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Tedious story(15/15)

2018.11.27.Tue.
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※リバ注意

 純に手を取られるまま、素直にソファから立ちあがりトイレへ向かう。純に使おうと買っていた浣腸が棚に置いてあった。純がそれを手に取る。

「俺にやったんだから、俺も今井さんにしていいよね?」
「え、あ……?」

 ズボンと下着をずり下ろされた。尻たぶの奥に、異質な感触。

「純っ」
「浣腸は初めて? 慣れちゃえばどうってことないよ」

 尻の奥に何か入りこむ感覚があった。浣腸のグリセリン液。

「俺がいいって言うまで、出さないでね」

 俺を一人トイレに残して純はどこかへ消えた。少しして、上半身裸になった純が戻ってきた。

「まだ大丈夫?」
「なにが?」
「もう少ししたらお腹痛くなると思うけど、まだ我慢してね」

 俺の服に手をかけ、脱がしていく。パンツを足から抜く頃、腹がグルグルと痛みだした。

「純、腹が痛い」
「もうちょっと我慢」

 全裸になった俺にキスしてくる。手は乳首を抓っている。痛こそばゆい。

「純、もう無理だ……!」
「まだだよ、今井さん、頑張って」

 細く長い純の指が勃起したペニスを撫でる。腹のなかはグルグル暴れまわっている。限界だ。純を押しのけトイレに座った。

「外に出てろよっ」
「今井さんのかっこ悪いとこ見たい。俺も興奮する」

 俺が腹の中身を出している間、純は楽しげに何度もキスしてきた。口だけじゃなく、頭や額、こめかみ、頬、顎。口の届くところはほぼキスされた。

「じゃあ、次はシャワーだね」

 また純に手を引かれて風呂場へ移動する。慣れた手つきでシャワーヘッドを外すと、純は俺の尻にホースの先をあてがった。

「感覚でなんとなくわかるけど、入れ過ぎちゃうとお腹破れるから、きつくなったらすぐ言ってね」

 ぐい、と先端がなかに押し込まれた。ノズルを回す音のあと、生温かいお湯が直腸に注ぎ込まれた。

「ああ、純っ……!」

 未知の感覚が怖くて純に縋りついた。俺を抱きとめる細い体が変に頼もしい。

「俺もさ、今井さんのこと最初から好きだったのかな。好奇心だけでここまでできないよね、普通」

 ホースのお湯が止まった。そっと引き抜かれる。

「お腹、ぽっこりしてる。かわいい」

 満面の笑みで純が俺の腹を撫でた。ああ、こいつも俺と同類の変態だ。

「じゃ、力んで」

 腹に力を込めたら溜まっていたお湯が勢いよく出た。掻き出すように純が指を入れる。俺の顔を近くで凝視しながら、「俺以外にこんなのさせちゃ駄目だよ」と言う。させるわけねえだろ。

 またお湯を入れられた。さっきより長く。多く。

「純、ストップ! これ以上は……!」

 腹が破裂する! 焦る俺を面白がっているのだろう。純はゆっくりとした動作でお湯を止めた。

「最初に駅で俺に声かけてきた時、今井さん、俺を見てがっかりした顔したでしょ。あんな顔されたことないからなんか腹立ってさ。いつもだったら相手にしないんだけど、気になるから今井さんのこと追いかけたんだ。あの時、俺を見てがっかりしたのって須賀さんに似てないって気付いたからだったんだよね」
「だめだ、出る……!!」

 膝の震えが止まらない。立っていられなくなって床にしゃがみ込んだ。尻から大量のお湯が放流される。ただ腹のものを出しているだけなのにこんなにも疲れるものなのか。疲弊して動けない俺の下半身に純はシャワーをかけた。

「頭んなかに俺以外の奴がいるのが許せなくてさ、絶対落としてやろうって思った。俺に夢中にさせて、人生破滅させてから捨ててやろうって。なのに俺のほうが今井さんに落とされちゃったよ」

 脇の下に手を差し込んで純が俺を立たせる。足腰に力が入らない。

「今井さん、膝ガクガクじゃん」

 俺を笑う純に体を拭かれ、ベッドに移った。ぐったりする俺に、ご褒美みたいなキスをくれる。

「腕、痛くない?」
「ああ」

 彩加に切られた傷は正直ジンジンと痛んだが、浣腸の疲労が強くてそれほど気にならない。

「寝ちゃだめだよ。まだやることあるんだから」
「寝てない。ちょっと疲れただけだ」
「何回かやれば要領わかって平気になるから」

 俺はこれをこの先何回もやるということか。純とセックスするために。

「なあ、純」
「うん?」
「最初にお前を見た時、がっかりなんかしなかったぞ」
「嘘だ。今井さんあの時、あ、違うって顔した」
「してない。確かに須賀とは似てないって思ったけど、お前があんまりきれいだったから驚いたんだ」
「きれいって言われるの嫌いなんだけど、今井さんに言われると嬉しい」
「お前は俺に惚れてるからな」
「そうだよ。だから今井さんを抱きたいの。今井さんの全部を俺のものにしたい」

 俺を四つん這いにさせると純はローションを手に出した。ぬめる手が肛門のまわりを撫でる。以前純にそこを触られた時、なんとなく嫌な予感の芽は出ていた。もしかして狙われているんじゃないか、と。まさか現実になるとは。

「指入れるよ」
「いちいち言わなくていい」

 ぬる、と指が入ってきた。純の細い指だから抵抗はない。ただ腹の奥を弄られるような異物感がすごい。

「今井さんの、すごくきつい。俺の入るかな?」
「だったらやめとけ」
「俺は最初はイケなかったけど、今井さんはイカせてあげるからね」

 指を何度も出し入れする。ローションのせいで粘ついた音がする。自分の尻から聞こえるのかと思うと恥ずかしい。

 純は指を増やした。なかでグリグリ回したり押したりする。排泄したいような感覚がじわじわこみあげてくる。

「わかる? ここ、前立腺」

 グイ、となかを擦られた。陰嚢の奥を直接刺激されたような感覚にビクンと腰が跳ねた。

「男はここでイクんだよ。慣れたら女の子みたいに射精しないでイケるようになるんだって。あ、今井さんも調べたから知ってるんだっけ? いつかメスイキさせたいなあ」

 旅行いきたいなぁみたいな口調で言いながら純は前立腺をマッサージするように指を動かした。ペニスがピクピク反応する。

「今井さん、気持ちいい? ここ、ヒクついてる」
「う、あ、っかんねえ」
「だいぶトロトロになってきた。そろそろ入れても大丈夫じゃないかな」

 グチュッ、ジュボッと激しく指を出し入れする。これが純のペニスにかわったら。想像したら胸が潰れそうになった。

「もう入れろよ、俺がもたない」
「オーケイ」

 楽しげな純の声。指が抜かれると体をひっくり返された。頬を上気させた純と目があった。雄の目をしていた。そして俺は雌として見られている。それを自覚した途端、体中の毛穴が開いた。

「やっぱ無理! やめ!」
「いまさらなに言ってんの」

 足を押し広げられた。なんて屈辱的な格好だろう。体重を乗せながら純が俺のなかに入ってくる。指よりずっと太くて熱い。

「純……、やめろっ……!!」
「ここまできてやめらんないよ」

 純のものがズブズブなかに押し込まれてくる。それを受け入れている自分を客観視したら死にたくなるほど恥ずかしくなった。

「もうすぐ……、ほら、入った。わかる? 俺の、全部今井さんの中だよ」

 ズンズンと俺の一番奥に当ててくる。言われなくても腹への圧迫感が尋常じゃない。胃がせりあがっているような、のど元がつかえるような感じもする。

「純、痛え……」
「痛い? だいぶ解したと思ったんだけど。やっぱり初めては痛いものなんだね。そりゃそうだよね、こんなの、普通出し入れしないもん」

 腹のなかで純が動いた。

「ううっ、やめ、動くな、あ、ああっ」
「つらいよね? わかるよ。でも想像してみてよ、今井さんのなかに俺がいるんだって。お腹あったかいでしょ? もっとあったかくなるよ」

 ぐぬぅと引かれる男根。排便に似た気持ち良さ。ピリピリと裂ける痛み。それがまた押し戻される。腸が押し上げられているような感覚。嘔気に似た気持ち悪さ。

「純……! 頼む、抜いてくれ……! 俺にはやっぱり無理だ、あ、ああっ」
「無理じゃないよ。ほんとはこうされるの好きでしょ? 俺にされて嬉しいでしょ?」
「好きじゃな……はあッ、はっ、あ、むり、むりだ、純……!!」

 出し入れの速度が増す。年下の高校生に体を揺さぶられている。純のものが俺のなかを出たり入ったりして擦っている。羞恥から頭がクラクラする。

「つまんないこと気にしてないで、身も心も俺に預けなよ。頭ばかにしてさ、思いっきりよがってみなよ」
「嫌だ、いや、はっ、あ、そんな、動かすな……!」

 タンタンとリズムをつけて純が腰を打つ。途中でローションを足したのか、ぐちゅぐちゅと濡れた音が響く。

「だんだん、俺の形に慣れてきたころじゃない?」
「まだ、むり、そんな、あッ、はあっ!」
「でももう、痛いだけじゃないみたいだね」

 純が俺のペニスを握る。一度萎れる気配を見せたが、また完全勃起していた。先端をグリグリと弄られる。ローションだか先走りだかわからない水音。

「あ、くう、先……、そんな、するな……」
「気持ちいいでしょ? 中、締まったよ」

 ピストンを続けながら純がしつこく亀頭を弄る。カウパーがダラダラ出ているのがわかる。

「待ぁ……! ああっ、うう、うっ」

 呻きながら純の腕を掴んだ。逆に掴み返されて、引きよせられた。

「このへんかな?」

 純の亀頭が浅い場所を突く。何を探しているのかすぐわかった。膀胱の裏側をゴリゴリやられて、そのたびにペニスの根本がジンジンした。

「うあっ、あぁ、純、純……!」

 純が言う通り、さっきより腹が熱くなってきた。異物感は薄れ、かわりに別の何かがこみあげてくる。太ももが痙攣し始め、純の腰に巻きつけた。

「中うねってるよ。やばい、気持ちいい」

 いきなり深く挿入された。痛みはわずか。苦痛じゃないものを感じ始めていた。

 俺の奥で少し休憩したあと、純はまた腰を振った。浅く、深く。たまに角度を変えたりする。不規則な動き。純のペニスが内壁に擦れる。カリの段差、亀頭の形を感じる。

 自分のケツがじんわり熱くなる。女みたいに濡れてんじゃないだろうかという錯覚を抱くくらい、そこはグチョグチョに熟んでいた。

「あ、あっ、やめ、ああっ」
「今井さんも、よさげだね」

 いつもより少し低い純の声。前髪が乱れて目にかかっている。口は薄く開かれ、時々唇を舐めた。未成年の幼さはそこにはない。男が放つ精気を全身から発散させて、俺を組みしき、男の証を穿ちこんでいる。

 また、胸が潰れそうな感覚に襲われた。

 純になら、全部許そう。何もかも差し出そう。この苦痛も純といられるなら些細な代償だ。

「純、純……ッ!」
「どうしたの」
「俺をお前の好きにしてくれ。お前にならどうされてもいい。お前が好きなんだ」

 言い終わる前にボロリと涙が零れた。何も悲しくない。どこも痛くないのに、なぜか溢れた涙だった。

 純はそんな俺を蕩けそうな顔で見ていた。

「もっと、思いっきり、泣かせてあげる」

 激しく陰茎を扱かれた。嘘みたいにすぐ果てた。射精してもまだ扱かれる。

「いっ、いあっ、ん! んああっ!!」
「イッたばっかで、痛い? やめる?」
「痛ッ、あっ、やめな……ひっ、い、ああっ、あ!」
「出てきた。トロトロの、透明なの。イケそう?」
「むり……! まだ……イケない、純、ああっ……!」

 涙だけじゃなく鼻水も止まらない。駄々っ子みたいに頭を振って純の腕を握りしめる。純の手は止まらない。情け容赦なく動かし続ける。

「今度、潮吹く練習もしようよ、今井さん」
「わかった、わかったから……!! なんでも言うこときくから、もう、それは、やめてくれ……頼む、う、はぁあっ」

 強制的な二度目の射精。量もわずか。やっと純の手が離れていったと思ったら、緩やかだった腰のピストン運動が再開した。痛みがないわけじゃないが、そこはもうはっきりと、快感を感じるようになっていた。

 純に擦られるたびに、ペニスに刺激が走る。

「は、あ、純、もっと、奥まで」
「奥がいいの?」
「もっとお前を感じたい」

 腕を伸ばせば純が体を傾けてくれる。首に抱きついたら純の匂いが近くなった。

「これで今井さんは俺のもんだね」

 囁く声を聞くと同時に、俺の中で純が脈打つのを感じた。

 ♢ ♢ ♢

 純の鼻歌で目が覚めた。

 聞き覚えがない。最近流行りの曲なのか、純の自作か。

「おはよう、今井さん」

 俺の腕に包帯を巻きながら純が言う。

「血が滲んでたから新しいのに取り替えといたよ」
「ああ、悪い」

 頭が鈍く痛い。腰も体も怠い。今が何時かもわからない。

「カッターの傷って痕が残るんだよね」
「お前も切ったことがあるのか?」
「俺じゃないけど、近所に住んでた女の人。顔をざっくり切ってやったんだけど、傷が治っても痕残っててさ」

 軽い口調に比例しない内容。眠気が一気に吹き飛んだ。目を見張る俺に気付いて純が吹きだした。

「昔の話。それに正当防衛だよ。その人やたら俺の体に触ってくるからさ、護身用にカッター持ち歩いてたんだ。その日も、お菓子あげるって俺を家に呼んで股間触ってきたからカッターで切ってやった。ショタコンの変態のくせに自分が悪いことしてるって自覚はあったんだろうね、俺に切られたなんて誰にも言わなかったよ」

 いつだったか、この見た目のせいでさんざん嫌な目に遭ったと純の言葉を思い出した。

「引いた? 俺の人格形成ってこの見た目にずいぶん影響されたと思うよ。小学校に入るまで女の子の格好させられてたし、誘拐されそうになったことも何回かあるし、満員電車に乗れば痴/漢にあうし、俺をレイ/プしようとした女もいたしね。やられる前にやんなきゃ身がもたないよ」
「……俺のことも、憎いか?」

 俺も純の見た目に釣られ、声をかけた変態の一人。

「違う違う、今井さんはイレギュラーだったから、それがおもしろくて好きになったんだよ。予想以上の変態で屑野郎。突き抜けると清々しいよね。そういうとこに俺も興奮すんの。今井さんの言う通り。俺の相手できんのって今井さんしかいないと思う」

 純が俺の頭を撫でる。本性はそれとは真逆なのに、聖母みたいな優しく慈愛に満ちた顔で。

 俺と付き合うのは大学卒業までと宣言したくせに、また俺を期待させるような言葉を吐く。どこまでも人を翻弄するのがうまい。もうこの泥沼から抜け出せる気がしない。抜け出したいとも思わない。






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Tedious story(14/15)

2018.11.26.Mon.
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 デタラメに腕を振り回す彩加の手にはカッターナイフが握られていた。純を庇うために咄嗟に体が動いた。純を抱きしめる腕を切りつけられた。鋭い痛みが走る。彩加の腹を蹴った。彩加が尻もちをつく。すぐ態勢を立て直し、また俺に向かってきた。

「私の純くん、返してええぇぇ────ッ!!」

 とりあえず純だけ先に逃がそう。俺一人なら、彩加くらいなんとでもなる。そう思った次の瞬間、腕のなかにいた純が消えた。俺の腕を潜り抜け、彩加の前に立ちはだかっている。

「純! 危ない!」

 悲鳴のような俺の声。正気を失った彩加と、カッターナイフに立ち向かう純。心臓が止まるような光景。自分が傷つくより、純が傷つくことがなにより恐ろしい。永遠のトラウマになる一瞬だった。

 俺の手が届くより先に、純は彩加を殴り倒していた。なお起き上がろうとする彩加の腹を純は容赦なく蹴った。彩加は獣のような泣き声で純の名前を叫んだ。

「純やめろ!」

 俺の声は届かない。倒れた彩加にさらに追い打ちをかけている。

「純、もういい、大丈夫だ!」

 馬乗りになって彩加を殴り続ける純を羽交い絞めにした。細い体のどこにこんな力があったのかと驚く。

「はなせよ! 今井さん、切られたんだよ? 許せるわけないじゃん! こいつ殺してやんなきゃ気がすまないよ!」
「そんなに深い傷じゃないし、俺はもう気が済んだ!」

 純は怒りの目を俺に向けた。純の髪は乱れ、白い頬は興奮に紅潮している。初めて見る純の顔だった。

「帰ろう。傷の手当て、してくれんだろ?」

 手の甲から肘に向けて、10㎝ほどの傷から血が流れていた。それを見て純はいくらか正気を取り戻したらしかった。ハッとした顔で俺を見、地面で丸まっている彩加を見た。そして大きく息を吐きだした。

「ごめん、俺のせいだね。……先にドラッグストア寄っていい?」
「コンドームも買っといてくれ」

 上目遣いに俺をじっと見る。軽口に笑うでもなく、怒るでもなく。意味深な目つきで、俺のほうが妙に焦らされる。

 彩加を放置して駅前のドラッグストアへ向かった。俺は外で待ち、純が一人で店に入った。純は5分ほどで戻ってきた。血が垂れないようガーゼをあてて包帯を巻いてもらう。純を待ってる間に呼んでおいたタクシーが到着し、二人で乗り込んだ。

 タクシーの中で純は無口だった。俺から顔を背けるようにずっと窓の外を見ている。カッターを持った女に襲われ、俺が腕を切られた直後だ。さすがの純も平静ではいられないのだろう。

「大丈夫か?」
「俺は平気」
「もう彩加と会うなよ。女相手でも油断ならないからな」
「……うん。二度と会わない」

 声も沈んでいる。顔を見せてほしくて首筋を撫でたらやんわり手を払われた。そんなタマじゃないと思うが、まさか責任を感じて落ち込んでいるのだろうか。

 タクシーがマンションの前に止まった。何も言わないが純も一緒にタクシーをおりた。

「今井さんは座ってて」

 家に入るなり、純は手前の洗面所に入った。俺は言われた通りソファに座った。しばらくして濡れたタオルを持った純がやってきた。上着を脱がせると包帯も外し、血の汚れをタオルで拭いてくれた。

「思ってたより酷いよ。やっぱ病院行ったほうがいいよ」
「いや、この程度なら縫うほどでもないし、病院には行かない。とりあえず化膿止めだけ塗って、またガーゼと包帯巻いといてくれ」
「なんで俺のこと守ろうとしたの? 余計なお世話だよ」

 静かな怒りを含んだ声。純はタオルを持つ手を握りしめた。

「すまん。つい、な。でもあれ、狙われたのは俺だったっぽいな。彩加はお前を傷つけるつもりはなかったみたいだ。ほんとに余計な真似だったな」

 彩加はずっと俺に憎しみの目を向けていた。俺に純を取られたと逆恨みしたのだ。

「別に。元はと言えば俺のせいなんだし。俺のほうこそ、今井さんを巻きこんじゃったこと謝んないと」

 ずっと伏せられた目。いつ俺を見てくれるだろうかと、長い睫毛を見つめる。

「ずいぶんしおらしいな。らしくない」
「ほんとだよ」

 どこか拗ねたような口調。ずっと逸らされた目。しびれを切らして純の顎に手をかけた。上を向かせてやっと顔が見られた。予想外だった純の不安そうな表情に思わずうろたえた。

「どうしたんだ? 具合が悪いのか? まさかどっか切られたか?」
「なんともないよ」

 と俺の手を払う。どう見てもなんともなくないだろう。

 純はまた俯いた。傷に化膿止めの薬を塗り、包帯とガーゼを巻き直す手付きは優しい。

「決めた。もう今井さんとは会わない」
「……はっ?!」

 ソファから腰をあげた純はゴミを拾い集めるとゴミ箱に捨てた。包帯とガーゼの残りは容器に仕舞い、薬と一緒にテーブルに置く。

「なんで……、急にそんな」
「今井さんといると俺、みっともない人間になるから」
「どこがみっともないんだよ、どっちかって言うと俺のほうがだいぶみっともない姿晒してるだろ」

 下心丸出しで純に声をかけ、仲間にボコられ裸の写真を撮られた。尾行には気付かれ、仕返しするつもりが純のピンチを助けて見返りにフェラをしろと言った。そのあとも、呼び出されればホイホイ出て行ったし、ホテルに連れこんで肉体関係を迫った。未成年の純に夢中になって、電話もメールもしつこかったはずだ。挙句、修羅場に巻きこまれて負傷。

 俺のみっともないところならいくらでも出てくるが、純がそんな失態をおかした記憶はない。

「今井さんだってさっき見ただろ。俺が彩加をボコったとこ」
「あれ? あれは俺を助けるためにやったことだろ?」
「今井さんがやられたの見て、頭に血が上ったんだ。止められなきゃマジで彩加のこと殺してたかもしんない。あんなふうに冷静でいられなくなって、なにしでかすかわかんない自分が嫌だ」

 純は顔を歪めた。

「今井さんが絡むと俺、冷静でいられなくなる。自分が保てなくなるなんて、そんなの嫌だ。かっこ悪いよ。醜い。俺が一番軽蔑してる人間になりたくない」

 リップサービスじゃない純の本音だった。それを聞いて俺の心臓は破裂しそうなほどバクバク鳴っている。

 そっと純の腕を掴んだ。振り払う素振りを見せたが、諦めたように力が抜けた。

「お前のかっこ悪いとこ、案外好きだぞ」
「俺は嫌だ。今井さんには見せたくない」
「俺のみっともないとこはいっぱい見ただろ。それでおあいこだ」
「今井さんは今まで一度だってみっともなくなかったよ。ずっとかっこよかったじゃん」

 不意打ちで褒められて顔が熱くなる。

 いつも飄々として見えた純が、素の顔を俺に晒している。純にとって恥ずかしい本音を吐露している。諦めて最初から望みもしなかった可能性が俄かに浮上した。

「純、俺と付き合ってくれ」
「は?! なに言ってるの? もう会わないって言ってるんだよ」
「お前が好きなんだ。俺にはお前しかいない」

 純の両手を掴んだ。

「お前にも俺しかいないはずだぞ。性悪なクソガキの本性知っても興奮するのは俺くらいだろ。俺は汚れきってるお前がいいんだ。お前も知ってる通り、俺の性癖は特殊だ。お前が彩加をボコッたときも興奮した。お前がかっこ悪いと思うことが、俺にはたまらなくイイことなんだよ」
「なに言って……、変態だってわかってたけど、言うことめちゃくちゃ過ぎ」
「俺にはお前しかいない、お前にも俺しかしない。付き合う以外、選択肢はないだろ。ここで俺を振ったら後悔するのはお前の方だぞ」
「それには異論があるけど」
「いいから、黙って俺にしとけ」

 腕を引っ張ると、純は抵抗せずまたソファに腰をおろした。顔を近づける。触れ合う寸前、純は目を閉じた。

 噛みつくようにキスした。純が体を倒す。その上に跨った。

「待って」

 服のなかに手をいれようとしたら胸を押し返された。

「そんなに俺が好きなの?」
「ああ、最初からお前だって気付いてただろ」
「俺、ぜったい浮気するよ。今井さん一筋なんて無理だよ」
「わかってる。承知の上だ」
「こう見えて俺、結婚して家買って子供二人欲しいって夢持ってるから、付き合うとしても大学卒業までだよ」
「充分だ」
「嫉妬も束縛もされたくない」
「しない。できると思ってない」
「鬱陶しくされたらすぐ別れる」
「わかった」
「それでもいいなら、付き合ってあげてもいいよ。そのかわりさ」

 純がニヤリと笑った。さっきまで迷子みたいな顔をしていたくせに、もう調子を取り戻している。なんだか嫌な予感がする。

「前に俺が欲張りだって言ったこと、覚えてる?」
「言ってたな、そういえば」
「今井さんのこと全部、俺のものにしたいって言ったことも?」
「とっくにお前のもんだって答えたはずだ」

 このやりとりをした日、俺は純に陥落したと言ってもいいだろう。純には完全服従だ。

「本当に俺のものになってくれるの?」
「何が欲しいんだ? なんでもくれてやる」
「じゃあ、俺が今井さんを抱きたい」
「なッ!!」

 反射的に純から体を離していた。純がムッとした顔をする。

「なんで飛びのくのさ。全部俺にくれるんでしょう? だったら今井さんを抱きたい」
「そ、それはだめだ」
「なんで? 俺は全部、今井さんにあげたよ? フェラも顔射も、浣腸だってさせてあげたじゃない。今井さんだからだって何度も言ったよね?」

 体を起こし、純が俺の腕を掴む。背中を冷汗が流れた。

「ずるいぞ、まさか最初からそのつもりだったのか?」
「大丈夫、怖くないよ。俺が気持ち良くなってたの、見てたでしょ? 今度は今井さんの番。ぜったい気持ち良くしてあげる。俺、自信あるよ」

 スルスルと純の腕が這いあがってくる。猫科の動物のようにしなやかな動き。

「待て、頼む、それだけは勘弁してくれ」
「どうして? 全部、俺にくれるんじゃなかったの?」

 純のものに。純とひとつに。俺の願いだった。

「今井さんの全部、俺のものにしてあげる。嬉しいでしょ?」

 頷きかけて首を振る。どうしたいのか、自分でもわからなくなってきた。純の声は俺から思考力を奪う。催眠術をかけられているような気分になる。

「とりあえず、一緒にトイレ行こうか?」

 俺の耳元で純が囁いた。






Tedious story(13/15)

2018.11.25.Sun.
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 高校を卒業した、と純に呼び出された。純は眠たそうな顔だった。卒業式だった昨日は夜遅くまで遊んでいて、今日目が覚めたのは昼過ぎだったらしい。今日くらいおとなしく寝ておけと言ったら「時計買ってもらう約束でしょ」と純はあくびをした。

 すでに目星はついていたらしく迷いなく一軒の店に入り、「これ」とひとつの時計を指さした。12万弱をカードで支払った。純は店を出ると嬉しそうに腕時計をはめた。

 12万に負けていない。見た目がイケてる奴はどんなものも簡単に着こなしてしまう。

「12万円分、ご奉仕してもらわないとな」

 ホテルに純を連れこんで、シャワ完をしてやる。この時はさすがの純も恥ずかしそうな顔をする。それが見たくて手伝う。

 綺麗になった穴を舐めほぐし、ローションで濡らしてから挿入した。触らなくても純も勃起させていた。鈴口から先走りが垂れる。

「気持ちいいか?」
「うん、気持ちいい」

 とろんと蕩けた表情で純が答える。突き上げると純は声をあげた。苦痛ではなく、快楽の声だ。

「見て、見てて、今井さん……っ、俺、イクから! いっ、ぁ……んっ……んんぅっ!」

 言われた通り純を見守る。純のペニスが弾け、精液を吐きだした。脈打つ動きに合わせて純の腹に垂れ落ちる。純は触っていなかった。俺の腕を掴みながら、荒い呼吸を落ち着かせている。

「見た……? 俺、お尻だけでイケたよ……」
「ああ、見てた。すごいな」
「お尻でイクの気持ちいいよ。もっといっぱいして、もっと俺のこと見て」

 そんなかわいらしいことを言う純が珍しく、煽られるまま言葉攻めと同時進行で少し乱暴に扱った。純は乱れた。体をくねらせ、淫らな言葉を口走りながら何度も射精した。ゴムを取り替える間も惜しく、生で突っ込んだ。純のなかに出した。

 疲れてぐったりする純の顔にもぶっかけた。俺と純の精液まみれになっても、純はきれいなままだった。汚せば汚すほど、きれいになる気さえする。

 動けなくなった純をつれて風呂に入った。湯船のなかで純が俺にもたれかかり、キスをねだってきた。よほど疲れたようで舌の動きが緩慢だ。勃起したが我慢した。

 ベッドに戻ると二人ともすぐに眠ってしまった。夜中に一度空腹で目が覚めた。腕の中に純がいた。こどもみたいなあどけない寝顔だった。自然と口元が緩む。やっと自覚した。俺はこいつが好きなんだ、と。

 執着以上の感情で、ちゃんとこいつが、好きだ。



「起きて! 今井さん!」

 声とともに布団を剥ぎ取られて目が覚めた。いつの間にか服を着た純が俺を見下ろしている。

「昨日からなにも食べてないからお腹すいた」

 と昨日俺が買ってやった時計を見る。

「何時?」
「もうすぐ10時。ほら、出るから支度して」

 ベッドから追い出された。俺は昨夜のだるさがまだ残っているが、純は完全回復した様子だ。さすが十代。

「腰は平気なのか?」
「今井さんがめちゃくちゃするから痛いしだるいよ。でもそれだけ今井さんが俺に夢中なんだってわかって、嬉しかったけどね」

 俺の首に腕をからめ、音を立てて頬にキスする。学校の男子生徒の頬にキスしていた純が頭に浮かんだ。次いで彩加の顔が。そのあと俺の知らないその他大勢の「お友達」の存在を思った。純にとって俺はその友達の一人に過ぎない。

 いまの言葉も、金蔓を引きとめるためのリップサービス。言葉はタダだ。愛想を振りまくことで、純は見た目に釣られたカモを利用する。ある意味需要と供給が成立している。

 俺はただ、立場を弁えて純の思わせぶりな言葉に騙されたふりをしていればいい。そうすればご褒美をもらえる。

 帰り支度ができるとホテルを出た。

「今井さん、なに食べたい? 俺まじでお腹すいてるから結構がっつり食べたいんだけど」
「俺はなんでも。お前に合わせる」
「それじゃ、ステーキ」
「朝から肉か」
「なんでもいいって言ったじゃん」

 駅に向かって歩いていた。その背中に「純くん!」女の叫ぶ声が浴びせられた。

 二人同時に振り返った。ホテルの入り口の前に彩加が立っていた。殺気だった様子で俺たちを睨んでいた。

「彩加じゃん。おはよ。こんなとこで会うなんて奇遇だね」

 わかっているのかいないのか、純がすっとぼけた会話を始める。偶然出会うような場所じゃない。彩加はここに純がいるとわかって来た。もしかしたら昨日から後ををつけていたのかもしれない。彩加の顔色は悪い。

「どうして最近会ってくれないの? 私、何回も電話したよね?!」
「俺も言ったよね。用事があるから会えないって」
「用事ってその人?!」

 彩加が俺を指さす。

「その人って、前に純くんを助けてくれた人だよね? 純くんが私にあんまり会ってくれなくなったのってその人と知り合ってからだよね? その人と会ってたの? その人とホテルで何してたの?」
「聞きたいの?」

 純は笑顔で言った。一見人懐っこい笑み。しかしよく見ると冷たい微笑。

「彩加って俺が相手してやるまで処女だったからわかんない? ホテルですることなんてセックスしかないじゃん。彩加も俺としたことあるでしょ? 純くん、してって。何回も俺を誘ったじゃない」

 彩加は顔を歪めて泣き始めた。

「私のなにがいけなかったの? 純くんの重荷にならないように、純くんが他の子と遊んでても文句言わなかったでしょ? ずっと我慢してたのに、どうして?」

 純は大きな溜息をついた。うんざりとした顔で。

「そうやってすぐ被害者面するよね。先に声かけてきたのはそっちのくせにさ。彩加がなにを我慢してたのかは知らないけど、それって俺が頼んだわけじゃないよね? 彩加が勝手に我慢してたんでしょ? どうして俺が責められなきゃいけないの?」
「私は純くんのことが本当に好きだったから!」
「その気持ちは嬉しいけどさ、最初に言った通り彩加を友達以上には見られないよ。彩加みたいに重い人、俺苦手なんだよね」

 崩れ落ちた彩加が号泣する。純のリップサービスを真に受け、それに溺れた愚かな女のなれの果て。俺もいつか、こうなるのか。純が彩加に言った言葉はそっくりそのまま俺にも当てはまる。俺が声をかけ、勝手に好きになった。彩加に同情はないが、同類の憐れみは感じる。

「ごめん、今井さん。行こう」

 俺の腕を掴んで純が歩き出す。何事もなかったような純の顔。むしろさっぱりとしている。

「もっとマシな別れ方ってのがあるだろ」
「正直、ちょっと面倒な人だったんだ。重荷になりたくないとか言いながら俺の交友関係探ってきたりさ。彼女でもないのに、そういうの鬱陶しいでしょ?」
「酷い奴だな」
「今井さんに言われたくない」

 後ろではまだ彩加が泣いているのに、純はもう存在すら忘れたみたいな顔で笑っている。人として大事なものが欠落しているのだろう。俺も、純も。

「……えして」

 微かに聞こえた声に振り返った。鬼のような形相の彩加が突進してくる。

「返して! 私の純くん返して!!」





Tedious story(12/15)

2018.11.24.Sat.
1011

 純から連絡が途絶えた。俺から会いたいとメールを送っても無視される。電話をしても出てくれない。メールと電話攻撃を交互でしかけたらやっと『受験終わるまで会えない。連絡もしてこないでくれる?』と素っ気ないメールが返ってきた。

 忘れていたが純は受験生だった。いまは学校と予備校、勉強漬けでさすがの純も遊んでいる暇がないらしい。

 本当か? 俺以外の奴とは会っているんじゃないのか? 例えば若松とか。彩加とか。俺の知らない他の女とか。

 また後を尾けてやろうかと思ったが、さすがに受験の邪魔は悪いと思って我慢した。俺から一方的にメールは送った。会いたい。抱きたい。キスしたい。触りたい。男子高校生にこんなメールを送ってることがバレたら社会的に抹殺される。

 返事はないが既読はつく。一応見てはくれている。それだけでいまは充分だ。

 大晦日、除夜の鐘も鳴り終わり、そろそろ寝るかと寝支度をしていたら純から電話で呼び出された。今すぐ迎えに来いと言う。もちろん大急ぎで向かった。電車もない、タクシーも繋がらない。仕方なく自転車で現れた俺を見て純は笑った。

 さっきまで学校の友達と一緒だったと言う。俺に会うために、途中で抜けてきた、と。俺を喜ばせるための言葉。裏を読んだり疑ったり、もうそんな意味のないことはしない。馬鹿みたいに真に受けて浮かれたっていいじゃないか。

 学業成就のお守りを買えと純にせがまれ買ってやった。

「勉強の方はどうだ」
「大丈夫だと思うよ」
「お前のことだから、そのへんもぬかりないんだろうな」
「そんなことないけど。体調管理のほうが心配かな。欲求不満は体に毒だし」

 言わんとするところを察し、純を家に連れ帰った。凍えた体を一緒に風呂で温め、布団の中で抱き合った。

「すまん、ゴムを用意してない」
「今日は生でいいよ」

 純の穴をほぐし、なかに入った。どこがいいのか、どうすれば純が喜ぶか、もう全部わかっている。

「俺に会えなくて寂しかった?」

 素直に頷くと純はとびきりかわいらしい笑顔を見せた。

「今日は中に出していいよ」

 純をイカせてから俺も純のなかに放った。

 翌朝、始発の時間に合わせて純を駅まで見送った。別れ際、うちのスペアキーを渡した。

「いつでも来ていいぞ」
「あとで返せって言っても返さないよ」

 純にならなにをされてもいい。人生を壊されたっていいとさえ思える。

 またしばらく純に会えない日が続いた。俺の一方通行のメール。既読がつくことが返事。ドラッグストアに寄った時、コンドームとローションを買った。思い出して浣腸も買い足した。今度、純が腸内洗浄をするときは俺がやってやろう。どんな顔をするか。今から楽しみだ。

 二月末の仕事終わり、最寄り駅で電車をおりたら鼻を赤くした純がいた。

「遅いよ、今井さん」
「いつから待ってたんだ」
「夕方の六時過ぎ?」
「鍵を渡してあるだろう。先に入ってればいいのに」
「今井さんを待ちたかったんだ」

 かわいい顔でかわいいことを言う。人をたらしこむ天才。

「勉強はいいのか?」
「昨日、試験受けてきた。あとは結果次第」
「大丈夫そうか?」
「自己採点では合格」
「合格したら好きな物買ってやる」
「ほんと? 俺、腕時計欲しいな。いま使ってるの、子供っぽくない?」

 コートを袖をずらし、黒いベルトの時計を俺に見せる。別に大学生になって使っていてもおかしくないと思うが、純が欲しいのはブランド物の時計という意味なのだろう。

「そんなに高いのは無理だぞ」
「予算は?」
「5万で充分だろ」
「10万!」
「お前なあ」
「今日泊まってあげるよ?」
「……チッ、足元見やがって。卒業入学、全部込みのお祝いだからな」

 純が笑い声をあげる。俺を意のままに操ってさぞ気分がいいだろう。俺はもう、そんなくだらないことは気にならなくなった。はりあって、純の機嫌を損ねるほうが嫌だ。嫌われたくない。

 帰り道の定食屋で夕飯を食べ、一緒に家に帰った。先に風呂に入ろうとする純を止めてドラッグストアの袋を見せた。純に頼みこんで浣腸をさせてもらう。

「俺がここまでするの、今井さんしかいないからね」

 苦痛に顔を歪めて純が言う。直後、トイレに駆け込んだ。その間にさっきの純の顔を思い出しながら抜いた。二人で風呂に入った。シャワーヘッドを外したホースを純の尻に当てる。トイレに戻ろうとする純に、ここで出すように言った。

「今井さんってやっぱ変態だよ」

 俺の目の前で純は腹にたまったお湯を出した。またホースを当てる。また出す。きれいになった穴にローションを馴染ませた。

「最初はなにも知らなかったのに、かなり慣れてきたね」
「無知って怖いな」
「ほんとだよ」
「お前にはどんなに手間なことでもしてやりたいし、そのための時間も惜しくない」
「今井さん、ほんとはマゾだもんね」
「殴るぞ」
「そういえば俺の顔、もうとっくに元通りだよ。不細工になるまで殴ってくれるんじゃなかった?」
「殴って欲しいのか? お前こそマゾだろ」
「不細工になっても俺のこと抱きたい?」
「逆に興奮するな」
「ど変態」

 純を抱きあげ、風呂を出た。布団の上におろし、体中にキスする。純が体の向きをかえ、お互いのペニスをしゃぶりあった。さっき出したのに、もうイキそうになる。必死に堪える。純を先に。

 しゃぶりながら純の尻の中を弄る。前立腺も指でわかるようになった。そこを重点的に擦ると純の舌の動きが止まる。

「あっ、だめ、入れるまえに出ちゃうよ」

 焦った純の声。止めずに続ける。

「だめだって、あっ、あっ、出るっ」

 俺の勃起に顔を押しつけながら純が果てた。口に吐きだされものを飲みくだす。強烈な匂いと味だが、やはり純のものだと思うと平気だ。

「飲んだの? 今井さん」

 純の驚いた顔が俺のペニス越しに見える。その瞬間、体の奥深くから熱いものが湧きあがってきた。愛おしい。この世の誰より何より純が愛おしい。

 これが恋愛感情なのかわからない。俺が一方的に純を求めているだけで、純から欲しがられたいとは思わない。そんなものは端から純に期待していない。

 だからこれは恋愛感情ではなく、ただの執着かもしれない。説明がつかない本能のレベルで純に惹かれ、離れられなくなっている。純とひとつになれるなら、俺という個人は消えてなくなったっていいとさえ思う。

 純を抱いても、深く中に入っても、俺の一部分ですら、純のものにはなっていない。






Tedious story(11/15)

2018.11.23.Fri.
10

 結局その日はホテルに泊まって須賀には会いに行かなかった。服が濡れたせいもあるが、俺が純の体から離れがたかったのが一番の理由だ。

 射精後二人ともぐったりしてしばらく抱き合ったまま眠った。俺が先に目を覚まし、純の寝顔を飽きることなく眺めた。そのうち劣情を催しキスで純を起こし、また抱いた。

 純のペニスをしゃぶった。玉も肛門も、余すところなく舐めた。純の笑い声が喘ぎ声にかわる頃、挿入した。

 純はよく声を出した。同時によく喋った。学校の友達の愚痴や、進路のことや、セックスのこととかを。セックスの最中、ああしろこうしろと注文が多かった。そのかわり、気持ちいい、もっとして、と素直に言ってくれるのは嬉しかった。

 翌朝になっても純の体を離すのが惜しくて今日一日ここにいたいと頼んでみたが、「何しにここまで来たんだよ。早く行くよ」と一蹴された。

 しかたなくホテルを出て、近くのファミレスで朝食をとったあと須賀のマンションへ向かった。

 車を降りた純が一人で301号室の前まで行ってすぐ戻ってきた。

「留守みたい。インターフォン鳴らしたけど、誰も出てこなかった」
「もう諦めて帰ろうぜ」
「会いたくないの?」
「なんかもう、どうでもいい」
「どうでもよくない……あ、待って、今井さん、あの人、違う?」

 純が俺の太ももを叩きながら、前方を指さす。フロントガラスの向こうに、男女の二人組がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。俺と変わらない年恰好の男と、それより少し若く見える女。近づいてくる男の顔を凝視する。心臓がドクンと高鳴った。

「マンションに入っていくよ。ねえ、今井さん、あの人は違うの?」

 隣の純も少し興奮気味だ。記憶の須賀と別人の男。なのにはっきり、あれは須賀だとわかった。俺に犯されたことなんか忘れたような顔で隣の女に笑いかけていた。

「あいつだ」
「やっぱり!」
「あいつが、須賀だ」

 純は車を飛び出していった。二人組に追い付くと純は須賀の肩を叩いた。須賀が振り返る。純が何か言ったのか、須賀の顔つきが変わった。須賀は手で純を制すと、隣の女に何か言った。女は不安そうな顔で頷くとエレベーターに乗り込んだ。

 須賀は下を向いた。額に手を当て、肩をがっくり落としたあと顔をあげた。俺の知っている須賀公作がいた。俺に犯された直後の、怒りと屈辱を抑え込んだ須賀だ。俺は瞬きせずに懐かしい須賀の姿を見つめた。

 純の人差し指がこちらに伸びた。それを追って須賀がこっちを見る。車の中のいる俺に気付くと軽く目を見開いた。そして純を押しのけ一直線にこちらへやってきた。

 運転席側の窓を須賀がコツコツ叩く。考えるより先に窓を開けた。外の空気と一緒に入り込んできた清涼な匂い。須賀の匂い。以前より温かく優しい。

「何しに来た」

 それと正反対の、強い怒りを感じる須賀の声で我に返った。

「おう、久し振り」

 間の抜けた挨拶。あるいは人を食ったような。須賀は眉間にしわを作った。

「わざわざうちを調べたのか? どういうつもりだ?」
「俺のこと、覚えてるのか?」

 須賀はハッと息を飲んだ。唇を噛みしめ、俺から目を逸らした。

「あの女は、お前の恋人か?」
「君に関係ない」

 須賀の声が震えていた。

「あの女と寝てるのか?」

 窓越しに胸倉を掴まれた。

「彼女は俺の過去を知っている。それごと俺を受け入れてくれた。彼女を傷つけるような真似をしたら、今度こそ許さない。ただじゃなおかないからな」
「男に犯されたこと、喋ったのか?」
「彼女に隠し事はしない。お前がなぜあんなことをしたのか俺の知ったことじゃない。暇潰しか、嫌がらせか、それとも別の意味があったとしても、俺には関係ない。なんであっても許さない。お前のしたことは絶対忘れないが、お前のことを思い出すことはこの先一生ない。お前はもう、顔も名前も忘れたただのクラスメート、それ以下だ」

 突き放すように須賀は手をはなした。踵を返し、マンションに向かって歩き出す。途中、純に声をかけた。

「あのろくでなしとどういう関係か知らないが、付き合いはやめておけ」

 純はいつもの人懐っこい笑顔で肩をすくめた。遠ざかる須賀の後ろ姿を見ていたら純が車に乗り込んできた。

「どうだった? 初恋の人との再会は」
「お前はどうなんだ。あんなに会いたがってただろ」
「想像してたのと違ってちょっとがっかりかな。思ってたより普通。今井さんから話聞いて期待値あがりすぎてたみたい。いかにも優等生な感じが鬱陶しい」
「はは、レ/イプ被害者に厳しいな」

 ギアをドライブに入れ、車を動かした。301号室の前ではずっと、須賀の彼女がこちらを不安気に見下ろしていた。男に犯されたことを知っても、須賀のそばにいる女。気持ちが悪い。

「今井さんはどうだった? また犯したい? 俺、手伝うよ?」
「俺もお前と似たような感想だよ。昔はあんなにきれいだったのに、今じゃ普通、その他大勢になってやがった」

 須賀は須賀のままだった。公明正大の優等生。なのになんの魅力も感じない。女の手垢がついた須賀は、ただの普通の男に成り下がった。凛と背筋を伸ばして俺に汚されたことを隠す痛々しさが美しかったのに、それを女に打ち明け、陰部で慰められた須賀は、存在そのものが汚物にさえ見える。

 世間では圧倒的に須賀が正しいのだろうが、俺には須賀のほうが汚れて見えた。須賀に掴まれた胸倉が気持ち悪い。服を着替えたい。

 吐き気がこみあげてきて、見つけたコンビニの駐車場に車を入れた。

「今井さん、大丈夫? 顔色悪いよ」
「少し気持ち悪い」
「水買ってこようか?」
「頼む」

 シートベルトを外し純が外へ出ようとする。その腕を掴んだ。純が振り返る。男も女も関係なくたらしこむくせに、なぜ純は汚れないのだろう。

「お前はどうしてそんなにきれいでいられるんだ」
「俺が?」

 可笑しそうに純が笑う。

「須賀さんより、俺のほうがきれい?」
「お前の方が心も体も黒くて汚いはずなのに、俺にはきれいなんだ」
「その感覚、少しわかるかも。今井さんって悪い人なのに味方したくなるし、俺より強いのに守ってあげたくなるんだよね。俺たちってどっか変なんだろうね」

 俺の頭を撫でると純は車をおりた。軽い足取りでコンビニのなかに入っていく後ろ姿を見ていたら、急に泣きたくなるほど純が恋しくなった。たったいま、離れたばかりなのに。