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続続・嫁に来ないか(3/3)

2019.09.17.Tue.


 玄関に入るなり中田さんにキスされた。

「ちょ、待っ……風呂!」
「終わったら一緒に」

 一蹴された。壁に手をつかされ、後ろから一気にハメられた。

「あっ……! そんな、きゅうに……っ」
「乱暴にしてごめんなさい、一刻も早く僕のものにしたくて……ッ」

 あんたのものになった覚えはないぞ。

 性急な動き。首元から聞こえる荒い息遣い。こんなに余裕のない中田さんを見るのは初めてだ。

「僕になんて興味ないと思ってました。セックスも、嫌々してるのだと」
「いっ……あっ、ああっ……!」

 なんの準備もしていない場所へむりやりの挿入。中で動かれるだけで痛いし苦しい。壁に爪をたて、必死に耐える。

「まさか嫉妬してくれるなんて」
「ち、ちが、うっ……!」
「店まで来たのは僕に会いにきてくれたんでしょ?」
「ちがっ、あ、あんた、を……おどろかそうと、思って……っ」
「違わない、同じことですよ」

 強い力で抱きしめられた。その直後、体の奥深くに熱いものが噴きあがる気配を感じた。終わったのにまだ固くて大きいものがずるりと俺の中から抜け出た。支えを失ったように膝がガクンと落ちる。中田さんが俺を抱きあげた。抱っこのまま寝室へ移動し、ベッドにおろされた。

「そうだ、さっきのレストランのオーナー代理の女性、大澤さんのファンなんだそうですよ。大澤さんが僕の仕事を手伝いに来る放送も見てたそうです。僕に声をかけてくれたのも、あの放送のおかげなんですよ」

 言いながら中田さんが服を脱いでいく。農作業で鍛えられた体が露わになる。

「大澤さんのファンだという女性を前に、初めて大澤さんを抱いたあの夜のことを思い出してしまって大変でした。本当の大澤さんはこんなにかわいいんだって、スマホに入ってる動画を見せてあげたくなりました。もちろんあれは僕だけのものですから、誰にも見せませんけどね」

 人の警戒心を解くあのいつもの優しげな笑みを浮かべながら、中田さんは俺の膝を押し広げた。その中心へ、いきり立ったままのものを突きさしてきた。

「ああっ……あ、あ……ッ」」
「こんなに色っぽい姿、僕以外の誰にも見せてやりません」

 さっきとは違って余裕のある動き。俺の様子を見ながらゆっくり抜き差しする。さっき中出しされた中田さんのものでスムーズに動く。奥までくるたび、それがグチュグチュと音を立てる。

 さっき出したばかりだと言うのに、中田さんは今日初みたいな大きさと固さを維持している。これすごく嫌な予感がする。

「先に謝っておきますね、今日、めちゃくちゃに抱いてしまうかもしれません」

 やっぱりだ。嬉しそうな顔しやがって。ぜんぜん謝る顔じゃない。

 小刻みに動かしていたかと思うと、大きなストロークを開始した。入り口付近まで亀頭が移動して抜けるんじゃないかと焦ったが、すぐ奥まで戻ってきた。それを何度もしつこく繰り返す。中田さんは自分のちんこで俺の中を解しているのだ。なんてやつだ。

 奥深くから浅い場所までカリで擦られてこちらはたまったもんじゃない。もどかしい熱がじわじわと下腹部から腰、体全体へと伝わってくる。

 もっと強く、という言葉がのど元まであがってくる。前戯というか、生殺しの意地の悪い愛撫だ。

「ああっあっもう、や……っ」
「大澤さんも僕が欲しいですか? ちゃんと言ってください」
「うるせ……んっああっ、もうっあっあっ……」

 俺を焦らすようにタンタンと単調に突いてくる。もっと強い刺激が欲しい。もっと感じる場所を的確に責めて欲しい。

「も、このっ……いじわる、するなよ…ぉ……!」
「だって大澤さんが嫉妬してくれたんですよ、浮かれちゃうじゃないですか」
「だから……っ、嫉妬じゃないって……!」
「照れ隠しもかわいいですよ」

 聞く耳もたない嬉しそうな顔。そうだ、この人、思いこみ激しい人だった。

 ぐい、と中田さんの亀頭が天井を擦った。狙い定めたように前立腺をピンポイントでごりっと抉られて、俺のちんこの根本から先端までびりびりと刺激が走り抜けた。

「僕ばっかりじゃ申し訳ないから大澤さんも一回イッときましょうか」

 楽しげに言うと凶暴な責めが始まった。俺の弱い場所を重点的にこれでもかと肉厚なカリが擦りあげる。

「ひっあっあぁっ、やぁっやだっあぁんっやだっ、やめっ、なかたさっ……や、一回、やだっ、やめっ」
「大丈夫、このままイッていいですから」
「やあっあっああっ、あんっ、そこゴリゴリすんの、やだぁ……ああっああぁん!」

 強制的な射精。勢いよく飛び出した精液が俺ののど元にまで降り注ぐ。安堵の息をつく間もなく、中田さんのピストンは続く。

「もうやっ、なかたさん……! ああっ、あ、やめ、俺イッたばっかりっ……やんっああっあああ──ッ!」

 目の前が真っ白になった。つま先から頭のてっぺんまで、鋼鉄の杭で串刺しにされたように体が硬直する。

「う……わ……、大澤さん、ドライでイキました? 中が収縮して、すごくキツイ……ッ」

 心配になるくらい体のほうはカチカチに硬直しているのに、頭のなかは麻薬物質出まくりの浮遊感があってやばかった。射精していないのに、射精以上の快感。これがドライオーガズムなのか。

「もっとすごいの、いきましょうか」

 中田さんが何か言った。理解する前にペニスを握られ、乳首を吸われた。全身に絶頂の余韻が残っているいま、三点同時責めは地獄の快楽だった。

「い、ヒィ──ッ……! あ、ああ──ッ! だ、ア、ア、ああっ……!!」

 ペニスを軽く扱かれただけで射精した。乳首を吸われただけでまた達した。もう言葉も出ない。思考できない。開きっぱなしの口から出てくるのは涎と獣みたいな呻き声と熱い息だけ。

 なにをされても、されなくても、イキっぱなしの感覚が続く。これは駄目だ。頭が馬鹿になる。人間じゃなくなる。全身が性器になった生き物みたいだ。

「ああっ……い、あ、アアッ、あ、イッ──ッ!!」
「またイキましたね」

 前後不覚の感覚が恐ろしかった。温かく柔らかな声だけが頼りだった。必死にしがみついた。狭い視界に優しい笑みが見えた。子供みたいに泣きじゃくりながら、数えきれないほどの絶頂を迎え、最後は失神した。

 ◇ ◇ ◇

 いつ覚醒したのかもはっきりしない。気付いたら薄暗い部屋の天井を見ていた。夢と現実の区別もつかない。頭に靄がかかったように、何もかもがはっきりしない。

「大澤さん」

 控えめに呼びかける声がした。目だけを動かすと、ベッドに腰かける中田さんがいた。

「大丈夫ですか?」
「……なんか……ケツのあたりが冷たいんだけど」
「ああ、それは」

 照れたように中田さんは頭を掻いた。

「大澤さんがお漏らししちゃったからですよ。バスタオル敷いてるんですけど、やっぱり冷たいですよね。いまシーツは洗ってるんですけどマットレスにまで染みちゃって。僕のせいなので弁償します」

 どっと汗が噴き出た。思い出した。全部、思い出した……! 記憶と感触が一致した。

 枕を握って中田さんに投げつける。中田さんが「あはは」と笑う。なに幸せそうな顔してんだ!

「あ、あんたもう、出てけよっ」

 大声を出したはずがカッスカスに掠れた。寝起きだからってだけじゃない。散々喘いで泣かされたからだ。

「一緒に風呂入る約束でしょう。大澤さんが起きるの待ってたんですよ」
「そんな約束してないし一人で入るし。ていうかいま何時?」
「もうすぐ6時です」
「うわ……俺今日、8時には出なきゃいけないのに」
「じゃあ早く支度しないとですね」

 よっ、という掛け声1つで中田さんは俺を抱きあげた。触れ合う肌が、数時間前のセックスと繋がる。まだ俺のなかに中田さんが入ってる感覚も残ってる。心身ともに疲れ切ってるのに、もう間もなく別れる温もりが惜しいと思ってしまった。これは相当毒されてるな。



10年目の初恋1


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続続・嫁に来ないか(2/3)

2019.09.16.Mon.
<前話>

 まっすぐ帰る気分にもならず、先輩に連れて行ってもらったことのあるバーに寄った。暗い店内にジャズが流れる落ち着いた雰囲気が気に入っていた。

 ひとりで飲んでいたら奏斗から今日のお礼のメールがきた。こちらこそ今後もよろしく、と返事をしたついでに一緒の飲もうと誘ってみたが、今日は古賀さんと打ち合わせがあるので、と断られた。

 こんな日に限って誰も誘ってくれない。仲のいい後輩を誘ってまた断られたらへこむから誰も誘えない。

 どうしよう。久し振りにそこらへんの素人ひっかけて一晩遊ぼうかな。表に出たらものすごく面倒なことになるとわかっているのに、いまの俺は自暴自棄な気分だった。

 あてもなくアドレス帳に連なる名前を眺める。芸能界という特殊な世界で繋がった人たち。俺が芸能界をやめたらおそらくもう連絡を取り合うこともなくなる。その程度の付き合い。

 相棒の小東が大麻所持で捕まり世間を騒がせていた頃、誰も彼もが俺を見てみぬふりした。沈む泥舟に手を差し伸べる人なんていなかった。当たり前だ。俺だって当事者じゃなければ知らんぷりしていただろう。なんのメリットもない。

 いまはそれなりに仕事をもらえて、経験も積んで、知り合いの数も増えた。事務所の後ろ盾もあるから誰も俺を軽くは扱わなくなった。

 でも芸能人でなくなった時、俺個人と付き合いを続けてくれる人はこの中に何人いるだろう。

 急に虚しさに襲われてアドレス帳を全消去したくなった。駄目だ駄目だ。スマホをテーブルに置いた。

「ご一緒していいですか?」

 声をかけられ顔をあげる。驚きのあまり椅子から転がり落ちてしまった。

「大丈夫ですか? かなり酔ってるみたいですけど、何杯飲んだんですか?」

 俺を助け起こして中田さんは向かいの椅子に腰を下ろした。目が合うとにこりと笑う。

「なんで──」
「ここがわかったのかって? 僕たち、アプリで繋がってるじゃないですか」

 俺は首を振った。

「なんでここにいるんだよ」
「もちろん大澤さんに会いに来たんですよ」

 どの口が。思わずグラスの中身をぶっかけてやろうかと思ったが店に迷惑をかけるし、注目を浴びるのは嫌だからやめた。

「あんたも不義理だね」

 中田さんは軽く目を見開いた。

「僕が不義理?」
「ここに来る前、どこで何してたんだよ」
「ずっと仕事してましたが」
「へえ仕事? あんたのスマホにも俺と同じアプリ入れてるの忘れた? さっきまでレストランで女と食事してただろ。酒まで飲んで。離れたテーブルに俺がいたのに気付かないくらいあんた楽しそうだったな。俺からの着信無視したのも全部この目で見てたんだよ。女とデートするのが仕事? あんたいつ転職したの? それとも最近の農家は女と食事してるだけで野菜育てられんの? そりゃ知らなかったわ。悪い悪い」

 精一杯の皮肉をこめて笑って見せる。中田さんはずっと驚いた顔のままだ。頭の中でいま必死に言い訳を考えているんだろうが、俺は現場を見ている。言い逃れはできない。全部論破してやる。

 俺を一途に好きだったと言うわりに、やることしっかりやってる奴がどんな言い訳をしてくるか楽しみだ。

 腕を組み、ふんぞり返って中田さんの言葉を待つ。

 中田さんは両手で顔を覆い「ああ」とため息のような呻きのような声を漏らした。観念したか?

 指の隙間から中田さんの目が俺を見ていた。

「大澤さん」
「なんだよ」
「それは嫉妬ですよ」
「……なっ、ばかちげえよ、論点すり替えんな」

 大きな声を出しそうになって慌てて抑えた。

「じゃあどうしてそんなに怒ってるんですか?」
「そりゃ怒るだろ、あんたさんざん……俺にあんなことしたくせに、ちゃっかり女作ってるとか誰だって頭くるだろ」
「ああ」

 また呻くように言って中田さんは俯いた。よく見ると体が小刻みに震えているような気がする。

「いまここでめちゃくちゃに犯したい」

 尻の穴が縮むような物騒な呟きが聞こえた。やりかねない気がして、つい逃げ腰になる。

「は、はぐらかされないぞ」
「本当に仕事です」

 中田さんは顔を覆っていた手を膝に置いた。俯いたまま俺を見つめるその目がぞっとするほど据わっている。

「僕がさっき一緒に食事をしていたのはあのレストランのオーナー代理の方で、僕の野菜を店で使いたいと言ってくださったんです。実際に店の味を知ってもらいたいと食事をご馳走になりました。ワインを頂いたのは、契約成立の記念にと一杯だけ。大澤さんからの電話に出られなかったのは相手に失礼だと思ったからです。気を悪くしたのなら謝ります。今度からは何を置いても、あなたからの電話には必ず出ますから機嫌を直してくれませんか?」

 淡々と告げられる言葉。理解はできるが耳を素通りしていくこの感じ。中田さんの目から逃れられない。視線が絡みついて息苦しい。カエルに睨まれた蛇? いますぐおまえを抱いてやるぞという目から目を逸らせない。

「そんなこと、なんとでも言えるし」

 のどから絞りだした声はみっともないくらいに掠れていた。

「契約書を見せます。証拠にはならないかもしれませんが。メールのやり取りも見せましょうか?」

 中田さんは二つに折った封筒を鞄から出してテーブルに置いた。スマホを操作し、画面を俺に見せる。白い画面に文字が並んでいる。メモ帳か?

『この店のトイレか近くのホテル、どこがいいですか?』

 眉を顰める。意味を理解するまでに数秒。ハッと目をあげたら手を掴まれた。引いてもびくともしない強い力だ。

「理性が保てているうちに、決めて下さい」

 熱い手だ。俺の体まで熱くなってくる。俺はかろうじて首を横に振った。

「そんなとこ、いやだ……俺の、家で」
「早く出ましょう」

 中田さんに手を掴まれたまま店を出た。




続続・嫁に来ないか(1/3)

2019.09.15.Sun.
嫁に来ないか続・嫁に来ないか

 今日の仕事は後輩アイドルグループNAUGHTYの番組で家出した犬を探すロケだ。

「この手のロケは大澤さんが得意だって聞いてます。今日は勉強させてください!」

 それ褒め言葉のつもりかよ。俺が今日補佐するのは、NAUGHTYのリーダー奏斗。俺より少し後輩のこいつらは、事務所内での評価は高いがなぜか人気が伴わず、鳴かず飛ばずで10年燻っていたグループだ。今年の夏、急にゴールデンでの冠番組が決まり、お茶の間に寄り添った番組内容が受けて一躍人気者へ。

 俺は日頃のロケ経験がかわれて、彼らの補佐という役割でこの番組の準レギュラーに抜擢された。努力が報われた瞬間だ。もちろん結果を残していかないと他の誰かと交代させられてしまう。

 依頼をくれた素人さんのお宅へ行き、まずは話を聞く。朝起きたら犬がいなくなっていたという。度々脱走する犬で、脱走防止用の柵もあるが、器用に開けて行ったらしい。いなくなって三日。依頼人家族も空き時間に探しているがいまだ発見できず。

 さっそく捜索に取りかかるのも良いがここはちょっと依頼人の中/学生の娘とも絡んでおこう。お約束の「誰のファン?」という質問から学校生活、好きな人の話を聞き出し、奏斗から「大澤さん、そろそろ犬!」と突っ込まれてやっと捜索を始めた。

 目撃情報のあった場所を重点的に探しながら、町の人たちとも触れ合う。俺が受け持っている夕方情報番組のワンコーナー「アイドルの手も借りたい!」と勘違いした主婦やお年寄りから声をかけられる。奏斗から「大澤さん、さすがですね。帯番組の司会いけるんじゃないですか」と言われて悪い気はしない。まさに今俺が狙っているのはそのポジションなのだ。

 ちょっと休憩しましょう、とロケ車へ乗り込む。その隙に調べものをする。

 ついでに、中田さんの居場所も検索した。仕事の合間に、あの人の居所を確認するのがすっかり癖になっている。

 俺のスマホに仕込まれた浮気アプリ。それを削除するのは簡単だが、あえて残しているのは消したことで中田さんがどんな行動をするか予想がつかないから。そのかわり、俺も中田さんのスマホに同じアプリを入れさせた。それで俺も中田さんの行動を監視する。あの人が自宅周辺にいるのを見れば安心できるからだ。

 検索結果を見て思わず顔を顰めた。中田さんは区内に来ているようだ。ちょうど郊外へロケにきた俺とは入れ違いだが、それに気付いて追いかけて来るかもしれない。不思議なのは中田さんの居場所。俺の自宅近くでもないし、今日の仕事の出発地点でもない。

 あの人と知りあって3カ月ほど。月2、3回の頻度であの人は俺に会いに来る。そして俺を抱いて帰る。画像や動画を撮られているから仕方なく相手をしている。それに、慣れてしまえば体は気持ちいい。

 休憩のあとロケが再開された。調べておいた方面へ足を延ばす。依頼人の娘の中学校が見えてきた。運動場ではクラブ活動中の学生がいた。顧問に許可をもらい中に入る。ロケの内容を説明し、生徒たちに捜索の協力を仰いだ。

 捜索は広範囲に及ぶ。身軽な彼らが手伝ってくれれば百人力だ。

 手分けして探しながら、もう一度中田さんの現在地を調べた。区内から動いていない。なにしてるんだ? 俺の所在地を把握していないのか?

 犬を探しながら、今日中田さんはうちに来る気なのだろうかと、頭の片隅にずっとそれがあった。奏斗を誘って食事に行きたいけど、嫉妬深い人だから帰りが遅くなるのはまずい。部屋の片付けもしたいし、ちゃんとシャワーも浴びておきたい。

 中田さんを示すアイコンが近くにあるだけで、俺の生活にこうまで影響が出る。もういい加減、俺に飽きて欲しい。俺に似た男をあてがってやろうか。簡単になびかれたら、それはそれでなんかムカつくけどな。

 捜索隊の学生から犬を見つけたと連絡が入った。ロケ車に乗り込み現場へ向かう。公園で犬を確保、と追加情報が入った。聞いていた公園で車をおりて学生と合流した。野球部のユニフォームを見て内心ガッツポーズ。

 彼と一緒に犬を連れて依頼人宅へ。娘は彼を見て慌てている。俺がこっそり聞き出した娘の彼氏が、何を隠そう犬を確保した野球部の彼なのだ。

 付き合っていることは親にはまだ内緒だと言う。俺は娘を別室へ連れ出し、この際親に紹介したらどうだろう? 犬を見つけ出してくれた彼と知れば印象もいいし、と唆す。犬の帰宅を喜ぶ両親に、娘が「この人が彼氏です」と野球部の彼を紹介するサプライズ。今日のロケは大成功だ。

 帰宅途中の車内で、「プロデューサーの古賀さんから」とスタッフが俺に電話を繋ぐ。今日のロケの出来を聞いたらしく、お褒めの言葉を頂いた。これで三ヶ月は安泰とみていいだろう。

 古賀さんに言われ、奏斗に電話を代わった。奏斗の顔が強張ったように見えた。古賀さんはかなりやり手のプロデューサーだ。緊張するのも仕方ない。

 奏斗が電話をしている隙に俺はまた中田さんの居場所を調べた。少し移動しているが区内にいるのは変わりがない。なにしてるんだ、あの人。

 奏斗にはまた今度、と挨拶してロケ車をおり、そこからタクシーを拾った。中田さんがいる場所へ向かう。いつも急に現れて驚かされるから、今日は俺が驚かしてやろうという、ちょっとした仕返しのつもりだった。

 向かった先は洒落たレストラン。夕飯時でそろそろ混み始めているのが外から見てもわかる。女性客が多い。こんなところに中田さんが? 中田さんを示すアイコンはずっとこの店の中だ。

 少し迷ったが中に入ってみることにした。

 二人掛けテーブルに案内された。パスタを注文してスマホを見るふりをしながら中田さんを探す。農家の前は学校の教師をしていたらしいから、こっちに当時の知りあいがいたって不思議じゃない。ただこの店の雰囲気を見てある予感が働いた。

 一番奥のテーブルに中田さんを見つけた。案の定、女と一緒だった。年は俺と同じか少し上。きれいな人だった。バリバリのキャリアウーマンタイプだ。中田さんから目を逸らさず会話する様子からも自信が見て取れる。

 二人の会話はなかなか弾んでいる様子だ。中田さんも料理を食べながらあれこれ話しかけている。女性がそれに笑って頷き返す。かと思ったら今度はタブレットを見ながら話しを始めた。食事中のマナーとしては如何なものか。

 運ばれてきたサラダを食べながら中田さんたちの様子を窺う。女性がスタッフを呼び止めた。しばらくしてワインが運ばれてきた。アルコールが入って二人はさらに楽しそうだ。俺は隠れるようにコソコソとひとりでサラダを食べているのに。

 いま中田さんに電話をしたらどうするかな? 出るかな? 俺が好きだと言って憚らないんだから、そりゃ当然出るよな。これもう義務だよな。

 なんとなくイラついた気分で中田さんを呼び出す。着信に気付いた中田さんが鞄からスマホを出し、なにやら操作すると鞄に戻した。

 あの野郎、シカトしやがった……!! しかも電源切ったっぽいぞ。繋がらない。

 中田さんが女性に謝るジェスチャーをしているのが見えた。俺よりそっち優先。ほお。そういうこと!

 ふたりは食べ終わったあともずっと話し込んでいる。しかも顔が近い。ただの知り合いとは思えない。親密な、あるいはその一歩手前の関係にしか見えない。

 注文したサラダもパスタもおいしかったのに台無しにされた気分で店を出た。




ハチリツ【分冊版】1


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