ひとでなし(2/2)
2017.09.08.Fri.
<前話はこちら>
他の同僚たちにもさりげなくリストラの噂や人事部に知りあいはいないか、探りを入れてみた。みんな噂があることだけは知っていたが、人事部に伝手のある者はいなかった。
営業から戻って来た伊能と目が合った。ニヤリと意味深に笑ってくる。舌打ちしながら目を逸らした。あいつのものを舐めるだって? 冗談じゃない。俺にだってプライドはある!
(その程度なんだ?)
頭で伊能の声が俺を冷やかす。
(大事な妻子を守るためになんだってするって言ってたくせに、今更男のプライドにこだわるんだ?)
うるさい、うるさい!
家族は大事だが、それと同じくらいに大事なものもある! それを捨てるほどまだ俺は落ちぶれちゃいない!
気を取られる事が多すぎて仕事効率が下がる。タイプミスも増えていつもより余計に時間がかかった。
みんなが昼休憩に出る頃になってもまだ書類仕事に追われていた。
机に置いていたスマホが振動した。嫁からだ。この忙しいときに! と咄嗟にイラついたが、それは間違いだと思い直してスマホを取った。
「はい」
『あっ、いま電話して大丈夫?』
「大丈夫。昼休憩だから。どうかした?」
『さっきお義母さんから電話があってね、お義父さん、入院してるらしいの』
「えっ、入院?!」
『一昨日、出かけた時に段差で転んで、その時に足首を骨折したんですって。もう手術も終わってるし、心配はないけど、一応報告しとくって。私だけでも先にお見舞いに行こうかと思ってるんだけど。孫の顔見たら喜んでくれるかもしれないし』
「それはありがたいけど……いいの?」
近い方とは言え、電車を乗り継いで一時間はかかる距離だ。まだ幼い娘と一緒に行くのは大変だ。
『私は大丈夫。お見舞いに何か買って行くわ。お義父さん、果物好きだった?』
「好きだけど。あっ、メロンは嫌い」
『わかった。それは避けて選ぶ』
「俺も今度の休みに行くって言っといて」
嫁の電話を切ったあと、母親の携帯電話へかけてみた。嫁から聞いたのと変わらない話を聞いたあと、
『転んだくらいで骨折するなんて、お父さんも年よねぇ』
と母がしみじみ言った。
『年寄りの骨折って怖いらしいわ。動けなくなって家を出なくなるからボケの第一歩なんですって』
「まだそんな年じゃないだろ」
『あら、私もお父さんも、もうそんな年よ』
このあと嫁が見舞いに行く予定だということと、俺も次の休みに顔を見せることを伝えて電話を切った。
確かに二人とももう若くはないのだ。ボケの第一歩、という母親の言葉が頭から離れない。まだ現役で働いているが、今回の骨折で仕事はしばらく休むそうだ。年だから治りも遅いだろう。完全に痛みがなくなるまでの完治も難しいかもしれない。
いま父や母に倒れられたら……。想像するだに恐ろしい。
やはり今俺がリストラされるわけにはいかないのだ。なんとしてでも阻止せねばならない。
俺がたった一度の屈辱を耐えれば今の生活は守れるかもしれない。男のプライドなんてものにこだわっている猶予はないのだ。
責任感が俺を突き動かした。パソコンを閉じて席を立った。
まるでそれを待っていたようなタイミングで、休憩に出かけたはずの伊能が戻って来た。顔を見たら足がすくんだ。
「コンビニで弁当買って来てやったぞ」
今朝のことなんかなかったみたいな顔で悠然とこちらへ歩み寄ってくる。俺が残業していたらよくこうして差し入れしてくれた。そんな男があんなことを言いだすなんて、信じがたいしショックだった。
「今朝のことだけど」
「……ああ。気がかわった?」
伊能は隣の机に腰を下ろし、コンビニの袋を俺の机へ置いた。
「冗談じゃないのか? 本気で俺に……させたいのか?」
「お前がしたいかどうかだよ。俺は別にどっちだっていい」
「したくなんかない! でもそれしか方法がないなら、やる」
「やる?」
「ああ。やる」
俺の顔をじっと見つめたあと、伊能は歯を見せずにニヤリと笑った。
「こんなことさっさと終わらせたい。トイレでいいか?」
「いま?」
「いま」
伊能は無言で腰をあげた。そのまま男子トイレへと向かった。俺もそのあとに続いた。
昼休憩とあって、男子トイレには誰もいなかった。ちょうどいい。しかしいつ誰が来るかわからないので二人で奥の個室へ入った。
鍵をかけ、伊能と向き合う。
「本気か、斉藤」
「早く出せよ」
伊能の足を蹴ってやった。伊能は小さく息を吐いてから今朝と同じようにベルトを外し、ズボンのチャックを下げた。
「家族のためにここまでするか。一家の大黒柱ってのは大変なんだな」
「黙れ。ブツブツうるさいぞ」
「噛むなよ。上手に頼むぜ」
言いながら伊能はものを外へ出した。さすがに緊張しているのか縮こまっている。これを俺は今から舐めるわけだ。
深く考えたら出来なくなる。頭を空っぽにして、淡々とこなしたほうがいい。
「俺の靴の上に膝を乗せるといい」
しゃがむ俺に伊能が言う。その通りにしたら、目の前に伊能の股間があった。直視出来ず、目を逸らしてしまう。
「やめるなら今だぞ」
「島さんを紹介してくれるのか?」
「お前の年ならまた再就職できる」
「地獄に落ちろ」
覚悟を決めて伊能のものを掴んだ。当たり前だが温かい。そしてまだ柔らかい。嫌悪感から心がくじけそうになる。伊能の言う通り、ここまでしてこの会社にこだわる必要があるだろうか。再就職して給料が上がる可能性だってある。自分に合った仕事が見つかる可能性だって。
逃げる口実が次々浮かぶ。全部低い可能性だ。社会はそんなに甘くない。
逆にこれを乗り切ればもう怖いものはない。なんだって出来る気がする。別人になってバリバリ働いて営業成績を伸ばし、こいつを抜かして鼻を明かしてやることだって……!!
怒りをやる気にかえて口を開いた。唇に伊能のちんこが触れる。ぷにっとしていて、つるんとした肌触りだ。ゆっくりそれを口の奥へと招き入れた。
初めてくわえた男根。それ自体は無味無臭と言っていいが、午前中外回りに出ていた伊能からは汗と体臭の混ざりあった匂いがする。目の前の陰毛も不快だ。
先端を軽く舐めてみた。ピクリとカサが動いた。広げた舌で亀頭全体を舐めた。口の中の伊能がじわじわと体積を増やしていく。掴んでいる陰茎も硬く太くなっていく。はっきり脈動を感じるほどの血管も浮きだした。
「ヘタクソ」
全神経を口に集中させていたので、突如降ってわいた声に驚いて目をあげた。首を前に傾けた伊能と目が合う。
「飴玉じゃないんだ。しっかりしゃぶってくれよ」
跪いて男のペニスをしゃぶっている俺と、それを見下ろしている伊能。力関係のはっきりした構図に、全身火がついたような羞恥を自覚した。
やっぱりやめておけばよかったと後悔してももう遅い。嫁がフェラの最中よく休んでいたが、その理由を理解できるほどの大口をあけて、俺は伊能のペニスを頬張っている。ここまでやったことを無駄にするなら、リストラ回避のため恥を捨てるほうがマシだ。
心を殺して伊能のちんこに舌を這わせた。口腔内の粘膜全てで包みこんで顔を前後にゆすった。
「お上手」
愉しげな伊能の声。からかうような指先がこめかみの髪を持て遊んでいる。
鼻呼吸だけでは辛くなり、一旦口から離した。
「お前……男遊びもしてるのか?」
口元の唾液を拭いながら伊能に訊いた。
「俺が節操無しなのはお前も知ってるだろ。結構前からお前を狙ってたんだ。いつかこういうチャンスが巡ってこないかってな」
「お前は人間の屑だな」
「屑だから、こういう楽しみ方しか知らないんだよ」
ギリリと睨みつけると伊能は腕時計を指で叩いた。
「あと10分で休憩が終わるぞ。それまでに俺をイカせてくれなきゃこの話はナシ」
10分?! 無駄話なんてしている暇はない。再び伊能のちんこを咥えた。一度目の抵抗感が薄れている。人間危機に陥ると日頃の感覚が麻痺するのだろう。頭の中は伊能を早くイカせることだけになる。
単調に前後に揺すっていたのに角度をつけてみたり、急かすように先端を吸ったり、鈴口に舌先を突っ込んだりした。ビキビキに勃起した陰茎も当然扱いた。手の平がじっとり湿るほど熱くなっている。なのになかなか伊能はイカない。
まさか最初から時間切れを狙っているのかと思った頃、
「出すぞ」
と頭を押さえられた。逃げる間もなく口腔内に発射された。ドロリと生温かいものが口の奥へ吐きだされる。反射的に吐きだそうとした。舌の先で味わってしまい、あまりのまずさに嘔吐いた。
それを察知した伊能が咄嗟に腰を引いた。まだ射精途中だった伊能のペニスから白い液体が俺の顔めがけて飛んでくる。よける暇はなく、便座の蓋を開けて顔を突っ込んだ。
ウゲエッと呻きながら伊能の精液を吐きだす。終わった途端殺していた嫌悪感が蘇り、胃が震えた。出る、と思った時にはもう胃の中のものも吐きだしていた。朝食も昼食も抜いたから消化済みの液体が便器に溜まる。
手探りで水を流すレバーを探していたら、それに気付いた伊能が水を流した。
「ほら」
と目の前にトイレットペーパーが差しだされる。それを受け取り口元と、顔についた伊能の精液を拭った。今はどんな皮肉も慰めも聞きたくない。伊能が黙って個室を出て行ってくれたことは唯一の救いだ。
感じたことのない疲労感があった。喪失感もあった。心とプライドをズタズタにされた。自分が決めたこととは言え、喪ったものは大きかった。
一度深呼吸してから俺も個室を出た。伊能は鏡を見ながら前髪を整えていた。隣に立って水道で手を洗い、口をゆすいだ。伊能の精液の味がのどにこびりついている。一日二日では消えそうにない。
「約束は守る」
顔を洗っていたら伊能の声が聞こえた。当たり前だ。ここまでやって約束を反故にされたらたまらない。
「今夜、島さんに会わせる」
俺の肩をポンと叩くと伊能はトイレを出て行った。
曲げていた腰を伸ばした。ポタポタと顔から滴が落ちる。ワイシャツが濡れて行く。
俺はなんてことをしてしまったんだろう。
【続きを読む】
他の同僚たちにもさりげなくリストラの噂や人事部に知りあいはいないか、探りを入れてみた。みんな噂があることだけは知っていたが、人事部に伝手のある者はいなかった。
営業から戻って来た伊能と目が合った。ニヤリと意味深に笑ってくる。舌打ちしながら目を逸らした。あいつのものを舐めるだって? 冗談じゃない。俺にだってプライドはある!
(その程度なんだ?)
頭で伊能の声が俺を冷やかす。
(大事な妻子を守るためになんだってするって言ってたくせに、今更男のプライドにこだわるんだ?)
うるさい、うるさい!
家族は大事だが、それと同じくらいに大事なものもある! それを捨てるほどまだ俺は落ちぶれちゃいない!
気を取られる事が多すぎて仕事効率が下がる。タイプミスも増えていつもより余計に時間がかかった。
みんなが昼休憩に出る頃になってもまだ書類仕事に追われていた。
机に置いていたスマホが振動した。嫁からだ。この忙しいときに! と咄嗟にイラついたが、それは間違いだと思い直してスマホを取った。
「はい」
『あっ、いま電話して大丈夫?』
「大丈夫。昼休憩だから。どうかした?」
『さっきお義母さんから電話があってね、お義父さん、入院してるらしいの』
「えっ、入院?!」
『一昨日、出かけた時に段差で転んで、その時に足首を骨折したんですって。もう手術も終わってるし、心配はないけど、一応報告しとくって。私だけでも先にお見舞いに行こうかと思ってるんだけど。孫の顔見たら喜んでくれるかもしれないし』
「それはありがたいけど……いいの?」
近い方とは言え、電車を乗り継いで一時間はかかる距離だ。まだ幼い娘と一緒に行くのは大変だ。
『私は大丈夫。お見舞いに何か買って行くわ。お義父さん、果物好きだった?』
「好きだけど。あっ、メロンは嫌い」
『わかった。それは避けて選ぶ』
「俺も今度の休みに行くって言っといて」
嫁の電話を切ったあと、母親の携帯電話へかけてみた。嫁から聞いたのと変わらない話を聞いたあと、
『転んだくらいで骨折するなんて、お父さんも年よねぇ』
と母がしみじみ言った。
『年寄りの骨折って怖いらしいわ。動けなくなって家を出なくなるからボケの第一歩なんですって』
「まだそんな年じゃないだろ」
『あら、私もお父さんも、もうそんな年よ』
このあと嫁が見舞いに行く予定だということと、俺も次の休みに顔を見せることを伝えて電話を切った。
確かに二人とももう若くはないのだ。ボケの第一歩、という母親の言葉が頭から離れない。まだ現役で働いているが、今回の骨折で仕事はしばらく休むそうだ。年だから治りも遅いだろう。完全に痛みがなくなるまでの完治も難しいかもしれない。
いま父や母に倒れられたら……。想像するだに恐ろしい。
やはり今俺がリストラされるわけにはいかないのだ。なんとしてでも阻止せねばならない。
俺がたった一度の屈辱を耐えれば今の生活は守れるかもしれない。男のプライドなんてものにこだわっている猶予はないのだ。
責任感が俺を突き動かした。パソコンを閉じて席を立った。
まるでそれを待っていたようなタイミングで、休憩に出かけたはずの伊能が戻って来た。顔を見たら足がすくんだ。
「コンビニで弁当買って来てやったぞ」
今朝のことなんかなかったみたいな顔で悠然とこちらへ歩み寄ってくる。俺が残業していたらよくこうして差し入れしてくれた。そんな男があんなことを言いだすなんて、信じがたいしショックだった。
「今朝のことだけど」
「……ああ。気がかわった?」
伊能は隣の机に腰を下ろし、コンビニの袋を俺の机へ置いた。
「冗談じゃないのか? 本気で俺に……させたいのか?」
「お前がしたいかどうかだよ。俺は別にどっちだっていい」
「したくなんかない! でもそれしか方法がないなら、やる」
「やる?」
「ああ。やる」
俺の顔をじっと見つめたあと、伊能は歯を見せずにニヤリと笑った。
「こんなことさっさと終わらせたい。トイレでいいか?」
「いま?」
「いま」
伊能は無言で腰をあげた。そのまま男子トイレへと向かった。俺もそのあとに続いた。
昼休憩とあって、男子トイレには誰もいなかった。ちょうどいい。しかしいつ誰が来るかわからないので二人で奥の個室へ入った。
鍵をかけ、伊能と向き合う。
「本気か、斉藤」
「早く出せよ」
伊能の足を蹴ってやった。伊能は小さく息を吐いてから今朝と同じようにベルトを外し、ズボンのチャックを下げた。
「家族のためにここまでするか。一家の大黒柱ってのは大変なんだな」
「黙れ。ブツブツうるさいぞ」
「噛むなよ。上手に頼むぜ」
言いながら伊能はものを外へ出した。さすがに緊張しているのか縮こまっている。これを俺は今から舐めるわけだ。
深く考えたら出来なくなる。頭を空っぽにして、淡々とこなしたほうがいい。
「俺の靴の上に膝を乗せるといい」
しゃがむ俺に伊能が言う。その通りにしたら、目の前に伊能の股間があった。直視出来ず、目を逸らしてしまう。
「やめるなら今だぞ」
「島さんを紹介してくれるのか?」
「お前の年ならまた再就職できる」
「地獄に落ちろ」
覚悟を決めて伊能のものを掴んだ。当たり前だが温かい。そしてまだ柔らかい。嫌悪感から心がくじけそうになる。伊能の言う通り、ここまでしてこの会社にこだわる必要があるだろうか。再就職して給料が上がる可能性だってある。自分に合った仕事が見つかる可能性だって。
逃げる口実が次々浮かぶ。全部低い可能性だ。社会はそんなに甘くない。
逆にこれを乗り切ればもう怖いものはない。なんだって出来る気がする。別人になってバリバリ働いて営業成績を伸ばし、こいつを抜かして鼻を明かしてやることだって……!!
怒りをやる気にかえて口を開いた。唇に伊能のちんこが触れる。ぷにっとしていて、つるんとした肌触りだ。ゆっくりそれを口の奥へと招き入れた。
初めてくわえた男根。それ自体は無味無臭と言っていいが、午前中外回りに出ていた伊能からは汗と体臭の混ざりあった匂いがする。目の前の陰毛も不快だ。
先端を軽く舐めてみた。ピクリとカサが動いた。広げた舌で亀頭全体を舐めた。口の中の伊能がじわじわと体積を増やしていく。掴んでいる陰茎も硬く太くなっていく。はっきり脈動を感じるほどの血管も浮きだした。
「ヘタクソ」
全神経を口に集中させていたので、突如降ってわいた声に驚いて目をあげた。首を前に傾けた伊能と目が合う。
「飴玉じゃないんだ。しっかりしゃぶってくれよ」
跪いて男のペニスをしゃぶっている俺と、それを見下ろしている伊能。力関係のはっきりした構図に、全身火がついたような羞恥を自覚した。
やっぱりやめておけばよかったと後悔してももう遅い。嫁がフェラの最中よく休んでいたが、その理由を理解できるほどの大口をあけて、俺は伊能のペニスを頬張っている。ここまでやったことを無駄にするなら、リストラ回避のため恥を捨てるほうがマシだ。
心を殺して伊能のちんこに舌を這わせた。口腔内の粘膜全てで包みこんで顔を前後にゆすった。
「お上手」
愉しげな伊能の声。からかうような指先がこめかみの髪を持て遊んでいる。
鼻呼吸だけでは辛くなり、一旦口から離した。
「お前……男遊びもしてるのか?」
口元の唾液を拭いながら伊能に訊いた。
「俺が節操無しなのはお前も知ってるだろ。結構前からお前を狙ってたんだ。いつかこういうチャンスが巡ってこないかってな」
「お前は人間の屑だな」
「屑だから、こういう楽しみ方しか知らないんだよ」
ギリリと睨みつけると伊能は腕時計を指で叩いた。
「あと10分で休憩が終わるぞ。それまでに俺をイカせてくれなきゃこの話はナシ」
10分?! 無駄話なんてしている暇はない。再び伊能のちんこを咥えた。一度目の抵抗感が薄れている。人間危機に陥ると日頃の感覚が麻痺するのだろう。頭の中は伊能を早くイカせることだけになる。
単調に前後に揺すっていたのに角度をつけてみたり、急かすように先端を吸ったり、鈴口に舌先を突っ込んだりした。ビキビキに勃起した陰茎も当然扱いた。手の平がじっとり湿るほど熱くなっている。なのになかなか伊能はイカない。
まさか最初から時間切れを狙っているのかと思った頃、
「出すぞ」
と頭を押さえられた。逃げる間もなく口腔内に発射された。ドロリと生温かいものが口の奥へ吐きだされる。反射的に吐きだそうとした。舌の先で味わってしまい、あまりのまずさに嘔吐いた。
それを察知した伊能が咄嗟に腰を引いた。まだ射精途中だった伊能のペニスから白い液体が俺の顔めがけて飛んでくる。よける暇はなく、便座の蓋を開けて顔を突っ込んだ。
ウゲエッと呻きながら伊能の精液を吐きだす。終わった途端殺していた嫌悪感が蘇り、胃が震えた。出る、と思った時にはもう胃の中のものも吐きだしていた。朝食も昼食も抜いたから消化済みの液体が便器に溜まる。
手探りで水を流すレバーを探していたら、それに気付いた伊能が水を流した。
「ほら」
と目の前にトイレットペーパーが差しだされる。それを受け取り口元と、顔についた伊能の精液を拭った。今はどんな皮肉も慰めも聞きたくない。伊能が黙って個室を出て行ってくれたことは唯一の救いだ。
感じたことのない疲労感があった。喪失感もあった。心とプライドをズタズタにされた。自分が決めたこととは言え、喪ったものは大きかった。
一度深呼吸してから俺も個室を出た。伊能は鏡を見ながら前髪を整えていた。隣に立って水道で手を洗い、口をゆすいだ。伊能の精液の味がのどにこびりついている。一日二日では消えそうにない。
「約束は守る」
顔を洗っていたら伊能の声が聞こえた。当たり前だ。ここまでやって約束を反故にされたらたまらない。
「今夜、島さんに会わせる」
俺の肩をポンと叩くと伊能はトイレを出て行った。
曲げていた腰を伸ばした。ポタポタと顔から滴が落ちる。ワイシャツが濡れて行く。
俺はなんてことをしてしまったんだろう。
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ひとでなし(1/2)
2017.09.07.Thu.
※嘔吐注意。挿入なし。相思相愛じゃない。
昨夜、同僚の伊能と一緒に飲んだ。その時、俺がリストラの対象になっているという噂があると教えてもらった。人事部に伊能の大学時代の先輩がいて、その人から仕入れた情報らしい。
冗談じゃない。今年家を買ったばかりだ。まだ35年もローンが残っている。一昨年子供を産んだばかりの嫁はまだ育休中。小学校に入るまでは専業希望で、俺もそれに賛成した。リストラされたから働いてくれなんて情けなくて言えない。
おかげで昨夜は一睡もできなかった。嫁からエッチのお誘いがあったがそんな気分になれなくて、明日朝が早いからと断った。
眠れないまま朝を迎え、いつもより一時間早く家を出た。新築の家。小さいながらも庭がある。嫁は子供が大きくなったら犬を飼いたいと言っていた。自分で作った犬小屋を庭の隅に置きたいのだそうだ。
微笑ましく思って聞いていた。事と次第によってはこの家を手放さなくてはならなくなる。
嫌だ。やっと手に入れたマイホーム。料理上手で優しい嫁。嫁に似て可愛い娘。もしかしたら全て俺の手から離れてしまうかもしれないのだ。嫌だ。絶対嫌だ。どうしてリストラされるのが俺なんだ。
家を出てすぐ伊能に電話をした。
『もしもし?』
「俺、斉藤」
『どした? こんな朝早く。なんかあった?』
「話があるんだけど」
『ああ……昨日のこと? 気にするなよ。まだ決定じゃなくて、候補の段階らしいから』
「俺の営業成績お前も知ってるだろう」
『お前ならやれる。大丈夫だよ』
「俺は誰かさんみたいに社長賞もらうほど優秀じゃないんだよ。気休めはよせ」
『それもそうか。話って、今日?』
「今からは無理か?」
『起きたばっかだぞ』
「そっちに行くから」
電話の向こうで伊能はため息をついた。
『わかった。俺の家は知ってるな?』
何度か伊能の家で飲んだことがあるので知っていた。電話を切ったあと、電車に乗って伊能の家へ向かった。
インターフォンを鳴らすとすでにワイシャツにネクタイを締めた伊能が扉を開けた。
「ひでえ顔」
「一睡もできなかった」
「だよな」
ワンルームの部屋はいつ来ても整理整頓されててきれいだ。今朝も急な訪問だったのにベッドの布団さえ乱れていない。
「コーヒー飲む?」
伊能は料理が得意だ。俺はコーヒーだって淹れたことがないのに。
「時間がないから本題に入るけど。人事部の先輩って人を俺に紹介して欲しい」
「島さんに?」
「家を買って、子供も生まれたばかりなんだ。いまリストラされるのは困る。嫁と子供に苦労をかけるわけにはいかない。だからどうしてもリストラだけは勘弁してもらいたいんだ」
「直談判する気か?」
「他に方法が思いつかない」
「逆効果になんねえか?」
「じゃあどうしろっていうんだよ?!」
思わず声を荒げた俺に伊能はコーヒーを差し出した。いい匂いがするが、今は悠長にこんなものを飲んでる場合じゃない。
「ま、落ち着けよ。まだ決定じゃないんだし」
「お前は優秀だからいいよ。必要とされてる人材だからそんな余裕ぶっこいてられるんだ。俺の身にもなってみろ。家族もいるから必死だよ。独身者のお前にはわかんないだろうけど」
「確かに俺にはわからんよ」
ベッドに腰をおろし、伊能は足を組んだ。長い足が俺の目の前で交差される。
受付の女の子が伊能には可愛い声色で挨拶してるの知っている。他の女子社員だって、伊能には色目使ってるの、男性社員はみんな知ってるんだからな。キャビンアテンダントの彼女が仕事で海外飛びまわってるのをいいことに、とっかえひっかえ女の子を食っちゃってることも、みんなが知ってるんだからな! お前なんかパイロットに彼女寝取られちまえばいいんだ。いやとっくに寝取られてるに違いない。そうであってくれ。でなきゃ不公平だ。
「今の会社にこだわる意味もわからんし」
「俺には守るべきものがあるんだよ! だからなんだってやる! 島って人に土下座だってするし、舐めろと言われれば足の裏だって舐めるさ!」
「へえ、そこまでやる?」
伊能は眉を持ち上げた。持ってたコーヒーカップをテーブルに置いて、床を指さした。
「じゃ、島さんを紹介してくださいって、俺にも土下座しろよ」
「なっ?!」
伊能の言葉に絶句する。土下座しろだって?!
「愛する妻子を守るためなら、なんでもすんだろ? 嘘だったのかよ」
「嘘じゃないけど……! あれは、言葉のあやって言うか……それに、お前は島さんじゃないだろ!」
「お前の本気を確かめたかったんだ。やっぱその程度じゃん」
せせら笑う伊能に頭の血管が切れそうになった。こいつのことは友人だと思っていた。営業成績に雲泥の差があっても、お互い切磋琢磨しあえるいい関係だと。まさか溺れそうな犬を足蹴にするような奴だったとは思いもしなかった。
会社から切られる俺は、こいつにとってはもう仲良くする必要のない、まったく利用価値のなくなったゴミのような存在なんだろう。だからこんな非道な真似ができるんだ。
「……そんな奴だったなんて、知らなかった」
「性格のいい奴が営業トップなんて取れるわけないじゃん。で、どうする? 土下座する? 可愛い嫁と娘ちゃんのためならなんでもできるんじゃなかったっけ?」
こんな奴に頭なんか下げたくない。でも島さんと繋がりのある知り合いはこいつしか知らない。
「本当に紹介してくれるって約束するか?」
「約束は守るよ。信用のない営業マンは営業失格だからな」
新人の頃、伊能とペアを組んで営業周りをしたことがあった。なんとか新規の客を掴もうと必死にかけずりまわった。飛び込んだとある会社。先方から無茶な条件を出された。断るための条件だった。引きさがろうとした俺に対し、何か考えこんだ伊能は別の条件を出した。先方にとって悪くない条件。こちらにとって少し損は出るが長期的に見ると利益を出す条件。咄嗟に思いついた伊能は流石だった。でもその条件を通すには上司の確認と承認が必要だった。
その条件なら契約するという言質を取ると、伊能はすぐ社に戻って上司にかけあった。一旦は断られたが、トイレまで追いかけ回して説得し、契約書類に上司の判子をもらった。
「必ずこの条件で通すと約束しましたからね」
伊能は先方の担当に笑って言った。新人と思えない自信たっぷりな笑顔だった。それを見た相手から「ずっと君が担当で頼むよ」と言われるほどだった。その間俺は横で相槌を打っていただけだった。
伊能は約束は守る男だ。それは俺が約束出来る。
唇を噛みしめた。膝を折り、床に正座した。伊能を見据えながらゆっくり頭をさげた。伊能は愉快そうにそんな俺を見下ろしている。こいつはもう友人でもライバルでもない。まったくの赤の他人だ。リストラ問題が片付いたら空気みたいに無視してやる。
「これでいいか?」
「ほんとにやりやがった。そんなに嫁と子供が大事か?」
「当たり前だろ! 彼女がいながら遊びまくってるお前にはわからないだろうけどな!」
「……まあね」
「じゃあ、島さんを紹介してくれるんだな?」
「マイホームと大事な家族、土下座ひとつじゃ安すぎないか?」
「何度土下座すればいいんだよ!?」
「土下座よりして欲しいことがあるんだけどな」
「なんだ?」
「これ、舐めてよ」
立ちあがった伊能がベルトを外し、ズボンのチャックを下ろした。俺は思考停止した頭で茫然とそれを見つめていた。
ぼろんと零れ出たのは俺の股間にぶら下がっているものと同じもの。ペニス。ちんこ。陰茎。ちんちん。マラ。息子。呼び名は色々あるが、排泄機能のある生殖器官だ。それを伊能は俺の眼前に晒して、あまつさえブンブンと上下に振っているのだ。
「舐め……なっ……なにを……お前、なにを言って……え、え……」
混乱状態で言葉が出て来ない。状況が理解できない。俺も伊能も当然男だ。俺も伊能もホモじゃない。ノンケの男がちんこをしゃぶらされるなんて屈辱以外のなにものでもない。いくら伊能の正体が冷酷非道なひとでなしだったとしても、こんなことを俺にさせるほどだったとは想像もしていなかった。第一伊能にとっても得にならないはずだ。
「ほん、本気か?!」
「もちろん本気。ほら、舐めろよ」
「そんなことできるわけないだろ!!」
引っぱたいてやろうと腕を振ったが、当たる前に伊能はものをひっこめた。
「じゃ島さんには紹介してやんないぞ」
「それで構わない! そこまでしてお前に頼る気はない! 見損なったぞ、伊能!!」
「見損なわれるほど、俺ってお前の中でいい奴だった?」
「ああ、頼りがいのあるいい友達だと思ってたよ。今朝までな!」
「あはは、見る目なさすぎ。お前、営業向いてないよ」
「うるさい! くたばれ!!」
どかどか足を踏み鳴らして玄関へと向かう。靴を履く俺の耳に「気がかわったらいつでも声かけろよ。ちんこ洗って待ってっから」と伊能の声が聞こえた。
何か言い返す気にもなれず、乱暴に扉を閉めて部屋を出た。
昨夜、同僚の伊能と一緒に飲んだ。その時、俺がリストラの対象になっているという噂があると教えてもらった。人事部に伊能の大学時代の先輩がいて、その人から仕入れた情報らしい。
冗談じゃない。今年家を買ったばかりだ。まだ35年もローンが残っている。一昨年子供を産んだばかりの嫁はまだ育休中。小学校に入るまでは専業希望で、俺もそれに賛成した。リストラされたから働いてくれなんて情けなくて言えない。
おかげで昨夜は一睡もできなかった。嫁からエッチのお誘いがあったがそんな気分になれなくて、明日朝が早いからと断った。
眠れないまま朝を迎え、いつもより一時間早く家を出た。新築の家。小さいながらも庭がある。嫁は子供が大きくなったら犬を飼いたいと言っていた。自分で作った犬小屋を庭の隅に置きたいのだそうだ。
微笑ましく思って聞いていた。事と次第によってはこの家を手放さなくてはならなくなる。
嫌だ。やっと手に入れたマイホーム。料理上手で優しい嫁。嫁に似て可愛い娘。もしかしたら全て俺の手から離れてしまうかもしれないのだ。嫌だ。絶対嫌だ。どうしてリストラされるのが俺なんだ。
家を出てすぐ伊能に電話をした。
『もしもし?』
「俺、斉藤」
『どした? こんな朝早く。なんかあった?』
「話があるんだけど」
『ああ……昨日のこと? 気にするなよ。まだ決定じゃなくて、候補の段階らしいから』
「俺の営業成績お前も知ってるだろう」
『お前ならやれる。大丈夫だよ』
「俺は誰かさんみたいに社長賞もらうほど優秀じゃないんだよ。気休めはよせ」
『それもそうか。話って、今日?』
「今からは無理か?」
『起きたばっかだぞ』
「そっちに行くから」
電話の向こうで伊能はため息をついた。
『わかった。俺の家は知ってるな?』
何度か伊能の家で飲んだことがあるので知っていた。電話を切ったあと、電車に乗って伊能の家へ向かった。
インターフォンを鳴らすとすでにワイシャツにネクタイを締めた伊能が扉を開けた。
「ひでえ顔」
「一睡もできなかった」
「だよな」
ワンルームの部屋はいつ来ても整理整頓されててきれいだ。今朝も急な訪問だったのにベッドの布団さえ乱れていない。
「コーヒー飲む?」
伊能は料理が得意だ。俺はコーヒーだって淹れたことがないのに。
「時間がないから本題に入るけど。人事部の先輩って人を俺に紹介して欲しい」
「島さんに?」
「家を買って、子供も生まれたばかりなんだ。いまリストラされるのは困る。嫁と子供に苦労をかけるわけにはいかない。だからどうしてもリストラだけは勘弁してもらいたいんだ」
「直談判する気か?」
「他に方法が思いつかない」
「逆効果になんねえか?」
「じゃあどうしろっていうんだよ?!」
思わず声を荒げた俺に伊能はコーヒーを差し出した。いい匂いがするが、今は悠長にこんなものを飲んでる場合じゃない。
「ま、落ち着けよ。まだ決定じゃないんだし」
「お前は優秀だからいいよ。必要とされてる人材だからそんな余裕ぶっこいてられるんだ。俺の身にもなってみろ。家族もいるから必死だよ。独身者のお前にはわかんないだろうけど」
「確かに俺にはわからんよ」
ベッドに腰をおろし、伊能は足を組んだ。長い足が俺の目の前で交差される。
受付の女の子が伊能には可愛い声色で挨拶してるの知っている。他の女子社員だって、伊能には色目使ってるの、男性社員はみんな知ってるんだからな。キャビンアテンダントの彼女が仕事で海外飛びまわってるのをいいことに、とっかえひっかえ女の子を食っちゃってることも、みんなが知ってるんだからな! お前なんかパイロットに彼女寝取られちまえばいいんだ。いやとっくに寝取られてるに違いない。そうであってくれ。でなきゃ不公平だ。
「今の会社にこだわる意味もわからんし」
「俺には守るべきものがあるんだよ! だからなんだってやる! 島って人に土下座だってするし、舐めろと言われれば足の裏だって舐めるさ!」
「へえ、そこまでやる?」
伊能は眉を持ち上げた。持ってたコーヒーカップをテーブルに置いて、床を指さした。
「じゃ、島さんを紹介してくださいって、俺にも土下座しろよ」
「なっ?!」
伊能の言葉に絶句する。土下座しろだって?!
「愛する妻子を守るためなら、なんでもすんだろ? 嘘だったのかよ」
「嘘じゃないけど……! あれは、言葉のあやって言うか……それに、お前は島さんじゃないだろ!」
「お前の本気を確かめたかったんだ。やっぱその程度じゃん」
せせら笑う伊能に頭の血管が切れそうになった。こいつのことは友人だと思っていた。営業成績に雲泥の差があっても、お互い切磋琢磨しあえるいい関係だと。まさか溺れそうな犬を足蹴にするような奴だったとは思いもしなかった。
会社から切られる俺は、こいつにとってはもう仲良くする必要のない、まったく利用価値のなくなったゴミのような存在なんだろう。だからこんな非道な真似ができるんだ。
「……そんな奴だったなんて、知らなかった」
「性格のいい奴が営業トップなんて取れるわけないじゃん。で、どうする? 土下座する? 可愛い嫁と娘ちゃんのためならなんでもできるんじゃなかったっけ?」
こんな奴に頭なんか下げたくない。でも島さんと繋がりのある知り合いはこいつしか知らない。
「本当に紹介してくれるって約束するか?」
「約束は守るよ。信用のない営業マンは営業失格だからな」
新人の頃、伊能とペアを組んで営業周りをしたことがあった。なんとか新規の客を掴もうと必死にかけずりまわった。飛び込んだとある会社。先方から無茶な条件を出された。断るための条件だった。引きさがろうとした俺に対し、何か考えこんだ伊能は別の条件を出した。先方にとって悪くない条件。こちらにとって少し損は出るが長期的に見ると利益を出す条件。咄嗟に思いついた伊能は流石だった。でもその条件を通すには上司の確認と承認が必要だった。
その条件なら契約するという言質を取ると、伊能はすぐ社に戻って上司にかけあった。一旦は断られたが、トイレまで追いかけ回して説得し、契約書類に上司の判子をもらった。
「必ずこの条件で通すと約束しましたからね」
伊能は先方の担当に笑って言った。新人と思えない自信たっぷりな笑顔だった。それを見た相手から「ずっと君が担当で頼むよ」と言われるほどだった。その間俺は横で相槌を打っていただけだった。
伊能は約束は守る男だ。それは俺が約束出来る。
唇を噛みしめた。膝を折り、床に正座した。伊能を見据えながらゆっくり頭をさげた。伊能は愉快そうにそんな俺を見下ろしている。こいつはもう友人でもライバルでもない。まったくの赤の他人だ。リストラ問題が片付いたら空気みたいに無視してやる。
「これでいいか?」
「ほんとにやりやがった。そんなに嫁と子供が大事か?」
「当たり前だろ! 彼女がいながら遊びまくってるお前にはわからないだろうけどな!」
「……まあね」
「じゃあ、島さんを紹介してくれるんだな?」
「マイホームと大事な家族、土下座ひとつじゃ安すぎないか?」
「何度土下座すればいいんだよ!?」
「土下座よりして欲しいことがあるんだけどな」
「なんだ?」
「これ、舐めてよ」
立ちあがった伊能がベルトを外し、ズボンのチャックを下ろした。俺は思考停止した頭で茫然とそれを見つめていた。
ぼろんと零れ出たのは俺の股間にぶら下がっているものと同じもの。ペニス。ちんこ。陰茎。ちんちん。マラ。息子。呼び名は色々あるが、排泄機能のある生殖器官だ。それを伊能は俺の眼前に晒して、あまつさえブンブンと上下に振っているのだ。
「舐め……なっ……なにを……お前、なにを言って……え、え……」
混乱状態で言葉が出て来ない。状況が理解できない。俺も伊能も当然男だ。俺も伊能もホモじゃない。ノンケの男がちんこをしゃぶらされるなんて屈辱以外のなにものでもない。いくら伊能の正体が冷酷非道なひとでなしだったとしても、こんなことを俺にさせるほどだったとは想像もしていなかった。第一伊能にとっても得にならないはずだ。
「ほん、本気か?!」
「もちろん本気。ほら、舐めろよ」
「そんなことできるわけないだろ!!」
引っぱたいてやろうと腕を振ったが、当たる前に伊能はものをひっこめた。
「じゃ島さんには紹介してやんないぞ」
「それで構わない! そこまでしてお前に頼る気はない! 見損なったぞ、伊能!!」
「見損なわれるほど、俺ってお前の中でいい奴だった?」
「ああ、頼りがいのあるいい友達だと思ってたよ。今朝までな!」
「あはは、見る目なさすぎ。お前、営業向いてないよ」
「うるさい! くたばれ!!」
どかどか足を踏み鳴らして玄関へと向かう。靴を履く俺の耳に「気がかわったらいつでも声かけろよ。ちんこ洗って待ってっから」と伊能の声が聞こえた。
何か言い返す気にもなれず、乱暴に扉を閉めて部屋を出た。