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三食ゲーム付き(3/3)

2020.03.29.Sun.


「触って」

 手を前田の股間に導かれる。指先に当たったものは、やはり驚くほど熱かった。仕方なく握って上下に扱く。

 前田は俺のズボンに手をかけ、下着ごとずりおろした。露出された下半身には、前田と同じように勃起したものがあった。その状態のものを他人に見せたことは一度もない。未経験な羞恥が俺の頬を熱くする。

 机に頬ずりしていた時のように、前田は恍惚とした表情を浮かべながら手を動かした。たまにピクリと眉が動く。その度、感じた吐息を漏らした。それと同じ反応を、俺も前田に見せていた。

 性器だけを晒した格好でお互いのものを扱き合う。嫌悪や羞恥というものは、峠を越えるとどうでもよくなるものらしい。今はただ、出してしまいたいと、それだけだった。

 目を閉じ、手つきを早くする。俺の表情から終わりが近いことを読み取り、前田も手の動きを早くした。喘息のようなせわしない息をしながら、俺は前田の手の中に射精した。

 全部吐き出した後、頭の中はしばらく真っ白になる。つい、前田をイカせることも忘れて余韻に浸っていた。

「杉村ぁ、僕やっぱり、君の中に入れたいよ」

 擦れた声で前田が切なげに訴えてくる。

「こんなもの入らない」

 けだるく答える俺の肛門に前田の指が押し当てられた。途端、ダルさは吹き飛んで体に力が入った。

「入るよ、みんなここ、使ってるんだもん」

 グリグリと指を押し込んでくる。みんなって誰だ。

「こんなもの入れられたら切痔になる」
「僕がクスリ塗ってあげるから」
「死んでも嫌だ」
「ねぇ、杉村、僕、考えたんだけど」

 こんな時になんだ、と前田を睨む。まだ射精していない前田は、頬を赤く染めながらウットリ俺を見ていた。

「そんなにゲームが好きなら、僕のところでずっとゲームしてたらどうかな? もちろん、今すぐは無理だけど、僕が就職して君を養える時がきたら、僕のところに就職しない?」
「就職?」
「杉村はただ、僕の家でずっとゲームしててくれればいい。それが杉村の仕事。どうかな」

 確かに、レベル上げを請け負う会社があったら就職したいと思っていたが……。こいつと一緒に暮らせば俺は外に働きに出なくてもいいのか? 本当にゲームしているだけでいいのか?

「そんなうまい話……」
「たまにこうしてエッチなこともするけどね」

 やっぱり――。舌を鳴らすと前田は苦笑した。

「仕事はゲームとセックスだけ。三食昼寝付きで好きなだけ家にこもっていられるよ」

 三食昼寝付き……。今はまだ十六歳だから親の扶養で面倒をみてもらっているが、十年後も同じ状況では笑えない。俺もいつか自立して働かなくてはならない。このまま登校拒否を続けていれば俺は間違いなく留年する。それでも行かなければ退学ということになる。中卒で雇ってくれる職場は限られている。頭じゃわかっているが、どうしても学校に行く気にはなれない。そこに価値や意味を見出せないのだ。

 押し黙った俺の迷いを嗅ぎつけ、前田はさらにまくしたてた。

「ゲームは好きなんだろ? エッチだって気持ちいいことなんだからそのうち絶対好きになるよ。一生誰ともエッチしないって決めてるわけじゃないんだろ? その相手が僕だから迷ってるんだろ? だけど考えてもみてよ、気持ちよくセックスするだけで、あとは何もしなくていいんだよ。料理も掃除も洗濯も全部僕がやる。杉村は好きな時に好きなことをしてくれればいいんだ。ただ、僕と一緒に暮らして、僕とセックスするだけ。それも気持ち良く、ね」

 俺の手の中で前田の性器がドクンと脈打ち膨らんだ。何を想像したんだ。

「毎日……か?」
「セックス? そうだな、週三回でどう?」

 週に三度、前田の性処理に我慢して付き合ってやればいいのか――?

 急に下半身が軽くなった。体を浮かせた前田が、俺のズボンを足から抜き取っていた。

「一度、試してから考えたら?」

 と腰を持って裏返す。尻を割って中心に指を入れてきた。

「やるなんて言ってねえ」
「これは僕に嘘をついたペナルティでもあるんだよ、杉村」

 ズクと指が奥まで入った。息が詰まるような圧迫感に背中が反った。

「どうして俺なんだ、どうしてそんなことするんだ」

 思わず泣き言を漏らした。ゲーム三昧で三食昼寝つきは確かに魅力的な就労条件だが、週に三度もこれを我慢できる自信は微塵も持てない。

「中学の時、僕はいじめられそうになったことがあった。その時、クラスの奴を止めてくれたのが杉村だった」

 前田は指を二本に増やし、中で関節を曲げる。

「覚えてない……っ」

 脂汗を額に浮かべながら呻った。

「ね。杉村はそういうことが当たり前に出来ちゃうんだよ。僕にとっては忘れられない出来事でも、杉村にとっては些細な出来事なんだ。僕はずっと杉村に憧れてた。杉村みたいになりたくて、君のことばかり見ていたら、いつの間にか好きになってた」

 指が抜かれた。ほっとしたのも束の間、次の瞬間には指より太いもので貫かれていた。本当に切痔になる!

「頼むよ杉村、僕のそばにいてよ。杉村が何不自由ない生活を送れるよう、僕がんばって働くから。だから僕のところに来てよ」

 真摯に訴えかけながら、前田はちゃっかり腰を動かした。体の奥深くをえぐられる感覚に焦りがわいた。

「動くな、脱肛するっ」
「そんな簡単に脱肛したりしないよ」

 引きずられそうで布団にしがみついた。この異物感と痛みを耐え続けることが果たして俺に出来るか? 無理だ。こんなことを続けるなんて、俺にはとても無理だ――。

「…………条件がある」
「なに?」

 ピタリと前田の動きが止まった。

「俺が欲しいと言ったものは何でも買い揃えろ」
「もちろん、出来る範囲で」
「ゲームしている時は邪魔するな」
「しないよ」
「俺は家事は一切やらない」
「杉村の部屋も僕が掃除するよ」
「俺の部屋は自分でする。俺の持ち物には一切触れるな」
「わかった、約束する」
「契約書を書け。一年目の違約金は百万。学生の間、一年ごとに五十万増やす。社会人になってからは百万ずつ増やす」
「僕は絶対に契約破棄なんてしないよ。杉村こそ、途中で嫌だなんて出て行かないでよ」
「行って欲しくなかったら、おまえは高給取りになれ」
「――なるっ、僕、がんばるよ!」

 再び前田の腰が動いた。興奮して勢いづいた前田は激しく腰を振る。これが気持ち良くなるなんて考えられない。この行為を好きになる日が来るなんて想像もできない。前田に騙されたのだろうか。苦痛を噛み締めながら、決断を早まったかと早速後悔した。

 背後から聞こえる前田の息遣いが速く、荒くなった。うわ言のように俺の名を呼ぶ。

 どうしてそこまで必死になれるのか、前田の言動は俺の理解を超えている。取るに足らない過去の出来事をいつまでも覚えていて、挙句男相手に好きだと言ってくる。自分が働くかわりに、俺にはずっと家でゲームしていろと言う。たとえ性交渉という条件がつくとしても、家事もやらない、子供も産めない俺を養って何のメリットがあるのか。正気の沙汰とは思えない。それが――俺には理解不能な――恋というものなのだろか。

 俺の腰を掴む前田の手に力がこもった。直後、息をつめて前田は吐精した。

 ※ ※ ※

 契約書の内容はこうだ。

 前田と同じクラスの間、俺は学校に通うこと。クラスが分かれた時にはその強制力は消滅する。社会人になった前田の収入が安定したら同居をする。働かなくていいかわりに、義務として前田と週三度の性行為。

 前田は、出来るだけ好条件の仕事につき、出世の努力を惜しまぬこと。三食昼寝付きという環境を維持して俺を養い、俺が欲しがるゲームに金を出し惜しみしないこと。ゲームの時間を邪魔しない。家事全般は前田がやる。ただし、俺の部屋は例外とする。俺の持ち物に許可なく触らない。

 一年目の違約金は百万円。二年目以降、学生の間は一年ごとに五十万円増やす。社会人になってからは一年ごとに百万円増やす。

 無収入の俺が契約を破棄したい場合、前田の希望によって契約終了の期限を五年まで延長できることとする。

 どちらに有利な契約なのか、よくわからない。感情が醒めた時、前田にとって俺はお荷物以外の何物でもないだろうし、中年になってから放り出された時――しばらくは違約金で生活出来るだろうが――俺は路頭に迷うことになる。

 どちらにも分が悪い、賭けのような契約だった。そのことがわかっているのかいないのか、前田は喜々とした表情で契約書にサインした。

「はい、杉村もサインして」

 眼前につきつけられる契約書。これに名前を書いたが最後、俺の人生は決まってしまうのだ。前田に食わせてもらいながら、家に引きこもってゲームばかりしていていいのだろうか。夜になれば我慢しかない前田との性行為だ。本当にそれでいいのか。男として、人として、それで――。

「杉村、早く」

 前田が俺をせっつく。急かすな、これは人生の岐路なんだ。大事な場面なんだ。

 そういえば、俺は勘がいいほうだった。ダンジョンに入り込んだ時も、地図を見なくてもあまり迷わず進むことが出来た。攻略本が役に立たない、運だけが頼りの宝箱の選択の時だって、俺は当たりを選ぶことが多かった。

 前田からこの話を持ちかけられた時、迷いながらも、無理だと思いながらも、俺はその道を選んだ。自分の直観力を信じるしかない。

 ――ままよ!

 意を決して、俺は契約書にサインをした。


(2010年初出)

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三食ゲーム付き(2/3)

2020.03.28.Sat.
<前話>

 口を諦めた前田は、今度は背ける俺の首筋に吸いついてきた。ベロリと舐めあげられ、全身総毛だった。

「気色悪いことするな」
「じゃあ、キスしてもいい?」
「駄目だ」
「じゃあ、学校に来てくれる?」
「どうしてそうなる」
「僕、中/学生の時からずっと杉村のことを追いかけてたんだよ。杉村に近づくために一生懸命勉強だってしたし、性格だってかえるように努力した。同じ高校に行って同じクラスになれたのに杉村が来てくれないんじゃ意味がないよ」
「知るか」

 短く弾き返すと、それが気に障ったのか前田はムッと眉を寄せた。

「来てくれなきゃ、毎日来るよ」
「毎日無視する」
「窓を破って中に入るよ」
「おまえの親に連絡して窓ガラス代を請求する」

 唇を尖らせた前田の眉間の皺が深くなった。

「じゃあ、今ここで杉村を犯す」
「どうしてそんな話になるんだ。犯罪だぞ」
「今度は警察に連絡する? 男に犯されましたって、言えるの、杉村」

 前田の顔がまた近づいてきた。それから逃れるために精一杯右を向く。耳に口を寄せて前田が笑った。「ふふっ」と吐息が耳にかかる。

「杉村、お風呂入ったでしょ? いい匂い。ちょうどいいね」

 と匂いを嗅ぐ鼻先で首を撫でられた。それと同時に、前田の下半身が押し付けられた太ももで、異様な変化を感じ取った。ある一部分が、明らかに硬く大きくなっていた。

「前田、おまえ」

 俺と目が合った前田は恥ずかしそうに一度目を伏せたが、すぐ視線を戻し、挑むように見てきた。開き直りとも取れる微笑が口元に浮かんでいる。

「僕は本気だよ」

 囁くように言う。前田は体をずらし、膝で俺の股間を押した。

「本当はこんなことするつもりじゃなかったけど、杉村が学校に来ないって我侭言うなら、仕方ないね」

 刺激に応じて性器が大きくなる。この三日、ゲームばかりしていて性処理はおろそかになっていた。俺の意思とは無関係に、前田の膝なんかで感応してしまう。

「待て、前田」
「学校、来てくれる?」
「考える」
「行くって言ってくれなきゃ、やめないよ」

 俺の右手から前田の手が離れていった。その手が下がって俺の股間を掴む。思わず息を飲んだ。本当に犯されてしまう――そう思ったらさすがに焦った。

「わかった、行く」
「本当?」

 スエットのズボンの中に前田の手が忍びこんできた。勃起したものを下着越しに優しく包みこまれる。長い指が形をなぞるように動いた。全身の毛穴が開く。

 体重を乗せられている上、体格でも力でも敵わない。家には誰もいないから助けを呼ぶ相手もいない。前田が本気を出せば、俺は間違いなく犯される――好きでもない男に。

「行く、学校に行く」
「約束だよ?」

 俺の顔を見ながら、前田が憎たらしい顔で笑う。女子から騒がれる顔は、今の俺には怖気立つものでしかない。

「もし約束を破ったら、今度は本当に犯しちゃうからね?」

 指を動かしながら、前田は更なる恐怖を引き出す言葉を吐いた。こいつ、狂ってやがる。

「行く、行くからもうどけっ」

 ありったけの力で前田を押しのけ、起き上がった。

 ラスボスでパーティが全滅しかけた時より慌てた。今まで貞操の危機など感じたことはなかったが、これほど恐ろしい状況だとは考えもしなかった。あとになって急に心臓がドクドク鳴りだして、苦しく感じられる。胸を押さえたらその鼓動が手に伝わってきた。

「約束だからね。明日からちゃんと学校に来てよ、杉村」

 前田は右手を前に出し、小指を立てた。

 ※ ※ ※

 俺が二度目のプレイをしている間、前田は毎日やってきた。前田に犯すと脅され、学校に行くと言いはしたが、最初からそんなつもりはなかった。指きりさせられたがそんなものに効力はない。口約束を破ったところで俺が負う責任は何もないのだ。俺の言葉を信じた前田が甘っちょろいというだけだ。

 前田は約束が果たされないと気付いた翌日から家にやって来た。家の戸締りは完璧。部屋の雨戸も閉めたから、窓を破られる心配はない。雨戸まで壊すようなら、その時は警察に連絡だ。

 母親がいない間は無視して過ごしたが、仕事が休みで母親がいる時に来た時は、少し緊張した。さすがのあいつも、俺の母親を押しのけてまで部屋に来るほど非常識ではなかった。長い間玄関で俺の母親に詰め寄っていたが、「本当に今は留守でいないのよ」と同じことを何度も言われて諦めて帰って行った。誰か来ても留守で通すよう、俺から母親に強く言っておいたのだ。

 そのうち諦めて俺のことは忘れるだろう、そう高を括っていた。俺は昔から、人を好きになる気持ちがよく理解できなかった。恋愛ごとに夢中になる奴の気が知れなかった。好きな奴を前にすると顔が赤くなって挙動不審になる、四六時中、そいつのことを考えてしまう、そんなことを言う奴を、俺は醒めた目で見ていた。前田にしてもそうだ。俺を好きだという感情は、一時の熱病のようなもの。あるいは勘違いから生まれた擬似恋愛なのだと思っていた。

 それが俺の間違いだったと認めるに至ったのは、前田との約束を破った五日目、週明けの月曜だった。

 あいつは担任を引き連れやって来た。担任は俺を学校へ呼ぶことをとっくに諦めていたから、前田に説得されてついて来たに違いない。こしゃくな真似をする。

 担任がやってきたのに玄関先で追い返すわけには行かず、俺の親は二人を中に招き入れた。

 しばらく三人分の話し声が聞こえていたが、いつしか二人に減り、かわりに階段をあがってくる足音が聞こえた。

 やっていたゲームを放り出し、俺はドアノブに飛びついた。両手でがっちり握る。いつか感じた大きく跳ねる心臓の苦しさがまた迫ってくる。

「杉村、中で怯えてるの?」

 笑いを含んだ前田の声が、扉の向こうから聞こえた。

「約束を破るからいけないんじゃないか。開けてくれないかな」

 俺の手の中でドアノブが回った。必死に抵抗したがノブは回され、体当たりされた扉は俺まで弾いて開いた。床に尻持ちをつく俺を、中に入ってきた前田が見下ろす。

「学校に来るようにって、先生がおばさんと話してる。杉村は僕と話をしようか」

 ゲーム音楽に気付いて前田の目がテレビに逸れた。

「またゲームしてたの? この前もしてたよね」
「学校に行くより、ゲームをしていた方がマシだからな」
「僕があんなに頼んだのに?」

 しゃがみこんで俺の頬に手を添える。前に触れられた時も思ったが熱い手だ。きっと平熱が高いのだろう。

「明日、明日は学校に行く」

 床に膝をついた前田が顔を寄せてきた。その目は俺の口元を見ている。

「また口先だけなんだろ? もう騙されないよ」
「今度は本当だ」
「じゃあ、契約書を書いてくれる?」
「書く」

 犯されるくらいなら学校に行ったほうがいい。前田の目を睨みながら頷いた。満足してにっこり笑った前田が、自分の鞄から紙を一枚取り出した。

「はい、契約書。サインして」

 と、机にそれを置いた。事前に契約書なんて用意していたのか。どこまでも小賢しい奴だ。渋々サインした。

「これでいいだろ、もう帰れ」
「約束を破ったペナルティは受けてもらわないと」

 構える前に腕を掴まれ、ベッドに投げ出されていた。前田がすかさず俺の上にのしかかる。

「言ったよね、犯すって」
「前はただの口約束だ、なんの拘束力もない」
「そんなこと言うんだ。はじめからそんなつもりで行くなんて言ったんだ? じゃあ、あの契約書も、なんだかんだ理屈をこねて反故にするつもりなんだろ?」
「違う、次はちゃんと守――ッ!」

 前田に口を塞がれた。すぐ舌が入ってきて、中を傍若無人に舐めまわす。

「やめ……っ」

 逃げても背けてもしつこい追いかけてくる。開いた口の端から唾液が垂れた。抵抗を試みたが、俺がこいつに力で勝てないことは以前、証明されている。それでも前田の体を押し返そうと暴れた。

「学校来ないでずっとゲームばっかりしてるの?」

 首に前田の唇が触れる。手が、服の中に入り込んでくる。アンダーシャツをたくし上げ、直に触られた。

「学校なんかくだらねえ」

 なんのつもりか乳首を触ってくる。俺は女じゃないんだぞ。ひねるな、痛い。

「せっかく同じクラスになれたんだよ? 学校に来てよ、同じ班になって修学旅行も一緒に行こうよ」
「馬鹿、舐めるなっ」

 前田は乳首を口に含んで吸ったり、軽く歯を立てたりする。噛み切られたら痛そうだ、と俺は冷や汗を流した。

「僕と同じクラスの間は学校に来てよ、クラスが分かれたら来なくてもいいから、そのほうが僕も安心だから……」

 乳首をいじっていた手が下におりた。撫でるようにズボンのなかに侵入し、性器を握る。

「どこ触ってるんだっ」
「一緒に、気持ち良くなろう?」

 揉むように性器を触ってくる。太ももに感じる前田の股間も、いつのまにか大きくなっていた。そんなもの、擦りつけてくるな。

「ねぇ、僕のも触ってよ」
「嫌だ」
「じゃあ入れさせて」

 どこに何を――。気付いて言葉を失った。どうしてここで難易度があがるんだ。普通、レベルをさげた妥協案を提示する場面だろう。

「わかった、触ってやる」
「さすが。杉村は物分りがいいね」

 カチャカチャとベルトを外す音が聞こえた。前をくつろげた前田が、俺の下半身で馬乗りになる。下着から引っ張り出された前田の性器は、俺が大きくするまでもなく、怒張し、反りかえっていた。



消えた初恋 1

アルコ先生で読めるBL(!)

三食ゲーム付き(1/3)

2020.03.27.Fri.
 先日、発売されたばかりのRPG。不眠不休でがんばった甲斐あって、レベルMAXでラスボス戦。卑怯な呪文でパーティが全滅しかけたが、なんとか勝利を収めてエンディングまで辿りついた。

 俺はレベルを上げる作業が大好きだ。何時間でも厭きることなくやり続けられる。レベル上げを請け負う会社があったら、俺はそこに就職したい。

 コントローラーを床に置き、立ち上がった。長時間の胡坐のせいで膝が少し痛んだ。

 一階におりた。親は共働きで家には誰もいない。しんと静まり返ったキッチンで湯をわかし、カップラーメンに注ぐ。これが俺の朝食兼昼食兼、三時のおやつ。いつの間にか16時前だった。

 出来上がったカップラーメンを食べ終わると部屋に戻り、ゲームをセーブしてからシャワーを浴びた。

 次は攻略本を見ないでプレイしよう。一度目は攻略本を見ながら完璧にプレイする。二度目は本なしで遊びながらプレイする。それが俺のやり方だ。

 風呂からあがり髪を乾かす。二階に戻ろうとした時、玄関のチャイムが鳴った。当然、無視する。俺は電話にも出ない。またチャイムが鳴った。

 しつこいな、と睨んだ玄関から、扉を叩く音と俺を呼ぶ声が聞こえた。

「おーい、杉村、いるんだろ? 僕だ、前田だ、開けてくれよ」

 同じクラスの前田。無意識にチッと舌が鳴った。

 前田とは中二の時も同じクラスになったことがある。女子からうける美少年顔だったが、引っ込み思案で根暗な印象。成績は俺に次いで良かったが、明るいとは言えない性格のせいで、男子からは相手にされない奴だった。

 似たような成績だったから同じ高校に進学した。たまたまクラスも同じになった。

 高校に入ってすぐ、俺は登校拒否を始めた。何もかもがくだらなく思えたのだ。毎朝制服を着て、時間を気にしながら登校し、号令がわりのチャイムによって行動を縛られ、その場限りの上っ面な友情ごっこに飽き飽きしてしまったのだ。集団という一個に自分が取り込まれ埋没する――吐き気がするほどの嫌悪感だった。

 これなら家でゲームをしているほうがマシだ。だから俺は学校に行くことをやめた。

 そういえば、俺がまだ学校に行っていた最初の頃、同じクラスになった前田が話しかけてきたことがある。

「僕たちまた同じクラスになれたね」

 なぜか嬉しそうに笑っていた。しばらく見ない間に、前田は人の目を引くほどの男前になっていた。髪の手入れもしていて笑顔も絶やさない明るい奴にかわっていた。

 打って変わって俺は、一日中机に突っ伏して寝ているような暗い奴になっていた。誰も俺に話しかけてこない。気にもかけない。俺は教室に在って無いような存在だった。前田だけが、やたらと俺に話しかけてきた。

 お節介な前田に返事をすることが面倒臭かった。優等生気取りの正義感が鬱陶しかった。だから返事をすることもやめてずっと無視していたら、クラスメイトの俺への評価は最悪なものになっていた。そんなこと、どうでもいいが。

 学校に行かなくなってから、前田は家にやってくるようになった。母親がいる時は母親が対応した。いない時は居留守を使って無視した。俺に会えないのに、あいつは懲りもせず週に二度は俺の家にやってくる。必要のないプリントや、ノートのコピーを届けにくる。担任からはすでに見放されているのに、前田だけがしつこい。

 前田がそこまでする理由――ひとつだけ、思いあたることがある。俺と同じ町内に住んでいる伊藤沙希が目当てなのだろう。中学三年の時、俺と伊藤は同じクラスだった。卒業間近な放課後、忘れ物を取りに戻った教室で、違うクラスの前田が伊藤の席に座り、うっとりした顔で机に頬ずりしているのを目撃してしまった。すぐ引き返したから、前田は俺に見られたとは気付いていないはずだ。前田は伊藤に会える偶然を期待して、俺の家にやってくるのだ。

 下心を見透かされていると知らない前田は、表でまだ大声を張り上げている。

「おーい、杉村! 今日は大事な話があるんだ、いるんだろ? 顔出してくれよ!」

 近所迷惑な大声で俺を呼ぶな。

 今回はすんなり帰ってくれなさそうな気配だった。仕方なく玄関に向かい、扉を開けた。

 前田が俺の顔を見て相好を崩す。半開きの扉を強引に開いて、断り無く玄関に入ってきた。

「今日はお母さん、いないの?」

 と、俺の肩越しに奥を覗きこむ。

「いねえよ。なんの用だ」
「杉村の部屋に行ってもいい?」
「断る」
「今日はほんとに大事な話があるんだよ。長くなるから……ね? いいだろ?」
「嫌だ」
「用件が終わったらすぐ帰るから」

 前田は靴を脱ぐと勝手にあがりこんできた。

「おい、前田」

 止める声を無視して階段をのぼっていく。その背中に舌打ちしながら、俺もあとに続いた。

 部屋に入った前田はあたりを見渡し「ここが杉村の部屋かぁ、案外綺麗に片付いてるんだね」と感心した様子で言った。母親を入れないかわりに、掃除はこまめに自分でしている。埃にまみれた生活なんてごめんだ。

「用件は?」

 俺が言うと、テレビの前に座った前田は鞄を手繰り寄せた。俺も前田の正面に腰をおろした。

「これ、修学旅行のパンフレット。それと、授業のコピー」

 前田が差しだしたパンフレットには沖縄の文字。うちの高校は一年の時に修学旅行がある。今年は沖縄のようだ。

「行かない」

 突き返したら腕を掴まれた。

「そろそろ修学旅行の班作りとかあるから、学校に来て欲しいんだ」
「俺は学校にも修学旅行にも行かねえよ」
「駄目だよ、来てよ。杉村と一緒に行きたいんだ。同じ思い出を持ちたいんだよ。せっかく同じクラスになれたんだ、せめて今年だけでも学校に来てよ」
「嫌だ」
「行くって言ってくれなきゃ、これから毎日家に来るよ」
「迷惑だ」
「それが嫌なら学校に来てくれる?」
「どうしてそこまでする?」
「それは……」

 口ごもった前田は頬を赤くして目を伏せた。

 高校生の前田は、ソフトな外見、明るい性格で、男子からも女子からも好かれていた。清潔そうな面にみんなが騙されていた。こいつは好きな女の子の机に頬ずりするような奴だ。俺はすぐその場を離れたから見ていないが、もしかしたらあのあと、頬ずり以上のことをしていたかもしれない。登校拒否の俺を心配する振りをして、伊藤の家のまわりをウロつくような奴だ。どんな変態的な欲求を隠し持っているかわかったものじゃない。

 その口実に俺が使われるのは我慢がならなかった。

「バレてるぞ」
「えっ」

 前田が顔をあげた。

「中三の時、誰もいない放課後の教室でおまえが机に頬ずりしてるの、見たんだ、俺」

 前田の顔がみるみる赤くなっていった。焦点の合わない目が挙動不審に揺れ動く。見るも不様に動揺する前田を、俺は冷静に眺めていた。

「おまえの下心はとっくに気付いてた。だからもう、親切面してお節介焼くな」
「あれ……見られてたんだ……」

 神経質な仕草で襟足の髪を撫で付ける前田は、中/学生の頃に戻ったような控え目な佇まいだった。

「だったら言い逃れ出来ないね。あんな形でバレちゃうなんて恥ずかしいな。僕を……軽蔑する?」

 窺うように俺を見てくる。確かに、伊藤の机にうっとり頬ずりしているのを見た時は気持ち悪い奴だと思ったが、軽蔑するほどじゃない。

「別に」

 俺の返事を聞いた前田は、安心したようにほっと息を吐いた。

「実は中学二年の時から好きだったんだ。しつこいよね、僕なんかに好かれたって迷惑だよね」

 と自嘲するように笑う。どうして俺が前田の恋の相談に乗ってやらなきゃいけないんだ。

「さあな、嬉しいかもよ」

 投げやりに答えた。

「えっ、う、嬉しい?」

 前田は目を輝かせて俺に詰め寄って来た。こいつは自分が女子から格好いいと騒がれている自覚がないのだろうか。謙遜にしてはわざとらしすぎる。

「見た目はいいんだし、頭だって悪くない。おまえから好かれて迷惑に思う奴は少ないんじゃないか」
「そ、それってつまり、OKってこと?」

 そこまで知るかよ。興奮して俺の手を握るな。

「ちゃんとした返事が知りたいなら告白してこいよ」

 俺の手を痛いほど握り締めていた前田が急に両手を広げて抱きついてきた。いきなりのことで反応が遅れ、俺は押し倒されるように後ろへひっくり返った。その時、後頭部を床にぶつけた。痛みに顔を顰める俺に耳に、「好き、好きだ、杉村」と言う前田の声が聞こえた。

 好き――俺が? こいつは何を言ってるんだ?

「待て、おまえが好きなのは伊藤だろ? 俺に告白してどうする」
「伊藤? 誰それ?」

 肘をついた前田はきょとんと首を傾げた。この場面で白を切るのか。こいつの思考回路はめちゃくちゃだ。

「おまえが頬ずりしていた机の持ち主だ」
「僕が頬ずりしたのは杉村の机だよ」
「何を言ってる。あれは伊藤の――」
「あぁ、そっか、そうだった」

 前田は俺の言葉を遮り、思い出したように言った。

「最初、席を前後で間違えちゃったんだ。杉村が見たのは、僕が間違えて前の席に座ってる時だよ」

 前の席? 間違えた? 俺と伊藤の机を――? あぁ、そういえば、伊藤と席が前後したことが一度あった気がする。中三も終わりの頃だった。確かに頬ずりする前田を見た時期と一致する。じゃあ、こいつは本当に伊藤じゃなく、俺の机に頬ずりしていたのか? 世にも幸福そうな顔で?

「俺が好きなのか?」
「好き、大好き」

 満面の笑顔で前田は頷く。こいつの目当ては伊藤ではなく、そのまま俺だったのか。

「男同士なのに?」
「杉村が男でも女でも関係ない」

 と、目を伏せた前田の顔がおりてきて、お互いの唇が触れ合った。前田は角度をつけて、俺の口に唇を押しつけてくる。熱くぬめったものが俺の唇をこじ開け中に入ってくる。

「舌、入れんな」

 前田の体を押しのけた。

「人の口、犬みたいにベロベロ舐めてんじゃねえ」
「だって好きなんだもん」

 胸を押す俺の手を掴んで、前田はまた顔を近づけてきた。顔を背けた俺の頬に、前田の唇が押しつけられる。

「俺はおまえのことが好きじゃない、はなれろ」
「さっきはあんなに思わせぶりな態度とったくせに」
「どこが――、お前の好きな奴が伊藤だと思っていたからだ」

 追いかけてくる前田の口から逃れながら言った。いつの間にか両手首を捕まれ、床に押さえ込まれていた。ひ弱な印象があった前田なのに、背丈も体重も俺より上回っていた。体勢の不利を差し引いても、今の俺じゃ前田に敵わない。




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