奇跡(2/2)
2016.05.14.Sat.
<前話はこちら>
スマホをポケットに戻してベッドに腰かけた。振動で木原が目を覚まし、俺の腰に腕を巻きつけて来た
「まだ起きてたのか、お前」
人のベッドを占領しておいてよく言うよ。
「自分ちに帰らないの?」
「もう電車ないだろ」
歩いて帰れよ。
「明日朝から授業だ、忘れてた……明日、起こしてくれよ」
知ってるよ。だけどお断りだ。自分で起きろ。
「もう寝るぞ」
と俺を抱きよせ、抱き枕にする。
「酒臭い」
文句を言ったら「ごめん」と素直に謝ってくる。
「木原くん、好きな子いるの?」
「……いるよ」
「ふーん」
「気になる?」
「別に」
「俺のこと、好きなのに?」
「何度も違うって言ってると思うけど」
「俺のこと嫌いなんだっけ?」
木原の手が下におりていく。股間に触れて、また笑った。
「じゃあなんで勃たせてんの?」
ズボンの中に入って来た手が半立ちのペニスを握った。腰に腕を回されたときからこうだった。セックスに慣れてしまった弊害だ。
「触られたら勃つ、だろ」
「嫌いな奴でも?」
木原は俺に覆いかぶさると、首筋をペロリと舐めた。ゾクゾクとした震えがさざ波のように押し寄せる。シャツをたくしあげて、今度は俺の乳首に吸い付いた。口の中で乳首をこねくりまわしながら、右手はペニスを扱き続ける。
「ふ、あっ」
「俺のこと、嫌いなんだろ」
濡れた乳首に木原の息がかかる。視線を合わせたら木原は意地悪く笑った。嫌いだ、こんな奴。自分勝手で傲慢で自己中で我が儘で人の迷惑考えられないような奴、大嫌いだ。
足を広げられ、その中心に指を突っ込まれた。なかでグニグニと指を動かされる。根本に近い前立腺をグッと押されるとおかしな声をあげてしまう。
「あ、ふっ、あぁ、あ、あ、指…ッ…なか、いや……、そこ、押すの、だめ……ッ!」
しつこく擦られると腰から力が抜けてしまい、尿を漏らしてしまいそうな感覚に焦る。実際漏らすことはないだろうが、気を抜いていると射精してしまいそうだ。尻だけで達してしまったら、今後一生木原にからかわれそうで、それだけは避けたい。
ある程度解すと木原は指を抜いた。それでもまだ刺激が残っていて、俺の体はビクビク震え続けた。
ベルトを外し、前をくつろげ、木原はペニスを取り出した。扱かずとも、すでに充分育ったものを、俺の中へと埋めてきた。
木原は毎回入れる側だから本来排泄するばかりの場所へ異物を挿入される苦しみがわからないんだ。しかも俺のと比べて若干大きめ。そんなものでゴリゴリ擦られる身にもなってみろ。
「んんぅ……! う、あぁっ、あ、はぁっ! 入っ……は……木原くんっ……おっきぃから……ゆっくり、おねが……い!」
「中、俺でいっぱいだろ?」
問いかけにうんうんと頷く。木原が少し体勢を変えた拍子に一番敏感な場所をグリッと擦られた。
「あはぁあ……ッ! そこ! まって……当たっ……まだ……まだ、動くのやだぁっ……」
「気持ちいいとこ当たってる?」
俺の膝を左右に押し開いて木原は腰を動かした。
「当たって……る…んッ……あ……っあぁ……木原くんの、あ……当たって……あぅ、ん……」
ピストン運動が激しくなっていく。前立腺を刺激されて俺のペニスは痛いくらいに勃起した。触らなくても先走りが溢れてるのがわかる。
肌のぶつかる音に水音が混じるようになってきた。耳を塞ぎたい恥ずかしい音。取り繕うこともできない俺の嬌声。勝手にいやらしい声が出て来る。これは俺じゃない。別人だ。
「あっあ……ふっ……ぁ……木原く……俺、おれ……ど、なっ……ちゃう、の……っ」
「ん?」
「なん…で……っ……こ、んなっ……気持ち…い……の……ッ……?」
女の体じゃないのに、男に抱かれてどうしてこんなに気持ちよくなってしまうんだろう。大嫌いな木原にむりやり犯されているのに、どうして体に触れられただけで反応してしまうんだろう。俺はただの肉便器なのに。
情けなくって泣きたい。鼻の奥が痛んで湿り気を帯びる。ズッと啜りあげたら、音に気付いた木原が俺を見て軽く目を見開いた。
「なんて顔してんの、お前」
「なんでも、ないっ……」
誤魔化せるかと思ったが、濁った涙声が出た。
「あぁ、もう……お前のそういうとこ、ほんとかわいい」
ため息混じりに言ったあと、木原は目を細めて笑った。
かわいい? 俺が? 俺を形容するのに一番ふさわしくない言葉が木原の口から出て来て驚いた。
木原が本気で俺を可愛いと思っているなら、これで木原の好きな子の条件が全部揃ってしまったじゃないか。
高校の時の知りあいで、酷いことして、かわいいと思ってるのは、ほんとに俺のことだったというのか?
勘違いするなと思い切り馬鹿にされることに怯えながらも確かめずにはおられなかった。
「俺なの? 木原くんの、好きな子って」
「他に誰がいるの」
あっさりと木原は認めた。
罵倒ではなく優しい笑みを返されて面食らう。
「……っ……う、……うそ……」
「こんな嘘ついてどうするんだよ」
「でも、だって……ぁあっ!!」
体の中でまた木原のものが動きだし、俺は声をあげた。木原は俺の太ももを押し上げてガンガン奥を突き上げる。「嘘に決まってるだろ」って言うタイミングはもう過ぎている。ニヤニヤと笑ってもいない。額から汗を流すほど、俺の体に穿ちこむ行為に没頭している。
木原は俺のことが好き。
口のなかで呟いたら顔が熱くなってきた。
好きだから俺に会いに来て、俺を抱く。同じクラスだったことも忘れていたような、俺のことが。
木原の弱点は、まさかの俺。
「お前も俺のこと好きだろ?」
前髪を揺らしながら木原が訊ねる。しつこいくらい好きか嫌いか確認してくるのは、実は自信のなさの表れなのかもしれない。
「好きじゃ、ない」
「嘘つき」
と木原はいつも通り笑う。少しぎこちなく見えるのは気のせいだろうか。
「ほんとは、好き」
試しに言ってみると木原は固まった。びっくりした顔で俺を見つめる。
「もう一回言って」
催促され、もう一度「好き」と言ってやったらいきなりキスしてきた。噛みつくようなめちゃくちゃなキスだ。腹を圧迫された苦しい体勢で息もままならない。
「やっと素直になったな」
口を離した木原は例によってお目出たい発言をする。その嬉しそうな顔ったらもう。滑稽なのを通りこして可愛いくらいだった。
これでやっと俺の復讐が始められる。
相思相愛だと思わせておいて、最高に傷つく形で木原を振ってやる。だからそれまでは恋人ごっこに付き合ってやるとする。
スマホをポケットに戻してベッドに腰かけた。振動で木原が目を覚まし、俺の腰に腕を巻きつけて来た
「まだ起きてたのか、お前」
人のベッドを占領しておいてよく言うよ。
「自分ちに帰らないの?」
「もう電車ないだろ」
歩いて帰れよ。
「明日朝から授業だ、忘れてた……明日、起こしてくれよ」
知ってるよ。だけどお断りだ。自分で起きろ。
「もう寝るぞ」
と俺を抱きよせ、抱き枕にする。
「酒臭い」
文句を言ったら「ごめん」と素直に謝ってくる。
「木原くん、好きな子いるの?」
「……いるよ」
「ふーん」
「気になる?」
「別に」
「俺のこと、好きなのに?」
「何度も違うって言ってると思うけど」
「俺のこと嫌いなんだっけ?」
木原の手が下におりていく。股間に触れて、また笑った。
「じゃあなんで勃たせてんの?」
ズボンの中に入って来た手が半立ちのペニスを握った。腰に腕を回されたときからこうだった。セックスに慣れてしまった弊害だ。
「触られたら勃つ、だろ」
「嫌いな奴でも?」
木原は俺に覆いかぶさると、首筋をペロリと舐めた。ゾクゾクとした震えがさざ波のように押し寄せる。シャツをたくしあげて、今度は俺の乳首に吸い付いた。口の中で乳首をこねくりまわしながら、右手はペニスを扱き続ける。
「ふ、あっ」
「俺のこと、嫌いなんだろ」
濡れた乳首に木原の息がかかる。視線を合わせたら木原は意地悪く笑った。嫌いだ、こんな奴。自分勝手で傲慢で自己中で我が儘で人の迷惑考えられないような奴、大嫌いだ。
足を広げられ、その中心に指を突っ込まれた。なかでグニグニと指を動かされる。根本に近い前立腺をグッと押されるとおかしな声をあげてしまう。
「あ、ふっ、あぁ、あ、あ、指…ッ…なか、いや……、そこ、押すの、だめ……ッ!」
しつこく擦られると腰から力が抜けてしまい、尿を漏らしてしまいそうな感覚に焦る。実際漏らすことはないだろうが、気を抜いていると射精してしまいそうだ。尻だけで達してしまったら、今後一生木原にからかわれそうで、それだけは避けたい。
ある程度解すと木原は指を抜いた。それでもまだ刺激が残っていて、俺の体はビクビク震え続けた。
ベルトを外し、前をくつろげ、木原はペニスを取り出した。扱かずとも、すでに充分育ったものを、俺の中へと埋めてきた。
木原は毎回入れる側だから本来排泄するばかりの場所へ異物を挿入される苦しみがわからないんだ。しかも俺のと比べて若干大きめ。そんなものでゴリゴリ擦られる身にもなってみろ。
「んんぅ……! う、あぁっ、あ、はぁっ! 入っ……は……木原くんっ……おっきぃから……ゆっくり、おねが……い!」
「中、俺でいっぱいだろ?」
問いかけにうんうんと頷く。木原が少し体勢を変えた拍子に一番敏感な場所をグリッと擦られた。
「あはぁあ……ッ! そこ! まって……当たっ……まだ……まだ、動くのやだぁっ……」
「気持ちいいとこ当たってる?」
俺の膝を左右に押し開いて木原は腰を動かした。
「当たって……る…んッ……あ……っあぁ……木原くんの、あ……当たって……あぅ、ん……」
ピストン運動が激しくなっていく。前立腺を刺激されて俺のペニスは痛いくらいに勃起した。触らなくても先走りが溢れてるのがわかる。
肌のぶつかる音に水音が混じるようになってきた。耳を塞ぎたい恥ずかしい音。取り繕うこともできない俺の嬌声。勝手にいやらしい声が出て来る。これは俺じゃない。別人だ。
「あっあ……ふっ……ぁ……木原く……俺、おれ……ど、なっ……ちゃう、の……っ」
「ん?」
「なん…で……っ……こ、んなっ……気持ち…い……の……ッ……?」
女の体じゃないのに、男に抱かれてどうしてこんなに気持ちよくなってしまうんだろう。大嫌いな木原にむりやり犯されているのに、どうして体に触れられただけで反応してしまうんだろう。俺はただの肉便器なのに。
情けなくって泣きたい。鼻の奥が痛んで湿り気を帯びる。ズッと啜りあげたら、音に気付いた木原が俺を見て軽く目を見開いた。
「なんて顔してんの、お前」
「なんでも、ないっ……」
誤魔化せるかと思ったが、濁った涙声が出た。
「あぁ、もう……お前のそういうとこ、ほんとかわいい」
ため息混じりに言ったあと、木原は目を細めて笑った。
かわいい? 俺が? 俺を形容するのに一番ふさわしくない言葉が木原の口から出て来て驚いた。
木原が本気で俺を可愛いと思っているなら、これで木原の好きな子の条件が全部揃ってしまったじゃないか。
高校の時の知りあいで、酷いことして、かわいいと思ってるのは、ほんとに俺のことだったというのか?
勘違いするなと思い切り馬鹿にされることに怯えながらも確かめずにはおられなかった。
「俺なの? 木原くんの、好きな子って」
「他に誰がいるの」
あっさりと木原は認めた。
罵倒ではなく優しい笑みを返されて面食らう。
「……っ……う、……うそ……」
「こんな嘘ついてどうするんだよ」
「でも、だって……ぁあっ!!」
体の中でまた木原のものが動きだし、俺は声をあげた。木原は俺の太ももを押し上げてガンガン奥を突き上げる。「嘘に決まってるだろ」って言うタイミングはもう過ぎている。ニヤニヤと笑ってもいない。額から汗を流すほど、俺の体に穿ちこむ行為に没頭している。
木原は俺のことが好き。
口のなかで呟いたら顔が熱くなってきた。
好きだから俺に会いに来て、俺を抱く。同じクラスだったことも忘れていたような、俺のことが。
木原の弱点は、まさかの俺。
「お前も俺のこと好きだろ?」
前髪を揺らしながら木原が訊ねる。しつこいくらい好きか嫌いか確認してくるのは、実は自信のなさの表れなのかもしれない。
「好きじゃ、ない」
「嘘つき」
と木原はいつも通り笑う。少しぎこちなく見えるのは気のせいだろうか。
「ほんとは、好き」
試しに言ってみると木原は固まった。びっくりした顔で俺を見つめる。
「もう一回言って」
催促され、もう一度「好き」と言ってやったらいきなりキスしてきた。噛みつくようなめちゃくちゃなキスだ。腹を圧迫された苦しい体勢で息もままならない。
「やっと素直になったな」
口を離した木原は例によってお目出たい発言をする。その嬉しそうな顔ったらもう。滑稽なのを通りこして可愛いくらいだった。
これでやっと俺の復讐が始められる。
相思相愛だと思わせておいて、最高に傷つく形で木原を振ってやる。だからそれまでは恋人ごっこに付き合ってやるとする。

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奇跡(1/2)
2016.05.13.Fri.
<「視線の先」→「ターゲット」>
部屋が酒臭い。俺のベッドを占領して寝息を立てている木原のせいだ。
大学の奴らと飲んできたらしい。それは別にいい。女ものの甘ったるい香水の匂いもするけど、俺には関係ない。好きにすればいい。
だけど、自分の部屋に帰らず俺の部屋に来るのはやめて欲しい。いま何時だと思ってる。こっちは寝るとこだったんだ。うちは駅から30分はかかる立地なのに、どうしてわざわざ30分かけてやってくるんだ。理解に苦しむ。
「おい。起きろよ」
肩を揺すってみた。木原はうーんと呻くだけ。
「ジャケット! 脱いだほうがいいんじゃないのか?」
今日泊めて、と部屋にあがりこむとそのままベッドに倒れ込んでしまったから、来た時の服装のままだった。皺になっても知らないぞ。
「脱がせて」
呂律の回らない口調で甘えたように言ってくる。どうして迷惑かけられている俺がそんなことまでしてやらなくちゃいけないんだ。
と思いつつ、外着で布団に寝転がられるのは抵抗があるから片腕ずつ脱がせてやった。ブイネックの首元にチャラいネックレスが揺れる。
新歓で複数の女の子と連絡先を交換したと自慢していたっけ。女慣れしてて、顔もそこそこで、見た目にも気を付けていたら、ある程度はモテるんだろう。頻繁に来るラインのメッセージ。何割が木原に気のある子なんだろうか。
知ったこっちゃない。俺には関係ない。俺とこいつはなんでもない。俺が木原と一緒にいるのはこいつに復讐してやるためだ。
高校三年の夏の終わり、俺は木原に強/姦された。木原は野球部エースの冴島のことが好きだった。だけど振られるのがわかっているから告白できないでいた。その苛立ちと性欲を身勝手にも俺にぶつけてきたのだ。
しかも、一度ではなく、何度もだ。
俺は嫌だと言い続けたのに、木原は聞く耳を持たず、俺の体を好きにした。金のかからない風俗扱いだ。
高校を卒業したらぱったり連絡が止んだ。かつてのクラスメートの顔と名前すら忘れるような男だ。ただの肉便器を気にかけるわけがない。
少し注意していれば木原の進路情報は簡単に知ることが出来た。別に知りたくもなかったが、噂は勝手にめぐりめぐるものだ。
卒業後は嫌な記憶と共に木原のことを忘れるよう努力した。最初のレ/イプされた時に撮られていた動画も消去した。
撮りためていた冴島の画像も、見ていると木原を思い出すからすべて消した。
だが木原にまつわる全てを消し去っても記憶から完全に消し去ることは不可能だった。当然だ。あんな嫌な目に遭ったのに簡単に忘れられるわけがなかったのだ。
忘れられないなら、忘れなければいい。毎日思い出してしまう男を、逆にもっと知ってやればいい。進学先は知っているから空いた時間に大学の周辺をうろついてみた。木原を見つけるのに二ヶ月かかった。
俺の苦悩を知らないで、木原は新しい友人たちと楽しそうだった。すっかり俺のことなんか忘れた顔をして歩いていた。憎らしかった。
木原のあとをつけた。バイト先のカラオケボックスも、一人暮らししているワンルームマンションも突き止めた。
冴島の時に慣れているから隠し撮りもした。大学の行き帰り。バイト中。バイト終わり、仲間とファミレスで食事をするところ。休みの日に洗濯物を干す姿。近くのスーパーで買い物をするところもみんな写真に撮った。
木原の交友関係も、趣味嗜好も、高校で近くにいた頃より詳しくなった。
冴島のデータが詰まっていたパソコンに、今度は木原のデータが詰め込まれるようになった。それを眺めながら俺は木原の弱みはないかと探していた。
あいつの弱みを握ることが出来れば、自分が強/姦されたこと以外で、あいつを窮地に立たせてやることが出来る。そう信じて尾行を続け、写真を撮りまくった。
信号無視なんて大学へチクッたところで全体注意に終わるだろう。未成年の飲酒程度では俺の強/姦と比べて罪が軽い。もっと社会的に制裁を与えられるネタはないかと待ち構えていたのに、木原はなかなか問題行動を起こさなかった。
木原の尾行や情報収集がライフワークになった頃、たいてい複数人で遊ぶことの多い木原が、必ずと言っていいほど二人きりで会う人がいることに気付いた。年上の男で、木原と少し毛色の違う、おとなしめの感じの人だ。
人通りの多い場所では親しい友人同士の雰囲気だったのが、ひと気の少ない住宅街に入ると二人の距離は縮まって親密な空気を漂わせるようになった。二人は付き合っているのだと勘でわかった。
手を繋いだりキスしているところを見たわけじゃないが、顔の近さや視線の絡ませ方、さりげないボディタッチが一線越えた関係であることを匂わせた。俺も木原とそういう関係だったから気付けたのかもしれない。
無性に腹が立った。怒りが湧いた。俺を強/姦しておいて。用済みになれば連絡ひとつ寄越さずに。さっさと新しい男を見つけて。なにが「ホモは相思相愛の相手を見つけられるのは奇跡」だ。簡単に見つけてるじゃないか。
当然相手の男のことも調べた。顔に似合わず男の交際関係は派手だった。毎日違う男と会っていた。それでも飽き足らず、怪しげな場所に通っていた。
木原の恋人は浮気しまくっていた。ざまあみろといい気味だった。いつバラしてやろうかとタイミングを計っていたら、木原に見つかった。
反射的に逃げる俺を木原は追いかけて来た。数百メートルで捕まった。木原はニヤついていた。強く掴まれた腕が痛かった。
「恩田」
さすがに俺の顔と名前は覚えていた。
「俺のあとつけて、写真撮って、どういうつもりだ?」
尾行と盗撮に気付かれていた。慌てて頭が真っ白になった。言い訳も出て来ない。
「もう、冴島のことは好きじゃないのか?」
いまだに冴島のことを言ってきた。冴島が好きだったのか、自分でもはっきりしない。少しの恋心があったことは認める。だが憧れが大半だったと思う。冴島と付き合ってどうこうする具体的な想像は、なに一つ出来なかった。
「俺のことが好きなのか?」
木原はとんでもないことを言い出した。好きになるわけがないのに。無理矢理抱かれていただけなのに。冴島の時と同じ勘違いを木原はしていたようだった。奇跡的に出来た同性の恋人に浮気されまくるようなおめでたい木原らしい発想だ、と思った。
「好きなわけ、ない」
否定したのに、木原は笑みを濃くした。
「お前は嘘つきだからな」
と、いきなり俺を抱きしめた。人通りはなかったが、天下の往来で。憚ることなく堂々と。
俺も冴島が好きだと信じて疑わなかった木原は、それと同じ理屈で自分のことが好きだと結論づけたようだった。
そのあと、俺の家に案内させられた。道中、質問攻めにあった。進学先、住まいの場所、暇な曜日や時間帯、いつも利用する電車、などなど。高校時代、あんなに無関心だったのに、ありとあらゆる質問をしてきた。
さすがに訊くこともなくなって、木原が自分の近況を語りだした頃、俺の住むマンションについた。そこで俺はまた木原に犯された。
久しぶりの感覚が怖かった。組み敷かれ、直に触られてこうだったと体が思い出した。手順が以前と違った。違和感の正体は、浮気性な木原の恋人だ。
恋人はいいのかと聞いたら、ただのセフレだと言われた。木原を打ちのめすネタを手に入れたと思っていたのに無駄になった。
それ以来、木原は頻繁にうちに来るようになった。嫌な顔をすれば「俺のことが好きなんだろ」と勘違い発言をする。
はっきり「嫌い」だと言っても信じない。俺を抱いて、乱れる姿を見下ろしながら「嘘つき」と笑うだけだ。
セックスには慣れてしまった。無理矢理ではあるが、木原は乱暴はしない。女のように喘ぐ自分が、自分でない別人みたいだ。木原に抱かれたあと、鏡を見ると恥ずかしくてたまらなくなる。
なんとかして、木原の弱みを握らなくては。自分を取り戻すために。木原との関係を断ち切るために。
脱がせたジャケットのポケットからスマホを取り出した。ラインやらメールを確認する。遊びに行くだの、飲みに行くだの、そんなくだらない話ばかり。
智美という名前の女の子と頻繁にLINEでやり取りをしていた。智美から送られてくるメッセージに返信しているのがほとんどだ。内容や多用される絵文字の種類から、智美は木原に気があるらしい。木原のほうはそっけなく返している。
さかのぼると、「どうして彼女作らないの?」という質問を見つけた。「好きな子がいるから」と木原は返している。
「誰?」
「秘密」
「教えて」
「智美の知らない子」
「高校の?」
「そう」
「かわいい子?」
「かわいい」
「告白しないの?」
「嫌われてる」
「どうして?」
「嫌われることしたから」
「どんなことしたの?」
「酷いこと」
「なにしたの?」
「秘密」
「気になる!」
「だめ」
「誰にも言わないから!」
木原の既読スルーでこのやり取りは終わっていた。木原の好きな子。高校の時の同級生で、可愛くて、酷いことをした子。酷いことはされたけど、まさか俺じゃないだろう。第一、可愛くない。
他に思い浮かぶのは冴島だけだ。木原が冴島に酷いことをしたなんて想像できない。告白する勇気もないのに、傷つけるようなことが出来るわけがない。
じゃあ一体誰だ。俺と冴島以外の候補が思い当たらない。まさか本当に俺か?
ありえないとは思いつつ、こうして何度も俺を抱くことが裏付けになっているようにも思えて来る。
いやいや、そんなことありえない。
俺には何度も「俺の事が好きなんだろ?」と言ってくる木原だが、俺には一度も好きだと言ったことはない。好きじゃないからだ。都合のいい肉便器に逆戻りしただけ。便器に好きだのなんだの、そんな感情抱かない。
部屋が酒臭い。俺のベッドを占領して寝息を立てている木原のせいだ。
大学の奴らと飲んできたらしい。それは別にいい。女ものの甘ったるい香水の匂いもするけど、俺には関係ない。好きにすればいい。
だけど、自分の部屋に帰らず俺の部屋に来るのはやめて欲しい。いま何時だと思ってる。こっちは寝るとこだったんだ。うちは駅から30分はかかる立地なのに、どうしてわざわざ30分かけてやってくるんだ。理解に苦しむ。
「おい。起きろよ」
肩を揺すってみた。木原はうーんと呻くだけ。
「ジャケット! 脱いだほうがいいんじゃないのか?」
今日泊めて、と部屋にあがりこむとそのままベッドに倒れ込んでしまったから、来た時の服装のままだった。皺になっても知らないぞ。
「脱がせて」
呂律の回らない口調で甘えたように言ってくる。どうして迷惑かけられている俺がそんなことまでしてやらなくちゃいけないんだ。
と思いつつ、外着で布団に寝転がられるのは抵抗があるから片腕ずつ脱がせてやった。ブイネックの首元にチャラいネックレスが揺れる。
新歓で複数の女の子と連絡先を交換したと自慢していたっけ。女慣れしてて、顔もそこそこで、見た目にも気を付けていたら、ある程度はモテるんだろう。頻繁に来るラインのメッセージ。何割が木原に気のある子なんだろうか。
知ったこっちゃない。俺には関係ない。俺とこいつはなんでもない。俺が木原と一緒にいるのはこいつに復讐してやるためだ。
高校三年の夏の終わり、俺は木原に強/姦された。木原は野球部エースの冴島のことが好きだった。だけど振られるのがわかっているから告白できないでいた。その苛立ちと性欲を身勝手にも俺にぶつけてきたのだ。
しかも、一度ではなく、何度もだ。
俺は嫌だと言い続けたのに、木原は聞く耳を持たず、俺の体を好きにした。金のかからない風俗扱いだ。
高校を卒業したらぱったり連絡が止んだ。かつてのクラスメートの顔と名前すら忘れるような男だ。ただの肉便器を気にかけるわけがない。
少し注意していれば木原の進路情報は簡単に知ることが出来た。別に知りたくもなかったが、噂は勝手にめぐりめぐるものだ。
卒業後は嫌な記憶と共に木原のことを忘れるよう努力した。最初のレ/イプされた時に撮られていた動画も消去した。
撮りためていた冴島の画像も、見ていると木原を思い出すからすべて消した。
だが木原にまつわる全てを消し去っても記憶から完全に消し去ることは不可能だった。当然だ。あんな嫌な目に遭ったのに簡単に忘れられるわけがなかったのだ。
忘れられないなら、忘れなければいい。毎日思い出してしまう男を、逆にもっと知ってやればいい。進学先は知っているから空いた時間に大学の周辺をうろついてみた。木原を見つけるのに二ヶ月かかった。
俺の苦悩を知らないで、木原は新しい友人たちと楽しそうだった。すっかり俺のことなんか忘れた顔をして歩いていた。憎らしかった。
木原のあとをつけた。バイト先のカラオケボックスも、一人暮らししているワンルームマンションも突き止めた。
冴島の時に慣れているから隠し撮りもした。大学の行き帰り。バイト中。バイト終わり、仲間とファミレスで食事をするところ。休みの日に洗濯物を干す姿。近くのスーパーで買い物をするところもみんな写真に撮った。
木原の交友関係も、趣味嗜好も、高校で近くにいた頃より詳しくなった。
冴島のデータが詰まっていたパソコンに、今度は木原のデータが詰め込まれるようになった。それを眺めながら俺は木原の弱みはないかと探していた。
あいつの弱みを握ることが出来れば、自分が強/姦されたこと以外で、あいつを窮地に立たせてやることが出来る。そう信じて尾行を続け、写真を撮りまくった。
信号無視なんて大学へチクッたところで全体注意に終わるだろう。未成年の飲酒程度では俺の強/姦と比べて罪が軽い。もっと社会的に制裁を与えられるネタはないかと待ち構えていたのに、木原はなかなか問題行動を起こさなかった。
木原の尾行や情報収集がライフワークになった頃、たいてい複数人で遊ぶことの多い木原が、必ずと言っていいほど二人きりで会う人がいることに気付いた。年上の男で、木原と少し毛色の違う、おとなしめの感じの人だ。
人通りの多い場所では親しい友人同士の雰囲気だったのが、ひと気の少ない住宅街に入ると二人の距離は縮まって親密な空気を漂わせるようになった。二人は付き合っているのだと勘でわかった。
手を繋いだりキスしているところを見たわけじゃないが、顔の近さや視線の絡ませ方、さりげないボディタッチが一線越えた関係であることを匂わせた。俺も木原とそういう関係だったから気付けたのかもしれない。
無性に腹が立った。怒りが湧いた。俺を強/姦しておいて。用済みになれば連絡ひとつ寄越さずに。さっさと新しい男を見つけて。なにが「ホモは相思相愛の相手を見つけられるのは奇跡」だ。簡単に見つけてるじゃないか。
当然相手の男のことも調べた。顔に似合わず男の交際関係は派手だった。毎日違う男と会っていた。それでも飽き足らず、怪しげな場所に通っていた。
木原の恋人は浮気しまくっていた。ざまあみろといい気味だった。いつバラしてやろうかとタイミングを計っていたら、木原に見つかった。
反射的に逃げる俺を木原は追いかけて来た。数百メートルで捕まった。木原はニヤついていた。強く掴まれた腕が痛かった。
「恩田」
さすがに俺の顔と名前は覚えていた。
「俺のあとつけて、写真撮って、どういうつもりだ?」
尾行と盗撮に気付かれていた。慌てて頭が真っ白になった。言い訳も出て来ない。
「もう、冴島のことは好きじゃないのか?」
いまだに冴島のことを言ってきた。冴島が好きだったのか、自分でもはっきりしない。少しの恋心があったことは認める。だが憧れが大半だったと思う。冴島と付き合ってどうこうする具体的な想像は、なに一つ出来なかった。
「俺のことが好きなのか?」
木原はとんでもないことを言い出した。好きになるわけがないのに。無理矢理抱かれていただけなのに。冴島の時と同じ勘違いを木原はしていたようだった。奇跡的に出来た同性の恋人に浮気されまくるようなおめでたい木原らしい発想だ、と思った。
「好きなわけ、ない」
否定したのに、木原は笑みを濃くした。
「お前は嘘つきだからな」
と、いきなり俺を抱きしめた。人通りはなかったが、天下の往来で。憚ることなく堂々と。
俺も冴島が好きだと信じて疑わなかった木原は、それと同じ理屈で自分のことが好きだと結論づけたようだった。
そのあと、俺の家に案内させられた。道中、質問攻めにあった。進学先、住まいの場所、暇な曜日や時間帯、いつも利用する電車、などなど。高校時代、あんなに無関心だったのに、ありとあらゆる質問をしてきた。
さすがに訊くこともなくなって、木原が自分の近況を語りだした頃、俺の住むマンションについた。そこで俺はまた木原に犯された。
久しぶりの感覚が怖かった。組み敷かれ、直に触られてこうだったと体が思い出した。手順が以前と違った。違和感の正体は、浮気性な木原の恋人だ。
恋人はいいのかと聞いたら、ただのセフレだと言われた。木原を打ちのめすネタを手に入れたと思っていたのに無駄になった。
それ以来、木原は頻繁にうちに来るようになった。嫌な顔をすれば「俺のことが好きなんだろ」と勘違い発言をする。
はっきり「嫌い」だと言っても信じない。俺を抱いて、乱れる姿を見下ろしながら「嘘つき」と笑うだけだ。
セックスには慣れてしまった。無理矢理ではあるが、木原は乱暴はしない。女のように喘ぐ自分が、自分でない別人みたいだ。木原に抱かれたあと、鏡を見ると恥ずかしくてたまらなくなる。
なんとかして、木原の弱みを握らなくては。自分を取り戻すために。木原との関係を断ち切るために。
脱がせたジャケットのポケットからスマホを取り出した。ラインやらメールを確認する。遊びに行くだの、飲みに行くだの、そんなくだらない話ばかり。
智美という名前の女の子と頻繁にLINEでやり取りをしていた。智美から送られてくるメッセージに返信しているのがほとんどだ。内容や多用される絵文字の種類から、智美は木原に気があるらしい。木原のほうはそっけなく返している。
さかのぼると、「どうして彼女作らないの?」という質問を見つけた。「好きな子がいるから」と木原は返している。
「誰?」
「秘密」
「教えて」
「智美の知らない子」
「高校の?」
「そう」
「かわいい子?」
「かわいい」
「告白しないの?」
「嫌われてる」
「どうして?」
「嫌われることしたから」
「どんなことしたの?」
「酷いこと」
「なにしたの?」
「秘密」
「気になる!」
「だめ」
「誰にも言わないから!」
木原の既読スルーでこのやり取りは終わっていた。木原の好きな子。高校の時の同級生で、可愛くて、酷いことをした子。酷いことはされたけど、まさか俺じゃないだろう。第一、可愛くない。
他に思い浮かぶのは冴島だけだ。木原が冴島に酷いことをしたなんて想像できない。告白する勇気もないのに、傷つけるようなことが出来るわけがない。
じゃあ一体誰だ。俺と冴島以外の候補が思い当たらない。まさか本当に俺か?
ありえないとは思いつつ、こうして何度も俺を抱くことが裏付けになっているようにも思えて来る。
いやいや、そんなことありえない。
俺には何度も「俺の事が好きなんだろ?」と言ってくる木原だが、俺には一度も好きだと言ったことはない。好きじゃないからだ。都合のいい肉便器に逆戻りしただけ。便器に好きだのなんだの、そんな感情抱かない。