FC2ブログ

とどめを刺されたい(3/3)

2018.08.23.Thu.
<前話>

 男から解放されて、シャワーも浴びずホテルを出た。どこへ行こう。どこへ帰ろう。店? どこの? レンタル店は潰れた。隼人がいる店? あそこにはもう行きたくない。俺の負けでいい。逃げたい。隼人から逃げたい。

 スマホを出した。迷ったけれど五木に電話した。もうあの仕事は辞める。隼人が店長やりたいって言ってるんだから、あいつがやればいい。この結果を招いたのは五木の責任でもあるんだから、また人手不足になっても俺の知ったことか。

 意外にも五木は数コールで電話に出た。珍しい。雪が降るんじゃないか。

「俺、仕事辞めるから」

 一瞬の間。

『いまどこにいる?』
「どこでもいいだろ。とにかく、辞めるから! 今日! 今すぐ! もう店に戻んねえから!!」

 堰を切ったように大声が出た。喚く俺に対し、五木の冷静な声。

『何があった?』
「……ッ! あんたに関係ないだろ! 言ったってどうせ、自分でどうにかしろって言うくせに!」
『とにかくいまどこにいるか言え。すぐ迎えに行ってやるから』

 五木のくせにちょっと優しい口調で言うもんだから、俺もついぽろっと自分の居場所を教えてしまった。

 十五分ほどで五木の車が見えた。助手席に乗り込んで、さっきの出来事を話した。

「舐めた真似してくれたな、あいつ」

 イラついた様子で五木がステアリングを指で叩く。

「言っとくけど、あんたが昔俺にしたのと同じだかんな」
「俺はもっと優しかっただろ。ちゃんと金もやったし」
「よく言う! 動画撮って脅したくせに」
「そっちこそよく言うぜ。イキまくってたくせに。今日の客とヤッてイケたか?」
「イケるわけねえだろ」
「じゃ、お前のにおいは全部客のか」

 言うと五木は窓を開けた。シャワーを浴びてないから、そうとうイカ臭かったようだ。

 車は五木のマンションに入った。久し振りに足を踏み入れた五木の部屋。においを嗅いだだけで、現金にも股間が疼いた。

 浴室に押し込まれ、シャワーをかけられた。服が濡れていく。

「着替えないんだけど」
「俺のを貸してやる」
「やだよ。あんたのおっさんくさい」
「おっさんで悪かったな」

 言いながら五木は腕まくりした。濡れて重くなった俺の服を脱がせていく。全裸になると後ろを向かされた。尻の間に五木の指が入ってくる。客のちんこが出入りしたばかりで熱い。

「中に出されたな?」
「尻に一回、口に一回。なんでもありで1時間1万だって。俺って安すぎない?」
「ああ、安すぎだ」

 シャワーのヘッドが尻に押し当てられた。熱いお湯が中に入ってくる。離れると五木の指が中の精液を掻き出した。セックスのあとの処理をされたのは初めてだ。あの五木が強/姦された俺を労わってくれてるなんて驚きだ。

 俺のちんこはいつの間にか勃起していた。先からシャワーのお湯だか先走りだかわかんない水滴が滴り落ちている。

 ホテルの客としてる時は当然勃たなかった。さっき車のなかで五木も同じことをしたと詰ってみたが、俺の体が見せる反応はまるで違う。

 握って上下に手を動かした。すぐイキそうになる。

「勝手にするな」

 イク寸前、五木に止められた。不満に思って振り返ったら目の前に五木の顔。背中に五木が密着している。熱い怒張が俺の尻に張り付いている。

「入れるぞ」

 囁くような低い声が鼓膜を震わせる。頷く前に入ってきた。壁に手をついて尻を突きだす。奥までゆっくり五木のもので侵略される。

「あ、ヤバ……出るかも……ッ」

 触ることなく。三擦り半という最速記録を叩きだして俺は射精していた。排水溝へお湯といっしょに精液が流れていく。背後から聞こえる五木の息遣いだけで俺の体はまた熱くなる。

「中、出したあと……、口にも出して、欲しっ……、客の精子の味、まだ取れねえから……!」
「あとで出してやる。上も下も中まで全部犯しまくってやるから、安心しろ」

 五木がそう言うから、俺は安心して身を任せた。



 セックスのあと仮眠を取っていたら五木に揺さぶり起こされた。

「行くぞ、支度しろ」

 と急かされてまた車に乗る。向かった先は隼人がいる店。「早く来い」と助手席から動かない俺の腕を五木に捕まれ引きずり降ろされた。

 505号室。五木が先に中に入った。五木を迎える女の子たちの甲高い声。

「五木さん、連絡くれたら、自分迎えに行ったのに」

 と隼人の声が聞こえて回れ右して帰りたくなった。五木に腕を掴まれてて逃げられない。俺の顔を見たら隼人はどんな顔をしてなにを言うんだろう。俺のプライドはもうズタボロだ。これ以上傷つきたくない。

 五木は無言で女の子たちがいる待機部屋の仕切り戸を閉めた。女の子たちを締めだして振り返った五木の顔が一変する。冷酷な目で隼人を見下ろす。

「隼人、お前、いますぐ土下座してこいつに詫びいれろ」

 五木は俺を前に押しだした。俺を見て隼人が顔を歪める。戸惑いの目と、半笑いの口元。あべこべの表情。

「は? 俺がこのホモに土下座? 意味わかんねえ」
「意味ならわかるだろ。お前、自分のケツも拭けねえのか? シノギがねえ破門寸前の無能をうちが温情で雇ってやってんだぞ。こいつはお前の上司だ。上司に舐めた真似してんじゃねえぞ」
「てめえこそ何様だ! 俺に舐めた口きいてんじゃねえよ! お前らみたいな半端な準構とは違えんだよ!!」
「誰が準構だこら。俺もやくざだ馬鹿野郎が」

 五木の右手が動いたと思ったら隼人が吹っ飛ばされた。大きな音を立てて隼人の体がシンクに倒れ込む。突然の五木の豹変に腰を抜かして俺は床にへたりこんだ。

「てめえ、この野郎……!!」

 シンクに手をついて隼人が体勢を立て直そうとする。その隙を与えず五木の踵が隼人の腹にめり込んだ。隼人は体を二つに折って床にうずくまった。グボッと音がしたと思ったら隼人は嘔吐していた。

「こいつに土下座して詫び入れろ」

 体を震わせながら隼人は首を左右に振った。五木は呆れたように鼻で笑ったあと、躊躇なく隼人の顔を蹴りあげた。俺は思わず目を背けた。

「土下座して、詫び入れろ」

 腹を押さえていた手を床について、隼人が頭をさげる。

「相手が違うだろうが」

 よろめきながら、隼人は這いつくばるように体の向きをかえると俺に頭をさげた。

「言うことあるだろ、おい」
「す……いません……した……」
「こいつは堅気だ。手を出したらどうなるかわかるな」

 床に額をこすりつけたまま隼人が頷く。

「お前に価値はねえが、こいつには価値がある。お前は使えねえただの馬鹿だが、こいつは俺の稼ぎに貢献してる。お前は何ができる? 言われた通り車出して女運ぶしか能がねえくせに、調子に乗った真似してんじゃねえよ。ここは俺の店だ。なに勝手に客引いてんだ? いつからお前の店になったんだよ?」
「すいませんでした」

 涙で濁った声が許しを請う。ずっと土下座したまま。顔を上げることもできないみたいだ。

「お前にも客を取らせる。こいつがされたのと同じことをさせる」
「勘弁してください!!」
「いまさら調子良すぎるだろ」
「すいませんでした! それだけは勘弁してください!!」

 必死の声で五木に泣き縋る。隼人がなんだか可哀そうになってきた。もう暴力もゲロのにおいもうんざりだ。

「もういいよ、俺は」

 言うと五木は顔を顰めた。

「おい、ここでちゃんとシメとかねえと、こいつはすぐ調子に乗るぞ」
「乗りません! もう絶対乗りません!!」

 かぶせ気味に隼人が否定する。年下の弱い者いじめをしているみたいな気分だ。

「次、なんかしたらクビってことで」

 俺の提案に五木は肩をすくめた。

「甘いな、お前は。隼人、感謝しろよ」

 ありがとうございます!ってでかい声で隼人が何度も頭をさげる。俺を蔑む目は消えて、必死に媚びへつらう姿は哀れだ。あの威勢の良さはなんだったんだ。

 隼人に部屋の掃除を命じたあと、五木は奥の仕切り戸を開けて「ごめんね、驚かせて。俺が怖くなるのは男の従業員だけだから」と女の子たちへのフォローをしてた。俺はドン引き中だったけど、女の子たちの立ち直りは早くて「五木さん、やくざさんだったの?」と遠慮なく踏みこんだ質問をする。

「代紋があったほうが色々便利かなと思ってね。大丈夫、俺は怖くないやくざだから。みんなを驚かせたお詫びに何か甘いもの買ってくるよ」

 怖くないやくざなんているんだろうか。そんな素朴な疑問が頭に浮かんだけど、口を開くのも億劫だった。よく考えたら俺、今日ホテルでおっさんに犯されて五木ともセックスして、そのあとこの大立ち回り見せられたんだった。そりゃクタクタにもなる。

「行くぞ」

 床にへたりこんでいる俺に五木が声をかける。重い腰をあげ、五木と一緒に部屋を出た。二人きりでエレベーターに乗り込む。

「あんた、いつやくざになったんだよ」
「店立ち上げる時にな」
「入れ墨入れてんの?」
「入れてねえよ、見ただろ。あんな不自由なもん誰が入れるか」
「本格的にやくざの奴隷じゃん」
「同じ奴隷なら、稼ががねえと損だろ」
「かわいそ。上納金、きつくなんじゃないの?」
「しっかり稼げよ、俺のために」
「稼いで欲しかったら、もっと従業員を大切にしろよ。ずっとほったらかしにしやがって」
「大切にしてるだろ。さっきも隼人に灸すえてやっただろ」

 やりすぎだが、実はちょっとスカッとした。あの馬鹿がこれでもう俺にちょっかいかけてこないとしたら、かなり嬉しい。五木が俺のためにあそこまでしてくれるとは思わなかった。ただ、上下関係を隼人に教えるためだったのかもしれないけど。

「あんたってなにげに俺を大事に扱ってくれるよね」
「今頃気付いたのか」
「あんたの愛情表現ってわかりにくいんだよ」
「これならわかりやすいか?」

 いきなり壁に押しつけられてキスされた。もうクタクタになってるはずなのに、舌を絡め合っていたら股間が熱くなった。五木も暴力のあとで興奮しているのかもしれない。腰に固いものが当たる。

「車でいいか?」

 五木の誘いにすぐ頷いた。エレベーターを出て、五木の車の後部座席に二人で乗り込む。キスをしながらお互いの服を脱がせあい、性急に繋がった。

 女の子たちに甘いものを買いにいかなきゃいけない。予約も入ってる。仕事もしなきゃいけない。隼人が女の子たちをさばけると思えない。でも今は。

 五木と繋がったこの時間を、誰にも何にも、邪魔されたくなかった。





スポンサーサイト
[PR]

[PR]

とどめを刺されたい(2/3)

2018.08.22.Wed.
<前話>

 翌日、隼人は遅れずちゃんとやってきた。あいかわらず俺への態度は悪い。でも女の子への言葉使いは柔らかくなった。それを心がけて自制しているのが見てるこっちにも伝わってくる。

 その不器用さが女の子にはウケているようで、意外に可愛がられていたりする。話しかけられると顔を赤くするところも、ウブな感じで「かわいい」らしい。

 今日も隼人と一緒に車に乗って女の子の送迎をした。客の対応は隼人に全部任せた。そこそこ仕事にも慣れてきたようだ。

 翌日から送迎は隼人一人に任せてみた。俺は店で電話番。五木から隼人はどうしてる?と電話があった。

「こんな仕事楽勝だってさ」
『舐めてんな。あの馬鹿しっかり管理しろよ』
「俺の言うこときくと思ってんの?」
『お前は店長だろ』

 言いたいことだけ言うと五木は電話を切った。今日、こっち寄るのか聞きたかったのに。寄れたとしても隼人がいたら二人になれない。あいつほんと邪魔だな。

 二週間も経つと隼人の仕事ぶりも板についてきた。女の子を乗せて指定場所へ行き、客に説明する。そして女の子を乗せて帰ってくる。俺の指示通りに動くだけなので、馬鹿でもできる。

 隼人は目に見えて調子に乗るようになった。店の管理も自分ができると言いだした。

「俺が仕事捌くから、お前がドライバーやれよ」

 俺より小さいくせに顎をあげて俺を見下ろそうとする。

「あのさ、北川くん、五木さんからドライバーで雇われたんだから……」
「お前、AV出てたんだってな?」

 隼人が勝ち誇ったように粘ついた笑みを見せる。俺は一瞬、思考が停止した。

「ヒロミから聞いたぜ。女装して男にヤラれてたんだろ?」

 うちで契約してるヒロミ。AV女優だったが仕事が減って引退し、こっちで働きながら婚活をしている女。そこそこ業界に長くいたから、俺のこともどこかから流れ聞いて知っているんだろう。

「お前はデリで体売ったほうがお似合いだよ」

 なあ、と俺の肩を小突く。年下の。破門寸前の下っ端やくざに。どうしてこんな真似されなきゃいけないんだ。

「ホモのデリヘル枠作ったらいいんじゃねえか? 今度五木さんに言ってやるよ。お前もちんぽしゃぶりてえだろ?」

 ニヤついた隼人に顔を覗きこまれて手が出そうになった。こんなのでも一応やくざだ。隼人を押しのけて部屋を出た。閉まる扉の隙間から「職場放棄か、おい、ホモ野郎」って声が追いかけてきた。あいつまじぶち殺してえ。

 エレベーターから五木に電話をかけた。もちろん一回目では出ない。何度も何度もかけ続けてやっと『うるせえ』って不機嫌な声と繋がった。

「俺、もう無理」
『……何がだ』
「隼人だよ、あの馬鹿の相手もうやだ」
『やだとかわがまま言うな』
「俺が女装してAV出てたこと、ヒロミがあの馬鹿に言ったらしい」
『隼人にバレて絡まれたか』
「ホモのデリヘル枠作れだってさ」
『いいな。将来的にホモ専用も作るか』
「ふざけんな、おい」
『ふざけてんのはお前だ。隼人に絡まれたくらいで俺に電話してくるな。お前は管理職だろうが。そのくらいてめえで処理しろ』
「あんたはオーナーだろ。最近ぜんぜんこっちに顔出さねえじゃん」
『隼人がいるからな、あいつの相手は面倒臭い』

 と笑う。俺には自分でなんとかしろと言うくせに。

「ずりい」
『あいつ一人手懐けられねえなら仕事辞めろ。ホモビデオの仕事斡旋してやるから』

 イラついた口調に変わった。突き放されて、俺は言う言葉を失くす。これ以上なにか言ったら五木を怒らせることがわかっている。

「あんたには頼んねえよ!」

 切られる前にこっちから通話を切ってやった。マンションの周りを少し歩いた。頭が冷えてから部屋に戻った。ニヤついた隼人と目を合わさず、パソコンを置いてあるデスクに座る。

「このあと水樹さん迎えに行ってもらうから。そのまま客んとこ届けて」
「今度五木さんに会ったとき、ホモのデリヘル作るように頼んどいてやるからよ」

 五木に避けられてるくせに何言ってんだ。こんな馬鹿、まともに相手にしちゃ駄目だ。

「ここでも女装していいんだぜ? なあ、ホモのオカマちゃん」
「無駄口叩く暇あったらすぐ出てくれる? 水樹さん、待たされるの嫌うから」
「カマ野郎が俺に偉そうな口叩くんじゃねえよ、ホモとか気持ち悪いの我慢してやってんだぞ」
「そんなに気持ち悪いホモにわざわざ絡むって、もしかして愛情の裏返し? 俺のこと好きなの?」

 我慢できずに言い返したら鉄拳が飛んできた。すごい衝撃に椅子から転げ落ちる。

「次そんなふざけたこと言ってみろ、ぶっ殺すからな」

 普段の高めの声じゃなく、ドスの効いた声で言うと、隼人は車のキーを掴んで部屋を出て行った。扉が閉まり足音が聞こえなくなってから、いつの間にか止めていた息を吸いこんだ。

 殴られた頬が痛い。もうすでに腫れているのがわかる。歯に当たった唇も痛い。舐めたら血の味がした。

 年下の隼人に侮辱されて殴られたことへの怒り。あれを俺に押しつけてどうにかしろと突き放す五木への怒り。

 あの薄情者! 自分の店だから顔を出すって言ってたくせにぜんぜん来ないし。何かあったら電話しろって言ったくせに力になってくれないし。おかげであのチビに酷いこと言われるわ殴られるわで、散々な目に遭った。

 たまたま女の子たちが出勤してくる前で良かった。隼人のことはかわいがっているが、暴力の瞬間を見たらさすがに見る目がかわって怯えてしまう。

 冷蔵庫から保冷剤を出して頬に当てた。あんなの手懐けろって無茶な話だ。あっちはこっちを一方的に毛嫌いしてるんだからどうしようもない。
 


 隼人に殴られて一週間。頬の腫れは引いたが、あいかわらず隼人の俺への侮辱は止まらない。女の子たちの前でも俺をホモだのオカマだのと罵る。

 事情を知らなかった女の子たちにも知れ渡ることになり、俺のあってなかったような威厳は地の底へ落ちた。

 最近では仕事を頼むと「あたし疲れてるから店長かわりに行ってよー。慣れてるでしょ」なんて言われる始末。待機時間にはネットで見つけてきた俺の動画を鑑賞してみんなで笑い物にしている。

 胃が痛い。レンタルビデオ店で働いた時は漠然とした将来の不安というものはあったが、こんなふうに胃が痛くなったり、夜眠れなくなったりすることはなかった。

 給料は良くてもレンタルビデオ屋で暇な店番してたほうがよっぽどマシだ。

 この仕事向いてないのかもしれない。辞めたい。でも隼人にいじめられて逃げるみたいで嫌だ。踏ん張るべきか、辞めるべきか悩む。金に不自由するのは嫌だ。いまの収入を維持できる仕事なんて俺には見つからない。贅沢な悩みなんだろうか。俺が甘すぎるんだろうか。

 悶々と悩んでさらに数日経ったある日、送迎に出た隼人から『トラブッた』と電話がかかってきた。

「トラブルって、どんな?」
『プレイのことで客が怒ってる。とりあえず責任者呼べって。一応お前だろ、オカマ店長』
「場所どこだっけ?」

 隼人から聞きだしたホテルへ急いで向かった。

 ホテルの前に隼人が腕を組んで立っていた。トラブッたと言うわりに、顔がニヤついているのが気になった。

「客は?」
「なかで待ってる。来たらすぐ来いだってよ」
「女の子は?」
「車にいる。俺らは先に帰ってるぞ」

 部屋番号を聞きだして客が待つ部屋へ急いだ。隼人のことだ、客相手にとんでもないことをやらかしているかもしれない。まさか手は出していないと思うけど、ありえないことでもないから怖い。隼人に殴られた頬を押すとまだ地味に痛む。警察とか治療費とか、良くないワードが頭に浮かぶ。

 部屋の戸をノックした。中から中年男が出てきた。

「失礼します。私が店長の──」
「知ってる。ミワちゃんだろ」

 男の唇が左右につりあがった。絶句する俺の腕を男が掴み、ベッドへ押し倒した。



「前に利用したとき、ドライバーさんに男とできる特別コースがあるって教えてもらったんだよね」

 男は俺を犯しながらベラベラと喋った。

「興味あったからネットでミワちゃんを探してみたら、好みだったから指名することにしたんだ」

 男のちんこが俺の中を出たり入ったり。俺はシーツに顔を押しつけて、苦痛の声を殺した。

「できれば女装して来てほしかったけど、それはオプションで高くなるから我慢したんだ。でもやっぱお金払ってでも女装して来てもらえばよかったな。いまのままでも可愛いけど、女装したほうが絶対かわいいよ。一万円でなんでもさせるなんて、ミワちゃん自分を安く売りすぎだよ。お買い得で客からしたらラッキーだけどさ。中出ししたあと、お掃除フェラしてもらって、そのあとオナニー見せてね。その間に復活させるから、今度はイマラチオでごっくんお願いね」

 顔を布団に押しつけてるからちょっと酸欠気味なのか、頭がボーッとして、男が言ってることの内容がよく理解できない。自分の状況がわからない。これってAVの撮影だったっけ? いや、違う? 五木に騙されて、脅されて動画撮らされてんだっけ?

 ズコズコと後ろから男が腰を振ってくる。無遠慮に、公衆便所が如く中出しされて、俺は自分がどんな人間だったか思い出した。

 そうだ、俺、五木たちに輪姦されて、ただの肉便器になり果てたんだった。

「イッちゃう……、おまんこされて、あたしもイッちゃう……っ」

 五木たちに教えられた台詞。呪文のように唱える。俺のちんこは縮こまっている。射精の兆しはまるでない。

 言葉を聞いて男は喜んだ。引き抜いたちんこを俺の口に押しつける。俺は口を開いた。





とどめを刺されたい(1/3)

2018.08.21.Tue.
<「ちょろい」→「やっぱちょろい」→「ちょろくない」→「生温い」>

※無理矢理モブ姦、暴力描写あり


「じゃ、水樹さん、行きましょうか」
「ハーイ」

 って気のない返事の女の子を車に乗せて指定の場所へ進路を取る。

 五木からデリヘルの店長という名の雑用係を任されて早三ヶ月。最初の一カ月は一日一件オーダーが入ればいいようなほど暇だったが、今では毎日コンスタントに依頼がきて俺一人ではそこそこ忙しい。

 そろそろドライバー雇ってくれって五木には頼んである。そのうち用意するって言われてけっこう経つ。あいつは意外と約束は守る男なので俺からせっつく真似はしない。

 こっちの仕事と、AV企画の仕事、二足の草鞋を履いてる状態じゃ、一日24時間じゃ足りないだろう。この前久しぶりにこっちに来たと思ったらずいぶん疲れた顔をしていた。

「1時間経ったら起こせ」

 って待機部屋のソファに寝転がって寝始めるし。出勤した女の子が五木の寝顔を見て「オーナーかわいい」って写メ撮ってた。悪夢でも見てんのかって苦悶の表情を浮かべる五木のどこがかわいいのか。女の子の独特の感覚は俺にはわからん。

 店で働く女の子のほとんどは五木が見つけてきた。最初はAV企画会社のツテで女の子をレンタルしていたが、今はほとんどがうちと契約した子ばかりだ。

 かわいい子、美人な子、清楚な子、ギャルっぽい子、お姉さん風に、ロリ風まで、幅広いくせに粒ぞろい。「あなた好みの子がきっと見つかる」それがいまのうちの店の売り。

 店の評判が書きこまれるデリヘルの掲示板では、俺がサクラで書きこまなくてもうちの店を利用した客からの評判はいい。

 女の子は五木が個人的に知りあった子とか、本業のほうで知りあったAV志望の子をこっちへ引き入れているらしい。AVだと映像として一生形に残るが、デリヘルだとその心配はない。AV出演をまだ迷っていそうな子、向いてなさそうな子に、本番なし、自分の都合のいいときに短時間で稼げるデリヘルを勧めているのだそうだ。

 そこから女の子を引き抜いた時は、もちろん紹介料として企画会社かAV女優のプロダクションへいくらか払っている。さらにこの店の売り上げも、何割か上部団体へ吸い取られている。

 パソコンを見て五木が不機嫌にため息をついている時はたいてい金の勘定をしている時で、自分の懐から掠め取られる金の計算をしてむかついているのだろう。

 指定されていたホテル付近についた。客の姿がないので電話を鳴らす。電柱から男が出てきた。車をおりて、禁止事項やプレイ内容、料金等の確認を男にしてから女の子を引き渡した。

 一時間コース。近くの駐車場で待つ間、支給されたパソコンで新しいメールがきていないかチェックする。それが終わるとスマホでゲームをして待つ。仕事用の携帯電話が鳴った。店にかかってきた電話がこっちに転送されたようだ。営業用の声で電話に出る。水樹の指定客。いま入ったばかり、移動時間を考慮して二時間後になることを伝えた。それで良いという返事。二時間後にまた電話をすると言って切った。

 やっぱりそろそろ俺一人では限界だ。五木を信じて待っていたが、もう一度俺から催促してみよう。



 二件の仕事を終え、水樹と一緒に部屋に戻って来たら五木がいた。車のなかではずっと煙草を吸いながらスマホを弄っていた水樹が五木を見ると黄色い声をあげた。

「五木さんの嘘つき! ぜんぜんこっち来てくれないじゃないですか」
「ごめんごめん、あっちの仕事が忙しくて」
「どうせ女の子の相手が忙しいんでしょ」
「仕事行ってきたの? ご苦労さま」

 って、労わるように水樹の背中に手を当てる。その時の五木ときたら。俺が高校生の時に初めて会った時と同じ。本性隠して、作った笑顔と、偽りの優しい声。水樹は簡単に騙されて「疲れた~、甘いもの食べたーい」って五木にねだっている。はぐらかされたことにも気づいてない。

 五木が俺を見た。はいはい、俺に買って来いって言うんだろ。椅子から腰をあげかけた時、トイレから水の流れる音がした。他に誰が?

 戸が開いて男が出てきた。小柄な男。まだ二十歳前後に見える。金色の髪の毛、眉毛がなくて、目付きが悪くて、いかにもチンピラって感じの男は、俺に気付くと下から睨め付けてきた。

「なにメンチ切ってんだコラ」
「えっ、いや」

 素っ頓狂に高い声が、これまた定番の文言を言うもんだからおかしくて笑ってしまいそうになった。笑うと面倒な絡み方をされそうだから必死に堪える。

「隼人、頼めるか」

 五木がチンピラに声をかけた。隼人と呼ばれたチンピラは毛のない眉根を寄せて五木に目をやった。

「何をだよ」
「近くのコンビニ行って甘いもの買ってきてくれないか」
「なんで俺がそんなパシリみたいなことしなきゃなんねんだよ」
「水樹ちゃんが甘いもの食べたいんだって」

 五木の横にいる水樹が隼人に笑顔で手を振る。隼人は顔を赤くして、ぎこちなく目を逸らした。あまり女の子に免疫がないタイプらしい。

「なんで俺が」
「頼むよ。釣りは取っといていいから」

 五木が財布から出したのは1万円。隼人の目が金に縫い付けられる。ぶつくさ文句を言いながらも一万円を受け取ると部屋を出て行った。

「五木さん、なにあの子」

 水樹が俺の気持ちを代弁する。

「あれ、新しいスタッフ。北川隼人」
「何歳?」
「21歳」
「野良ネコみたいな子だね、かわいいー!」

 あれがかわいい? やっぱり女の子のかわいい基準は俺にはわからん。

 十五分ほどで隼人が戻ってきた。コンビニ袋いっぱいのスイーツ。どんな顔してこれをレジに持って行ったんだ。水樹に誘われて隼人も一緒にチョコレート菓子を食べている。隣に水樹がいるから緊張しているのか、床に正座してるのが笑える。

 俺と五木はそんな二人を手前の部屋から見ていた。

「あれが新しいドライバー?」
「しばらく横についてやってくれ」
「大丈夫なの、あいつ」
「他にどこにも行くとこねえからな。それはあいつもわかってるから、なんとかやるだろ」
「どっから拾ってきたんだよ、あれ」
「うちのアシスタントで入ってきたんだが、元は組事務所の部屋住みだ。あいつの兄貴分がパクられて、一人じゃシノギの才能がなくてな、あちこちたらい回されてこっちに押しつけられた」
「お荷物じゃん。ほんとに使えんの?」
「車の運転はできる。いないよりマシだろ」

 確かにそうだ。言ってしまえばキャストの送迎は誰にでもできる。あの頭の悪そうなチンピラでも、運転ができればこなせる。

「でもあいつ、女の子の管理できるかな。いまも顔真っ赤じゃん」
「ここでも使えなかったら破門になるって話だ。商品に手を出して追い出されたらどうなるか、あの馬鹿も理解してるはずだ」
「盃もらってんだ、あんなのでも」
「あんなのでも一応組員だから、それなりの対応しとけよ」
「面倒臭いなあ」

 五木はパソコンで予約状況を確認したり、売り上げやら金の計算を始めた。売り上げは右肩上がり。俺の給料もレンタルビデオ店で働いていた時の倍はもらってる。でも隼人が来たらその分人件費が増える。いまより稼がなきゃいけない。

 別の女の子が二人出勤してきた。五木の指示で、隼人と一緒に送迎に出かける。運転は隼人。俺は助手席。後部座席に女の子。

 運転しながら隼人に仕事の注意事項を伝える。チンピラにしか見えないくせに、やくざのプライドだけは高いみたいで、俺から指図されるたびにいちいち文句をつける。

 後ろの女の子たちが委縮するじゃないか、と思いきや、隼人の虚勢を見抜いているみたいでクスクス笑っている。

 一人目の客の自宅についた。隼人を連れて客に説明をする。客は隼人に睨まれて怯えるというより戸惑っていた。やはり迫力に欠けるのだろう。

 二人目をホテルへ届けた。また俺が客に説明をするところを隼人に見せた。待機部屋に戻る車のなかで、ドライバーの心得を言ってきかせた。

 とにかく大事なのは安全運転。女の子は商品、大事に扱い、下心を持たないこと。客を威圧するのは駄目。でも舐められても駄目。

「北川くんみたいにさ、誰彼構わず凄んでたら逆に舐められると思うよ」

 思ったことを素直に伝えたら案の定隼人はキレた。

「そうやってすぐ逆切れするのもよくないと思うよ」
「てめえ、俺を誰だと思ってんだ?! お前みたいなもんが馴れ馴れしく口きいてんじゃねえぞ!」
「客相手にそういう威嚇は絶対駄目だかんね。とくに北川くんは構成員なんでしょ。警察行かれたら即捕まっちゃうよ」
「お前、やくざが怖くねえのか?!」
「怖いよ。でも一緒に仕事するんだから、ちゃんと教えなきゃいけないし。ここクビになったら破門なんでしょ?」

 隼人はハンドルをグッと握って下唇を噛んだ

「兄気がパクられなきゃ、こんなとこ好きでいねえよ」

 ばかばかしい気持ちで窓の外に目をやった。こっちだって好きで一緒に働くんじゃない。面倒なお荷物を押しつけられたから仕方なく、だ。



 二人をピックアップしてから待機部屋に戻った。五木と水樹がソファに座ってテレビを見ていた。今度は水樹の送迎を頼まれた。

 また隼人と一緒に店を出る。隼人の運転で待ち合わせ場所へ向かう。今度は隼人が客に禁止事項などの説明をした。覚えていない箇所は俺が付けたし、フォローした。

「こんな簡単な仕事、楽勝だろ」

 水樹を待ってる間、こんな言葉が飛び出した。すぐ調子にのるタイプらしい。

 水樹は今日はもう終了なので仕事が終わると自宅近くまで送り届け、俺たちは店に戻った。五木は両手に女の子をはべらせてまだテレビを見ていた。

「今日の営業はもう終わりにして飯でも行くか」

 五木の提案で四人で食事に行くことになった。女の子たちのリクエストで焼肉。隼人は飢えた餓鬼のようにガツガツと食べた。遠慮ってもんがないのか。

 駅前で女の子たちとは別れた。隼人はどうしていいかわからないと言う顔で俺と五木を交互に見た。

「隼人ももう帰っていいぞ」

 五木の言葉に曖昧に頷く。

「どうした?」
「……兄貴といる時、こんなぬるい一日なんてなかったからよ。ほんとにこれでいいのかよ」
「なにを期待してるんだ」

 五木が苦笑する。

「迷惑な客をぶん殴るのが俺の仕事じゃねえのかよ」
「手は出しちゃ駄目だ。よっぽと悪質な客じゃねえ限り、こっちが悪くなる。隼人がパクられたら俺が上から怒られるんだから、下手な真似してくれるなよ」
「ただ車運転して、女とだべって飯食って、こんなうまい話があるのかよ」
「あるんだよ。隼人がちゃんと仕事してくれりゃ、それなりに給料も出る」
「金ももらえんのか。兄気といた時、どうしても食えねえ時は当たり屋やって、体ボロボロにしながらやっと金もらってたんだ。うまくできねえと兄貴から殴られたりしてよ」
「うちはそこまでの肉体労働じゃない。ちゃんと仕事さえしてくれりゃ殴ることもない」
「まじかよ」

 隼人は茫然と呟いた。今までどんな生活を送ってきたんだ、こいつは。

「五木、さん、俺をあんたのショーファーにしてくれよ」

 目を輝かせ、隼人は前のめりに言った。

「ショーファーなんか必要ねえよ。それに隼人、お前今日飲んだだろ」
「次から絶対飲まねえよ。五木さんの足になるからさ、俺のこと好きに使ってくれよ」
「必要な時は呼ぶよ。それまではデリヘルのドライバー頼むぜ」
「任せてくれよ」

 なんか俺、蚊帳の外なんですけど。隼人の眼中にはもう五木しかない。俺のこと忘れてんじゃないだろうか。

「五木さんはこのあとどうするんだ?」
「俺は……」

 五木の目が俺を捉える。いつもの流れなら、五木の自宅で飲み直すかセックスするか。でも今日は隼人がいる。

「今日は帰る」

 帰るという五木に、隼人はついて行くと言いきった。

「五木さんの家を知ってなきゃ迎えに行けねえからな」

 ということらしい。結局押し切られるように、五木は隼人と一緒にタクシーに乗って帰っていった。いつもだったら隣にいるのは俺だったのに。店に五木がいるのを見た時から期待に下心が膨らんだ。発散する場所を失ってこの熱をどう処理すればいいんだよ。こんなことなら運転手なんかいらねえよ。




偲べば恋 2