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Love Scars (3/3)

2016.07.18.Mon.
<前話はこちら>

 二人は小さな公園に入って行った。雑草は伸び放題で、錆びた鉄棒と砂の固まった砂場があるだけの不人気な公園らしく他に人の姿はない。二人は植え込みの向こうへ姿を消した。

 木の陰に隠れながらそっと窺う。横には大きなマンションがあり、仕切りになっている壁にトオルは押し付けられていた。

「ちゃんと二人に奉仕してあげなきゃ駄目じゃないか」
「ご、ごめん、でも、今日は……!」
「今日は?」
「近田、くん、いなかったじゃんかよ」
「僕がいないとできないの? 僕のせいだって言うの?」
「違うっ、そうじゃなくて……! 近田くんがいないと、困る」
「どうして困るの?」
「あの水上って奴、なんか知んないけどキレて怖えし、向居はめちゃくちゃやるし」
「めちゃくちゃに犯されるの、好きだろ?」

 トオルの頬に近田は指先を這わす。それだけでトオルは顔を赤くしてギュッと目を瞑った。

「好き、じゃなっ……」
「忘れちゃった? ビデオに撮ってるから見せてあげようか? ホモの人たちにいっぱい犯されて喜んでる姿」
「あれは……! クスリのせい、だし……!」
「そうかな? じゃあ、これはなに?」
「あっ!」

 近田が股間を触ると、トオルは女みたいな声をあげた。ズボンを押し上げる膨らみ。ただ近田が目の前で喋っているだけで、トオルは勃起させていた。

「吐くくらい酷いことされたのに、どうしてこんなにしてるのかな?」
「は……ぁっ……それ、は……」
「ちゃんと僕に教えてくれる?」
「近田くんは、俺に……っ……優しくして、くれる、からっ……!」
「こんな目に遭うようになったのは僕のせいなのに?」
「最初に……、金取った、俺が……悪いンだし……」
「ちゃんとわかってるなんて、いい子だね、トオル」

 近田が顔を寄せる。待っていたように、トオルも顔を近づけて二人は唇を重ねた。長く深く。弾けるような水音が聞こえて来る。俺の頭に血が上る。

「正解のご褒美が欲しい?」

 近田の問いかけにトオルが躊躇いがちに頷く。

「じゃあ、どうしなきゃいけないかわかるよね?」

 トオルはしゃがみこんで近田の股間に顔を埋めた。丹念に、充分な時間をかけてそれを研ぎ上げる。そそり立つペニス越しに近田を見上げ、許しをもらうとトオルは壁に手をついて立った。背後から近田がトオルを刺し貫く。

「あっ、あああぁぁっ……!!」

 トオルの背がしなる。近田が舌なめずりをしながら腰を振る。俺の目は二人の結合部へ吸い寄せられる。いつもなら向居の目や、近田にバレるのが怖くて直視できなかった場所を、今日は思う存分ガン見できる。

 位置的に近田の腰で全部は見えないが、引いた時は近田のペニスがわずかに見えた。

 近くでちゃんと見たのは数えるほど。実は綺麗な色をしている。血管の浮き上がりやカリの反り具合は男らしい。亀頭は涎が出るほど魅力的だった。

 それを生で、あの汚らしいトオルのケツに突っ込んでやっている。どす黒い感情が俺を蝕む。睨むように見ながら俺は自分のペニスを握って扱いた。

「ふあぁっ、ああっ……ん……! はあぁぁ……あん……!!」

 近田の腰の動きに合わせてトオルも尻を揺らしている。色のついた気持ち悪い喘ぎ声が聞こえて来る。

「今日はまだ中に出されてないの?」
「う、んっ! 俺…ッ…吐いちゃった、から……!」
「そっか。じゃあ今日はトオルの望みをきいてあげる。どうして欲しい?」
「ど……って……?」
「なんでもトオルの望みを叶えてあげる。いま止めてもいいし、このまま続けててもいい。どこに欲しいのか、欲しくないのか、ちゃんと僕に言ってごらん」

 体をぴたりとくっつけて、近田はトオルの耳元で言った。前に回した手はシャツのなかに入って動いている。トオルは顎をあげたり下げたりして、与えられる刺激に翻弄されていた。

「やっ……やめ……な……で…ッ…このまま……中、出して、欲しい……!」
「わかった。トオルの望み通りにしてあげるね」

 近田はトオルの腰を持つと、穿ちこむように尻を突きあげた。

「あはあぁっ! あぁんっ!! あっ、ああっ……!!」
「声大きすぎ」

 近田の笑い声。

「ん、ごめ……んっ!! んふぅっ……ううっ……あぁんっ」
「今度、大きな声を出せるホテルでしようか?」
「んっ! うんっ……いふっ……ホテル、いき、た……あはぁっ、ああん!」
「気持ちいい?」
「きもちぃ……っ! あっ、あっ、チカは……?!」

 切ない顔でトオルが近田を振り返る。近田は「気持ちいいよ」と骨ばった肩にキスしてやっていた。一瞬目の前が赤くなるほど頭に血が上った。

 チカという呼び方は俺しかしない。前に一度向居がチカと呼ぼうとしたが、不機嫌になるからやめとけと俺が止めた。

 実際、俺がそう呼び出した頃、近田は「女みたいだ」と嫌がっていたのだ。気にせず呼び続けていたら慣れたようだが、積極的に呼ばれたいあだ名ではなかったはずだ。

 俺の自尊心を満足させるためだけのものだった。ほんのちょっとの優越感のためにトオルの前でもチカと呼んでいた。普段トオルには全員「くん」付けで呼ばせていたが、こうして二人きりになった時は、以前からチカと呼んでいたのかもしれない。近田もそれを許していたのかもしれない。

 二人の間に割り込める隙間がない。悔しくてたまらないのに、二人を見続けてしまう。ペニスを扱く手を止められない。

「や、あっ、チカッ……、俺、も……い、イクッ」
「早くない?」

 揶揄する近田の声。

「だって……気持ちい…ッ…いっ、ち、チカのちんぽっ……気持ちくて……俺……もお……出ちゃ……ッ!!」

 ブロック塀にしがみつくようにトオルは背を丸めた。射精された精液が、ブロック塀を伝い落ちてくるのが見えた。

 なぜ近田に抱かれて達したのが俺ではないのか。惨めさに歯ぎしりしながら俺も射精をした。木にべったりとついた白い液体が、重力によってゆっくり下へ垂れて行く。泣きたくなるほど惨めな光景だ。

「次は僕の番だよ、トオル」
「はぁっ……はっ……あ……チカの、中に欲し…ぃ…」
「わかってる。トオルは僕に中出しされたいんだよね? トオルの中に全部出してあげる」
「んっ……早く……チカだったら俺、なにされてもい……から……っ」
「他の二人は?」
「あいつらは、や、だっ……チカだけ……! チカだけがいい……!!」

 トオルの言葉を聞いた近田は目と口を左右に釣りあげた。トオルが手中に堕ちたと確信した悪い笑顔だ。

 その後も近田は優しく甘い言葉を囁きながらトオルを犯した。最後はトオルの望みのまま中に出してやり、ねだられると口にキスもしてやっていた。ただの青姦している恋人同士にしか見えない。

 事が終わると二人は服装を整えた。トオルは気恥ずかしそうにブサイクな顔を俯けながら、チラチラと近田を窺い見ている。甘えが表情が憎たらしくて拳を叩きこみたくなるが、近田はニコリと笑い返している。

「今日は素直でいい子だったね。可愛かったよ」
「お、俺なんか、別にかわいくねえし」

 唇を尖らせて否定しているが満更でもない感じが殺したくなる。

「だからもう、このへんで許してあげようかなって思うんだ」
「……え?」
「トオルを解放してあげる。もう酷いことしないし、呼び出したりもしない」
「えっ? ……えっ?」

 焦った様子でトオルが馬鹿みたいに「えっ」を繰り返す。

「向居と水上にも言っておく。あっ、ビデオも全部消しておくから安心していいよ。あれで脅したりしないから」
「えっ、え、あ……あ、う、うん…………えっ?」

 まさに豆鉄砲を食らったハトのようだ。近田の言葉を処理しきれずに、パニクッている。

「今までご苦労さま。1万3千円分、きっちり返してもらったから」
「これで……終わり、ってこと……か?」
「そうだよ。じゃあね、トオル。バイバイ」

 笑顔のままぽんとトオルの肩を叩くと、身を翻した近田はさっさと公園を出て行った。取り残されたトオルは、茫然と近田の消えた方を見つめていた。



 もうトオルに関わるなと近田に言われた向居は、まだいいじゃないかとゴネたが、「じゃあこれからは向居一人でトオルを呼び出せばいいよ。僕はもう関わらない」と言われると渋々諦めた。自分一人ではトオルに返り討ちにされるとわかっているのだ。

「一人で勝手に決めちゃってごめんね」

 近田は俺に謝ってくれた。

「別に、俺らはお前の復讐に付き合ってただけだし。お前が満足したんならいいよ」
「満足できるかは、今後の結果次第だけどね」

 目を輝かせながら近田は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 それから一ヶ月後の夜、近田から電話がかかってきた。珍しく興奮した声で、『成功したよ!』と言う。

「なにに?」
『トオルだよ!』

 耳が腐るような名前を聞いて、電話をかけてきてくれた喜びも一瞬で消し去った。

『今日でちょうど一ヶ月経つから、電話してみたんだ。焦らすように世間話してたら、トオルのほうから会いたいって言ってきた。だから会ってあげたんだけどさ、あいつ、僕が話しかけると恥ずかしそうに俯くんだよね。僕のことまともに見らんないみたいでさ。僕が、つまんない? 帰る? って言ったら、嫌だ、一緒にいてって、裾握ってくんの』

 楽しそうな近田の声で嫌でもその光景が頭に浮かんでしまう。俺が出来ない媚びの入り混じった目でトオルは近田を見つめたのだろう。それを見た近田が歓喜したのも容易に想像できる。

『どうしたい? って聞いたら、なんて言ったと思う? 小さな声で、エッチして、だってさ。言い方もそうだけど、すっかり女って感じだよね。もう1万3千円は返してもらったよって言ってるのに、チカ頼むからって、目を潤ませて言うんだ。これ完全に成功したって言えるよね? トオルは僕に夢中だよね?』
「そうなんじゃないか」

 弾んだ近田の声とは打って変わって低く沈んだ声が出た。自分の試みが成功したことに喜ぶ近田はそれに気付かない。

「で、あいつとヤッたの?」
『うん。ホテル代はトオルが出した。カツアゲして僕から1万3千円奪ったあのトオルがだよ? 数か月で人ってああも変わるもんなんだね。あっ、水上も誘った方がよかった?』
「いらねえよ。俺、あいつに突っ込むとか、反吐出そうだし」
『反吐出させたくせによく言うよ』

 電話の向こうで近田が呆れたように笑う。そういえばそうだった。

「それ、まだ続けるのか?」
『続けるよ。トオルが僕の言うことを聞かなくなるまでは』
「死ぬまで続いたら?」
『死ぬまで続けるよ』

 近田はあっさり言いきった。俺の心をズタズタにするとも知らずに。

「ほどほどにしとけよ。性病とか怖いし」
『だね。お互いリスクがあるから生でするのは控えるよ』

 一ヶ月前、生でやってたくせに。お互いってことはトオルの心配もしてやってるのか。

『次は二ヶ月放置してみようと思うんだ。その時また水上に報告するよ』

 そんな報告いちいちしていらない。でも聞かずにはおられない。知らないでいたほうが傷つかずに済むとわかっているのに、把握しておきたいという気持ちのほうが強い。俺は嫉妬に支配されている。

『じゃ、また明日学校でね。おやすみ』
「おやすみ」

 きっと今夜から俺は安らかに眠ることなんてできないだろう。




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Love Scars (2/3)

2016.07.17.Sun.
<前話はこちら>

 数日して、またトオルを呼び出そうと向居が言い出した。こいつも近田とは違う心配がある。物理的にトオルをぶっ壊してしまいそうだ。

 学校終わりに向居の家に集まることになったが、近田が「急用が出来たから僕はパス」と言い出して、俺と向居二人になった。向居はビデオを気にしなくて済むから気が楽だと喜んだ。俺は途端にやる気がなくなった。

「近田が来ないなら、俺もやめとこうかな」
「困るよ! 俺一人だと、あいつに反撃されるかもしれないだろ」

 必死の形相の向居に言われ、仕方なく二人でトオルが来るのを待った。少しして、制服姿のトオルがやってきた。部屋を見渡して「近田、くんは?」と不安げに目を揺らした。

 今日はいないと言うと、目に見えて動揺して逃げようとさえした。それを向居が取り押さえ、ワイシャツを左右に引きちぎった。やりすぎだ。

「おい、向居」
「いいじゃん、こいつ、肉便器なんだから」

 向居は暴れるトオルの頬を打った。ヤンキーらしくトオルが睨み返す。それにびびった向居が、俺に救いを求める目を向けて来る。仕方なく羽交い絞めにしてやった。その間に向居はトオルを裸にした。

「お前、また公園に放置してホモに犯させるぞ」

 抵抗を見せるトオルに向居が言う。トオルは唇を噛んでおとなしくなった。あの体験だけは二度としたくないらしい。

「四つん這いになれ」

 向居の命令にトオルが渋々従う。その尻へ、向居はペニスを突っ込んだ。痛みにトオルの顔が歪む。近田だと恍惚とした顔を見せるくせに。

 歯を食いしばる口元へ俺もペニスを押し付けた。

「チカのちんこだと思ってしゃぶれよ」

 顔を近づけて囁くと、トオルは目を剥いた。羞恥と怒りの入り混じった目。動揺してすぐ逸らされたのは、思い当たるところがあった証拠だ。無意識なんかじゃない。トオルも自覚があるのだ。近田だけは別だという、自覚が。

 急に怒りがこみあげて来た。

「おら、しゃぶれ!」

 髪の毛を掴んで頭を持ち上げた。屈辱に濡れた目が俺を睨めあげる。

 素直に媚びることのできるトオルの目が妬ましい。近田のペニスを頬張る口。近田のキスを味わう舌。近田を受け入れる尻。すべてに嫉妬せずにいられない。鶏ガラのように痩せて、見た目も口も頭も悪いこんな男に俺は負けているのだ。

 いま近田の関心事はどうやってトオルを自分のもとへ堕とすかということだけだ。それほど近田の気を引くことは俺にはできない。

 怒りの衝動に任せてトオルの口を犯した。激しく突いた。トオルが嘔吐く。目尻から汚い涙を流す。こんな男のどこが!

 トオルの咽喉が鳴った。我に返って引き抜いたのと同時に、トオルは床にゲロをぶちまけた。

「おい! きったねえな! なにやってんだよ!」

 尻を犯していた向居がキレて俺に怒鳴ってくる。さっき俺に残ってくれと懇願してきたくせに。こいつもぶちのめしてやろうか。

 剣呑な思いが表情に出ていたようで、俺に睨まれると向居はすぐ勢いをなくし、「ぞうきん取ってくる」と部屋を出て行った。

 トオルは壁際で膝を抱えていた。口元はゲロで汚れ、涙と鼻水を垂れ流した汚い顔で。

「お前、死んでくれない?」

 声をかけるとトオルは肩を震わせた。

「お前まじでうざい。すっげえ目障り。邪魔。死んでくれよ」
「なっ……なんで……お前らが、俺のこと、か、構うくせに……っ」
「じゃあなんで呼び出されたらノコノコ来るわけ?」
「こ、来ないと、また……酷いこと、するんだろ!」
「今以上の酷いことってなに? なにを期待して来てんの? 下心、見え見えなんだけど」
「なに……下心って……、言ってる意味、わかんねえし……」
「黙れよホモ野郎が。突っ込んで欲しけりゃ棒でもなんでも自分で突っ込んでろよ。優しくされたからって勘違いしてんじゃねえよ。きめえんだよ。お前なんか誰もまともに相手にするわけねえだろうが。鏡見ろよ。お前は便所みてえな女と付き合ってりゃいいんだよ、便所虫が」

 俺の吐き捨てる言葉を、トオルは血の毛が引いて土色になった顔で聞いていた。酷い暴言だ。逆恨みだとわかっていても、口が止まらなかった。

 思い通りにいかないもどかしさ。トオルのような男に近田を取られる腹立たしさ。それでも指を咥えて見ていることしか出来ない自分への苛立ち。溜まりに溜まったものが爆発した結果だった。

 トオルは茫然とした表情のまま、瞬き一つしないで固まっている。ショックすぎて何も反応できない様子がまた最高にむかつく。こいつ本当に消えてくれないだろうか。

 コンコン、とノックの音がした。向居が戻って来たのかと思ったが、顔を出したのは「今日はパス」と言っていた近田だった。

 部屋の惨状を見て目を見張る。

「今日来れないんじゃなかったのか?」
「急用が早く片付いたから寄ってみたんだ」
「向居は?」
「下でジュース飲んでた」

 俺は怒ってるし、ゲロの後始末もしたくないから戻って来たくないのだろう。

「どうしたの、これ。トオルが吐いたの?」
「うん……、ちょっと、俺がやりすぎた」

 正直に白状する。部屋に入って来た近田は、縋るような目を向けるトオルの前に屈みこむと、ポケットから出したハンカチでトオルの汚れを拭ってやった。清潔な水色のハンカチが、トオルのせいで汚れていく。

「お茶飲む?」

 鞄からペットボトルのお茶を出してトオルに勧めている。トオルは頷いてそれを受け取った。キャップを開けて、口をつける。近田も口をつけただろう、場所に。

「今日はもうお開きのほうがよさそうだね」

 と俺を振り返る。その体の置き方は、俺からトオルを隠すような位置だった。ただの偶然かもしれない。そう言い聞かせないと、また取り乱してしまいそうだ。

 服を着て、下におりた。帰る様子の俺たちを見ると向居はホッとした様子で玄関まで見送りにきた。欲求不満そうな目でトオルを見ていたのには呆れてしまう。

 いつもの三叉路で、近田が立ち止まって俺を見た。

「先に帰ってて。トオルの元気がないから、僕はちょっと一緒にいるよ」

 嫉妬で腸が煮えくり返る。――という状態を悟られないよう、短く答えて二人に背を向けた。一つ目の角を曲がって立ち止まり、少し待ってから顔だけ出した。離れていく二人の後ろ姿があった。俺はそっとあとをつけた。




Love Scars (1/3)

2016.07.16.Sat.
<前作「1万3千円」はこちら>

 最後に向居がトオルのケツに中出しして、それを舐めて綺麗にさせたところで「いいね!」と近田はビデオカメラを下ろした。

 近田は三ヶ月ほど前の塾帰り、カツアゲに遭った。少し抵抗したら袋叩きにされ、1万3千円を巻きあげられたのだ。プライド高く執念深い近田は、時間をかけて主犯のトオルを見つけ出し、用意周到に練った計画で復讐を実行した。

 媚薬を嗅がせ、ホモが集まる公園に半裸にして木に括りつけた。無数の男から凌辱される様子を、近田は冷静にビデオに撮影した。トオルは俺たちの言いなりだ。

 今日も向居の家でトオルに性処理させたところだ。近田は記録と称して毎回ビデオに撮影する。その間、トオルには指一本触れない。たまに声をかける程度。近田がトオルに触るのは、いつも俺たちが終わったあと。ビデオを止めてからだ。

「よく頑張ったね、トオル」

 さっきまでビデオを回していた手で、トオルの頭を撫でる。芸のできた犬を褒めるように。

「もう、嫌だ……こんなの、もう嫌だ……」

 最初は強気の反抗をみせていたトオルも、今ではすっかり牙の抜けたただの飼い犬だ。優しい声をかけてくれる近田にすり寄って涙を流している。

 精液臭いその体を嫌がらず、近田はトオルの肩を抱いた。

「頑張ったご褒美だよ」

 と言ってトオルに口づける。

 パンツを履いた向居が「うげえっ」と顔を顰める。

「そいつの口、精液の味すんじゃないの?」

 長いキスだ。触れ合う唇の隙間から舌が見える。近田が返事をしないので、向居は俺に同意を求める目を向けた。俺はそれから目を逸らし、かわりに、頭をもたげるトオルのペニスを見た。

 トオルは目を閉じて近田のキスを受けている。顎を持ち上げ、角度をかえ、自ら深い交わりを欲しているように見える。

「トオル、僕にもフェラしてくれる?」

 口を離した近田は囁くように言った。少し恥じらうような躊躇を見せたあと、トオルは近田のベルトに手を伸ばした。ベッドに腰かけた近田の足の間に座り込み、その中心へ顔を埋める。

「いい子だね。上手だよ」

 小さい子供を相手にしているような言葉をかける。俺や向居は絶対言わない台詞だ。浅黒い皮膚を赤くして、トオルは潤んだ目で近田を見上げた。

 近田のペニスを奥深くまで飲みこんで、顔を前後に揺する。

 俺たちには嫌悪と苦痛に顔を歪めて嫌々していることも、近田だと積極的に動いている。――ような気がする。

 眠くなってきたのかあくびをしながら向居は漫画雑誌をパラパラと見始めた。俺は近田とトオルを眺めた。俺の視線に応えるように、近田が目をあげ、笑いかけて来る。

 頬が上気して、少し引きつり気味の、性的な匂いが濃厚な微笑だ。返事のかわりに軽く頷いて目を逸らした。

「出すよ、トオル」
「んっ」
「全部飲むんだよ? 出来るね?」
「んんっ」

 近田はトオルを捕まえたあと、「こいつを調教する」と言った。ただのごっこ遊びだと思っていたが、近田は言葉通りの意味で言っていたようだ。

 飴と鞭。

 俺と向居が鞭で、近田が飴。俺と向居が手酷くトオルを犯したあと、近田が優しい声と言葉でトオルを慰める。

 すっかり心を許したトオルは、近田には素直に弱音を吐くし、縋りついて涙も見せるし、言うことも素直にきくようになった。俺たちと同じことをしても、近田がすれば正反対の意味を持つようだった。

 現に、口に出されるというのに、トオルは大きく頷いて一心不乱に近田に奉仕している。頭を押さえて口に吐き出されても、抵抗しないで飲みこんでしまった。

 近田は満足そうににっこりと笑い、また両手でトオルの頭を撫でると、前髪をかきわけたおでこに音を立ててキスした。

「気持ちよかったよ、トオル」
「う、うん……」

 褒められたトオルは顔を赤くして俯くのだ。

「もう帰ろうぜ」

 声をかけると、トオルは俺たちがいたことを忘れていたような顔で振り返った。そして自分の置かれている状況を思い出したのか、唇を噛んで俯いた。

「そうだね。帰ろうか。トオル、服を着て」

 近田に言われたトオルは素直に服を着た。怠そうな向居とは部屋で別れて、俺たちは向居の家を出た。帰る途中でトオルが立ち止まった。

「いつまでこんなこと続ける気だよ……もう許してくれてもいいだろ……」

 自分の足元を見ながら震える声を吐きだす。それを見た近田はヤレヤレと小さく首を振ってため息をついた。駄々っ子の我が儘が嬉しくてしょうがないって顔で。

「君が僕から盗んだ1万3千円分を、その体で返してくれたらね」
「返すからっ! 倍にして返すから、もう許してくれよ……!!」
「嬉しいお知らせだよ。1万円分は返してもらったから、残りは3千円分。あっという間だよ」

 嬉しいお知らせではなかったようで、トオルは絶望に満ちた顔で言葉を失っていた。

「じゃあまた連絡するね。残り3千円分、頑張ってね、トオル」

 歩く力さえなくしたようなトオルとは三叉路で別れ、俺と近田の二人になった。

「そろそろ潮時じゃね?」
「んー? トオルのこと?」
「もう気が済んだだろ」
「向居はまだ出し足りないんじゃないかなあ」

 確かに向居は性欲は人一倍強いくせに、自分から女に声をかけられないポンコツ野郎だから、気兼ねなく性処理に使えるトオルがいなくなったら文句を言いそうだ。

「ぶっちゃけ、1万3千円とか、もうどうでもいいんだよね。僕が味わった屈辱も果たせたし」
「だったらこの辺で手を引かないと、ヤバイことになるんじゃないか」
「水上は慎重派だなぁ。あいつが僕にだけ従順な人形になるまで、あと一歩ってところまで来てると思うんだ。だからもう少し遊ばせてよ」

 近田が目指すのは単なる復讐なんかじゃなく、身も心も自分の意のままに操れる人形になるまでトオルを堕とすこと。誇張でも冗談でもないことは、これまでの近田を見て来たからわかる。

「そこまで執着するような奴か?」
「……もしかして、水上って……」

 探るような目が向けられドキリとする。内心を見透かされそうな居心地の悪さ。目を逸らしたらやましいことでもあるのかと疑われるから、意地でも近田の目を見つめ続ける。

「まさか、トオルに惚れちゃったとか、言わないよね?」

 危うく安堵の息を吐いてしまいそうになった。

「んなわけねえじゃん。いくらケツに突っ込んでるからって、あんなの好きになんねえよ」
「あれでもかわいいとこあるよ? でも良かった。好きだって言われたら、もう遊びも止めなきゃって思ったから。さすがに友達の好きな奴は壊せないからね」

 安心したように近田は笑う。

「チカって、ホモに寛容なのな」
「寛容っていうか、理解は出来るでしょ。向居も水上もトオル相手に勃つんだから、あとは感情が伴えば男女の恋愛と何も変わらないよ」
「もしトオルからチカのことが好きだって言われたらどうするんだよ」

 近田はニッと口角を持ち上げた。

「僕が目指してる状態って、つまりそういうことなのかもしれない」
「あいつに好かれたいのかよ」
「酷いことをしてる張本人なのに、僕が飴の役割をしている限り、あいつは僕だけが唯一の味方だと錯覚するんだ。恋でも愛でも依存でもいい。その状態がいつまで続くのか興味湧かない? 完全に堕ちたと思ったらトオルのことは解放する。そのあと、期間を置いてまた接触したとき、トオルが僕の言うことをきくかどうか試したい」

 近田の目が好奇心でキラキラ輝く。

「それ、いつまで続ける気だよ」
「んー、トオルが僕の言うことをきかなくなるまで、かな?」
「一生だったらどうするんだよ」
「それも面白いね」

 と屈託なく笑う。

 一生あいつと付き合う気かよ。

 俺はいつまで近田のそばにいられるだろう。高校を卒業しても友達関係を続けているだろうか。社会人になっても、くたびれた中年になっても、近田と友達でいるだろうか。そんな未来、俺には想像できない。小中の友達とはみんな疎遠になっている近田が、俺を気にかけてくれるとは思えない。

 なのに、トオルには固執するなんて、面白くない。それがつい顔に出てしまったようだが、「水上は真面目だなぁ」と近田の行為を非難していると勘違いされた。

 駅の前で近田とは別れた。家に帰った俺は、トオルに中出ししたのにまたマスをかいた。漠然と思い浮かべる姿。直視しないことで誰かへ言い訳しているようだ。でも自覚はある。

 いつからかわからない。同じクラスになって最初に声をかけてきてくれた時か、友達になって一緒にいることが増えてからか。気付くと目で追っていた。自信溢れる態度がたまに鼻につくが、それがらしくて、魅力的でもあった。

 あいつの言うことならなんでも叶えてやりたいし、認められると舞い上がるほど嬉しくなる。

 俺は近田のことが好きだった。