きくなっている。瞬きしないで俺の股間を見つめてる。イっちゃった奴の目だ。

 ~ ~ ~

「久しぶり。結婚するって聞いた。俺に連絡なしとか薄情じゃねえの?」

 三年ぶりに俺の前に姿を現した竹田はにこやかな顔つきで「おめでとう」という言葉とともに、後ろに隠していた包丁を俺に向かって突き出した。絶句する俺を包丁で脅して玄関に入り、鍵をかけ、靴を脱いで部屋にあがりこんだ。

「騒ぐなよ。騒いだら殺すから」

 持ってきたトートバックから竹田はロープを取り出した。それを俺の足もとへ放ってよこすと、

「足、縛れ」

 包丁の先を俺に固定したまま言った。俺はその言葉に従った。指先が震えてうまく結べない。竹田が確認したあとさらにきつく結ばれた。

 殺される。

 竹田に恨まれる心当たりは、無いととぼけるほうが難しいほどにあった。

 ※ ※ ※

 竹田は俺の勤める会社に出入りしていたSE。色白で細くて内向的な性格で、高圧的な態度をとる俺の上司にただ「すみません」と頭を下げることしかできない気弱なもやし男。竹田になら誰もが嫌みを言ってもいいような空気ができていた。

 そんな中で仕事をしていた竹田に少し優しい言葉をかけると泣きそうな顔で静かに感動していた。二言、三言会話するうちに、俺には世間話をするようになり、小さい笑顔も見せるようになった。

 どこへ行っても罵倒され、優しくされたことなんかないとこぼしていた。自分が愚図なせいだと落ち込んでいた。生まれつき人の加虐心をあおるタイプのようだった。

 酒に誘うと嬉しそうについてきた。酔わせて部屋に連れこんで犯した。

 竹田はパニくり、俺を非難してよいかもわからないようだった。怒りもせず、ただ「どうして?」と問い、俺が「好きだから」と適当に言った言葉を信じた。

「おまえは俺のこと好きじゃないの?」

 竹田は爪を噛みながら「好きです」と頷いた。その日から俺の性処理奴隷だった。

 ※ ※ ※

「なんで出さねえんだよ」

 眉間に皺を寄せた竹田に睨まれた。俺が突然別れ話を切り出したときも、竹田はこんな顔をしなかったし、こんな乱暴な言葉使いも初めて聞くもので、この変わりように驚かされると同時に、竹田の恨みの深さを知って戦慄した。

「出ないよ」

 俺の声は震えていた。

「なん……あぁ、悪い。ズボンはいたままだったな」

 包丁は握ったまま、竹田は俺のズボンを下着ごとずりおろした。晒された外気のなか、縮こまっている俺のものを見ると「ふん」と鼻で笑う。

「こいつ。懐かしいや」

 包丁の先でピタピタと性器を叩く。

「やめ、やめてくれ」
「切り落としてやろうか?」
「頼むから……」
「記念にもらっていこうかな」

 指で挟んで持ち上げると、その根元へ包丁をあてがった。俺は言葉にならない悲鳴をあげた。

「冗談に決まってんだろ。こんなもん、今更欲しくもねえよ」

 クスクス笑いながら、性器から手と包丁をはなした。ガチガチと歯を鳴らす俺の横へ腰をおろして、顔をのぞき込んでくる。

「俺が怖い?」

 怒らすまい。俺は曖昧に首を振った。竹田の唇が左右に吊り上がった。

「嘘つき。あんたいつだって嘘ついてばっかじゃねえか。俺のこと、好きでもなんでもなかったんだろ?」

 ぎくりとしつつ、さっきよりはっきり首を左右に振った。竹田の顔が俺を憐れむような苦笑にかわった。

「必死だよな。そりゃそうか。結婚決まったばっかだもんな。もうガキもいるんだって?」

 予想外の妊娠だった。女に嵌められたような気分だった。

 俺が望んだ結婚じゃない。それを目で訴えながら首を振ると、竹田は声をたてて笑った。腹をかかえ、身をよじり、ひとしきり笑ったあと、

「あんたって本当に最低だよ。人として終わってる。かわってなくて安心した」

 目じりの涙を拭いながら竹田は言った。

「そんなあんただから俺のことも相手にしてくれたんだろうけどな。俺を弄ぶのは楽しかったか? 少しは反抗したほうがよかったか? 言いなりで面白くないから捨てたのか?」

 息がかかるほど顔を近づけてきた。俺が答えられないでいると、ベロリと唇を舐められた。

「体臭、かわったな。それともこれは、恐怖の匂いってやつか?」

 口づけされた。強い力で頬を掴まれ、むりやり口を開かされた。竹田の熱い舌が入ってくる。竹田が夢中で俺の舌を吸う。

 ※ ※ ※

 最近仕事が立て込み寝不足だという言葉に嘘はないようで、竹田の顔色は悪く、目は落ち窪んで頬もやつれていた。

「遅いんだよ。いつまで俺を待たせるんだ」

 嫌みを言って竹田を困らせた。

 仕事のミス。人間関係の些細なトラブル。帰りに寄った食堂の店員の酷い態度。繋がらない電話。誘ってもまだ仕事だと断られ、それでもいいから来いと待たされる時間。

 俺のイライラは最高潮。

 世間話みたいに「寝てない。疲れてるんだ」と断りの理由を仄めかすが、俺はそれを無視して竹田にしゃぶらせ、尻を出させた。

 一方的に犯して出すとようやく気持ちが落ち着いた。

 竹田はスーツを着たまま。下もズボンと下着をずらしただけ。そんな恰好で犯されたのに、竹田は勃起させていた。

「自分で処理しろよ。見ててやるから」

 部屋に来る前に買って来いと頼んでおいた缶ビールを飲みながら、俺は顎をしゃくった。

 白い顔を赤くしながら竹田は戸惑っていた。その手を掴んで自らの股間へ導いてやった。

「酒のつまみ買ってくんの忘れただろ」
「それは、言われてなかったから」
「言われなきゃわかんないのかよ。気、きかせろよ。だからこれは罰ゲームな。おまえがオナッてる姿で我慢してやる」

 ほら、と促した。

 股間の前で指を弄びながら、竹田はチラチラと俺を窺い見た。俺はビールを飲みながら冷たくその目を見返した。気をかえるつもりがないと諦めた竹田は、おずおずと自分の勃起を握って扱き始めた。

 長い指が自分自身を慰める様を、俺はただ無言で眺めていた。

 目を閉じながら、竹田は時々俺の名前を口にした。触ってほしいのだろうか。足をのばしてつま先でつついた。竹田の吐息が乱れる。亀頭の先を足の裏で捏ねた。土踏まずが先走りで濡れた。

「変態」

 あざ笑うと竹田は目を開き、恨めしそうに俺を見た。

「おまえって絶対マゾだろ。本当は罵られたくてわざとトロイ仕事してるんだろう」
「違うよ」
「足コキで涎垂らしてるくせに」
「違うってば」
「マゾでホモの変態か。救えないな」

 竹田の口元に足をもっていった。

「舐めろ。舐めて綺麗にしろ、変態野郎」

 乱れた吐息が俺の足の指にかかる。竹田は舌を出し、汚れた俺の足を舐めた。

「筋金入りの変態だな」
「違う……君が好きだから。君は?」

 足の指に舌を絡ませながら、竹田は怯えた目を向けてきた。

「決まってるだろ。だからこんな変態行為に付き合ってやってるんじゃないか」
「好きってこと?」
「ほかになにがある」

 缶ビールをテーブルに置いて俺は立ち上がった。竹田の頭を鷲掴み、再び勃起したものを口の中に突っ込んだ。いきなり奥まで差し込まれ、竹田の咽喉は痙攣した。頭を押さえつけ腰を振った。

「手、止まってるぞ」

 竹田は素直に性器を扱いた。

 イク瞬間、口から引き抜いて竹田の顔にぶっかけてやった。

 ※ ※ ※

 口の端から唾液が垂れ落ちた。ようやく離れた竹田の唇は、噛みつくようなキスをしたせいで赤くなっていた。

「最初はあんたのサディスティックな趣味に付き合わされてるんだと我慢してたけど、あんたに何度も言われ続けたせいで、俺のほうこそマゾの変態なんじゃないかって錯覚しそうになったよ。俺の変態趣味にあんたを付き合わせてるんじゃないかと。なすがままの俺にあんたはどんどん調子づいて好き勝手やってくれたよな? 今から同じことしてやろうか?」

 そんなに嫌がってなかったじゃないか。のど元まで出かかったが、もちろん飲み込んだ。だが竹田は俺の目や表情から読み取ったようだった。

「満更でもなかったって? 本気で思ってんのかよ。ケツに酒瓶突っ込まれんのが? 自分の精液飲まされんのが? 女とあんたがヤッてるとこ見せつけられんのが? そのあと女に笑われながら俺一人でやらされんのが? あんたの俺の扱いは最低だった。まさか本気で自覚なしかよ?」

 包丁が俺の頬にピタリと当てられた。冷たい切っ先が目のすぐ横にある。

「悪かった」

 俺の声は女の泣き声みたいだった。

「今頃謝られてもね」
「じゃあ、どうすれば許してくれる?」

 竹田は一瞬考え込むように黙った。

「許すとか、そういうんじゃないんだ。あんたに好きだって言われて、少しの間恋人の真似事してたら、俺も普通の人間なんだって思えて嬉しかったよ。あんた以外、誰とも付き合ったことがないって前にはなしただろ? 人付き合いが苦手で友達も一人もいないって。ずっと一人で惨めな思いをしてきたって。いつでもどこでも馬鹿にされる人生ってあんたに想像できるか? 人目につかないようにずっと俯いてたらそれが癖になって、人とはなすとき目を合わせられなくなるんだ。目を見てはなすと呼吸が苦しくなって、体が震え始める。頭は真っ白になるし、言葉を噛むし、相手は俺をおかしな奴だって目で見てくる。余計にしゃべれなくなって空回りする。その日の夜は最悪の気分で眠れなくなる。あんたにはわかんないだろうな」

 竹田の不器用な性格については、不器用な切り出し方で聞いてはいた。自覚があったんだと思うだけで、右から左へ聞き流していた。だから俺は慰めもアドバイスもしなかった。

「いきなり別れるって言われたときは目の前が真っ暗になった。俺のせいなんだって。やっぱり俺はまともに人と付き合えないんだって死にたくなった。死にきれないでグズグズしてたらいつの間にか立ち直ってたよ」

 泣きそうな顔で竹田は笑った。いつの間にか包丁が俺の顔から離れていた。

「別にあんたを恨んじゃいない。あんたは俺を好きじゃなかった。だから酷いことを平気でできた。飽きて利用価値がなくなったら簡単に捨てた。よくわかってる。わかってるのに、この3年、あんたのことが忘れられなかった。噂であんたが結婚するって聞いたら、たまらない気持ちになった。あんたを殺して俺も死のうって」

 すうっと竹田の顔から笑みが消えた。

 俺は失禁した。


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