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2度あることは(2/2)

2015.10.22.Thu.
<前話はこちら>

 暖簾をくぐって左手が男子トイレだ。小便器一つ、個室一つ。堀田の姿はないから、使用中の個室にいるのだろう。

「堀田?」

 声をかけたら案の定「いるよ」と中から返事があった。

「平気?」
「平気」
「別に誰かに話すつもりはないから」
「うん」
「まだ泣いてるのか?」
「いや、ただ、どんな顔すればいいかわからなくて」
「開けろ」

 しばらくするとガチャリと鍵が開いた。戸を引いたら、俯く堀田が立っていた。

「あの相手って誰?」

 非難と狼狽の混じった目が俺を見た。好奇心丸出しの質問だが、どうしても気になった。

「言えないよ」
「誰にも言わないから」
「そういう……ことじゃなくて……」

 俺が信用されていないのか、どうしても相手を守りたいのか、堀田に言う気配はなくてじれったく思う。

 外で人の足音がした。思わず堀田を押し込んで俺も個室に入った。鍵をかけるのと、誰かが入ってくるのは同時だった。良い感じに酔ったその客は、鼻歌まじりに小便器で用を足している。

 怪しまれていないとほっと胸をなでおろし、目線を堀田に戻して、心臓が飛び上がった。咄嗟の行動とは言え、俺は堀田を壁に押し付けるように密着していたのだ。少し前に騒がれてた、壁ドンという態勢で。

 慌てて顔を横にずらした。耳元で堀田の息遣いがする。堀田もこの状況に焦っているのか呼吸が乱れている。

 外の客は手を洗うとトイレから出て行った。静かになった空間。少し動くとバランスが崩れてしまうような危うい緊張感が漂っている。

「もう、出てもいいんじゃないか」

 言いながら堀田が身じろいだ。触れていないのに、堀田に近い場所が熱い。

「俺にもできる?」
「えっ?」

 トイレの壁を見つめながら俺はもう一度言った。

「俺にもフェラ出来る?」

 横顔に堀田の視線が突き刺さる。俺はなんてことを言ってしまったんだ。

 あの画像を見てから想像が止まらなかった。挙句、堀田とホモセックスする夢を見た。場所は奇しくも画像と同じトイレ。シチュエーションがだぶる。部長だか誰だかのちんこをしゃぶることが出来るなら、俺のだってできるはずだ。

「出来るよ」

 堀田は言った。そしてその場にしゃがみ込んだ。



 デジカメで見たものが目の前で再現されている。俺のものを咥えこむ堀田と、堀田を見下ろすアングルも何もかもほぼ正確に。

 俺の靴の上に膝を乗せて、堀田は顔を前後に動かしている。根本まで飲み込み、唇で扱いて、舌の先で鈴口を吸い上げる。気持ち悪くないのだろうか。ホモだから平気なのか。

 こめかみに手を当て、髪をすくったら堀田は目をあげた。いやらしいことをしているのに、なんとも無垢な瞳だった。目が合うと、堀田は恥ずかしそうに再び目を伏せた。口から出して横笛みたいに舌を這わせる。

「相手は堀田の恋人?」

 しつこいと思われそうだが、どうしても気になって訊ねた。堀田は首を横に振った。

「脅されて、あんなことしたのか?」
「違う」
「じゃあ、誰でもいいのか?」

 現にいま俺にしているように。

「……ほんとに何も覚えてないんだな」

 堀田はため息をついた。

「一昨年の忘年会でお前、飲み過ぎて吐いただろ」

 確かにあの日、俺は自棄になってむちゃくちゃな飲み方をして吐いた。それがなんの関係が?

「あの時俺が介抱してやったのも忘れた?」
「え……そうだったか?」
「そうだよ。気持ち悪いって言うからトイレまで連れて行ったら、由香利ちゃんがどうとかすごい絡んで来て鬱陶しくて、俺も酒入ってたのもあったから、俺が好きなのはお前だって、つい勢いで告白したんだ」
「告白?!」

 堀田って俺が好きだったのか?!

「ほんとに全部忘れやがって」

 いじけたように尖らせた唇で、俺のものにちゅっとキスする。

「う、嘘だ」
「あの時もそう言ってなかなか信じてくれなったな。証明してみせろってお前が俺に言ったんだ」
「証明……?」

 小さく頷くと、堀田はまた俺のものを口に入れた。ぬるっとした感触になにかが揺さぶられる。知らないことなのに、嘘だと否定しきれない。覚えてないのに、堀田の口の熱さと舌の動きを体が記憶している。あの画像の相手は俺。俺が堀田にフェラさせたんだ。

 俺の目は無意識に堀田の胸ポケットを見ていた。そうだ。堀田の胸ポケットにデジカメが入っていたんだ。あの写真を撮ったのは俺だ。思い出した!

 俺は手で顔を覆った。同じネタで堀田に2度も口でやらせている自分のクズっぷりが情けないのと堀田に申し訳ないのとで合わせる顔がなかった。

「もう、いいから」

 やっと声を出して止めようとしたが堀田は止まらない。

「堀田」

 さっきより勢いを増して俺を扱きたてる。狭い便所に卑猥な音が響く。

「堀田、やめろって」

 やめろと言いながら俺のちんこははちきれんばかりに膨張して爆発の瞬間を迎えようとしていた。

「ちょ、ほんとに、出るって……!」

 軽く堀田の肩を押したら、倍の強さで吸われて俺は射精した。堀田の口のなかで。ドックドックとあの生臭い白い液体をぶちまけてしまったのだ。

「悪い、早く吐きだせ」

 だが堀田は立ち上がる動作とともにごくりとそれを飲み込んだ。なぜ飲む! 信じられん。これもホモだから平気なのか?!

 茫然となる俺を押しのけ、堀田は鍵をあけて個室から出た。俺もあとに続いて外に出る。堀田は水道で手を洗い、口をゆすいだ。

「お前って、まだ俺のこと好きなのか?」

 鏡のなかで堀田と目が合う。

「そうだよ」

 やけっぱちな口調で堀田は認めた。顔がみるみる赤く染まっていくのが見える。それを隠すように堀田は俯いた。

 一度ならず二度までも、俺は堀田にあんなことをさせてしまった。堀田はほとんど嫌がる素振りも見せずやってくれた。理由は俺が好きだから。

 なんだろう。恥ずかしそうにする堀田を見てたら胸が苦しくなってきた。

「付き合う?」
「えっ」

 驚いて堀田が振り返る。俺だって驚いてる。

「俺たち付き合って、みる?」

 堀田の目が限界まで見開かれている。あ、やばい。こいつかわいい。今度は俺が目を逸らす番だった。



雨雫

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2度あることは(1/2)

2015.10.21.Wed.
※フェラだけ

 取引先の工場見学に行くことが決まった。勉強目的なのでデジカメも持って行ったほうがよさそうなのだが、写真が趣味でもない独身の俺が持っているはずもなく、安いの一個買うかなぁという話を、居酒屋で同僚の堀田に話したら、使ってないデジカメがあるらしく貸してもらえることになった。

 翌日、堀田はデジカメを忘れず持ってきてくれた。帰宅してから操作確認もかねて、充電したあと電源を入れてみると、堀田が撮ったと思われる写真が何枚か残されていた。

 日付は一昨年のものだ。花見に行ったのか桜の写真や、どこかわからない風景写真、部署内で行われた忘年会の写真もあった。懐かしいと思いながら写真を進めていくと、赤い顔で目を逸らしている堀田が現れた。場所はなぜかトイレの個室だ。

 なんだこれは、と訝しみながら次の一枚を見て驚いた。堀田が口いっぱいに男根を咥えこんでいる写真が写っていたのだ。咥えているのはまさか堀田本人のものではあるまい。アングルから見て撮影者のものだろう。

 堀田が誰かのものをしゃぶっている写真が4、5枚続き、最後は顔に白いものをかけられた堀田が写っていた。

 とんでもないものを見てしまったと、デジカメを持つ手が震えた。

 堀田はこれを知ってて俺に貸したのだろうか。それとも忘れていてうっかり渡してしまったのだろうか。

 というかあれは一体何なのだ。堀田はホモなのか。恥じらってはいるようだったが、しゃぶっている顔に嫌悪はなかったように思える。嫌だったら根本までぐっぽり咥えこんだりしないだろう。

 いや、それとも、何者かに弱みを握られ脅されていたのだろうか。仕方なく男のちんこをしゃぶっているような上目使いには見えなかったが。

 堀田ホモ説、脅されてむりやりフェラ説。あとどんな可能性があるだろう。俺へのどっきりか。あれはただの合成とか、ちんこはよく出来た偽物とか。だが、あの陰毛の具合とか、ちらりと見える撮影者の肌は、どう見ても本物だった。

 堀田がわからない。堀田の意図がわからない。堀田の真意がわからない。

 インパクトのある画像が頭から離れず、その夜は堀田とホモセックスする夢を見てしまった。

 ※※※

 翌朝、出社すると、コーヒーメーカーの近くで部長と談笑する堀田を見つけた。そういえば堀田は部長のお気に入りだ。俺が今年行く工場見学も、本当は堀田が先に声をかけられていたのに、その日は他の取引先と外せない商談があるからと断っていた。だから面倒な工場見学が俺にまわってきたのだ。

 もしかして、あの写真の相手は部長だろうか。ロマンスグレーで独身貴族の色気があると女子社員に人気の部長が、堀田にトイレでフェラさせて、それを写真におさめる変態だったとは。

 見る目がかわるといろんなものが違う意味を持つようになり、新しい発見もあった。部長はボディタッチが多かった。俺が見ている間だけで、もう2回、堀田に触っている。肩や背中を触られても、堀田はちっとも嫌そうな顔をしない。

 ということは、あれは同意の上で行われたということか。二人はそういう仲だというわけか。

 言われてみると、堀田は由香利ちゃんの露骨なアプローチになびかなかった。一昨年の忘年会の時も、周りのお節介な連中が二人をくっつけようと、由香利ちゃんと堀田を幹事に指名した。

 由香利ちゃんは距離を縮めようと堀田に積極的だった。当時由香利ちゃんのことが好きだった俺は見ていて辛かった。当の堀田は素知らぬ顔で由香利ちゃんのアピールを受け流していた。このすかし具合が面白くなくて、この時の忘年会で俺は吐くまで飲んでしまった。

 ホモだから堀田は由香利ちゃんに興味がなかったのだ。もっと早くに知っていれば。

 当然ながら二人が付き合うことはなかった。由香利ちゃんは合コンで知り合ったという出版社勤務の男と付き合い出したと年明けに聞いた。忘年会で自棄酒したからか、俺もなぜか吹っ切れていて、その情報を聞いてもショックはなかった。

 あれ以降も堀田に浮いた話は聞いたことがない。俺の知る限り彼女もいない。思い返せば部長とはよく喋っているし、飲みに行く回数も他より多いんじゃないだろうか。

 考えれば考えるほど、部長と堀田は怪しい関係に見える。神聖な職場で朝っぱらからホモ同士いちゃつくとはけしからん奴だ。

 社内で堂々とで部長といちゃついていた堀田がこちらにやってきた。

「おはよう」

 俺が何も知らないと思っていつも通りの笑顔で話しかけて来る。

「デジカメ、ありがとな」
「一応動作確認はしたんだけど、大丈夫だった?」
「ぜんぜん問題なし。忘年会の写真が写ってた」
「えっ? あ、一昨年の! 俺が幹事やった時のだ。もう一人の幹事の子がたくさん写真撮っててくれてたから、俺のは現像出さなかったんだ」

 あんなもん現像に出したら警察に捕まるぞ。というか、堀田には由香利ちゃんの名前を言うほどの興味もないのか。だってホモだもんな。

「全部見てないのか?」
「最初のとこしか見てなかったなぁ。何かやばいの写ってた?」

 冗談めかした口調。堀田はあんなものが残っていたと気付いていない様子だ。これは俺も黙っておくべきだろうか。見なかったことにして、あの画像もこっそり消去してからデジカメを返したほうがいいのだろうか。

 知らんぷりをしようと気持ちが傾いていたのに、

「――――見ちゃった」

 思いとは反対の言葉が出た。

「なにを?」

 堀田がきょとんと聞き返す。

「今日、仕事のあと、部長と約束ある?」
「部長と? 何もないけど」
「だったら飲みに行こう。その時話す」

 堀田は不安そうな顔で「わかった」と返事をした。

 ※※※

 一昨日と同じ居酒屋に来た。酒とあてになるものをいくつか注文したあと、おしぼりで手を拭いながら「話って?」と堀田が切り出した。

「お前って、部長と仲いいよな」
「そうかな?」
「割と親しげに見える」
「普通だろ」
「今日も、なんだかんだ部長と話し込んでたし、部長に触られてたし」
「そうだっけ? よく見てるな」

 揺さぶりをかけてみても、堀田はポーカーフェイスを崩さない。部長を意識していない証拠か、堀田の演技力がただものじゃないレベルなのか。それとも相手は部長じゃなかったのかもしれない。

 注文した酒とつまみがテーブルに届いた。堀田が日本酒をちびりとやった。

「で、話って?」
「うん。デジカメ、ありがとな」
「それはもう聞いたって」
「全部見た」
「別にいいよ。どうせたいしたもの写ってなかっただろ」

 たいしたもんが写っていたから、俺は大混乱しているんだぞ。

「なんか……、合成かなっていうのが写ってた」
「合成? どんな?」

 まったく心当たりがなさそうな顔で、堀田は焼き鳥の盛り合わせに手をつける。

「お前が……たぶん、忘年会の時だと思うんだけど……トイレにいて……」
「トイレ?」

 と目をあげたあと、堀田の表情が激変した。完全に思い出したようで、零れ落ちそうなほど目を見開いた。顔は瞬間的に真っ赤に茹って、人間の毛細血管すげえと思った。

 言い逃れできない状況だ。どんな言い訳も、あの画像の破壊力の前には無力だ。

 堀田はぎこちなく目を伏せた。唇を何度も舐めて、おしぼりで汗を拭った。

「…………残ってた……?」

 蚊の鳴くようなか細い声がやっと聞こえた。

「あれ、本物?」
「え、どういう意味……?」
「ちんこしゃぶったの?」

 堀田はうなだれるようにさらに深く頭をさげた。肯定だ。あれは本物なのだ。堀田はちんこをしゃぶったことがある男なのだ。

「堀田ってホモ?」

 見逃してしまいそうなほど小さく堀田が頷く。
 耳も項も真っ赤になっている。

「まさかあんな形で知らされると思ってなかったから、びっくりした」
「ごめん」
「なんか、複雑な心境だよ」
「だろうね」
「今まで通り付き合ってくの、難しいかもしれない」
「……そっか……仕方ないと思う」

 俯いたままの堀田が、グスッと鼻をすすりあげた。

「泣いてる?」
「ごめん、驚いただけだから。俺もまさか、デジカメに写真残ってると思ってなくて」
「人に渡す前にちゃんとデータ確認しろよ。お前ってしっかり者に見えて案外そういうとこ抜けてるんだから」
「ほんと、そうだよな」

 汗を拭うふりをして、堀田はさっとおしぼりを目元に当てた。

「ちょっと顔洗ってくる」

 下を向いたまま、堀田は席を立って店の奥のトイレへ逃げ込んだ。

 言ってしまった。ついに堀田にホモかどうか聞いてしまった。そして堀田はそれを認めた。

 やはり堀田はホモだったのだ。では一体相手は誰だったのだろう。やはり部長か。他に堀田と親しい人間が会社にいたかな。

 うわの空でグラスを空けて、俺も席を立った。まだ堀田が立てこもっているトイレに向かう。




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