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盲目の狼(2/2)

2018.06.23.Sat.
<前話>

 要は買った食材を所定の場所へ仕舞うと、一旦自分の部屋へ着替えに行った。もちろんついていく古瀬である。友達の立場を利用して、要の生着替えを見つめる。集中しすぎて勃起しそうになるが見るのを止められない。

「今度どっか遊びにいかない?」

 話しかけたのをきっかけに要に抱きつく。要はTシャツ一枚。下はボクサーパンツ。薄い生地からソレを確かめるために腰を押しつけた。

「どっかって?」

 古瀬のスキンシップに慣れっこの要はそれを怪しいとも思わず話題を続ける。

「どっかさ。二人きりになれる場所」
「いい加減人見知りなおせよ」

 人の多い場所を嫌がる理由を、要は人見知りのせいだと思っている。転校してきたばかりの、ただ周りの様子を窺っておとなしくしていた古瀬をそうだと決めつけた時からその認識が改められることはなかった。

「着替えられないから離れろって」
「えへへ、なんで?」

 おふざけの振りをしてさらに腰をしつける。股間がゴリゴリと擦れる。さすがに要も顔色を変えた。

「ばか、ふざけるなって」
「要、立ってきた?」

 熱を帯び、固くなってきていた。もちろんそうなるように腰を擦りつけたのだ。

「お前のせいだろ。離れろっ」

 要が身をよじる。腕に収まる体が暴れたところで簡単に封じることができる。このまま押し倒してやろうか。凶暴な思考が一瞬過ったが、弱っちい古瀬を演じることを思い出して体を離した。

「俺、立っちゃった。どうしよう?」

 泣きそうな顔を作る。そして要に助けを求める。そうすれば要は絶対怒らない。困った顔をして、どうしようかと考えてくれる。

「立ったのか、お前……? まったく、変なことするからだぞ」
「だって、要がすごくいい匂いするから」
「はあ? 俺今日体育だったから汗臭いぞ」
「ううん、要はいつもいい匂いがするよ。なんの匂いだろう?」

 とまた口実を見つけて要の肩を掴み、首元に鼻を近づけた。

「お前、匂いフェチかよ」
「えへへ」

 照れ笑いもお手の物だ。

 古瀬は匂いフェチではなく、要フェチだ。上目遣いに睨んで見える大きな目も、小さな鼻も、右の鎖骨にある黒子も、健康的に焼けて太陽の匂いがする肌も、薄く光る産毛も、何もかもがその対象だった。特に好きなのは、膝の裏。今は眺めるだけだが、いつかこの思い成就した暁には存分に舐め回したいという野望を抱いている。

「ほっとけば静まるだろ」

 要がズボンに足を通そうとする。思わずそれをひったくった。

「要だって立ってるじゃん」
「お前のせいだろ」
「いつもどうやるの?」
「なにを?」

 問い返した要の顔は質問を理解している顔だった。少し頬が赤い。古瀬は声を潜めて「オナニー」と囁いた。要は困惑の表情になった。

「どうした? 今日のお前、変だぞ」

 はぐらかそうと言う腹だ。そうはいくか。

「教えてよ。要はいつも、どうやるの?」
「おふざけはおしまい」
「俺も教えるから」

 ぎょっとする要の前でズボンとパンツをずりおろした。好きな人の前で恥部を露出させる行為に興奮が高まる。眩暈を起こしたように頭の中がぐらりと揺れて、胸は押しつぶされたように苦しい。古瀬のものはますますいきり立った。

 それを握り扱いた。要を見ると立ち尽くしたまま古瀬の手元を見ている。頬が強張っていた。

「要も一緒にしようよ」
「や、やだよ。どう考えても変だしおかしい」
「俺がここまでしたのに、ずるいよ」

 勝手にしたのを棚に上げ要に抱きついて股間に手を伸ばした。さっきより大きくなっている。

「俺がしてあげよっか?」

 パンツの上から手で包みこむ。薄い布、はっきりその形、固さ、熱が伝わってくる。

「ばかっ、変態なことするな!」

 変態という罵りに傷つく。と同時にゾクゾクとした。それが自分の本性であると古瀬は認めた。

 要は屈んで身をよじる。古瀬は潰さない程度に力を込めて握った。

「いっ……たい……はなせっ」
「……要のすごく固くなってきたよ」

 いやらしい言葉を、かすれ気味の声で要の耳に吹きこむ。要は顔を赤くしてギュッと目を閉じた。諦めか、要の抵抗が弱まる。その隙を見逃す古瀬ではない。パンツのなかに手を入れて直に触った。

 幾度となく思い描いてきたものだ。妄想のなかで、触り、扱き、嬲り、舐め、咽喉の奥までしゃぶりついたものに現実で触れている。射精しそうな勢いで感動した。

「要も俺の触って」
「やだ……こんなの、いやだ」

 顔を背けた要の肩が震えていた。やり過ぎたことに気付いて古瀬は罪悪感から一気に興奮がさめた。

「ごめん、ごめん要。泣いてる?」
「俺の気持ちも知らないで……こっちは必死におさえてきたのに……」

 ブツブツと要が何事か呟く。初めて見る様子に怒らせすぎたと古瀬は焦ってご機嫌取りに回った。

「急にスイッチ入っちゃって。ごめんね、こんなつもりじゃなかったんだ。怒ってる? ねえ、要、無視しないでよ」

 振り返った要の顔を見て古瀬は「誰だ、こいつ」と本能で思った。誰でもない、上村要に間違いないのに、そっくりなマスクを被った別人のように感じた。

「もうお前とは友達でいられないな」

 抑揚のない声が言う。要にそんなことを言われたら情けなく泣き縋って撤回を求める自信がある古瀬だが、いまは違った。蛇に睨まれたカエルのように身動きできない。

「古瀬が甘えてくるの、俺好きだったよ。くすぐったくて、心地よくて、他の奴らにはしないから、優越感もあったし」

 要の口が動いて要の声が聞こえてくる。なのに違和感は消えない。古瀬は茫然と要に見える目の前の人物を見つめた。

「お前に下心なんかないのはわかってても、俺は頼られてすごく嬉しかった。なんか頼りなくて、放っておけなくて、初めて見た時からお前を守ってやらなきゃってずっと思ってたんだ」

 聞いているようで理解は追い付いていない要の言葉を聞きながら、耳にひっかかった「下心」という単語に「いや俺、下心なしで要といたことねえし」と頭の隅で思う。

「純粋なお前に、こんな真似、絶対したくなかったんだぞ。なのにお前が俺を挑発するから……やめろって言ってるのに」

 純粋なんかじゃない。買いかぶり過ぎだ。古瀬の口許に苦笑が浮かぶ。それを見て要は辛そうな顔をした。

「こんな時でも、お前は優しく笑ってくれるんだな。そういうところが俺はほんとに好きなんだ」

 好き、という言葉に古瀬は混乱した。直後、口を塞がれた。焦点を合わすのが疲れるほど近くに要の顔がある。目がある。息がかかる。視線が合った。要の熱がそこから伝わってきて、脳の裏まで這った。

 口の中に要の舌が潜り込んできた。ぬるぬると中を動き、古瀬の舌を絡め取り、吸ったり食んだりと官能的な動きをする。古瀬は思わず要にしがみついた。腰がくだけた。

「こんなことされてショックだよな。ごめんな。でも、まだ終わりじゃないから」

 あれと思う間もなくベッドに押し倒され、上から要がのしかかってきた。古瀬は心臓をドキドキ高鳴らせながら要をみあげた。見たこともない、男らしく大人びた顔に、古瀬の心は乙女になっていた。

「いまから酷いことするよ。ごめんな」

 脱ぎかけのズボンとパンツを足から抜かれて、膝を持ち上げられた。そしてその奥へ張りのある肉の先端が押しつけられた。古瀬が昼夜問わず妄想していた場面が実現している。違うのは自分のおかれた立場。

 俺がこっち?!

 乙女から一瞬我に返ったが、ググッと押しつけられた剛直に顔を顰め、歯を食い縛った。そこが広げられる。ピリピリとした痛みが走る。古瀬は要の腕に爪を立てた。

「あっ、ああ……待って、要っ」
「ごめんな、古瀬。親友の顔してお前のそばにいたくせに、ほんとは俺、こんな最低な奴なんだ」

 内壁を擦って要が押し入ってくる。苦悶の表情を浮かべ、相手の名を呼ぶ。それを見下ろしているのは自分のはずだったのに。してやられた、と悔しさがないではないが、要の熱さと固さが、そのまま自分への想いだと思うと、目尻に涙が滲んだ。

「泣かせてごめんな。ひどいよな、裏切りだよな」

 ごめんごめんと言いつつ、要はちゃっかり奥まで刺しこんだ。もうすでに腰をゆるゆる動かしている。小刻みな振動が苦痛だ。想像してたのとは違う。ぜんぜん痛い。ぜんぜん気持ち良くない。

「痛いよ……要」

 それを聞いた要の体が小さく身震いした。頬を引きつらせたような笑みを浮かべて「かわいいよ、古瀬」とうっとり言った。

 古瀬は自分を犯す要こそが上村要であると悟った。今まで見てきた要は偽物。自分が弱っちい転校生を演じ続けていたように、要も古瀬から甘えられる鈍い兄貴分を演じていたのだ。二人が同じ志を持つ者同士だとやっと理解した。一方、要の方は古瀬の正体にはまだ気付いていないようで、申し訳なさそうな顔を崩さない。

 要はせっせと腰を振る。どうにか気持ちよくならないものかと、古瀬は自分に暗示をかけようとしてみたが、痛いものは痛かった。

「要……痛いっ……痛いってば……優しくしてよ、もっと、ゆっくり……!」

 焦らなくていい。俺も同じ気持ちなのだから。そう伝えようとしても間隙なく突かれて揺さぶられていたので、呻きと泣き言で伝える暇がない。

 この次はちゃんと準備しよう。自分の気持ちを伝え、両想いだとわかってから恋人同士のキスをして、お互いの体を触りあって高め合い、ローションなりで充分解してから事に至ろう。でないと受ける側は大変だ。

「はあっ、あっあぁあん、やだっ、ゆっくりして、要っ、もう、くそっ」

 もちろん次は自分が攻める側だ。涙と鼻水を垂れ流しながら古瀬は心に誓った。

※ ※ ※

 俺の信用が目の前で壊されていく。破壊しているのは自分だ。

 古瀬は痛がって泣いている。嫌だと拒絶している。だがもう欲望は止められない。ずっと我慢してきた。この気持ちを押し殺してきた。古瀬の過剰なスキンシップは俺への愛情と信頼の証だったのに、俺はそれを邪な気持ちでしか受け取れなかった。

 羊の皮を被って、人畜無害な振りをしてきたが、今日はもう誤魔化せなかった。限界だった。

「痛いっ、要、ああっ、やだ、そんながっつくなよっ」

 泣きながら顔を背ける古瀬ののどに俺は歯を立てた。中が締まる。射精した。




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盲目の狼(1/2)

2018.06.22.Fri.
 俺は、自分が羊の皮をかぶった狼である自覚があった。

※ ※ ※

 古瀬が油断をさせてそののど元に噛みついてやろうと虎視眈眈と狙うのは親友の上村要。小学五年に要の隣家へ引っ越してきて以来の付き合いだ。

 要は面倒みがよく、たまたま同じクラスになった古瀬の世話を頼まれもしないのに買って出た。

「いじめられたら俺に言えよ」

 要は失礼なことに古瀬の見た目だけで弱っちそうだと決めつけて兄貴風を吹かせてきた。一応親切心だとわかったので、古瀬は「ありがとう」とそれを受け入れ、要が思いこむ弱っちそうな転校生役を演じた。そのほうが楽だったからだ。

 顔もそれなりに整っていた弱っちそうな見た目は女子に受けた。転校生という要素も加算されカッコいい子が転校してきたと学年で噂されてしまった。

 当然男子の反感を買う。要と同じように古瀬を弱い奴だと決めつけからかってきた。言い返すのも面倒で放置していたら、お節介な要がしゃしゃり出てきて古瀬を庇った。面倒事を引き受けてくれるのだから、古瀬は自分のイメージなんか二の次でか弱い転校生でいた。

 そのイメージは高校生になっても要のなかで定着したままだ。

 いつまでも庇護下に置かれ、兄貴風を吹かれるのも鬱陶しい。中学でクラスが別れてからは割と伸び伸びやった。からかってくる男子がいれば時に辛辣にあしらった。調子に乗って肉体的攻撃に出てくる輩には鉄拳をもって応酬した。もともと手が早く、気は短い質だった。

 古瀬が実は優男の見た目に反した強い男だとわかるとからかいは止んだ。惚れなおす女子が多発した。

 にもかかわらず、古瀬が要の前ではイメージを崩さなかったのには、あるわけがある。

 中学一年の夏の終わり、要の母が他界した。夜、隣がやけに騒がしかった。どうしたのだろうと家で話していたら救急車のサイレンが近づいて、家の前で止まった。

 家族と外へ飛び出した。しばらくして担架で運ばれる要の母と、付き添う父親、顔の色も表情も失った要と泣きじゃくる妹が、救急車に乗り込んで走り去った。

 亡くなったのはその深夜過ぎ。古瀬は親と一緒に葬式も通夜も参列した。その間、表情豊かなはずの要は無表情だった。

 要は数日、学校を休んだ。隣からにぎやかな声は聞こえない。笑い声一つない。たまに妹の泣き声が聞こえる。

 数週間が経って、父親の二泊三日の出張のため、要と妹を古瀬の家で預かることになった。父親が夜に頼みにきた。実家は遠く、また妻の死を義父母から恨まれていることを話しているのを階段の上から聞いていた。

 要は古瀬の部屋で、妹は母の部屋で寝た。

 要は笑顔を見せるようになっていたが、どこか弱々しく無理をしているように見えた。

 母を亡くしたばかりの親友に同情した。

 自分より一回り小さい体がとても頼りなく。俯く項が細くて。いままで何かと世話を焼いてくれた兄貴分が。まさか自分よりこんなにはかなげな存在だっとその時目の当たりにして。古瀬の気持ちはグラグラと揺れた。初めての感覚に胸が詰まった。

 なのにその夜、「新しいクラスには慣れたか」と要はまた性懲りもなく兄貴風を吹かせた。温かくも哀しい風に当てられて、古瀬はわけもなく涙が流れた。

「うまくいってないのか? 俺はクラスが違うんだからしっかりしろよ。ほんと泣き虫だなあ」

 自分が同情されていると知ってか知らずか、要は古瀬の頭を撫でた。古瀬は「俺がいつどこで泣いた」と内心では思いながら、要に頭を撫でられ続けた。甘えるような気持ちが働いて要の胸に抱きついてみたら抱き返された。

 抱き心地の良さに戸惑ったが、しばらく抱擁を続けた。

 その一件があり、古瀬は自分の本性を要に見せることに躊躇があった。隠していれば要は頭を撫でてくれるし、優しくしてくれるし、甘えさえてくれるし、抱きついても怒らない。

 自分がなにをしたいのか。なぜそんなことを望むのか。その答えは近日、あっさり如実にはっきりくっきりと出た。

 古瀬の家のソファで並んでテレビを見ていた。肌を密着させるだけに飽き足らず、要にもたれかかり腰に腕をまわし、ほとんど抱きつく様な格好で、テレビの内容なんか上の空で要の匂いを嗅ぎ、息遣いを聞いていた時──。

 古瀬はついに勃起した。理由は単純明快。要の甘い体臭と、こちらを気にもしていない息遣いのせいだ。テレビに夢中なのをいいことに、無防備なのど元に唇をおしあて、耳の裏に鼻を突っ込んで匂いを嗅いでも要は気付かないんじゃないかと。そんな想像をした時の出来事だった。

 古瀬は身動きせず静めることに集中した。ところがますます激しくなる。

 要に冷蔵庫からお茶を出してほしいと頼み、キッチンに立ったその隙に古瀬はトイレに逃げ込み事なきを得た。

 友を相手に勃起させ、友をオカズに抜いた、初めての日だ。

 それからといもの古瀬のオナネタは必ず要だ。剥き出しの肌に触れるとドキドキしてそのたび勃起した。中/学生とはそういうものだった。

 純真無垢な要は疑うことを知らず、ベタベタする古瀬をただの甘えん坊だと片付けて気にもしていなかった。たまに鬱陶しがってみせるが、気付くとくっついている古瀬に諦めモードだった。

 古瀬がどんな下心を抱いているかなんて、想像どころか、可能性の一ミリも考慮していなかったに違いない。

 だから古瀬はそれを逆に利用して大胆に質問することができた。

「要は男同士の恋愛ってどう思う?」
「わからないけど、見たらびっくりするだろうな」

 要は質問の意図なんか探らず素直に答えた。

「じゃあもし俺が要のこと好きになったらどうする?」
「古瀬は友達だから考えられないな。うーん、やっぱ無理かな」

 これまたあっけらかんと否定されて古瀬は落ち込んだ。

 それからも要の弟分を演じながら、秘めたる思いを燃やし続けた。いつかそののど元に噛みつきたい。自分の思いをぶちまけて、驚く要を乱暴に組み敷きたい。

 庇護対象だと思っていた男が実は自分より力が強く、常にいかがわしい目で見ていたと知った時、このお人よしはどんな顔をするか。

 それを想像すると古瀬はいつも身震いした。



 学校の帰り、少し先を要が歩いていた。いつもと違う角を曲がるので走って声をかけた。

「どこ行くの」
「買い物。今日は俺が当番だから」

 母を亡くしてからここの家族はみんなで家事を分担していた。中/学生になった妹も最近料理当番に加わったという。

「俺もアイス食べたいから一緒に行く」

 古瀬は要についてスーパーに行った。要はカートを押して店内を歩いた。他の主婦と同じ様子で野菜や肉を選んでかごに入れていく。家に帰って待っていれば料理がテーブルに並べられている自分と比べて申し訳ないような後ろめたい気持ちになる。

 スーパーを出て、古瀬はアイスの袋を破った。一口食べ、隣の要の口に持っていく。

 要が口を開いてかぶりつく。シャクシャクと咀嚼音にすら、やましい気持ちがわき起こる。当然エロい気持ちで要が食べたあとをなぶる。最近、むやみやたらに勃起はしなくなった。

「今日、遊びに行ってもいい?」
「いいけど。俺、ご飯作るから相手できないぞ」
「俺も手伝うよ」

 かくして古瀬は要の家にあがり込むことに成功した。