FC2ブログ

続・嫁に来ないか(2/2)

2018.02.20.Tue.
<前話はこちら>

「びっくりさせてすみません。怖かったですよね?」

 部屋に入ると中田さんは俺の腕をはなした。すまなさそうな顔で俺に謝る。謝るくらいなら最初からこんな真似やめてくれ。

「とりあえず、なんで俺の家知ってんの」
「大澤さんが寝てる間に、浮気アプリってやつを仕込みました。それで大澤さんの現在地がわかるんです」

 水戸の印籠みたいに俺にスマホを見せながら悪びれもせず笑う。

「勝手にそんなもの入れるなよ! 犯罪だろ! すぐ消せ、いま消せ!」
「嫌です。浮気防止のためなんで」
「浮気ってあんたなあ……! 付き合ってもないだろ!」
「でもツバはつけました」

 と舌を出す。ツバってあれのことか。俺を犯したこと。

「あれだって犯罪だから!」
「でも良かったでしょ」
「良くねえよ」
「もう一回動画見ます?」
「バカ!! あれは!! クスリのせい!!!」

 女とセックスした時だってあれほど気持ちよかった経験はなかったかもしれない。あんなに何度もイッたことはなかった。意識が飛ぶほどの経験はなかった。噂には聞いていたがセックスドラッグの威力は恐ろしい。

「クスリね、あれ、嘘ですよ」

 上着を脱いで中田さんはソファに腰をおろした。長居する気かよ。

「嘘って、なにがどういう意味?」
「大澤さんにクスリなんて使ってませんって意味」
「嘘つけ。現にクスリの効果が……」
「思い出してください。あの日出した料理。体が温まる食材でした。酒も飲ませたし、エアコンの設定温度も僕が暑くなるくらいの温度にしました。体は熱いし、クスリを飲ませたって僕の言葉を聞いて暗示にかかっちゃったんですよ」
「暗示……って……そんな馬鹿な」
「馬鹿な話でも事実です。クスリなんかなくても大澤さんはよがりまくってたし、気持ちよくて変になりそうだって叫んで僕の背中を傷だらけにしたし、5回目にイッた時はアヘ顔で失神したんです。これは嘘偽りのない真実ですから」
「嘘だ!!」
「動画で確認しますか?」

 止める間もなく中田さんが操作したスマホから俺のいやらしい喘ぎ声と卑猥な音が部屋に響き渡った。

『や、だあぁっ……そんな……両方したらっ……あはあっ、また出ちゃ……も、やだ、こんなイッたこと、ない……!!』

 さっきとは違う動画だ。いったい何本撮ったんだ。 

 ぜつぼうだ。絶望に頭が真っ暗になって体から力が抜けていった。床にへたりこんだら中田さんが飛んできた。

「大丈夫ですか? 飲み過ぎですよ。水持ってきましょうか?」

 そうだ。こいつ、俺の行動を本当に監視してやがったんだ。浮気アプリなんてもん、勝手に入れて。

「──もしかして、俺のこと尾行したのって、今日が初めてじゃないんじゃ……?」
「あ、バレました? 心配だったから、何度か見に来てました」

 中田さんの唇の端がゆっくり左右につりあがった。俺が街中や地方ロケで見ていた幻は何割かは本物だったのか。

「なんで、こんなことすんの?」
「好きだからに決まってるじゃないですか」
「好きだからって……こんなことしていいと思ってんの?」
「駄目だってわかってます。でも自分で自分を止められないんです。大澤さんのこと初めからレ/イプするつもりなんかなかったし、アプリを勝手に入れるのも尾行するのも、悪いことだってわかってるのに止められなかったんです。だから僕を警察につきだしてください。檻に閉じ込められないと、僕の暴走は止まりません」

 それを証明するように中田さんは俺を床に押し倒した。

「早く警察を呼ばないと。また前みたいなことしますよ」

 そう言って顔を近づけてくる。顔を背けたら頬に、首に、キスされた。その感触には身に覚えがあった。あの夜の快感を一気に思い出して全身の毛穴が開いた。

「卑怯者! 警察なんかに言ったら、俺があんたに何されたか世界中が知ることになるじゃないか! そんなことできるわけだろ!」
「じゃあ、また僕に抱かれてくれるんですか?」
「どうせそれが目的できたくせに!」
「だったらまた暗示にかけましょうか?」
「ああ、ぜひそうしてくれ!」

 自棄になって叫んだ。開き直りだ。一度されたことを二度されたくらいなんだ。男相手という気持ち悪さは拭えないが、快感があったことも確かだ。これも遊びだ。セックスドラッグに酔って男とセックスする馬鹿なアイドルだと自分に言いきかせればいい。これがいつか芝居の糧になるなら本望だ。

「じゃあ、大澤さんに暗示をかけますね」

 中田さんに顎を掴まれた。正面を向かせられる。間近に中田さんの顔があった。真剣な目が俺を見据える。

「大澤さんは僕のことが好きなんですよ。あの日僕たちは両想いになったんです。大好きな僕に抱かれるのが嬉しくてたまらないでしょ?」

 最悪な冗談だ。まったく笑えない。

「そんな顔しないでください。二週間、僕に会えなくて寂しかったですか?」
「クスリ飲まされるほうがマシだ」
「機嫌直して。今からいっぱい愛してあげますから」
「ゲボ出そう」
「まずはここ、解さないと」

 いきなり尻の奥を指でぐっと押されて体が飛び跳ねた。

「まだ覚えてますか? 僕のがここを出たり入ったり、いっぱい中を擦ったこと」
「い、言うな」
「初めてだったのに熱くてトロトロに蕩けて僕もすごく気持ち良かった。何度出してもまた中に戻りたくてすぐ勃起しました。あんなに何回もイッたこと、僕も初めてです」

 喋りながら中田さんは俺のジーンズとパンツを脱がせた。直に絨毯の感触。ここですんのか。絨毯汚れるし体が痛そうだ。寝室に誘う? 俺がこいつを受け入れたみたいじゃないか。それは嫌だ。

「大澤さん、四つん這いになってください」

 いきなり体をもちあげられたと思ったらひっくり返された。着地と同時に四つん這いになっていた。尻を左右に引っ張られ、その奥に息を吹きかけられた。

「なにしてんの!!」
「ここ、すごくかわいい」

 意味のわからないことを言った中田さんは、その後しばらく無言だった。なぜなら俺のかわいいソコを犬のように舐め続けたからだ。俺は恥ずかしさのあまり叫んで泣いて、本当に吐きそうになりながら羞恥プレイに耐えることを強要された。



 背中に絨毯の毛が張り付く感触がする。汗をかいている。背中だけじゃなく、全身びっしょり。それは中田さんも同じだ。

 さっき俺のなかに出したあと「暑い」と言って服を脱ぎすてていた。二度目の余裕か、中田さんの鍛えられた肉体に気付く。俺はこの体に抱かれたのだ。

「あっあぁぁ、やだ、もう……そこやだ……っ」
「ここが気持ちいいでしょ」

 軽い口調で言って、中田さんは俺の奥にちんこをぶち当てて来る。丁寧に執拗にソコを舐め解されたから痛みはない。むしろ、舌と指では届かなかった場所を擦られてあっけなく射精してしまったくらいだ。

 当たり前みたいに快楽を受け入れて喘いでいる。

 まだ十代の、芸能界のげの字も知らなかった頃、俺にも好きな女の子がいた。同じクラスで見ているだけでドキドキした。言葉を交わした日は一日中幸せな気分でいられた。

 それがいつしか。先輩が連れて来た初対面の女の子とベッドインするような人間になってしまった。顔も名前も忘れた娘が何人いるだろう。芸能人という特別な存在と金の匂いに群がる女を使い捨てることに罪悪感すら感じなくなった。

 その報いだろうか。

 初対面の男に犯され、二週間の間ずっと行動を監視されて、また犯されている。

 嫌なら逃げればいいのにそれもしないで、好きでもない相手にむりやりされているのに、気持ちよくなって射精までしている。

 どこまで俺は汚れてしまったのか。この先どこまで堕ちるのか。

「はあっ、はぁ、中田さん……、あんた、俺のどこがいいの……?」

 この数年、誰かを真剣に好きになったことはない。誰かから真剣に好かれたこともない。

 中田さんはちょっと考える仕草を見せたあと「顔」と短く答えた。

「顔?」

 中身じゃないのかよ。

「やっぱり謝罪会見の印象が強いです。泣くのを堪える顔。怖くて逃げだしたいけど逃げられない絶望の顔。さっき俺を見たときの顔。気持ちいいのを素直に言えない今の顔。考えてることが手に取るようにわかる、大澤さんの顔が一番好きです」
「別に気持ち良くないし」
「本当に?」

 いたずらっぽい顔で中田さんは俺のちんこを握った。ゆっくり中を擦りながら手も動かす。

「あ……っ」
「これ好きですよね」
「好きじゃな……はッ、あ、ああ……っ」

 腰と手の動きがだんだん早くなる。リズミカルに突かれながらちんこを扱かれたら頭がおかしくなるくらい気持ちがいい。

「やっあっ、あっ、中田さんっ」
「なんですか」
「ああっ、あ、やだっ、ちんこ、止めてっ」
「気持ちいいのは僕のことが好きだからですよ」
「ちがっ、あっ、はあんっ、あ、あ、イクッ……!」
「かわいい。大澤さん、大好きですよ」
「やだっ、ああっ、あっ、イクッ、中田さん!」

 ガクガクと揺さぶられながら射精した。中田さんの動きは止まらない。中田さんがこの程度で止めてくれないと俺はわかっている。

「ちょっと……休憩したい……」

 ダメ元で言ってみたが「夜は短いですから」と優しい笑顔で却下された。俺はまた意識がなくなるまで中田さんに犯されるのかもしれない。咽喉が枯れるまで喘がされるのかもしれない。明日は幸いオフだ。酷いあり様を人に見せずに済む。

「待って、じゃあ、ここはやだ。ベッド連れてってよ。やっぱ体痛い

 中田さんは軽々俺を持ち上げた。恐ろしいことに中に入ったまま。いわゆる駅弁スタイルだ。重さでさらに奥深くまで突き刺さる。その存在感たるや。

「そんな色っぽい顔しないでくださいよ」
「してないし」
「連れて帰りたくなるじゃないですか」

 口調は冗談めいていたが、目はマジだ。前に嫁にこないかと言ってたけど、あれも本気だったのかもしれない。俺が農家の嫁? 男だから婿? 確かに土いじりはきつかったけど楽しいっちゃ楽しかった。意外に向いてるのか?

 いやいや。なに前向きに検討してるんだ。やっぱこの顔だ。中田さんの人の良さそうな顔。そんなに悪い人じゃないのかもと騙されてしまうんだ。

「芸能界で仕事なくなったら考えるわ」
「いつまでも待ちますよ」

 中田さんなら本当に待ってる気がする。俺の行動を監視しながら、ずっと。




スポンサーサイト
[PR]

続・嫁に来ないか(1/2) 

2018.02.19.Mon.
<前話「嫁に来ないか」>

 中田さんにあんなことをされてから二週間。俺のなかであの出来事はトラウマになり、いまでもその後遺症に悩まされている。

 視界の端、街のあちこちで中田さんを見つけてしまうのだ。

 ほんとうはただ年齢と背格好が似てるだけの赤の他人なのに、一瞬本人登場かと思って焦ってしまう。中田さんがウォーリーなら俺は誰よりも早く見つけられるんじゃないだろうか。

 昨日も「アイドルの手も借りたい!」で地方ロケがあったが、そこでも中田さんの幻を見てしまった。忘れてしまいたいのに、行動を監視されているようで、もうノイローゼになりそうだ。

 そんな理由で出不精になりつつあった二週間の俺を心配して、共演がきっかけで仲良くなった芸人の城野さんが今日は食事に誘ってくれた。

「最近元気ないし誘っても断るし、どうしたん?」

 乾杯が終わったあと城野さんから柔らかい口調で訊かれた。あれをどう説明すればいいのだろうか。クスリ盛られて犯されたなんてことは口がさけても言えないから、そこのあたりはボカすしかない。

「ロケ先で会った素人さんが強烈な人で……こっち帰ってきてからも、なんかその人の幻を見ちゃうんですよね」
「へえー、女?」
「男ですよ」
「どう強烈やったん?」
「常識が通じないっていうか、話も通じないっていうか」
「なんかされたん?」
「いや! なにもされてはないですけど。なんか、理解できない人種だったなぁって」
「ヤッバイ人って世の中腐るほどおるからなぁ。そういう人ってこっちの世界の理をぜんぜん理解しようとせえへんし配慮もないから、相手するだけ疲れるよ」
「ほんとですよね」
「アイドルはイメージ大事やし、邪険にできんから大変やな。俺ら芸人は『アホんだら、どつきまわすぞ!』って言えるけど」

 城野さんはツッコミだからそういう悪態も世間に通じるが俺の場合そうはいかない。ただでさえメンバーの小東が未成年の時に大麻使用で世間を騒がせた過去があるのだ。これ以上悪いイメージは今後の芸能生活に関わる。

「あんま気にしいなや。強烈な奴に引っ張られたらこっちの精神まで参ってしまうで」
「そうですね」

 忘れることは不可能でも思い出さないようにすることは出来るはずだ。似た男を見るとビクついてしまうのは俺がいつも中田さんを思い出しているからに他ならない。思い出さないでいれば、群衆の中から中田さんに似た人物を見つけることもなくなるはず。

 その後、城田さんの後輩芸人も二人やってきて賑やかで楽しい食事会になった。日付がかわるころお開きになり、タクシーで自宅マンションに帰った。帰宅したときの癖で郵便受けを確認していたら「おかえりなさい」と声をかけられた。

「あ、どうも」

 マンションの住人だと思って振り返った。顔を見て心臓が止まりそうになった。足元がぐらりと揺れて、目の前に中田さんがいることが理解できなかった。

 これも幻なんだろうか。いつもは二度見したら消えていたり、他人の空似だとすぐ気付くのに、今日の幻は消えないし別人にもならない。

「ずいぶん遅いですね」

 しかも声までかけてきた。

「え……本物? なんで、どうして、ここに……?」
「今までなにをしてたんですか?」
「なにって、知り合いと飲んでただけ……っていうか、ほんとなんでここにいんの?!」

 夜中だってことも忘れて大声が出た。幻でないとしたら、どうして俺の家を知っているのか、そっちの恐怖でパニック寸前だ。

「なっ、なんで……! ここ、なんで知ってんだよぉ!」
「大きな声は近所迷惑じゃないですか。とりあえず部屋行きません?」

 と俺の腕を掴んでくる。俺は半狂乱でそれを振り払った。

「警察! 警察呼ぶから!!」
「その前にこれ」

 ポケットから中田さんが出したのはスマホ。操作して俺に画面を見せる。我が目を疑った。軽い眩暈がした。拒否する目の焦点をなんとか合わせてちゃんと確認した。裸の俺の写真。苦しそうに顔を歪め、口は半開き、胸には白い付着物も見える。精液だ。

 あの時の写真。あの夜の後半の出来事はほとんど記憶にない。執拗に責められて意識は飛びかかっていた。自分がなにを口走ったか、どんな乱れ方をしたかも覚えてない。写真を撮られたことすら理解していなかった。

「なんでそんなもの!」
「記念に残しておきたいと思って。あとこれ」

 また別の画像を見せられた。と思ったら動画だった。耳を塞ぎたくなるような卑猥な音声が辺りに響き渡った。

『あっ、ああぁ、あぁんっ、奥、当たって……ぁあんっ、あ、はああっ、やっ、やめ……またイクッ……中田さん、イカせて……!』

 男に揺さぶられながら喘ぐ俺の姿。考えるより先にスマホに飛びついていた。寸前でかわされた。中田さんを睨みつけた。

「……俺を脅しに来たのか?」
「まさか。やっと繋がった大澤さんとの縁を切りたくなかったんですよ」
「金蔓にして死ぬまで強請る気か!!」
「僕の収入で大澤さんを養いたいくらいなのに、そんなことしませんよ」
「じゃあ、なにしに来たんだよ」
「悪い虫がついてないか、心配で様子を見に来ました。城田さんとはいつから親しいんですか? 『お昼はごきげん』で共演してからですか?」

 城田さんの名前が出てきて血の気が引いた。

「あんた……俺のあと、つけてたのか……?」
「はい。とりあえず話は中でしませんか?」

 中田さんは人の良さそうな顔でにこりと笑った。笑顔が怖い。俺の家で待ち伏せされていたことも、俺の行動を監視していたことも、俺の人間関係まで把握していることも、全部が怖かった。

 反撃することも考えたが、体格は中田さんのほうが上。しかも向こうはなにを準備しているかわからない。上着のポケットにナイフが入っているかもしれないと思うと反撃の勇気はでなかった。

 逃げだそうかとも思った。でも移動はもっぱらタクシーの自分が、毎日農作業で鍛えている中田さんから逃げおおせるとは思えなかった。逃げることで中田さんを逆上させてしまうことも怖かった。

 2、3秒の間でいろいろ考えたが、中田さんに腕を掴まれ促されると逆らえなかった。一緒にエレベーターに乗り込み、自分の部屋へと招き入れてしまった。この優しい顔の悪魔を。




【続きを読む】