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よくある話(2/2)

2019.01.26.Sat.
<前話>

 翌朝、またあの「ジリリリリッ」という騒音が家中に鳴り響いた。気のせいか窓まで震えている気がする。

「うう…、うるせえ」

 時計を見ると朝7時過ぎ。いつもなら起床している時間でも、深夜遅くまでセックスしていた俺たちには早すぎる時間だ。

「また水戸のおじさんかも」

 矢野はふらつきながらベッドから起き上がった。寝惚け眼で服を着ると「星野は寝てて」と優しい言葉を残して下へおりていった。

 うつらうつらと、かすかに聞こえてくる声を聞いていた。しばらくして、ドタドタと慌てた足音。戻ってきた矢野が俺から布団を剥ぎ取った。

「星野!!」

 悲痛な叫び声に目を開ける。

「なんだよ、大きな声出して」
「み、水戸のおじさんが来た!」
「ああ、うん。え、ここ来るのか?」

 昨日、アノ声を聞かれているとは言え、裸で出迎えるわけにはいかない。急いで服を着ようと床のパンツに手を伸ばしたら、

「違う! おじさんはもう帰ったんだけど…! おじさんじゃなかった!!」

 興奮した矢野の言うことはよくわからなかった。

「まだ寝ぼけてるのか? 話が見えないんだけど」
「おじさん! 水戸のおじさんだったんだよ! さっき来たのが!!」
「だろうな」

 こんな辺鄙なところ、持ち主以外他に誰が訪ねてくるって言うんだ。

「さっき来たのが本物で! 昨日来たのは水戸のおじさんじゃなかったんだよ! 偽物だったんだ!!」

 服を着る手が止まった。

「どういう意味だ? じゃあ、昨日のおじさんは誰なんだ?」
「知らない! 俺もおじさんに訊いたんだ、昨日ここに来たかって。そしたら来てないって」
「え、でもお前、昨日のおじさん見て、水戸のおじさんって呼んだだろ」
「最後に会ったの子供のときだし、最近やりとりしたのは電話だったし……、おじさんが来るって聞いてたからてっきり。それに、昨日の人、俺が水戸のおじさんって言っても否定しなかったし!」

 確かに。昨日のおじさんが水戸のおじさんでないなら、なぜあの男は矢野に話を合わせたのだろう?

「気味が悪い話だな」
「そうだろ? なんか体がゾクゾクして怖くなっちゃってさ」
「こっち来い。あっためてやるから」

 矢野を抱きしめて布団に寝転がる。矢野の背中を撫でながら、頭では昨夜の男の言動を思い返してみる。

 男の目的は空き巣だろうか? 見るからに空き家だとわかる放置された家に金目のものがあると思うだろうか? 家主には見抜けなかった骨董品狙いか?

「裏で作業してたって言ったけど、何してたんだろう?」

 ポツリと矢野が言った。

「そういえば服が泥で汚れてたな、偽物のおじさん」
「ちょっと俺、確認してくる!」

 飛び出していきそうな矢野をひっ掴まえ、俺も急いで服を着て一緒に家の外へ出た。正面からは木に囲まれて見えるが、裏は明らかに人の手によって作られた開けた土地があった。

 長年の放置により雑草が生い茂ってはいるが、よく見ると畝のような起伏があるし、離れた場所には作業場のような掘っ立て小屋もある。そのそばには鍬やら鋤やら一輪車もあった。どうやらここは以前、畑だったようだ。

「いまは何も育ててなさそうだな」

 荒れ放題の広い土地を見れば一目瞭然だった。

「昨日の男はここでなにをしてたんだろ?」

 不思議そうに呟いて矢野は辺り見渡した。

 やっぱりあれは空き巣だったんだ。住人の不在を確かめたら俺たちが出てきた。若い男二人じゃ敵わないとみて、なにも盗らずに逃げたのだろう。

 しかし何かがひっかかる。風呂場から聞こえた俺たちの声で、男が二人とわかったはず。それに服の泥。

 ふと、荒れた畑の隅に目を止めた。規則的に、何かが刺さっているように見える。いや、生えている……?

 目を凝らし、ゾッと背筋が凍った。

「矢野!」

 驚く矢野の腕を引っ張って家の表に戻った。心臓がデタラメに高鳴り、顔には嫌な汗が流れる。

「どうしたんだよ、星野」
「携帯! 持ったな?! よし、行くぞ!」
「行くってどこに?」

 矢野の質問には答えず、家を飛び出し車に乗った。震える手でエンジンをかけ、車を出す。木の影から昨夜の男が出てくるような気がして、バックミラーを何度も確認した。

 焦っちゃ駄目だ。落ち着け俺。事故なんか起こしたら元も子もない。

 星野は説明を求めて何度か話しかけてきた。運転に集中するために悪いが無視した。ただごとでない雰囲気を察したのか、星野も静かになった。

 メインの峠道に出た。他の車と合流してやっと一安心できた。

 途中に出てきた蕎麦屋の駐車場に車を入れた。

「そんなに蕎麦が食べたかったのか?」

 怒りもせず、矢野が俺をからかう。

「中でちゃんと説明する。あそこにはもう怖くていらんなかった」

 その前に。俺は警察へ電話をした。



 十分ほどで店の前にパトカーが到着した。半信半疑な警官と一緒に来た道を戻る。

「本当に人の腕でしたか?」
「そう見えました。怖かったんで、近づいてまでは確認しませんでしたけど」

 畑の隅に俺が見たもの──、それは人の腕だった。正しくは人の腕の骨。肘から上の部分が地面から出て、白く細い指も5本、あった。それも複数。

 雑草を踏み分けながら、俺が説明した場所に警官が進む。畑から生える無数の人間の腕を確認すると、警官たちは慌てて無線で仲間を呼んだ。

 小一時間で、静かだった山奥の家は警察車両で囲まれ、警察官だらけになった。

 俺たちは最寄りの警察署に移って何度も事情を聞かれた。特に、昨夜訪れた偽物のおじさんのことを。人相書きにも協力した。

 人の手を見たのは俺だけ。矢野は気付いてもいなかったから、聞き取りは俺のほうが時間がかかった。終わって廊下に出ると矢野が待っててくれた。

「お疲れ」
「疲れた」

 矢野の労わる笑顔に一気に疲労がこみあげる。警察署だろうが構うもんかと、矢野に抱きついた。ポンポンと背中を叩く手が心地いい。

「水戸のおじさんとさっき会ったよ。呼ばれたみたい。なんか、悪いことしちゃったな」
「仕方ない。俺たちにはどうしようもない」
「本当に人の手だったのか?」
「ああ。なんか白いものが見えるなって目をこらしたら、五本の指が見えた。それが何本も。しばらく夢に見そうだ」
「ごめん、俺のせいで」
「お前のせいじゃないだろ」

 矢野が泣きそうな顔で俯く。こいつを慰めてやる必要がありそうだ。

 帰ろうとしたら俺の聴取をした刑事に呼び止められた。手には俺たちの荷物が入った鞄。

「大変な目にあわれましたね。畑には複数の遺体が埋まっていました。矢野さんたちは事情を知るとと思われる男の顔を見ています。決定的な証拠がないため、警察ではお二人を保護することはできません。そのかわり、自宅周辺のパトロールを強化するよう所轄の警察署には要請済みです。気休め程度ですが。念のため、お二人も注意なさってください」

 おいおい、まさかあの男が俺たちの居場所を付き止めてやって来るかもしれないっていうのか? もう白骨化も進んだ遺体がいくつか発見されて、似顔絵も作成されたっていうのに? なんのために? 事件発覚のきっかけになった俺たちを、腹いせで殺しに来るって? 冗談じゃないぞ。

 すっかり顔が青くなった矢野をつれて帰宅した。1人になるのが怖くてなんとなく俺の家に集まる。しばらくして、所轄の警察官が二人、挨拶をして帰っていった。

「犯人、本当に俺たちのところに来ると思う?」

 夜になってポツリと矢野が呟いた。帰りの車のなかもずっと無口で元気がなかった。すっかり精神が参っている様子だ。

「来るわけないだろ。第一どうやってここを調べるんだよ。心配しすぎだって」
「連休は星野と二人っきりになりたいって俺が下心出したせいだ」
「馬鹿だなあ、そんなこと考えてたのか」
「星野になにかあったら俺、どうしたらいいんだよ」
「あるわけないだろ、そんなこと」

 笑い飛ばして矢野を抱きしめる。不安がらせないよう強がってはいるが、俺だって矢野のことが心配だ。

 偽物のおじさんが、あの遺体を埋めた犯人だと決まったわけじゃない。殺したという証拠もない。ここに来るかも、わからない。

 何一つ定かじゃない状況に放置されるから余計に不安で怖い。

 とりあえずいま最優先でしなきゃいけないことは、矢野を安心させてやることだ。

 上を向かせてキスした。こんな状況なのに、俺たちのちんぽはギンギンにいきり立っていた。生存本能ってやつか?



 テレビや週刊誌では連日、今回の事件が大々的に報道された。

 裏の畑に植えられていた遺体の数は全部で5体。全員男だったらしい。4体は白骨化していて、身元判明に時間がかかるそうだ。そして死後間もない遺体が1体。

 男は俺たちがイチャついているまさにその時、新しい遺体を裏庭に埋めていたと思われる。

 腕だけを地面から出していた理由は、犯人のみぞ知る。鑑賞して悦に入っていたのだとしたら、悪趣味この上ない。

 そして、あとから聞いてゾッとしたのは、水戸のおじさんの家には俺たち以外の第三者が使用していた形跡があった、というのだ。

 誰のものかわからない指紋、見覚えのない家具、ゴミ。一階和室に置いてあった毛布は、その第三者が使っていたのではないか、と。

 裏に広い庭があり、辺鄙な場所で滅多に人がこない無人の家。人殺しの隠れ家にはもって来いだったというわけだ。

 殺人鬼と思われる男とニアミスした俺たちは、タイミングが悪ければ殺されていたかもしれないとわかって金玉が縮み上がった。

 水戸のおじさんは、仕方ない話、一番最初に疑われたらしい。

 まずなぜ家の近くに別荘を持っているのか。

 それは、家の近くに別荘を買ったのではなく、元々住んでいたのがあの別荘だったという。

 近くに引っ越した理由は、単に生活に不便だったから町に近い場所に移っただけ。古い家を手放さなかったのは、土地だけでも二束三文にしかならず、しかも古い家屋を取り壊さないと買い手も見つからないから。山奥の家となると取り壊し作業も大変で費用も嵩む、という理由で仕方なくあの家を別荘と呼んで所有し続けていただけだった。

 こんな事件に使われた場所とあっては、なおさら売れなくなるだろう。水戸のおじさんには同情しかない。

 そして不安なまま、事件発覚から二週間が経ったある日、怪しい男を捕まえた、と警察から俺たちに連絡が入った。作成した似顔絵に似ているので一度確認をして欲しいと言う。

 急いで警察署にかけつけた。取調室のなかにいる男を外から見せてもらう。ハンチングはあの夜と同じだがジャンパーの色は黒にかわっていた。だが、間違いなく、水戸のおじさんの偽物だった。

 二人で「あいつです」と証言したあと、今後の話し合いのため別室へ呼ばれた。そこで男が捕まった経緯を教えてもらった。

 ほんの数時間前、パトロール中の警察官が、今回の事件の重要参考人である男の似顔絵に似ている人物を見かけ、声をかけた。男は職務質問を拒否し、警官に抵抗してその場で取り押さえられた。

 男の鞄の中にはロープ、結束バンド、鉈に包丁にスタンガンなど物騒な物が入っていたらしい。

 しかも、男を捕まえた場所というのが、矢野の自宅付近だったというのだ。

「俺を殺すために、遠路はるばる来たって言うんですか?」

 震える声で矢野が言うと、刑事は「おそらく」と頷いた。

「所持していたものをみても、そう考えるのが妥当かと」
「なんで?! 意味わかんないんですけど!」
「これはまだ世間に発表していないことなのでお二人も口外しないで頂きたいのですが、最後の新しいご遺体の体には、何者かの体液が残されていたんです」
「ええ?」
「──あっ」

 矢野は首を傾げていたが俺はわかってしまった。報道によると遺体はすべて若い男性だと言われていた。男の体に、体液──つまり精液が残されていたということは。

「あいつは、矢野を犯して殺すつもりだった?」

 俺の言葉に刑事が神妙に頷く。

「まだ推測ですが、これから取り調べをしてきっちり全部吐かせます。自白しなくても、物証あげて逃がしません。金輪際、あいつに怯える必要はありませんから安心してください」

 と言われて安心できるはずもなく。

 ましてや、男は矢野の自宅近くまで迫っていたのだ。

 心底びびって腰が抜けている矢野を抱えて一旦俺の家に連れ帰った。

「犯人捕まって良かったよな」
「そうだけど。犯行を素直に認めるかな?」
「DNAとか、物証とかで追い詰めるだろ。日本の警察は優秀なんだから任せておけば大丈夫だって」

 しかし矢野は浮かない顔だ。

「安心しろって言われてもできないよな。俺だって、刑事さんに話聞いて心臓止まるかと思ったもん。お前に何もなくて良かったよ」
「星野も無事で良かった」
「で考えたんだけど、お前もまだ一人じゃ不安だろうし、俺もお前を一人にするのは心配だ。もうこの際、一緒に住まないか?」
「えっ」

 ずっと沈んでいた矢野の顔に少し生気が戻る。

「嫌か?」
「嫌じゃないよ! 星野こそ、いいのか?」
「お互いの家を行き来すんのも楽しいけど、帰る場所が同じほうがいいだろ?」

 うんうん、と力強く何度も頷いて矢野が俺に抱きついてきた。

「それともう一個朗報があるぞ」
「なに?」
「風呂場でヤッてた声を聞かれたのが親戚のおじさんじゃなくて良かったな」
「えっ、あ、こんな時になに言ってるんだよ!」

 怒ったふりをする矢野にキスをする。

 結局今回もなんだかんだあって俺たちの距離は一層縮まる結果となった。

 そして例の男は死体遺棄罪で逮捕され、数日後には殺人罪で再逮捕された。

 俺たちは新居でそのニュースを聞いた。






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よくある話(1/2)

2019.01.25.Fri.
<前作「洞窟」>

※若干ホラー風味

「星野! 親戚が別荘貸してくれるって! 次の休みはここに決まりだ!」

 あれこれあって付き合うことになった矢野が、恋人になって初の連休は特別なものにしたい!と持ってきた話がこれだった。

 矢野の言う別荘は某県の山奥にあるらしい。

 1時間かけて県境を越え、メインの峠道を外れて舗装さえされていない山道を車で行くこと更に1時間。

 途中分かれ道が出てきたときはどちらを進むかは賭けだった。車のナビでは道路の一本さえ記されていないような、そんな山奥。

 対向車が来たら困るくらい狭い道。幸い一台の車も出会わずこれた。というか、バイク一台、人っ子一人見ていない。そういえば電信柱一本見た覚えがなかった。

 木造の建物は別荘のイメージとは遠く、民家のような印象。相当年季が入っているのは間違いない。使われている木材の変色具合から見てもわかる。

 矢野が借りて来た鍵を使って中に入った時、部屋は埃とカビの湿った匂いで充満していた。空気も重苦しい。

 家の中は大型家具以外、きれいに片付けられてがらんとしていた。居間の隣の和室になぜか毛布が一枚置いてあるのがなんだか不気味だ。

「親戚が新しい布団置いてってくれたらしいよ」

 窓をあけて換気をしながら、憂鬱な空気を振り払うように矢野が言う。矢野もここまでの道中とこの別荘の雰囲気になにやら不安になった様子だ。

「まさかこの毛布のことか?」
「二階の一番大きい部屋に置いたって聞いたけど。あとで見に行ってみようぜ」
「その親戚はどこに住んでんだよ?」
「近くに住んでるって聞いたけど」
「近くに? じゃあなんでこんな場所に別荘なんて」
「さあ? 山の新鮮な空気を吸うために?」

 首を傾げる矢野になんだか嫌な予感がする。こいつは過去、吊り橋効果を狙ってわざと危険な冒険プランを何度も持ってきた。まさかまだ続けてるのか? もう意味ないのに?

 いやきっと考えすぎだ。

「ちゃちゃっと軽く掃除して飯にしようぜ」
「俺荷物下ろしてくる」

 矢野が外の車へ戻った。その間に俺は部屋の明かりをつけ、水道の水質チェックをし、ガスコンロが使えることを確認した。

 戻ってきた矢野と一緒に、来る途中寄った大型スーパーで買った食材を冷蔵庫の中へ入れていく。ブレーカーをあげたばかりで冷蔵庫の中はまだ冷えていない。冷蔵庫も年代物で、ちゃんと冷えるのか不安だ。

 掃除をしたら少し汗をかいた。矢野も同様。

「先に風呂に入るか?」

 俺の提案に顔を赤くして矢野が頷く。

 床と壁は目の細かいタイル張り、小振りな浴槽、小さな窓、という田舎のおばあちゃんちを思い出すような風呂場。日が陰ってきてオレンジ色の明かりが窓から差し込む。

 順番に体を洗って狭い浴槽にふたりで入った。俺の前に座る矢野の首筋に吸い付く。矢野が身じろぎする。手を前に回し、半立ちのちんぽを握った。

「あ、だめ、お湯汚しちゃうだろ」
「やりまくるつもりでここに来たんだろ」
「だめだって、星野、あっ…」

 湯船のなかで手を動かしたら簡単に勃起した。

「やだ、あ、ああん」
「いつもより感度いいくせに」
「ちが…あ、アアッ、止め…、ほんと、出ちゃうって」
「立てよ、口でやってやる」
「いいよ、そんなっ」
「ほら、早く」

 しぶる矢野を立たせてこちらを向かせる。目の前にびしょ濡れの勃起ちんぽ。少し湯気が立っている。前は男のちんぽなんか触るのも嫌だったのに、今じゃ平気で口に咥えられる。唾液からめながらジュルジュルジュルッて吸い上げたりしゃぶれたりもできる。

 環境が人を変え、成長させてくれるんだなあ。

「あ! や、だめ、星野…! もうやめて、出る、出ちゃうから…あぁんっ」
「いつもより早いな」
「だって、気持ちいい…ッ、あ、あ! ほんと出る、出るってば!」

 ビューッと勢いよく咽喉の奥に生温い液体がかかる。顔を横に向け、排水口めがけてそれを吐きだした。さすがにまだ飲み下すのはハードルが高い。

「次は俺の番だぞ。そのまま壁に手をつけよ」

 ボディソープと一緒にこっそり風呂場に持ちこんだローションの蓋をあけた。これからなにをする気かなんて矢野もとっくにわかっているから、俺に向けた尻たぶを自分で広げて待っている。

 付き合い出してすぐ、いつから俺のことが好きだったのか、オナネタに使っていたのか、興味本位であれこれ聞いた。大学入学してすぐ俺のことを好きになり、それ以来ずっとオナネタは俺だと言う。

 その頃から俺に抱かれる妄想をして後ろの穴も弄っていたらしい。ここを自分で、と思いながらローションを矢野の穴になじませていると妙に興奮する。

 昨夜もセックスしたせいか、中は柔らかい。

「そろそろいいか」

 俺の独り言に矢野が「早く入れて」と応える。体を密着させて風呂に浸かっていたときから俺のちんぽはすでに勃起していた。あえて立たせる必要のないちんぽにもローションをなじませ、矢野の穴に生のまま、ゆっくり挿入した。

「はあ……!! ああ、あ、あぁん、き、た…ぁ…星野のちんぽ、はぁああ、おっきぃ…!」

 矢野は気持ち良さそうに中をうねらせながら締め付けてきた。何度味わっても新鮮な驚きを感じる具合の良さ。矢野と付き合う前に女とは経験済みだがそれを上回る気持ちの良さだ。

「あんま締めるな、すぐ出ちまうだろ」
「ちが、だって…俺またイキそうだから…、ああっ! 待って、まだ動くのやめ…、あ、あぁんっ!」

 矢野の体を掴んで腰をゆっくり振った。矢野とセックスするようになってから、少しでも気持ち良くさせてやりたくて俺も男同士のセックスを勉強したつもりだ。そこで知った前立腺に当たるように亀頭を擦った。

「あ、あぅん……だめ、そこ、あ、ああ……っ」

 だめと言いながら矢野は壁に爪を立ててさらに俺を締め付けてくる。少し離れると「だめ、抜ける…!」と自分から尻を押しつけてくる。

 焦らすように殊更ゆっくりちんぽを押し込み、また抜ける寸前まで引いた。何度か繰り返しただけで穴は充分に解れ、矢野は立っていられないくらい、出来上がっていた。

「もう、焦らさないでよ……もっと激しくしていいから…星野ぉ…」

 物欲しそうな、切ない矢野の声。俺も限界なので今度は激しくピストンする。ブチュンバチュンと笑っちゃうくらい下品な音が結合部から聞こえる。湯船のお湯も波が立ってバシャバシャ跳ねる。

「やっ! あっ、ああん! なか、すご…! あ、あん! 星野の、ちんぽ、気持ちい…!」
「もっと声出せよ、こんな山奥のド田舎、誰もいないんだから」
「ああ! あ、あ! や、やだ、あぁん! そこ、触ったら、だめ、声、止まんない…!!」

 さっきからベチンベチンと間抜けな音を立てていた矢野のちんぽを扱く。矢野はゆらゆら腰を揺らしながら、あんあん声をあげる。

 ふと思いついて窓をあけた。涼しい空気が一気に流れ込んでくる。ここから見えるのは鬱蒼と立ち並ぶ木ばかり。おかげでもう外は薄暗い。

「窓、閉めろ、よ……あ、あん、ああん!」
「開放的でいいだろ。風呂場で声が響くから、初めてお前とヤッた洞窟を思い出すな」
「あ、う、うん、思いだ…ひ、い、やあ、あ、ん」
「あの時からお前感度抜群だもんな。エロすぎるだろ、お前の体。ほら、もっと声出せよ」
「は、ずかし、から…言うなよ…ぁ…あ、あん、もうだめ、出る!」
「矢野の声、もっと聞きたい」
「や、ああっ、星野ぉ、あっ、あんっ、もお、イク…! ごめ…、また俺…! ああっ、ん! あっ、イク、イクゥ!!」

 大きな声で喘ぎながら矢野は射精した。外の樹木がその声を吸収する。

 物音がしない静かすぎる山奥。動物の鳴き声さえ聞こえない。

 俺も雰囲気の飲まれてたんだと思う。だから余計、矢野に声を出させたくなってしまったのだ。



 風呂を出て夕飯を作った。と言っても切るだけ、温めるだけの、簡単な料理だ。

 恋人と二人の食事を楽しんでいたら突然「ジリリリリッ」と家中に響くような呼び鈴がなった。

 矢野と顔を見合わせる。

「こんな時間に誰だ?」
「わかんない……、あ、親戚のおじさんかも。一回顔出すって言ってたから」

 小走りで矢野が玄関に向かう。慌ててあとを追った。ミステリー小説を読まない俺だって、この登場の仕方は不吉だってわかる。

 訪問者を親戚だと疑わない矢野が玄関の戸を躊躇なく開けた。傘立てにささっている謎の鉄パイプを俺は横目に確認した。怪しい奴ならこいつで撃退してやる。

「やあ、こんばんは」

 玄関に立っていたのはハンチングをかぶり、泥のついたチノパンと深緑のジャンパーを着た初老の男。男は満面の笑みで俺たちに挨拶をした。

「あ、水戸のおじさん?! お久しぶりです!」
「ひさしぶりだねェ。元気にしてたかい?」
「はい、おかげさまで。あと、別荘貸してくれてありがとうございます。こっち、俺の友達の星野です」

 矢野の紹介を受けて俺も男に挨拶をした。男は一瞬俺を見るとすぐ矢野へ向き直った。

「不便はないかい? 何か困ったこととか、かわったこととか」
「なにもないです。それどころか新しい布団を用意してもらっちゃって…。すいません、僕たちで用意しなきゃいけないのに」
「いいよ、そんなこと。もしかして、夕食の最中だった?」

 水戸のおじさんは鼻をスンスン動かした。

「あ、良かったらおじさんも食べて行きませんか? レトルトのカレーなんですけど。酒はいっぱいありますよ
「いやあ、二人の邪魔しちゃ悪いよ」

 水戸のおじさんがねっとりと意味深な目で俺たちを見る。

 え、もしかして。

「ごめんね、さっき裏で作業してたら、二人の声が聞こえちゃってね」
「え? 声って?」

 こんなところで矢野が天然ボケをかます。なんてこった。思わず天を仰いだ。

「二人で一緒に風呂入ってたでしょう? 声がね、丸聞こえだったんだわ」

 絶句した矢野の顔が瞬間的に真っ赤になった。水戸のおじさんも照れ隠しか大きな鼻の頭を掻く。

「すいません、あれはふざけてただけっていうか」

 固まってしまった矢野にかわって俺が悪あがきの言い訳。水戸のおじさんは皆まで言うなとばかりに手で制した。

「いいよいいいよ。都会の若い子は進んでるからなあ。初めてで驚いたけど、別に悪さしてるわけじゃないんだから」

 ハンチングを目深にかぶり直すと、おじさんは「なんかあったら遠慮なく言いな」と俺たちに背を向けた。思い出したように振り返って「いつ帰るんだったっけ?」と問う。矢野はまだ固まっているので俺がかわりに明後日の昼前に出るつもりだと答えた。

「見送りに来るよ」

 それじゃあ気を付けて、と水戸のおじさんは帰って行った。

「もー! 星野のばか! 何が開放的だ! どこがド田舎だ! ばっちり聞かれてんじゃんかよー!!」

  解凍された矢野が真っ赤な顔で俺に抱きついてくる。

「こんな場所で他に誰かいるなんて思わないだろ。お前だってノリノリだったくせに俺一人のせいにするなよ。だいたいお前の声がでかすぎるんだろ」
「気持ちよかったんだから仕方ないだろー!」

 痴話喧嘩にもなんないようなくだらなくも平和な言い争いをしたあと、食事に戻り、夜になり、俺たちはまた性懲りもなくセックスしていた。

 水戸のおじさんに聞かれていたショックが相当でかかったようで、矢野は声を抑えめだ。

「窓締めてるから大丈夫だって」
「まだ裏で作業中かもしれないだろ」
「こんな真っ暗なのにいるわけないだろ」

 チュッチュとキスしながら体中を愛撫してやる。矢野の体から力が抜けていく。弱い乳首を吸うと泣きそうな声をあげた。

「もお…早く入れて……!」
「どこに? なにを?」
「ばか…! わかるだろ」
「だってまた俺のせいにされちゃかなわないからな」
「……星野の、ここに、入れてよ……!」

 自分から足を掬い上げて、その奥を俺に見せつける。ひくつく穴にカウパーをなすりつけた。ぐ、と力を入れるとブリュンッと亀頭が飲みこまれた。

 ズブブと竿を奥に進める。

「は、ああ、あぁんっ」

 蕩け切った顔で矢野が喘ぐ。娯楽がひとつもない山奥に明後日までいる予定。俺たちはいったい何回セックスするだろう。セックス三昧の連休を想像しただけで、下腹部が熱くなった。