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更新履歴・お知らせ

2017/09/08
ひとでなし2、完結

2017/09/07
ひとでなし1、更新

2017/09/02
ほんとにあったら怖い話2完結

2017/09/01
ほんとにあったら怖い話1更新

2017/07/28
コンビ愛更新、完結

2017/07/06
第二ボタン2更新、完結

2017/07/05
第二ボタン1更新

2017/05/25
ちょろくない2更新、完結

2017/05/24
ちょろくない1更新

2017/05/16
やっぱちょろい2更新、完結

2017/05/15
やっぱちょろい1更新

2017/02/11
メリクリあけおめ2更新、完結

2017/02/10
メリクリあけおめ1更新

2016/11/14
義父の訪問更新、完結

2016/10/27
覗き2更新、完結

2016/10/26
覗き1更新

2016/10/22
終わらない夜2更新、完結

2016/10/21
終わらない夜1更新

2016/10/16
凹の懊悩2更新、完結

2016/10/15
凹の懊悩1更新

2016/09/28
可愛さも憎さも百倍2更新、完結

2016/09/27
可愛さも憎さも百倍1更新

2016/09/22
利害の一致2更新、完結

2016/09/21
利害の一致1更新

2016/09/16
楽しい記憶喪失!3更新、完結

2016/09/15
楽しい記憶喪失!2更新

2016/09/14
楽しい記憶喪失!1更新

2016/09/13
楽しい同棲!2更新、完結

2016/09/12
楽しい同棲!1更新

2016/09/11
Phantom15更新、完結

2016/09/10
Phantom14更新

2016/09/09
Phantom13更新

2016/09/08
Phantom12更新

2016/09/07
Phantom11更新

2016/09/06
Phantom10更新

2016/09/05
Phantom9更新

2016/09/04
Phantom8更新

2016/09/03
Phantom7更新

2016/09/02
Phantom6更新

2016/09/01
Phantom5更新

2016/08/31
Phantom4更新
リンク一件追加

2016/08/30
Phantom3更新

2016/08/29
Phantom2更新

2016/08/28
Phantom1更新

2016/08/04
嘘7更新、完結

2016/08/03
嘘6更新

2016/08/02
嘘5更新

2016/08/01
嘘4更新

2016/07/31
嘘3更新

2016/07/30
嘘2更新

2016/07/29
嘘1更新

2016/07/18
Love Scars3更新、完結

2016/07/17
Love Scars2更新

2016/07/16
Love Scars1更新

2016/07/13
行きつく先は5更新、完結

2016/07/12
行きつく先は4更新

2016/07/11
行きつく先は3更新

2016/07/10
行きつく先は2更新

2016/07/09
行きつく先は1更新

2016/07/04
電話が鳴る7更新、完結

2016/07/03
電話が鳴る6更新

2016/07/02
電話が鳴る5更新

2016/07/01
電話が鳴る4更新

2016/06/30
電話が鳴る3更新

2016/06/29
電話が鳴る2更新

2016/06/28
電話が鳴る1更新

2016/06/16
今日の相手も2更新、完結

2016/06/15
今日の相手も1更新

2016/06/08
今日の相手は2更新、完結

2016/06/07
今日の相手は1更新

2016/05/25
いおや2更新、完結

2016/05/24
いおや1更新

2016/05/14
奇跡2更新、完結

2016/05/13
奇跡1更新

2016/04/28
ターゲット2更新、完結

2016/04/27
ターゲット1更新

2016/03/02
視線の先2更新、完結

2016/03/01
視線の先1更新

2016/02/23
性癖の道連れ2更新、完結

2016/02/22
性癖の道連れ1更新

2016/02/15
DL販売お知らせ

2016/01/20
尾行2更新、完結

2016/01/19
尾行1更新

2015/12/07
遺作2更新、完結

2015/12/06
遺作1更新

2015/12/02
昼夜2更新、完結

2015/12/01
昼夜1更新

2015/11/26
大小2更新、完結

2015/11/25
大小1更新

2015/11/15
彼はセールスマン2更新、完結

2015/11/14
彼はセールスマン1更新

2015/10/22
2度あることは2更新、完結

2015/10/21
2度あることは1更新

2015/09/18
死神さんいらっしゃい2更新、完結

2015/09/17
死神さんいらっしゃい1更新

2015/09/08
Congratulations2更新、完結

2015/09/07
Congratulations1更新

2015/09/01
待田くんに春の気配3更新、完結

2015/08/31
待田くんに春の気配2更新

2015/08/30
待田くんに春の気配1更新

2015/08/11
亀の恩返し2更新、完結

2015/08/11
亀の恩返し1更新

2015/08/07
Aからのメール2更新、完結

2015/08/06
Aからのメール1更新

2015/07/06
5年後2更新、完結

2015/07/05
5年後1更新

2015/07/04
待っててね2更新、完結

2015/07/03
待っててね1更新

2015/05/11
その後3更新、完結

2015/05/10
その後2更新

2015/05/09
リクエスト小説
その後1更新

2015/05/05
待田くんに春はこない2更新、完結

2015/05/04
待田くんに春はこない1更新

2015/04/30
楽しいシーソーゲーム!2
更新、完結

2015/04/29
楽しいシーソーゲーム!1更新

2015/04/21
楽しい親子喧嘩!1
楽しい親子喧嘩!2更新、完結

2015/04/16
楽しい放課後!2更新、完結

2015/04/15
楽しい放課後!1更新

2015/04/06
楽しい合コン!2更新、完結

2015/04/05
楽しい合コン!1更新

2015/04/01
楽しいお見舞い!2更新、完結

2015/03/30
楽しいお見舞い!1更新

2015/03/24
楽しい旧校舎!2更新、完結

2015/03/23
楽しい旧校舎!1更新

2015/03/16
楽しい入院生活!2更新、完結

2015/03/15
楽しい入院生活!1更新

2015/03/05
楽しい遊園地!2更新、完結

2015/03/04
楽しい遊園地!1更新

2015/02/27
楽しいロッカールーム!2更新、完結

2015/02/26
楽しいロッカールーム!1更新

2015/02/16
楽しいOB会!2更新、完結

2015/02/15
楽しいOB会!1更新

2015/02/14
一周年!!
いつもありがとうございます!
君は日向の匂い更新、完結
シンデレラアイドルのSSです

2015/02/13
保健室の先生2更新、完結

2015/02/12
保健室の先生1更新

2015/02/11
teeth2更新、完結

2015/02/10
teeth1更新

2015/02/09
楽しい初カノ!2更新、完結

2015/02/08
楽しい初カノ!1更新

2015/01/31
楽しい勉強会!2更新、完結

2015/01/30
楽しい勉強会!1更新

2015/01/23
楽しいお泊り!2更新、完結

2015/01/22
リクエスト小説
楽しいお泊り!1更新

2015/01/08
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願い致します!
リクエスト小説
両想い1、2更新、完結

2014/12/12
楽しい合宿!2更新、完結

2014/12/11
楽しい合宿!1更新

2014/12/01
アガルタ2更新、完結

2014/11/30
リクエスト小説
アガルタ1更新

2014/11/23
朝のお楽しみ2更新、完結

2014/11/22
リクエスト小説
朝のお楽しみ1更新

2014/11/14
即位式2更新、完結

2014/11/13
即位式1更新

2014/11/04
裏ドSくん3更新、完結

2014/11/03
裏ドSくん2更新

2014/11/02
裏ドSくん1更新

2014/11/01
ひみつのドSくん2更新、完結

2014/10/31
ひみつのドSくん1更新

2014/10/30
伴侶1、2更新、完結

2014/10/27
支配人3更新、完結

2014/10/26
支配人2更新

2014/10/25
支配人1更新

2014/10/24
隣人3更新、完結

2014/10/23
隣人2更新

2014/10/22
隣人1更新

2014/10/15
元上司2更新、完結

2014/10/14
リクエスト小説
元上司 1更新

2014/10/10
ニコニコドッグⅡ 2更新、完結

2014/10/09
リクエスト小説
ニコニコドッグⅡ 1更新

2014/10/04
茶番2更新、完結

2014/10/03
リクエスト小説
茶番1更新

2014/09/12
「ちょろい 2」更新、完結

2014/09/11
「ちょろい 1」更新

2014/09/08
「新雪の君」更新、完結

2014/09/06
コメントお返事させて頂きました

2014/09/05
「すばらしい日々3」更新、完結

2014/09/04
「すばらしい日々2」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/03
リクエスト小説
「すばらしい日々1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/01
「好きと言って4」更新、完結

2014/08/31
「好きと言って3」更新

2014/08/30
「好きと言って2」更新

2014/08/29
リクエスト小説
「好きと言って1」更新

2014/08/24
「純粋に近付いた何か2」更新、完結

2014/08/23
リクエスト小説
「純粋に近付いた何か 1」更新

2014/08/15
コメントお返事させて頂きました

2014/08/14
再会2更新、完結
コメレスさせて頂きました

2014/08/13
リクエスト小説「再会1」更新
「ノビ」の続編です

2014/07/26
コメントお返事させて頂きました

2014/07/25
息子さんを僕にください2更新完結

2014/07/24
リクエスト小説「息子さんを僕にください1」更新
娘さんを僕に下さいとは無関係ですw

2014/07/22
コメントお返事させて頂きました

2014/07/20
久しく為さば須らく2更新、完結
コメントお返事させて頂きました

2014/07/19
リクエスト小説「久しく為さば須らく1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/07/18
コメントお返事させて頂きました

2014/07/16
コメントお返事させて頂きました

2014/07/15
コメントお返事させて頂きました

2014/07/14
コメントお返事させて頂きました

2014/07/13
リクエスト小説「嫉妬せいでか2」更新、完結
コメお返事させて頂きました

リクエスト小説「嫉妬せいでか1」更新

2014/07/11
拍手お返事させて頂きました
お知らせ一件

2014/07/10
コメント、拍手お返事させて頂きました

2014/07/09
拍手お返事させて頂きました

2014/07/08
コメント、拍手お返事させて頂きました
耽溺 2更新、完結

2014/07/07
拍手お返事させて頂きました
リクエスト小説「耽溺 1」更新

2014/07/06
拍手お返事させて頂きました

2014/07/05
拍手お返事させて頂きました

2014/07/04
コメント、拍手、お返事させて頂きました

2014/07/03
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後 2更新、完結

2014/07/02
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後1更新しました

2014/07/01
コメントお返事させて頂きました
シンデレラアイドル2更新、完結

2014/06/30
拍手お返事させて頂きました
シンデレラアイドル1更新しました

2014/06/29
リクエスト募集してます

2014/06/27
拍手お返事させて頂きました

2014/06/24
目は口ほどに 更新、完結

2014/06/17
茶々丸更新、完結
獣姦っぽい

2014/06/11
連鎖 2更新、完結

2014/06/10
連鎖 1更新

2014/06/07
拍手お返事させて頂きました

2014/06/06
拍手お返事させて頂きました

2014/06/05
拍手お返事させて頂きました

2014/06/04
元旦那さん 2更新、完結

2014/06/03
元旦那さん 1更新
旦那さんの続きです

2014/05/29
昨日の記事の続きで拍手お返事させてもらっています

2014/05/28
旦那さん 2更新、完結

2014/05/27
旦那さん 1更新

2014/05/22
夢の時間2更新、完結

2014/05/21
アンケート1位小説「親子」
夢の時間1更新

2014/05/16
この物語はフィクションです更新、完結

2014/05/14
アンケート1位小説「教師と生徒」で先生受け。
信じて下さい更新。完結

2014/05/11
純粋とは程遠いなにか2更新。完結
ダウンロード販売のお知らせ

2014/05/09
純粋とは程遠い何か1更新

2014/05/01
長男としての責務2更新。完結

2014/04/30
長男としての責務1更新

2014/04/27
セフレ更新。完結

2014/04/21
嘘が真になる2更新。完結

2014/04/20
嘘が真になる1更新。
アンケート終了しました
投票してくださった皆さんありがとうございました!

2014/04/15
親切が仇になる2更新。完結

2014/04/14
親切が仇になる1更新

2014/04/11
家庭教師更新。完結

2014/04/09
惚れ薬2更新。完結

2014/04/08
惚れ薬1更新

2014/04/05
ニコニコドッグ更新。完結

2014/04/03
健やかなるときも病めるときも更新。完結
アンケート設置1ヶ月記念更新
回答ありがとうございます!

2014/04/02
お隣さん2更新。完結

2014/04/01
お隣さん1更新

2014/03/28
B3-17 はるか更新。完結

2014/03/27
会話の語尾は常にハートマーク更新。完結

2014/03/24
僕の居場所更新。完結

2014/03/21
兄弟愛(3/3)更新。完結

ストックを全て出し切ってしまいましたので毎日更新は今日で終わりになります。
これからは書き終わり次第更新していきますので、引き続きよろしくお願い致します。

2014/03/20
兄弟愛(2/3)更新。

2014/03/19
兄弟愛(1/3)更新。

2014/03/18
7歳の高校生更新。完結

2014/03/17
7歳の高校生更新

2014/03/16
裏の顔更新。完結
アンケート2位「教師と生徒」
少し違う感じになりました。

2014/03/15
残業も悪くない更新。完結
アンケート結果を反映させてみました。
アンケートに答えてくださった皆さんありがとうございます。引き続きお願い致します

2014/03/14
片思い更新。完結

2014/03/13
クラスの地味男更新。完結

2014/03/12
吉原と拓海更新。完結

2014/03/11
罠更新。完結

2014/03/10
同級生更新。完結

2014/03/09
目覚め更新。完結
FC2小説にて、
閃光戦士フラシュレッド!公開。完結。

2014/03/08
やってられない更新。完結

2014/03/07
地下の城ピュラタ更新。完結

2014/03/06
地下の城ピュラタ更新。

2014/03/05
部室にて更新。完結

2014/03/04
すべからく長生きせよ更新。完結

2014/03/03
秘め事更新。完結
アンケート設置。ご協力お願いします

2014/03/02
映画館にて更新。完結

2014/03/01
大迷惑@一角獣更新。完結

2014/02/28
大迷惑@一角獣更新。

2014/02/27
僕はセールスマン更新。完結

2014/02/26
俺のセールスマン更新。完結

2014/02/25
夏の夜更新。完結

2014/02/24
妄想更新。完結

2014/02/23
先生 その2更新。完結

2014/02/22
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2014/02/21
洞窟更新。

2014/02/20
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先生 その1(2-2)更新。完結

2014/02/19
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2014/02/18
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2014/02/17
ノビ更新。

2014/02/16
1万3千円更新。完結

2014/02/15
1万3千円更新。

2014/02/14
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2014/02/14
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よろしくお願いします。

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薔薇色の日々
  (「裏の顔」改訂版)

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Phantom (15/15)

1話2話3話4話5話6話7話8話9話10話11話12話13話14話


 用心に用心を重ね、何度もシミュレーションし、計画を練り直し、何通りもの案を考え、実行できるように準備した。

 マンションの住人と男子学生の行動パターンを調べ上げた。午前11時を過ぎると住人に会うことはほとんどない。男子学生は授業には一応出ているようで、9時から18時頃までは授業のない時間も大学にいることがほとんどだということがわかった。

 マンションの非常ドアは中から施錠されているだけで、開けておいても誰も気付かないし、利用もしない。監視カメラもなく、ここから出入り自由だった。

 下調べをしている時、一度男子学生とニアミスした。春の終わり頃、彼は半袖の服を取りに来たようだった。なんとか会わずに済んだ。恋人とも順調なようで安心した。

 拾った保険証でトランクルームの契約をした。契約するときには普段着ないカジュアルな服を着て、野球帽で顔を隠した。四ヶ月という短期問契約で、使用料は前払い。契約書には事前に暗記しておいた最上渓一の名前と住所を書いた。

 引っ越し業者を呼んで、契約しておいたトランクルームへ荷物を運んでもらった。立ちあったのは最初と最後、鍵の開け閉めが必要な時だけ。業者に何か言われたら男子学生の兄で通そうと決めていたが、特に何も言われることもなく、引っ越しは完了した。

 学生の部屋に戻り、がらんとした空間に座り込んだ。本当に実行する気かと何度も自問自答する。ここまでやって今更引き返せるのかと声がする。

 久世の会社帰りや、借りているワンルームのあたりをウロウロして、遠目に何度か顔は見ていた。青白い顔をしていて、疲れている様子だった。仕事がきついのか、留美に振られたからか。

 たまに後輩らしい青年と飲みに行くこともあった。

 見知らぬ青年に笑いかける久世を見るのは辛かった。人見知りであるはずなのに、青年とはずいぶん親しげに見えた。それほど多く時間を共有しているということだろう。

 物陰から盗み見している自分がひどく惨めだった。

 恋人になりたいなんて身の程知らずなことを願ったりしなかったのに。ただ、そばにいられれば、それだけが望みだったのに。

 自分の知らない間に久世はどんどん交友関係を築いて広げていく。その中に久世の心を射止める者が出て来るだろう。そしていつか結婚報告されるのだ。結婚式の招待状が送りつけられ、数年後に家族写真の年賀状が届く。久世のそばに自分の居場所はなくなる。

 冷静ではいられない。平気なわけがない。それは耐えられない苦痛だ。

 樫木は実行する決心をした。
 


 そもそもが成功するか怪しい計画だ。男子学生が帰って来れば即刻終了。小さな綻びから破綻してしまう危うい綱渡りだ。その時にはすべてを捨てる覚悟で、樫木は久世の帰りを待ち伏せし、スタンガンで襲いかかった。

 男子学生の部屋に連れて行き、気絶している久世の衣類を脱がせた。全裸になった久世にしばらく見とれた。これから久世と一緒にいられる。最長で三ヶ月、短くて数時間。しっかり目に焼き付けてから次の作業にかかった。

 期間を三ヶ月間と決めたのは、運が良ければ次の衣替えの時期まで男子学生は戻ってこないと踏んだからだ。

 逃げられないよう足首にSM用の鍵付きバンドを巻き、ロープを括りつけた。ロープの長さはある程度行動はできるようにしてある。

 ベランダと窓の雨戸は閉めておいた。目隠し用の布を枕元に置き、パソコンで作成したメモは、目を覚ました久世が部屋を見渡した時最初に見つけられるように床に置いて、樫木は部屋を出た。

 久世が目を覚ましたのは数時間後、明け方近くだった。盗聴器と隠しカメラで、近くに停めた車からその様子を窺っていた。

 久世は自分の置かれた状況に顔を青くして混乱していた。無理もない。長い時間をかけてメモを読み、長い時間茫然としたあと、震える手で目隠しを取った。

 ベッドの上で膝を抱え、小さくなるとピクリとも動かなくなった。

 樫木は事前に用意しておいた香水をつけた。二種類の香水をブレンドしたもので、世界に一つの香水になっている。失敗しながら試行錯誤し、一番上品な匂いになる二種類を選んだ。

 これで久世が他の誰かと自分の匂いを間違えることはないはずだ。この匂いを嗅げばいつどこにいても自分を思い出すはずだ。

 しばらくモニターを観察してから部屋に戻った。音を聞きつけ、久世はさらに小さくなって怯えていた。心が痛むと同時に、愛おしさが溢れてきて樫木は無意識に笑みを湛えていた。

 まず目隠しの状態を確かめ、それから久世の体に触れた。極度の緊張のせいで久世の体は冷たかった。触ると肌が粟立るのが見えた。ブルブルと震えだし、「助けて」と掠れた声を出した。

 傷つけるつもりなんかないとわかってもらうために、ことさら優しくした。愛情を伝えるために体中に口づけた。

「許して……っ」

 瀕死の者のような悲痛な叫び声だった。本人は大きな声を出しているつもりなのだろうが、部屋の空気をわずかに震わせる程度の声量なのが哀れだった。

 抵抗すればスタンガンの存在を耳に教えた。石像のように固まった久世を四つん這いにさせ、大人になってからは誰にも見せたことがないだろう場所を見た。

 すすり泣く久世を慰めるように舌を這わせた。今までの思いの丈をぶつけるように、丁寧に時間をかけて丹念に舐め解した。何時間だって舐めていられる。

 手足が疲れたのか久世はベッドに突っ伏した。太ももがガクガク震えていた。つい夢中になってしまったことに気付いた。名残惜しかったが次の段階へ移った。

 ローションで穴を潤わせ、ペニスを挿入した。自分のしでかしたことも忘れてその瞬間は恍惚に浸った。

 久世の負担を考え、慣れるまでは動かずじっとしていた。久世の中は温かくて蕩けそうだった。射精の予感を紛らわそうと久世の体を舐めながら、苦痛を和らげてやるためにペニスを触った。

 久世の様子をみながら腰を動かしたり、止めたりした。嗚咽を漏らすだけの久世も、ペニスを刺激され続けて射精した。手にかかった生温かい液体を舐め取った。久世のものなら何もかもが愛しい。

 我ながらよく持ったと感心するほど長い時間のあと久世のなかに精を放った。力尽きたのか久世はぐったりと横たわる。

 お湯で絞ったタオルで久世の体を綺麗に拭いた。涙のあとが痛々しい顔は優しく、精液にまみれた性器は包みこむように、全身の汚れをくまなく拭い取った。

 布団のなかに寝かせると、久世は気絶するように眠りに落ちた。

 時計を見ると正午を過ぎていた。驚くほど時間の経過が早い。

 それから毎日、自宅と監禁部屋の往復だった。

 仕事は夕方にして、学生が学校に行っているはずの時間は久世と一緒にいた。

 最初の一ヶ月は久世の態度は硬かった。樫木が来たとわかると硬直し、体を震わせ、触ると許してと泣き、犯すと声すら失って呻くだけだった。

 二ヶ月目から少しかわってきた。樫木が危害を加えないことが理解できたのか、なすがまま、体を預けて来るようになった。心細さからか、逃げる好機を狙ってか、話しかけてくるようになったのもこの頃だ。

 三ヶ月目は別人になったと言ってよかった。樫木が部屋に入って雑事を片付けている間、その物音や気配を追って顔を動かしていた。深く息を吸いこむ動作も見られた。香水の匂いを、樫木の匂いだと認識しているのだ。

 シャワーで体を洗ってやると礼を言われるようになった。キスをすると舌を絡ませてきた。体を触れば甘ったるい吐息を漏らした。性器を擦れば声をあげた。ペニスを挿入すれば気持ちいいと喘ぐようになった。

 本能的な自己防衛から来る変化だとわかっていても、乱れる久世を見るのは興奮したし、嬉しかった。この時間が永遠に続けばいいのにと願った。何度目隠しを外し、自分のマンションへ連れ帰って一生閉じ込めておこうと思ったか知れない。

 そろそろタイムリミットが近づいていた。物悲しく思いながらベッドの久世を見下ろした。

「……どうしたの? 早く、入れて……っ……僕のなか、もうトロトロだよ……? あなたのを入れて欲しくてヒクヒクしてるの……見えるでしょ……?」

 淫らに変貌した久世を置いていくくらいなら、繋がったままの現場を取り押さえられ、何もかも失ったほうがマシだと思えて来る。

「ねえ、早く……僕のなか、あなたのでグチャグチャに掻きまわして……っ」

 頭を振って感傷を吹き飛ばした。ゆっくり味わうようにペニスを挿入した。中は熱くうねっている。直接敏感な部分を擦り合うのはこれが最後だ。明日からは証拠を消すための、最終段階に入る。

 この匂いを覚えておいて。次に会う時まで忘れないで。必ず迎えに行くから。その時まで愛しい人よ、待っていて。




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2016-09-11(Sun) 20:45| Phantom| トラックバック(-)| コメント 5

Phantom (14/15)

1話2話3話4話5話6話7話8話9話10話11話12話13話


 自分にぴったりくっついて、久世が寝息を立てている。無邪気で美しい寝顔だ。知り合った学生の頃と比べて幼さは抜け切りすっかり大人の顔つきになっているが、何年経とうが彼の芯の強さと、人としての美しさは変わらない。

 その寝顔をしばらく眺めたあと、樫木はそっとベッドを抜け出した。物音を立てないように奥のウォークインクローゼットに行き、蓋つきの箱の底から香水の瓶を二本抜きとると寝室を出た。

 キッチンで袋とタオルを用意した。袋にタオルを入れ、そこにアトマイザーの中身を捨てた。嗅ぎ慣れた匂いが立ちこめる。換気扇を回した。朝には消えているといいが。

 次に、クローゼットから出した瓶も分解し、中身を袋のなかに捨てた。どんどんタオルに染み込まれて行く。新しいタオルを上にかぶせ、袋の口を縛った。さらに袋を二重にして同様に口を縛り、空になったアトマイザーと一緒にゴミ箱に捨てた。

 瓶二本は小さな袋に入れてベランダのゴミ箱に入れた。久世がベランダに出たとしても、ゴミ箱を開けて中身を検めることはしないだろう。

 真っ青な瓶と、透明な瓶。この二つを合わせたものが、アトマイザーの中身だ。もう必要はない。完全にとは言い難いが、ほとんど久世を手に入れたようなものだ。あとは失わないよう、他の誰かに奪われないように、注意を払いながら久世を大事に守っていけばいい。

『知りあってからずっと、俺は一度も久世を見失ったことはないよ』

 久世に言った言葉は本当だ。知り合った日から久世のことが好きだった。

 最初は友人の紹介だった。「どうも」とにこりともしない冷淡な会釈を寄越してきた久世の悪い第一印象は、講義のあと友人たちと一緒に食事に行った時に一変した。

 酒の席で久世はよく喋り、よく笑った。人見知りなのか、初対面の樫木には滅多に話しかけてこなかったが、それは初対面同士お互い様だった。

 悪のりした友人が樫木に強く酒を勧めてきた。まだ飲みなれていなかった樫木は、困りながらも、場の空気を悪くするのは気が引けて、グラスに手を伸ばそうとした。

 その時に「やめておけよ」と止めたのが久世だった。友人に「無理強いするな」と言い、樫木には「お前も嫌なら断れよ」と言った。この時、久世の強さと優しさに気付いて、恋に落ちた。

 同性を好きになったのは久世が初めてだった。これほど執着したのも久世が初めてだった。

 積極的に声をかけた。戸惑い気味だった久世も段々と慣れて、2人だけで行動することが増えた。誘うのは専ら樫木からだった。たまに久世から誘われると舞い上がった。

 この頃、以前から計画していた会社を友人と一緒に興した。携帯ゲームアプリの会社だ。経理や事務などの雑務をすべて引き受けたのは樫木で、プログラミングなどの専門的な部分は友人が担当した。

 どうせ無理だと周りのみんなが決めつける中、久世だけは「頑張れよ」と肩を叩いて励ましてくれた。嫌味でも揶揄でもなく、本心からの言葉だというのは目を見ればわかった。

 それまでの下準備が万全だったのもあり、結果は数か月で出た。アプリがヒットし、大学生が手に入れるには大きすぎる金額が懐に入って来た。途端に、手のひら返しが始まった。

 女にモテるようになった。知らない奴から声をかけられるようになった。中には絶対無理だと馬鹿にしていた連中もいた。

 そんな中、飲みに誘ってくれた久世だけは、「おめでとう。今日は俺のおごり」と成功を喜んでくれた。樫木の財布を当てにせずに、飲み代を払い、帰りのタクシー代は割り勘にして、と手を合わされた。

 久世が女だったら良かったのに、と何度も思った。ならばもっと単純だった。自分が女でもいい。久世は完全にヘテロだった。

 恋人になりたいなんて高望みはしなかった。そばにいられるならただの友人で良かった。

 久世が花村という女の子と付き合い出したと聞いた時は無理だった。認められるほど心は広くなかった。自分がこれほど嫉妬深いと知ったのもこの時だ。

 久世にも誰にも気づかれないよう、久世の彼女に近づいた。彼女は樫木のことを一財築いた学生だと知っていて、凄いね、としきりに褒めて来た。

 少し気のある素振りをした。彼女のために金を使った。簡単になびいてきた。久世とは知り合いだから……と曖昧な態度をみせれば、彼女はあっさり久世と別れた。久世との交際期間はわずか二週間。この程度の女だと思うと罪悪感はなかった。久世には似合わない。

 彼女と会うのを止めた。しばらく付き纏われたが、やがて諦めて消えた。

 卒業してから久世とはとんと会うことがなかった。何度か連絡してみたが、仕事が忙しいからと断られ続け、誘うことは諦めた。樫木も会社のほうがゴタついていた時期でもあった。

 共同経営者の友人が会社の金を使いこんでいることがわかったのだ。従業員を雇い、社長業のほとんどを樫木が引き受けていたのが裏目にでたようだ。

 仕事をしなくても金の入る環境にいた友人は堕落した。預金を使いきり、会社の金に手を出した。もちろんすぐバレた。

 従業員の手前、うやむやにするわけにもいかなくなり、刑事告訴することになった。酷い罵りを受けた。結局友人の親が金を工面して示談することになったが、樫木は数人の友人を失った。

 友達を刑事告訴するなんて酷いとかつての友人たちが抗議の電話をしてきたのである。事情を話しても、金は持ってるくせに薄情者だと罵られた。

 この一件で樫木はとても落ち込んだ。どうしても久世に会いたくなった。久世の会社、いまの住まい、交友関係、すべて調べ上げ、久世に彼女がいることを知った。相手は同じ会社の同期。

 やはり、祝う気持ちにはなれなかった。

 仕事で知り合った顔が広くて社交的な若いSEに合コンを頼んだ。久世の勤める会社の女子社員がいいと指定し、できれば同年代の女の子、そう注文すると、彼は注文通りの合コンをセッティングしてくれた。

 合コンの前に、ただの遊びだから、自分がどこの誰か明かさないで欲しいと頼んでおいた。合コンの席において、樫木は葛城という偽名を名乗り、広告代理店勤務と肩書を偽った。

 時間がかかるかもしれないと覚悟していたのに、意外にも1回目の合コンに久世の彼女がいた。人数合わせに呼ばれたのだというのは、乗り気じゃない態度ですぐにわかった。

 しかし彼氏がいるなんて興ざめなことは言わないで、最低限場の雰囲気に合わせていた。

 悪い子ではなさそうだった。だから余計、許せなかった。早ければ結婚を意識してもおかしくない年齢だ。男女というだけで垣根が低くなるなんて不公平だ。

 留美という女に近づいた。好青年を演じた。積極的になりすぎず、消極的にもなりすぎず。少し奥手なくらいのほうが女は安心する。真面目な男のふりをした。

 最初は警戒心剥きだしだった留美もやがて警戒を解き、緊張を解し、樫木の冗談に笑い声をあげ、酒を勧めれば素直に手をつけ、帰りはタクシーで家の前まで送らせた。

 その時に「実は私、彼氏がいるの」と打ち明けられた。

「君を奪うと言ったら?」
「そんなの、困る」
「こんな気持ちになったのは君が初めてなんだ」
「私だって……」
「こんなことを言うと嫌な奴だと思われるかもしれないが、みんな僕に色目を使うんだ。君だけはそんなことをしなかった。僕という人間の中身を見てくれた。だから、これで終わりなんて嫌なんだ。彼氏がいるなんて理由だけで僕を振らないで欲しい。出会った順番だけで決めてしまうのかい? 少しでも僕に可能性があるなら、電話してくれ」

 切なく訴えたあと、タクシーで去った。数日後に電話がかかってきた。彼と別れたと言う。落ち込む久世を思うと胸が痛んだ。

 久世と留美が本当に別れたのかを確かめてから携帯電話を解約した。そして嫌な思いの付き纏う会社を売り払った。

 それからもずっと久世の動向は定期的に探っていた。その頃、最上渓一の財布を拾った。現金の他にカード類も入っていて落とし主はさぞ困っているだろうと同情した。すぐに警察に届けるつもりだった。

 免許書を見ると齢が近かった。(顔写真の入っているものは駄目だ。住所は控えておくと役に立つかもしれない。)保険証も入っていた。(これは使える。)

 気が付くと保険証を自分のポケットに入れていた。免許書の写メを撮ったあと財布に戻し、念のため指紋を拭き取ってから公園のベンチの下に置いた。

 盗んだ保険証をどうするかなんて、この時はまだ何も考えていなかった。

 数ヶ月後、たまたま入った喫茶店で若い男女の会話が聞こえた。男のほうはやる気のない音大生で、彼女の部屋に入り浸っていることがわかった。ほとんど部屋に帰らず、家賃は何も知らない親が払い続けていることもわかった。

 新学期に必要な勉強道具を取りに行くという話になった。二人が店を出ると、樫木も店を出た。だんだん形になっていく恐ろしい計画を考えながら、2人のあとをつけ、男子学生のマンションを突き止めた。

 二人が荷物を取りに入った部屋は1階の端の部屋だ。運が味方しているとしか思えない。それを見届けてからマンションのまわりを歩いてみた。

 防犯カメラの位置、数。出入り口は1つ──学生の部屋の奥にも非常出入り口があった。まわりは民家に囲まれ、庭から伸びた木が道路に影を作っている。そっとドアノブを回すと鍵がかかっていた。

 紙袋を抱えた二人が出て来た。男子学生の腰で音を立てるチェーンに、財布と鍵が繋がっているのを見た。またあとをつけて、来た道を引き返した。

 2人は電車に乗った。間隔をとって二人を見張った。途中、高校生の集団が乗り込んできた。

 樫木は車内の人ごみのなかをそっと移動し、男子学生の背後についた。次の駅でまた高校生が乗り込んでくる。密着しても怪しまれない乗車率。

 樫木は釣り広告を見ながら、学生のチェーンに手を伸ばした。心臓がでたらめに鳴った。指が震えた。ぐ、ぱ、と何度か開いてから、チェーンから鍵の束を取った。

 そっと二人から離れ、次の駅で降りた。最寄りの鍵屋を調べ、鍵の複製を作った。すぐさっきの喫茶店に戻り、指紋を拭いてから外の植え込みに鍵の束を投げ込んだ。

 複製した鍵を使って男子学生の部屋に入ってみた。散らかって汚い部屋はカビと饐えた匂いに満ちていた。何カ月も帰っていないのは本当のようで、空気が澱んでいる。

 湿っている不快なベッドの上に寝転がった。朝までに男が帰ってくればそこで終わり。帰って来なければ実行しよう、そう決めて。

 男子学生は帰ってこなかった。







2016-09-10(Sat) 20:17| Phantom| トラックバック(-)| コメント 0

Phantom (13/15)

1話2話3話4話5話6話7話8話9話10話11話12話


 今日は朝から雨だった。強い雨脚で窓を叩いている。空は黒い雲に一面覆われ、昼過ぎだというのに夕方のように薄暗い。

 芳明は窓に手を当て、気怠げに溜息をついた。

「退屈なら、今から映画でも観に行くか?」

 ソファで本を読んでいた樫木が声をかけてきた。

 昨日、警察署を出ると足が勝手に樫木の家に向かった。連絡なしにいきなりやってきた芳明を、樫木は快く招き入れ、夜は泊めてくれた。

 樫木に会うのは、仕事終わりに迎えに来てもらって、その夜セックスをしたあの日以来だ。忙しさと気恥ずかしさから後回しになっていた。

「いや。雨だし。どっか行く気分でもないし」

 窓から離れ、芳明はソファに寝転がった。樫木の膝の上に頭を乗せる。

「やらしいことしよう」
「昼間っから?」

 眉を持ち上げながら、樫木が苦笑いを浮かべる。

「今日は一日中、ベッドにいたい」

 樫木の首に腕をまわし、抱きついた。浮いた背中を樫木が支える。

「久世が望むなら、俺は叶えるだけだ」

 言うなり、樫木は膝の下に腕を差し込み、久世の体を抱きあげた。ふわっと宙に浮く感覚に驚いて樫木にしがみつく。そのまま寝室まで運ばれた。

 つい数時間前まで、二人とも全裸でベッドのなかにいた。汚れたシーツはすでに交換されている。でもまだ昨夜の淫靡な空気は残っていた。ゴミ箱に捨てられたティッシュからは、青臭い匂いもする。

 新しいシーツの上に芳明はおろされた。素早く服を脱ぐと、樫木をベッドに押し倒した。焦った仕草でベルトを外してズボンと下着を下ろす。樫木からはボディソープの匂いがした。昼前に起きた時、一緒にシャワーを浴びた。だから芳明からも同じボディソープの匂いがしているはずだ。

 清潔な匂いを漂わせるペニスに口を寄せてぺろりと舐めた。陰茎がむくりと反応を見せる。先を口に咥えた。吸ったり舐めたりしていると、樫木に頭を撫でられた。

「香水は使わなくていいのか?」

 どこまでも優しい声が訊ねる。

「もういらないって言っただろ」

 昨夜も樫木に同じことを訊かれて断った。

 前回ここを去る時、肌身離さず持ち歩いていたアトマイザーを、迷った末に置いてきた。もう必要がないと思ったからだ。昨日ここに来た理由も、香水ではなく、樫木に会いたいと思ったからだ。

 今までずっと現実味のない生活を送っていた。それがあの夜をきっかけに、地に足がついたような気がしていた。目に見えない膜が取り除かれたような、やっと夢から醒めたような、そんな気分だった。

 昨日の午後までは、あの香水の匂いを嗅げば、また夢見心地に戻れただろう。だがもうそんな効力はない。あの香水で酔えたのは、警察署の取調室で最上の姿を見るまでのことだ。

 今までずっと謎だった男の顔、姿を見た時、芳明の中の何かがすうっと醒めた。初めて聞いた男の声は不快だった。取り調べを受ける動揺した態度を見ていたら悪心がこみあげて来るほどの嫌悪を感じた。

 毅然とした態度でいてくれたなら、これほど幻滅はしなかったかもしれない。

 助かるために男の媚びた。自分を騙すために男を受け入れた。男の犯行の動機は自分への好意。ここまでするほど好かれているのだから、その想いに応えなければいけない。男を好きにならなければいけない。男の望む自分にならなければいけない。

 正常ではなかった。だから男に特別な感情を持っていた。恐ろしく、おぞましく、殺したいほど憎いはずの相手を、恋しく思ったりしていたのはそのせいだ。

 顔も形も知らなかった。だから余計に美化されていた。警察に捕まっても取り乱したりせずに、マジックミラーの向こうにいる自分に気が付いて、「やあ、久し振りだね」と微笑を浮かべながら手を振るくらいの離れ技をやってのけるのではないか、と。

 それほど芳明のなかで男は完璧な存在に形成されていた。あの部屋の中では芳明の命はもちろん、全権を男が握っていた。それが部屋を一歩出た途端、取調室で無様に狼狽していた。

 あんなただの中年男に好き勝手やられていたのかと、今では憎悪しか感じない。

 樫木に顎を持ち上げられて顔をあげた。

「こっちにおいで」

 と腕を引かれて樫木の腰の上に跨る。樫木の手が尻たぶを割って奥へ指を入れて来た。冷たい液体はローションだ。いつ用意した、と感心しながら、指の侵入に唇を噛む。

 樫木は右手で奥を解しながら、左手で芳明のペニスを扱いた。頬を上気させ、腰を前後に揺らし、甘い吐息を漏らす芳明の体にねっとりとした視線が絡みつく。目でも抱かれている、と芳明は思った。

 こんな目で見られていたなんて、今まで気が付かなかった。いつか樫木が言った通り、自分は他人に無頓着なのかもしれない。

 充分解されたあと、屹立する樫木のペニスの上にゆっくり腰を落としていった。太く硬いものが存在を誇示するように奥を広げる。音を立てて息を吐きながら、ゆっくり全部を自分のなかに収めた。

「俺に気を遣って無理してないか?」

 芳明の腰を支えながら樫木が下から訪ねる。

「無理してたら自分からここに来ないよ」
「俺に会いに来てくれたのか?」
「他にある?」
「会いに来てくれた理由を聞いてもいいか?」
「質問責めだな」

 芳明はふっと笑いを漏らした。

「樫木に会いたいと思ったから来た」

 匂いの呪縛からも、あの男の幻影からも、自分は完全に解放された。そう確信が持てる。だから会いにきた。

 助けを求めた時にそばにいてくれたのは樫木だ。溺れそうな時に手を差し伸べてくれたのも樫木だ。自分の感情は二の次で、無理難題を飲んでくれた。こんな自分を好きだと言ってくれた。

 その気持ちが嬉しかったし、応えたいと思った。ただの恩返しかもしれない。だが好きだという気持ちも確かに存在する。樫木のそばにいると安心するし、見られると性的な気分になるし、触れられると体に火がついて熱くなる。

 憎からず思っていなければこんな反応にはならないはずだ。その証拠に、他の男ではこうはならない。

 樫木とはこれから始まる。これも確信の一つだ。

「それは、望みがあると期待していいのか?」
「それ以外ある?」

 微笑みかけると、樫木は言葉を失ったように口を半開きにし、目を見開いた。芳明は笑みを濃くして樫木の上で腰を揺らした。ほら気持ちがいい。この充足感は本物だ。

 樫木に腰を掴まれた。下から突きあげられる。小刻みだった振動が大きく激しくなる。

 その動きに合わせて、立ちあがった芳明のペニスも揺れ、透明な液体が飛び散った。開いた口からは嬌声が止まらない。

「んふぅ……っ……うっ、あっ! あ! はあぁっ……あ、ああ……っ」
「絶景。すごくいい眺めだ」

 樫木がうっとりした目で呟く。

「……んっ……馬鹿……はぁっ……あ、あっ……あっ、や……触ったら……すぐ、出る、から……!」

 樫木にペニスをしごかれて、芳明は狼狽えた声を出した。泣きそうに歪めた顔で樫木の手に手を重ねる。

「そんな顔をされたらたまらないな」
「ひんっ、あ、やあっ……あっ、あ、ほんと、に……出るって……ばっ……まだ、やだ……」

 奥がぐちゃぐちゃに蕩けているのが自分でもわかった。ローションだけじゃなく、二人の体液で中は潤っている。樫木が動くたびに結合部が卑猥な音を立てた。芳明はそれが恥ずかしかった。

「イクところを見せて欲しい」

 尾てい骨に響く様な低い掠れ声でそんなことを頼まれた。芳明は樫木を見下ろした。またあの忠犬のような目をしている。胸を掻きむしりたくなるような目だ。こいつになら何を見られてもいい、なんでも見せてやろうと思えた。

 膝を立て、自分からも腰を振った。タイミングが合わなくてあやうく抜けそうになる。肌と肌がぶつかる音を立てながら何度も擦り合わせた。摩擦でさらに中が熱くなる。脳天にまで響く様な突きあげに声が止まらない。

「……っ……ぁあ……あっ、も、お……だめ、無理っ……ああ……イクっ……樫木ッ……ああ……樫木、俺……もぉ……イクッ……!」

 樫木に見守られる中、芳明は体を震わせて射精した。



 部屋はもう真っ暗になっていた。サイドボードのデジタル時計を見ると19時を過ぎていた。あれからずっと樫木と抱き合っていた。せっかく清潔なシーツに交換したのに、いまは精液と汗で湿り、所々びっしょりと濡れている。

 コンドームの存在を思い出したが、時すでに遅しだ。

「お腹すいてないか?」

 腕枕をしている樫木が顔を覗きこんで言った。確かに空腹だった。

「なにか食べるものある?」
「家にはないなあ。食べに行くか?」
「うーん、立ち食いそば」
「久世が食べたいならいいよ、行こう」

 苦笑するだけで樫木は躊躇わずいいよと言ってくれる。

「冗談だって」
「でも本当になにも食料がない」
「出前でいいんじゃない」
「そば?」
「うん」

 わかった、と体を起こした樫木は携帯電話で店に電話をし、そばを二人前頼んだ。その姿を見ながら芳明はうーんと伸びをした。枕の下に入れた手が何かに当たる。引っ張りだすと、香水の入ったアトマイザーだった。

 ずっと肌身離さず持ち歩いていたが、前回ここへ来た時に、もう必要ないと思ったから置いて帰った。いま改めて見ても、その中の液体に不可思議な魅力は感じないし、匂いを嗅ぎたいとも思わない。

 最上の顔を思い出して、芳明は鼻に皺を寄せた。

「これ、処分しといて」

 電話を終えて振り返った樫木に放って投げた。

「それはいいけど、捜査のヒントにならないかと思って渡したんだが」
「実は昨日、ここに来る前に警察署に行ってたんだ。容疑者の取り調べをするから、面通し頼まれて」
「えっ、捕まったのか? 良かったじゃないか!」

 驚いたあと、樫木はぱっと顔を明るくした。

「でもまだ逮捕じゃないんだ。証拠もないし、動機もわかってないし、なにより本人が否認してるからね」
「じゃあどうしてそいつが容疑者だと?」
「ひったくり事件の捜査をしてたら、俺を監禁してた時期に、監禁してた場所のあたりをそいつが深夜にうろついてる動画がたまたま見つかったんだ」
「凄いな。それは予想外だ。こんな偶然があるのか」

 驚きを通りこしたような顔で樫木は茫然と呟く。

「それで面通しに行ったんだけど、何もわからなかった。犯人のような気もするし、違うような気もする。目隠ししてたから、顔を見ても全然わかんなかった。その香水の匂いもしなかったし。刑事さんは、絶対証拠見つけて挙げるって息まいてたけど」
「これでもう安心して暮らせるじゃないか」
「だといいけどね」
「そうか、これはもう必要なくなったのか」

 樫木は手の中のアトマイザーに視線を落とした。

「じゃあこれは俺が処分しておくよ」

 大きな手が閉じて、アトマイザーは姿を消した。






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2016-09-09(Fri) 20:40| Phantom| トラックバック(-)| コメント 2

Phantom (12/15)

1話2話3話4話5話6話7話8話9話10話11話


 8月下旬になって、金子から連絡が入った。事件に進展があったという。容疑者の事情聴取をするから、警察署に来てほしい、ということだった。

 いきなりのことで芳明は戸惑った。もう犯人は捕まらないと諦めていた。犯人に繋がる証拠はゼロ、目撃者ゼロ、手がかりゼロという状況だったのに、なぜ急にこんな展開になったのかわからなかった。

 引っ越し先のマンションに一度挨拶に来て以来、小田崎と金子には会っていなかった。今後は遠慮して欲しいと芳明が来訪を断ったからだ。

 その間になにかしらの進展があったようだ。胸が騒いだ。落ち着かない気持ちで警察署に向かい、金子と小田崎から話を聞いた。

 同一犯と思われるひったくり事件が一年ほど前から起こっていた、と小田崎が切りだした。

 狙われるのは決まって女性。夜の暗い道を一人で歩いているところをフルフェイスのヘルメットを被った原付の犯人に背後から襲われていた。

 警察もパトロールを強化してはいたが、つい先日も同一犯らしき犯人に襲われた被害者が出た。

 女性はハンドバッグの紐を離さず、バイクに振り回されて電柱に頭をぶつけ、現在意識不明の重体。予断を許さない状態なのだそうだ。

 今までは打撲に擦り傷程度だったが、今回の重篤な被害を受け、警察は過去のひったくり被害も遡って捜査を開始。被害者の中に、逃げ去る原付の映像を撮影した女性がおり、その解析をしていたら、捜査員の一人が気付いたというのだ。

 その場所は、芳明が監禁されていたマンションの近く。日付はまさに、ちょうど一年前の監禁されていた頃。そして、遠ざかる原付とは反対に、近づいて来る男の姿が映っていた。その男こそ、容疑者として一時捜査対象になった人物。トランクルームの契約者だった、最上渓一だったのである。

 金子の言う通り、事件は思わぬ方向から進展を見せたというわけだ。

 最上の住まいと勤務先は映像の場所からは遠い。この日時になぜ、こんな場所をうろついていたのか、当然警察は疑いを持った。

 事件発覚当時も念入りな捜査はされた。事件発生以前に、最上が財布を落として警察に相談に行っていたことは確認済み。

 ──計画的な自作自演とも言える。

 仕事場と自宅の往復、たまに飲み会や友人と遊びに出かけていたという証言もほとんどが証明され、監禁部屋に通っている時間はないと判断された。
 
 ──常人の体力と思考なら。

 独身で一人暮らしの最上の夜中の行動は自由だ。自宅のマンションの防犯カメラの映像には、夜中に出入りするところは映されていないが、映らず行動することは不可能ではない。

 ──芳明の監禁場所の例もある。

 裏の取りきれないアリバイがあるところも警察の目を欺くためかもしれない。普通の人は24時間きっちりアリバイ証明などできるわけがない。逆に完璧なほうが怪しい。

 犯人は用意周到で、恐ろしいまでに理性的に犯行を完遂することのできる男だ。たまたま事件に利用されてしまった市民として、捜査線上にあがることも計算の上で自分の名義を使った可能性もある、と警察は考えているようだった。

 だとしたら大胆不敵、警察を舐めた男である。

 現在最上は取調室で事情聴取中だ。小田崎たちは芳明に面通しを頼んできた。

「でも俺、顔は見てないんですよ」
「視覚以外の五感は生きていた。見て何か思い出すものがあるかもしれない。雰囲気や仕草やなんかをね。些細なことが解決の糸口になる場合もある。ダメ元で一度、頼みますよ」

 小田崎の断り切れない気迫に押され、芳明は「わかりました」と頷いた。

 小さな部屋に通された。

「あれです。向こうからこちらは絶対に見えませんので、安心してよくご覧になってください」

 刑事ドラマでよく見るようなマジックミラー越しに、取り調べ室が見渡せた。咄嗟に目を逸らした。直視出来ず、床を見つめる。足が震えた。

 向かって右の、膝の上に手を置いて俯いている男が最上だと、小田崎が言った。芳明はゆっくり顔をあげた。

 中肉中背の、髪を7:3で分けた中年男が座っていた。顔は濃い目で、若干下膨れ気味。落ち着きなく体を揺すり、頻繁に顔や髪を触った。

「あれが……」

 芳明は思わず呟いた。

 あの男が、三ヶ月に渡って自分を監禁し、犯し続けた男なのか。あの手で体中を触り、あの舌で尻の穴を舐め、股間で隠れているもので奥をこじ開け貫いていたというのか。

 顔に熱があがるのを感じた。それとは逆に、胸のうちをすーっと冷たいものが下っていく感じもした。

「どうですか」

 小田崎が訊ねる。

「やっぱり……わからないです。背格好はあれくらいだったと思うんですが……」

 最上から目を離さずに答えた。動悸が激しくなっていくのを感じる。それに合わせるように呼吸も荒くなってきた。

「なぜこの日、自宅から遠いこんな場所を歩いていたのですか?」

 取調室の声が聞こえてきた。

「だから! 何度も言ったように、その日は会社の送別会があった日なんですってば! 酔っぱらって乗る電車を間違えてそんなところに行っちゃっただけです!」

 最上の声も聞こえた。野太い声だった。緊張と焦りからか、時折声を裏返させる。息遣いも聞こえる。記憶と照らし合わせてみる。似ている。似ていない。判断つかない。息遣いなんて、誰も似たようなものだ。

「大丈夫ですか」

 心配そうに金子が芳明の背中に手を当てた。

「はい、大丈夫です……。取り調べが終わったら、あの部屋に入ってみてもいいですか?」
「えっ、それはどうしてですか」

 小田崎が驚いたように言う。

「見ても声を聞いてもなにも思い出せないなら、あとは匂いしか僕にはわからないので」
「確かに。人には体臭がありますからな」

 取り調べが終わるまで別室で待った。金子がお茶を持ってきてくれた。向かいの椅子に座って、「必ず証拠をあげて逮捕しますから安心してください」と胸を叩く。

 弱々しく笑い返し、熱いお茶を啜った。

 30分ほどして小田崎が戻って来た。三人でさっきとは違う廊下から、誰もいなくなった取調室に入った。

 芳明は深呼吸した。最初に鼻に届いた匂いは煙草の匂いだった。あとは微かに整髪料の匂いと、ビニールのような匂い、饐えた匂いも少し混じっている。もっと深く息を吸うと、背後に立っている金子がつけている香水の匂いがした。

 つまり、男の香水の匂いはそこにはなかった。

 今日はたまたまつけていなかったのかもしれない。もしかすると、監禁部屋に来る時だけつけていたのかもしれない。自分の登場を知らせるために。自分の匂いとして覚えさせるために。それこそ、パブロフの犬のような効果を狙っていたのかもしれない。

 現に、解放されたあとも、その芳明はその匂いの呪縛に囚われていた。

「久世さん?」

 小田崎に名前を呼ばれて振り返った。

「すみません。やっぱり何もわかりませんでした」

 芳明は頭を下げた。





ジェラシー 第一回




2016-09-08(Thu) 20:13| Phantom| トラックバック(-)| コメント 0

Phantom (11/15)

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「最近、ハローワークに行っているのか?」

 ある朝、父親が声をかけてきた。引っ越した先にあるハローワークに行ったことを母親から聞き知ったのだろう。

 まだ1回しか行っていないので返事に迷っていたら、「仕事を探しているのか?」と次の質問がきた。曖昧に頷くと、「そうか。無理するな」と言い残して、父は仕事へ出かけた。

 その数週間後、父の紹介で就職が決まった。

 特殊な建築材の製造販売をしている会社の社長室配属。つまり、秘書だ。最初にこの話を聞いた時は自分に務まるかと不安になった。だが以前勤めていた会社では社長付き秘書は男だったことを思い出し、面接を受けた。

 会議室で人事課の人間が面接をするのかと思っていたが、案内されたのは社長室だった。やたら血色の良い社長自ら、芳明の面接をした。

 簡単に秘書課の仕事を説明し、それが出来るか? と質問をされた。自信はないが、全力で頑張りますと答えた。その後2、3の質問をされて形だけの面接は終わった。

 尾関社長と芳明の父は昔なじみの知り合いなのだそうだ。面接の終盤は、ほとんど父との思い出話を聞くだけだった。

 事件のことは聞いているのか、失業期間については一切触れず、最近はセクハラについて厳しいだとか、コンプライアンスがどうたらという理由で男の君が入ってくれると昔気質の自分は助かる、ということを言われた。

 そして採用が決まり、勤めに出ることになった。秘書課には二人の女性社員が働いていたが、一人は寿退社し、その穴埋めで芳明が雇われた形だ。

 一緒に働くことになったのは江藤という女性で、芳明より年上の二十代後半。しばらくは江藤から仕事を教わることになる。不安はあったが気の良さそうな人で安心した。

 仕事を始めてみると、勝手がわからず戸惑うこともあったがやり甲斐もあった。社長について現場や得意先周りをしていると、いち社員として働いていた以前とは違う視点で物事を見ることが出来て勉強になった。

 毎朝早起きをして、決まった時間に家を出ると夜まで仕事をする。社会のサイクルに再び乗れた安堵感もあった。社会復帰したことで、親もひとまず安心したはずだ。

 カウンセリングにはもう通っていない。男と同じ匂いをみつけ、発情し、友人を誘ったなどとは、口が裂けても言えそうにない。それにある意味では『あの頃』に戻ったとも言えるのだから、行く意味がないような気もする。

 働き始めて一ヶ月が経った頃、樫木から電話があった。声を聞くのはあの日以来だ。忙しかったとみえる。

 新しい職場で仕事を覚えることに精一杯だったのもあるが、さすがに気が引けてこちらからは連絡できなかった。待つだけの日々は長く、やっぱり怖気づいたかと半ば諦めていたから、「明日、会えないか」と急な誘いでも嬉しかった。

 いつも通り迎えに行くと言う。芳明は働きだしたことを告白した。樫木は驚き、喜び、心配し、労い、励ましてくれた。仕事が終わる頃にメールしてくれと言われたので、翌日、その通りにしたら会社まで迎えに来てくれた。

 外で食事をしたあと樫木のマンションに向かった。その道中、訊ねてみた。

「道具は揃えてくれた?」

 意味を考える短い間のあと、樫木は「うん」と答えた。そのつもりで今日、誘ったということだ。

 マンションの部屋に入るなり、樫木に抱きしめられた。思いがけない積極さに驚きつつ、最初からそのつもりだった芳明も樫木の首に腕を回した。視線を合わせたのが合図だったように、キスをして、お互いの服に手をかけた。

「あ、待った、待って」

 会社を出る前に鞄からワイシャツの胸ポケットに移しておいたアトマイザーを取り出した。前回もらった香水だ。それを樫木に吹きかけた。

 樫木は小さく眉をひそめただけで、何も言わなかった。

 再び抱き合いキスをする。水音が混じった息遣いと、布ずれの音を立てながら、玄関から廊下へ移動する。樫木の寝室に着く頃にはほとんど半裸になっていた。ベッドに乗る動作のついでにズボンと下着を脱ぎ捨てる。

 芳明の上に樫木がのしかかる。欲情した樫木の表情にぞくりとした。

「一応確認するけど、やり方は知ってる?」
「もちろん知ってるさ」

 どこから出したのか、いつの間にか樫木の手にはローションのボトルが握られていた。

「男としたことあるんだ?」
「大人だから、それなりに経験はあるよ」

 男と寝たことがあるのか。なんとなく意外に思ったが、モテる要素を充分に備えた樫木なら、男女共に言い寄ってくる者は多そうだ。

 樫木がローションに濡れた手で後ろに触れて来た。すぐ奥の窄まりを探りあて、その周辺を指で撫でてローションを馴染ませた。充分濡らしてから指が入って来た。

 異物の侵入の瞬間はどうしても体が強張る。監禁されていた頃の記憶が呼び起こされる。

 男によって丹念に舐め解された。体中総毛立つほどの快感だった。ペニスが勃起し、涎を垂らした。芳明も涙を滲ませながら、もう我慢できないから入れて欲しいとねだった。刺し貫かれた時は被虐性の喜びが燃え上がった。

 わざと淫らな言葉を口にした。男に可愛がられている間は身の安全が保証される。という理由だけではなく、爪の先まで全部快楽に溺れてしまいたかったからだ。

 思考せず、男に与えられるものだけを糧とする。本能だけの生活は楽だった。今振り返ると恐ろしいまでに、甘美だった。

 指を出し入れしながら、樫木は芳明の胸を舐めた。舌の先で乳首を立たせて吸い上げる。喘ぐように芳明は息を乱れさせた。

「早く……もう、いいだろ……」
「あと少し」
「んっ……俺が……もういいって言ってんのに……」
「痛いのは嫌だろ」
「あっ、や、そこ……!」

 敏感な部分を指が擦りあげた。芳明の腰がビクンと跳ね上がる。そこを押すように何度も擦られた。

「あっあっ、やだっ……そんな……っ……したら……!」

 監禁されていたのは一年前だ。それ以降、排泄以外では使っても触ってもいなかった場所だ。なのにすぐ慣れた。思い出した。どれほど強烈で、中毒性があるかを。

「いやだ……ぁあっ……いやっ、あっ、あっ……抜いて! そんなの、じゃ……いやだ……っ」
「わかった、抜くよ。いま入れるから」

 あやすような口調で言い、樫木は指を抜いた。

「早く……!」

 芳明は涙目になって懇願した。樫木の目が何か探すように逸らされる。

「いらないっ! ゴムなんかいらない……! だから、早く……ッ」
「でも」

 驚きと戸惑いの眼差しが戻って来た。芳明は唇を噛みしめながらかぶりを振った。自分でもわけがからないほど混乱して、本当に泣いてしまいそうだ。

 そんな心情を察したのか、樫木は覚悟したような表情で小さく頷くと、切なく窄まるそこへ亀頭を押しあて、ゆっくりと埋めた。指と違う太さ、大きさ。

 芳明は顎をあげ、咽喉を晒した。

「あああっ……あっ……」
「大丈夫か?」
「はぁあ……はあっ、あぁ……もっ……奥、まで…ッ…きて……ッ」

 そこが大きくこじ開けられた。芳明の目尻から涙が一筋流れ落ちる。恐怖の下で征服された初期の記憶が蘇る。あの体験は恐怖だった。暴力だった。改めて思い知らされた。

「あ、はあ……あああ……嫌ッ、だ……! あ、やめ……許して……!!」

 いま味わう苦痛と過去の記憶が混濁する。芳明は嫌々と左右に首を振りながら樫木の胸を押し戻した。

「久世? どうしたんだ?」
「嫌だ! いやっ! あ、あっ……どうして…っ…僕が、こんな目に……! 僕がなにをしたの? 酷い……っ……酷いよ……!!」

 取り乱した芳明は樫木の胸に拳を叩きつけた。力強く何度も。

 樫木はそんな芳明を悲しい目で見守った。収まるのを待って、芳明を抱きしめた。しゃくりあげる芳明の額や頬にキスをする。

「ああ、酷い。酷いよな。久世は何も悪くない。久世に落ち度なんかない。責められるべきは犯人で久世じゃない。だから苦しまなくていい。自分を責めなくていい。他にどうしようもなかった。目をつけられた以上、逃げられなかった。何も知らない久世に防ぐ手段はなかった。生き残るために久世はよく頑張った。普通だったら耐えられない状況を三ヶ月も耐えた。それを後ろめたく思う必要はない。

 落ち着いた優しい声で樫木は喋り続けた。

「怖いなら怖いと言えばいい。泣きたいなら泣いていいんだ。俺がいる。俺が久世のそばにずっといるから。必要な時でも、そうでない時でも、いつでも俺を呼び出せ。すぐに駆けつける。久世が安心して眠れるまで、ずっとそばにいる」

 錯乱状態だった芳明も、樫木の体のぬくもりと優しい声にだんだん気を落ち着けていった。

 白い天井。視線を横にずらすと、自分を抱きしめ、頭を撫でる樫木がいる。目が見える。姿を見せなかったあの男じゃない。一言も声を聞かせなかった男じゃない。

 芳明は大きく息を吸いこんでから、深々と息を吐いた。

「…………樫木ってそんなふうに口説くんだ? ……熱烈で、意外」

 涙声で言うと、芳明はフフッと笑った。樫木も微笑んだ。

「こんなに必死になるのは久世だからだ」
「俺だって。こんなみっともないとこ見せたのは樫木だけだぜ」

 樫木の頬に手を添え、顎を持ち上げた。樫木が躊躇を見せる。

「ここまできて止めるつもりか?」
「今日はもうやめておいたほうが」
「さっき取り乱した俺が言っても説得力ないだろうけど、もう平気だ。お前が誰か混乱したりしない。今はもう、樫木しか見えてないから。それに」

 芳明は腰に力を入れて樫木を締め付けた。ニヤリと笑い、

「これ、このまんまじゃ可哀そうだろ」

 樫木の顔が赤くなる。小さいとは言い難い大きさだったのだ。

「無理に続きをしなくても俺は、」
「俺がしたいんだよ。言わせんなよ」

 樫木の言葉を遮って言い、腰に足を巻きつけた。ぐ、ぐ、と樫木を締め付ける。中で体積を増すのがわかった。樫木は自己嫌悪の表情だ。可愛いところもある。芳明はのどの奥でくっと笑った。

「嫌になったら我慢しないですぐ言ってくれ」
「わかったって」

 まだ気の進まない顔で樫木は体を起こした。様子を見ながらゆっくり腰を動かす。乾いてきたのか少し引きつる感じがする。樫木もそれを感じたようでローションを継ぎ足した。熱い結合部に冷たい液体が少し心地良い。それもすぐ、体温と摩擦で熱くなった。

 相変らず恥ずかしくなるくらい樫木はじっと見つめてくる。心配でたまらないといった目だ。優しくて誠実な目。忠犬みたいだ。

 その目に欲情した。胸の奥から熱い塊が噴き出るのを感じる。

「や……あっ、ああ……あっ、樫木っ……」
「どうした?」
「あっ……っ……俺、やばい、気持ち……いいっ……」
「……俺も」

 少し、樫木の動きが早まった。中を探るように角度をつけ、円を描いた。

「ああっ、あっ、ん! んんっ……それっ……そこ、気持ちいいっ……」
「ここか?」
「ああぁっ、そ、こっ……ッ……ん、あっ、かしわ……ぎ! や、ああっ」

 敏感な前立腺を中心的に責め立てられる。じんじんと腰が熱くなって、ペニスは痛いほど勃起した。樫木の一突きごとに、体中の神経がびりびりっと震える。

 頭がぼうっとして、意識が彼方へ消えて行きそうな気配がした。慌てて樫木の腕につかまり、顔を見た。見慣れた顔が別人のように見えた。これは誰だ。あの男か? 違う。樫木だ。大学からの知り合いで、こんな自分を好きだという、変わった奴だ。

「はぁ、んっ、あ……あっ、樫木の……熱い……おっきくて……っ……俺、どうか、なりそ……」
「嬉しいことを言ってくれるんだな」
「んっ! はあっ、あっ、もぅ……出る……」

 樫木の手が芳明のペニスを握り、射精を促すように動いた。体を痙攣させながら、芳明はあっけなく果てた。精液は芳明の咽喉元まで飛んだ。自分が吐きだしたもので汚れた胸を上下させながら呼吸を繰り返す。

 中で蠢く樫木を感じる。前立腺に当たると腰が跳ねる。射精直後で敏感過ぎる。苦痛に近い快楽で、芳明は顔を歪ませながら息を弾ませた。

「はっ、あっ、あっ、樫木も、イッ……っ……て……俺の中で……! あいつの記憶を……お前で塗り替えて欲しいっ」

 樫木は寂しげにも見える顔で微笑んだ。足掻く芳明が哀れでたまらなかったのかもしれない。

 腰を抱え直すと、樫木はピストンの速度を上げた。突かれる度に、芳明の頭のなかで白い閃光が走った。

「久世…………!」

 体の奥で熱いものが噴きあがるのを感じた。その瞬間、かすかに、あの香水の匂いがした。それはただの匂いで、二人の体臭と体液に簡単にかき消された。




土下座、して下さい。




2016-09-07(Wed) 20:20| Phantom| トラックバック(-)| コメント 0

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